2013年10月24日 欧州委員会
内分泌かく乱物質に関する
専門家会議
議事録


情報源:EUROPEAN COMMISSION Assistant to the Chief Scientific Adviser
Brussels, 23/10/2013
Minutes of the expert meeting on endocrine disruptors
http://ec.europa.eu/commission_2010-2014/president/chief-scientific-adviser/documents/minutes_endocrine_disruptors_meeting_241013_final.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年11月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/
131024_Minutes_of_expert_meeting_on_EDCs.html

日時:24/10/2013, 14:00-17:00
場所:Office of the Chief Scientific Adviser, European Commission, Berlaymont Building, Brussels
出席者:Anne Glover (Chair), Anna Maria Andersson (Expert), Alan Boobis (Expert), Wolfgang Dekant (Expert), Helmut Greim (Expert), Ulla Hass (Expert), Andreas Kortenkamp (Expert), Jan Marco Muller (Rapporteur), Didier Schmitt (Rapporteur)

 各出席者の自己紹介の一巡後、議長は会議の目的と範囲を概説したが、それは科学的な合意と異議の両方を特定するために、内分泌かく乱物質の科学を討論することである。議長は、この会議はどのような政治的考慮についても取り扱うものではないということを強調した。

 出席者らは、内分泌かく乱化学物質(EDCs)の定義の周辺には主要な科学的論争はないということをすぐに合意した。全員が、WHOにより示され、またEFSAによって使用されている定義に合意することができた。物質は内分泌系に直接的又は間接的に作用することができ、それは基準の一部として議論されているが、このことはEDCsの基本的な定義に影響を与えない。

閾値

 ひとつの生物レベルで、及び集団レベルで、生体外(in vitro)における閾値間で区別される必要があるということが合意された。

 出席者は、規制当局により一般的に使用されているNOAEL(最大無毒性量(No Observed Adverse Effect Level))の概念を討議した。これは研究設計に依存するので(例えば計器の感度、使用される動物の数、投与間隔など)、ゼロ影響レベル(zero effect level)として理解されるべきではないということが合意された。

 閾値の存在は実験的には決定することができないということが合意された。このために毒性学的実験の分解能を越えて、より小さな用量と相応により小さな影響を調べることが必要である。したがって、少なくともあるエンドポイントについて閾値が少しでもあるのかどうかは不確かである。遺伝毒性学の化学物質については閾値がないということは広く受け入れられており、この識見は実験からではなく、これらの因子が作用するメカニズムのよりよい理解から導き出されている。出席者らは、EDCsに関連しても同様な考慮が重要となるであろうということに合意した。EDCsについては生物学的閾値が存在するかどうかについての科学的論争が現在行われている。

 そこで指摘されたひとつの重要な点は、多くの化学物質についてゼロ曝露は存在しないということである。実際、全ての生物は、ある範囲の化学物質に対するバックグランド曝露を持っており、したがって、ひとつのEDCがこのバックグランドにどのように寄与し、相互作用するかを理解することが本質的に重要である。専門家らのひとつのグループは、もし、内因性のエストロゲン(女性ホルモン)及びアンドロゲン(男性ホルモン)の場合のように、既に影響を示す物質への内部暴露があるなら、閾値は存在することができないと強調した。これらの場合には、EDCsへのどのような外部曝露も、閾値なしに内部バックグランドの影響に追加される。このグループによれば、EDCsはすでに活性な系(内因性ホルモンが存在している)と相互に作用する。

 他の科学者グループは、EDCsに関する閾値が存在するという高い可能性があり、EDCsの挙動はメカニズムに基づき予測できると述べた。もし、ある弱いEDCが内因性化合物に比べて比較的低い濃度なら、レセプターへの結合がより少なく、したがって影響もより小さい。結合の親和性は化学物質に固有な特性なので、親和性の低い化合物は影響を誘引するのにより高い濃度が必要である。かくして弱い化合物は、もし濃度が低ければ、レセプター占有率が50%から50.01%に増大するというように、影響力は非常に小さい。このグループによれば、そのようなレセプター占有率の小さな変化が生物学的に妥当な変化を持たらすかどうかには大いに疑問がある。

 出席者らは、そのような暴露が懸念を正当化するために十分な程度の大きさなのかどうかということは、リスク管理の事柄であるということに合意した。この点関して、強さの考慮は曝露と共に重要である。低濃度下における強い化合物は、高濃度下における弱い化合物と同様な影響を持つかもしれない。EDCsと閾値についもっと明らかにするために、例えばシステム・ベース・アプローチを採用することにより、メカニズムについての我々の理解を改善する必要がある。

非単調用量反応関係

 非単調用量反応曲線は存在するが、それはたまにだけ観察されたということに合意した。出席者らは、EDCsメカニズムの用量依存変化は、非単調用量関係を引き起こすことができることに合意した。問題は、有害な非単調影響はどのくらいの頻度で起き、そこで観察される用量範囲はどのくらいで、このことは規制目的のテストにおいて、どの様な意味を持つのかという点である。

 実際に、あるエンドポイントについて、高い濃度で明確な非単調用量反応があるという徴候がある。そのような反応がまた低濃度でも起き、どのくらいの頻度で起きるのかについての合意はない。EDCsに関するEPA報告書は、低用量範囲における有害影響に関する非単調用量反応を特定しなかった。必須金属(essential metals)、ビタミン、その他の化学物質について、U字型用量反応曲線の場合がある。ひとつの考え方は、非単調用量反応曲線は異なる非単調用量反応曲線の重畳(superimposition)の結果であるかもしれず、これらはともに既存のテスト戦略を用いて特性化されるであろうということである。しかし、他の者は、それは当てはまらず、用量反応関係が非単調である時には信頼性をもって予測することはできないと主張した。

テスト戦略

 主要な論点は、全ての非単調関係が適切に把握されることを確実にするテスト戦略をいかに設計するかということである。非単調用量反応関係の存在が、化学物質の規制のためのテスト方法に大きな変更の引き金とならなくてならないかどうかという問いに関して意見の不一致がある。非単調影響を見つけるためのいくつかの研究設計があるが、それらはまだ合意されていない。

 内分泌かく乱影響のテストへの多くの異なるアプローチがあり、異なる規制には異なる要求がある。規制という脈絡でのテスト手法は、国際的に確認されたEDCsのためのテストを頼りにし、OECDがこの分野で大きな貢献をしているということに出席者の間に合意がある。内分泌系への影響を検知できる利用可能な確認されたOECDテストが現在、たくさんあるが、そのエンドポイントは、EDCsの全ての可能性ある有害影響をまだカバーしていないかもしれない。

 現在までのところEUの法体系の中で、内分泌かく乱影響のための確認されたOECDテストは、非常にわずかしか実施されていない。信頼性をもってEDCを特定するために、有害性と内分泌作用機序のテストが必要である。多くの化学会社はすでにこれを実施しているが、法律による要求はないし、そのようなデータは公的に利用可能ではない。例えば、REACHはこの新たなOECDガイドラインをまだ反映しておらず、(どの様な場合にもテスト要求はある製造量帯域以下の化学物質はカバーしていない)。

その他の論点

 かく乱が不可逆的ダメージを引き起こすであろう生物の初期発達段階(”ぜい弱性のウインドウ”)へのEDCsの影響は、主要な懸念として述べられた。生殖発達への影響は実に重要な問題であるという合意があった。

 専門家の何人かは、現在まで知られていない妊婦経由の男胎児へのパラセタモール(訳注:解熱剤、鎮痛剤として用いられる薬物の主要な成分)の影響を示した最近の疫学的研究に注意を寄せた。パラセタモールの生物学的影響はよく知られているが、発達への発見は予期されていなかった。パラセタモールは、長い間市場に出ているが、この特定の影響についてはテストされたことはなかった。他の専門家らは、この関連に異議を唱える出版物があると述べ、感受性の高い発達段階はあるが、そのことは母親のEDCs 曝露からその胎児が保護されていなかったということは意味しないという見解をとった。

 強さと暴露(及びそれらの可能性)はリスク評価で考慮されるべき主要素である。ある専門家らは、公衆の適切な保護を確実なものとするために、物質が強い内分泌かく乱物質である場合には明確にラベル表示されなくてはならないという見解であった。他の専門家らは強さと暴露は、EU規則の目的のために内分泌かく乱物質として物質の有害性(ハザード)を特定するときに、考慮されるべきトピックスではないと述べた。

 出席者らは、”盲点”をカバーするために、さらなる分析評価とテストを開発する必要があるということに合意した。そのような”盲点”のひとつは、乳がん、精巣がん、又は前立腺がんのようなホルモン関連のがんを引き起こすかもしれない物質の特定に関わる事柄である。これらのがんは、過去数十年間にわたってヨーロッパで増加しているが、このことがEDCsへの曝露に関連しているのか、又は生活様式のような他の要因に関連しているのか明確ではない。ひとつのグループは、ホルモン障害とがんのよく確立された臨床経験は、集団の中に観察される有害影響と内分泌系の障害との間の強い関連を指していると述べた。より長期的な曝露に関する特定のリスクに光を当てる実験的研究の中に初期の兆候がある。発がん性研究は、高価で、人力集約型であり、多数の化学物質について日常的なベースで実施することはできず、したがってREACHでは製造量が1,000トン以上の化学物質にだけ要求しているということが留意されるべきである。

 証拠が極めて重要なエンドポイントが見逃されているかもしれないことを示唆する場合には、警告することが科学者らの責任であるというのが総意ある。このことは、将来の研究プログラムと関連する優先項目を設計する時に考慮される必要がある。政策策定者に情報を与えることができる堅固な証拠のベースを構築することが必要である。

 EDCs に関する科学と政策策定は、パラダイムシフト(認識の劇的変化)の途上にある。社会と政治の圧力はリスク評価における動物テストの減少を要請している。同時に、EDCsに関する、特に混合影響はもとより、生物の異なる発達段階へのそれらの影響の、より多くの証拠に対する明確な必要性がある。これらの目標の間のトレードオフは、最終的には、科学が重要な役割を果たす社会的議論の問題である。

 全ての参加者は結論一式(附属書参照)に合意して、会議は終了した。

 議長はこの科学的議論をいかに満喫したかを述べ、全ての出席者がブリュッセルにやって来て、この興味ある議論に建設的な態度で貢献したことについて、全ての出席者に感謝した。

記:ジャン・マルコ・ミューラー(Jan Marco Muller), 24/10/2013


附属書
内分泌かく乱物質に関する会議
Office of the Chief Scientific Adviser, European Commission, Brussels, 24.10.2013

全ての参加者により合意された結論
  1. 内分泌かく乱物質(EDCs)に関する論点周辺の科学的合意を取りまとめる議論を支援するための主席科学諮問委員の取り組みを高く評価する。

  2. EDCsは、科学的助言が環境及び健康に関する政策策定のために、きわめて重要な要素であるひとつのよい例である。

  3. EDCsの周辺には、科学的論点に関する不確実性もあるが、多くの合意もある。
    1. 定義
      • WHO-IPCS 2002年 及び EFSA 2013年に基づくEDCsの定義に関してよい合意がある。
      • その定義は、EDC基準、ホメオスタシス(恒常性機能)及び発達段階の問題に関連して解釈されなくてはならない。
    2. 閾値
      • 閾値は存在しないということはありうる。不確実性の理由は、実験的制約と生物学理解の限界である。
      • 感度の欠如のために生物全体における実験だけで閾値を定義すること不可能である。
      • 閾値の存在は、定量的な体系的アプローチで作用機序をよりよく理解することにより明らかにされるべきである。
    3. 非単調性
      • 非単調影響は、生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で、いくつかのEDCsに確かに存在する
      • 問題はどのくらいの頻度で有害な非単調影響が起きるかということである。
      • 非単調影響は、一緒に作用する異なるメカニズム、又はお互いの反発に起因するかもしれない。
    4. テスト
      • 現在確認されているOECDガイドラインは全ての潜在的な有害影響、又はEDCsの作用機序をカバーしないかもしれない。
      • 可能性ある非単調影響を見つけるために改善された研究設計が利用できるが、まだ合意されていない。
      • 人間、特にホルモンに関連するがんの誘発、又は長期的影響に関連する可能性ある影響を評価するために、もっと特化した手法が必要である。
出席者
・専門家:Anna-Maria Andersson, Alan Boobis, Wolfgang Dekant, Helmut Greim, Ulla Hass, Andreas Kortenkamp
・議長:Anne Glover, CSA
・報告者:Jan Marco Muller and Didier Schmitt (BEPA/CSA Office)


訳注:参考資料


化学物質問題市民研究会
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