EHP 2007年1月号 ディレクターの展望
内分泌かく乱物質に関する新たな研究
デービッド・シュワルツ(国立環境健康科学研究所/ 国家毒性計画)
ケニス・コラチ(環境疾病医療計画)
情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 1, January 2007
Director's Perspective
Emerging Research on Endocrine Disruptors
David A. Schwartz, Kenneth S. Korach
http://www.ehponline.org/docs/2007/115-1/director.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年12月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/07_01_ehp_emerging_esearch_edc.html


 30年以上の間、国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、体内でホルモン効果を擬似する又は変更する物質である内分泌かく乱物質の研究において世界的に認められた主導的研究機関のひとつである。
 1970年代、NIEHS の研究者らは生殖毒性に関する研究を開拓し、 流産防止のために長年女性に投与されていたが、後にこれらの女性の子ども達にがんや不妊を引き起こすことが知られた薬剤、ジエチル-・スチルベストロール(DES)のホルモン的毒性を発見した。臨床研究者らは患者から得た所見を動物モデルで再現するためにこの基礎的な科学からの観察を活用し、最終的には妊娠中の女性への DES の使用をやめさせる結果に導いた。
 現在、 NIEHS の研究者らは、重要な発達段階における DES のような内分泌かく乱物質への暴露は実際にプログラムを変更して子孫のゲノムが不適切な遺伝子発現を引き起こし、その結果、後にがんのような疾病や生殖障害、代謝障害、発達障害になりやすくなるということを実証している。
 数世代にわたる後天的疾病状態を誘引する環境中の化合物の能力は疾病の起源及び暴露の結果の研究に著しい影響を与える。この理由のために、内分泌かく乱物質の研究は NIEHS における優先度の高い研究であり続けることになる。

 NIEHS は、生殖及び発達健康の毒物学を理解するために基礎研究の最前線いる。このことは、複合メカニズムによって作用する内分泌かく乱物質の場合に特に重要である。そのような化学物質の毒性はホルモン作用なのかあるいはその化合物の他の作用なのかを決定するために、研究者らはまずエストロゲンとエストロゲン受容体が基本的レベルでどのように作用するのかについて理解しなくてはならない。
 NIEHS の研究者らによる将来性のある研究は、作用と生物学的活動の新たな場を特定し、どのようにエストロゲンが作用するかを示す動物モデルを開発し、どのように環境要因がそれらをかく乱するかを示してきた。
 最近の研究は、排卵に関連する卵巣中のエストロゲン受容体の信号発信の役割を見出したが、それは半不妊又は不妊への影響を特定する可能性を与えるものである。

 国家毒性計画(NTP)ヒト生殖リスク評価センター(CERHR)の研究者らは、プラスチック製造に使用される化学物質であるフタル酸エステル類7種、及び大豆中に見いだされる植物エストロゲンであるゲニステインの内分泌かく乱影響について評価した。
 フタル酸エステル評価は広範な影響を与え、これらの化学物質に関する政策決定を行う規制機関に指針を与えた。例えば同センターの報告書は、子どもがあるフタル酸エステル類を摂取することについて懸念があるため、子どもが口に入れるおもちゃ(歯固めやガラガラ)にこれらの化学物質を使用しないようにすべきとする消費者製品安全委員会(CPSC)の勧告のベースの一部となった。
 プラスチック・チューブに用いられている他のフタル酸エステルに関する CERHR 報告に対応して、食品医薬品局(FDA)は、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)を含む医療器具を使用した治療を受ける新生児と幼児に対し潜在的な危険があると指摘した指針を発表した。
 初期発達期の暴露に関する多くの NIEHS 研究を含むゲニスティンの評価は、ゲニスティンは生殖毒性及び発達毒性を持つとの結論を出したが、そのことは環境エストロゲンの潜在的な健康影響に関する認識と更なる研究の必要性を促した。
 2007年3月、CERHR は、多くのプラスチックや食品缶詰の内部ライニングなどに使用されているビスフェノールAへの暴露がヒトの発達と生殖に有害かどうか決定するために専門家委員会を招集する(訳注1)。

 NIEHS は、暴露、初期生物学的応答、及び遺伝的感受性についての感度の高いマーカーを開発することによって内分泌かく乱物質に関する研究をさらに推進する。新たな研究は、肥満などにおける内分泌かく乱物質の役割を検討している。NIEHS の疫学者らはまた、環境エストロゲンが不妊、生殖、又は成熟に影響を与えるかどうかを決定するために世界的母集団に目を向けている。例えば、研究者らは、PCB や DDT のような化学物質が体の大きさに影響を与えたり、少女の早熟に関係しているかも知れないということを発見している。
 NIEHS の科学者らは環境要因が前立腺に与える有毒影響を評価するために動物モデルを開発している。他の実施中の研究は、よくある健康美容製品中に見いだされる自然に生じる物質の内分泌かく乱影響を説明している。
 NIEHS はデューク大学医療センター及びノースカロライナ大学医学校との共同生殖研究を支援するために協力している。それらの研究のあるものでは、内分泌かく乱物質の影響に焦点を当てるとともに、この分野での新たな共同研究を構築しようとしている。
 このような研究は、我々の実施する研究がヒトの健康を向上させる複雑なパズルを解くのに相応しいかどうか検討するに値するので、我々はそれらを NIEHS 戦略計画の中心に位置付ける。

 我々はすでに内分泌かく乱物質の研究において著しい進展をみたが、しかし我々がこれらあらゆるところに存在する化学物質の健康影響の全てを理解するためには長い道のりがある。我々がそれを成し遂げるまで、将来の世代のために、NIEHSはこの重要な研究領域に精力を注ぎ続けるつもりである。

David A. Schwartz, MD
Director, NIEHS and NTP

Kenneth S. Korach, PhD
Director, Environmental Disease and Medicine Program


訳注1:
連邦政府官報/Vol. 71, No. 238/2006年12月12日/告知
保健社会福祉省、国家毒性計画(NTP)、ヒト生殖リスク評価センター(CERHR)ビスフェノールAに関する専門家委員会報告書(ドラフト)の入手とドラフト報告書へのパブリック・コメント要請;ビスフェノールA専門家委員会開催について
 (当研究会抄訳)



化学物質問題市民研究会
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