Our Stolen Future (OSF)による解説
肛門性器間距離が短い男児の母親達の
予想される日々のフタル酸エステル類への曝露


Environmental Health Perspectives, in press. Online 2 February 2006 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, February 2006
Estimated Daily Phthalate Exposures in a Population of Mothers of Male Infants Exhibiting Reduced Anogenital Distance
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/phthalates/2006/2006-0205marseeetal.htm

オリジナル論文:Environmental Health Perspectives, in press. Online 2 February 2006
Estimated Daily Phthalate Exposures in a Population of Mothers of Male Infants Exhibiting Reduced Anogenital Distance
by Marsee K, Woodruff TJ, Axelrad DA, Calafat AM, and Swan SH


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年2月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_02_osf_phthalates.html


 昨年(2005年)、スワンらは、母親の尿中のフタル酸エステル類の濃度と男の赤ちゃんの性器発達との間に強い関係があることを報告した。彼らは、より高いフタル酸エステル濃度の男の赤ちゃんは、テストステロン (訳注:精巣から分泌される雄性ホルモン)への胎児期の曝露が低くく、絵陰部が小さいことを見出した。彼らはまた、絵陰部が小さい男の赤ちゃんのフタル酸エステル類のレベルは、米疾病管理予防センター(CDC)によるアメリカ女性の25%の調査で見出された結果と同等であるとと報告した。

 この論文では、マーシーらは、スワンらにより報告された母親の尿中で観察されたフタル酸エステル類の濃度を引き起こすのに必要なフタル酸エステル類への日々の曝露の量を推定した。
 彼らは、スワンの研究の母親に見られたレベルは、EPAの現在のフタル酸エステル類安全閾値よりも約100倍低い曝露で引き起こされるであろうと結論付けた。

何をしたか?

 マーシーらは、”薬物動態学”モデルと呼ばれる2つの異なる数学的モデルを使用した。それらは、化学物質が体内に吸収される仕方、どのように代謝されるか、そして、どこにどのくらい速く排出されるのかを研究する科学者らによって開発されたモデルである。このモデルにより、マーシーらは、4つのフタル酸エステル類、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ブチルベンジル(BBzP)、フタル酸ジエチル(DEP)、及び、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)について、母親から測定された代謝物のレベルにいたるのに必要な曝露量を推定した。

何が分かったか?

 彼らはサンプルを採取した各女性について4つのフタル酸エステル関する計算を実施し、それらの結果の中央値及び95%信頼区間をEPAの安全基準と比較した。彼らの計算結果は、研究対象の女性らはEPAの現在の安全閾値よりはるかに低いレベルでフタル酸エステル類に曝露していたことを示している。

 右側の表は、モデルのうちのひとつを使用してマーシーらが実施した計算結果とEPAの参照用量との比較である。他のもうひとつのモデルによる結果は、DEHP以外は全てについて若干低めで、DEHPは高い。
 単位は μg/kg/day である。

 95%信頼区間では、95%の女性がEPA参照基準よりはるかに低いレベルで曝露していると推定されるので、特に意味深い。

何を意味するか?

 以前の研究で、スワンらは、DBP、DEP、及び BBzP と、肛門性器間距離を赤ちゃんの体重で補正した肛門性器間距離インデックスと呼ばれる絵陰部サイズとの間に統計的な関係を見出した。彼らは、これらの3つの混合物と肛門性器間距離インデックスの変化の間に強い関係を見出した。

 これらの計算結果は、EPAのフタル酸エステル類の現在の参照用量は人々への有害影響を避けるためには高すぎるかもしれないことを示している。もし、スワンらの研究でのレベルが実際に生殖器の発達に影響を与えるなら、EPA基準は少なくとも100倍、恐らくはもっと、低くする必要があるであろう。

 この結論は、主に2つの理由から仮説である。
  • 第一に、そして最も重要なことは、スワンらの以前の結果はフタル酸エステル類が男の赤ちゃんの肛門性器間距離を縮めることを証明していない。どのような疫学的研究も因果関係を証明していない。スワンらの研究は、混合物との統計的有意な関連性は非常に高く(サンプルのサイズを考慮に入れた計算)、明らかにに再現性を保証するものであるが、相対的に規模が小さい。その”ありそうなこと(plausibility)”は、フタル酸エステル類が生殖器発達に影響を与えるという動物実験からの特定の予測に基づいているという事実によって強化されている。動物において生殖器発達に変化を与えるのに必要な個々のフタル酸エステルのレベルはスワンの女性サンプルで観察されたレベルより高い。

  • 第二に、曝露推定に使用した薬物動態学モデルは一連の仮定を求めることである。2つの異なるモデルの結果の相似性がこの点を再保証している。

参考資料:
胎児期のフタル酸エステル類への暴露で男児の肛門性器間距離が短縮(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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