米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2010年2月号 サイエンス・セレクション
フタル酸エステル類を探す
仮想のモデルハウスで暴露源を特定


情報源:Environmental Health Perspectives 118(2) Feb 2010
Science Selections
Running Phthalates to Ground: Pinpointing Exposure Sources in a Virtual Home
Naomi Lubick
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.118-a80a

関連論文:
Predicting Residential Exposure to Phthalate Plasticizer Emitted from Vinyl Flooring: Sensitivity, Uncertainty, and Implications for Biomonitoring
Ying Xu1, Elaine A. Cohen Hubal2, John C. Little3
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.0900559

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月5日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/10_02_ehp_DEHP_vinyl_flooring.html


 成人や子どもの体内の化学物質の濃度を測定する方法−バイオモニタリングとして知られる科学−は一般にコストがかかり煩雑である。そしてバイオモニタリング・データは全ての暴露源に関する有用な集合的情報を提供するが、特定の暴露源からどのくらい暴露するのかを示すことはほとんど不可能である。新たな機械的なモデルは、家の中で化学物質がひとつの製品からどのように移動するのか、そしてどのモデル・パラメータが暴露に最も大きく影響を与えるのかを示すことにより、準揮発性有機化合物(SVOC)(訳注1)への最も強い暴露源を特定する方法を提供するかもしれない[EHP 118:253?258; Xu et al.]。

 科学者らは、特定の発生源−この場合にはビニール床材を想定−が放出するフタル酸エステル類にヒトがどのように暴露するのかを示すために、調整可能な空気流システムを備えた仮想の3つのモデルハウスを作った。フタル酸エステル類は可塑剤であり、マニキュア液、プラスチック電線、子どものおもちゃなど多様な製品中で使用されている(訳注2:有害影響関連情報)。疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、アメリカ人の4分の3以上がこれらの内分泌かく乱作用を疑われる物質に暴露しているかもしれない。

 研究者チームは、どのようにフタル酸ジ(2-エチルヘキシル) (DEHP)−最も広く使用されているフタル酸エステル類のひとつ−がビニル床材から室内空気中に放出され、壁、天井、床、家具などの内装の表面や浮遊粒子に強く吸着するかを示すモデルを以前に作っていた。今回、研究者らは、総暴露レベルにおけるベーパーの吸入、粒子の吸入、DEHPの皮膚収着(sorption)、及び屋内ダストの経口摂取の相対的重要性を調査するためにこのモデルを使用した。どのパラメータが異なる経路からのDEHP総暴露量を変えるのかをテストするために、研究者らは換気量、モデルハウス内の空気移動流速のようなモデルパラメータを変化させた。

 例えば、彼らは、空気を動かす換気扇がビニル表面から空気中に放出する量を増大させることによりフタル酸エステル類の皮膚接触を増やすということを計算した。換気扇はまた皮膚を守る空気の層を薄くするのでDEHPの空気から皮膚への移動が増大する。換気扇がなく空気の流れがない方が空気から皮膚へのDEHPの移動が少なく、DEHPの皮膚からの取り込みを防ぐ。

 この新たなモデルは、成人と子どもの体内で測定されたフタル酸エステル類のレベルは、ある程度、衣類のようなDEHPを高い濃度で吸収する表面への接触の結果かもしれないということを示唆している。モデルハウス中の変数−空気流からビニル床材の面積当りのDEHP量にいたるまで−を変えると暴露レベルの見積もりが異なってくる。この単純なモデルにおけるパラメータの変化は、ひとつの製品から生じるDEHP暴露が他の状況と40倍も異なることを示した。この変化は全集団においては可能性ある暴露の範囲が広範であり、最も危険な暴露源を特定するためにバイオモニタリングだけに頼ることの難しさを強調している。


訳注1
揮発性有機化合物:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2:フタル酸エステル類の有害影響関連情報

■EUのフタル酸エステル類規制
■アメリカのフタル酸エステル類規制
■フタル酸エステル類規制関連情報
■フタル酸エステル類の有害影響に関する海外情報 ■フタル酸エステル類関連資料(日本)



化学物質問題市民研究会
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