EHN 2009年1月19日
よく使われるフタル酸エステル類
男児の生殖器異常のリスクを高める


情報源:Environmental Health News, Jan 19, 2009
Common chemical increases risk of boys genital deformity
Synopsis by Heather Hamlin , Kim Harley, Ph.D. , Martha Susiarjo and Benson T. Akingbemi
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/phthalates-increase-hypospadias-risk/

オリジナル:Ormond G, MJ Nieuwenhuijsen, P Nelson,
MB Toledano, N Iszatt, S Genelette and P Elliot.
Endocrine disruptors in the workplace, hair spray, folate supplementation and
risk of hypospadias:case-control study.
Environmental Health Perspectives doi:10.1289/ehp.11933.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年1月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090119_phthalates_baby_boys.html


 職場におけるヘアースプレーやその他の暴露源を通じてフタル酸エステル類に暴露する妊婦は、よく知られている出生障害である尿道下裂の男の赤ちゃんを生むリスクが非常に高くなる。 葉酸塩サプリメント(訳注1)がこのリスクを減らすかもしれない。

 約1,000人の男の赤ちゃんに関するこのイギリスの研究の発見は、フタル酸エステル類への暴露による新たな注目すべき結果を明らかにし、職場でこれらの化学物質に暴露する妊婦への注意を正当化するものである。

 フタル酸エステル類は、プラスチック、洗剤、及び、脱臭剤、香水、マニキュア、ヘアースプレーなどの身体手入れ用品など、様々な製品中に広く使用されている化学物質である。この化学物質はホルモンに影響を与える。げっ歯類の研究は、胎内での暴露が睾丸中の細胞を変更し、テストステロン(男性ホルモンの一種)を低下させることを明らかにしている。

 健康懸念、特にに発達中の胎児、幼児、小さな子どもたちの健康懸念のために、欧州連合、メキシコ、カナダ、カリフォルニア州などを含むいくつかの政府はいくつかのフタル酸エステル類の使用を禁止した。(訳注2)アメリカでも本年2月10日に新しい法律が発効するが、それはおもちゃや子ども用に意図されたその他の製品中のフタル酸エステル類を部分的に禁止した。(訳注3

 尿道下裂は男の赤ちゃんが影響を受ける最もよくある性器の異常のひとつである。アメリカでは約300人のうち1人の幼児は尿道の開口部がペニスの先端ではなく下側に存在する。この問題は外科手術で直すことができる。

 この異常を何が引き起こすのかほとんど分かっていないが、その有病率(prevalence)は過去50年にわたって増加している。尿道下裂は、妊娠初期3か月の間に、主にホルモンをかく乱するある環境毒素への暴露に関連している。

 重い尿道下裂は、停留睾丸、前立腺肥大、結石、不妊など他の問題と関連付けられる。

 どのような要素が尿道下裂に関連しているのかを決定するために、研究者らは職場の471人の母親の化学物質暴露を調べた。彼らは、”職業ばく露マトリックス(job exposure matrix)”手法を用いた。これは、母親に職業について詳細な質問をしたことを意味する。それから一人の産業衛生学者が、その職業で母親が暴露していそうな化学物質に従い分類した。それらのあるものは、ヘアースプレー、洗浄剤、プラスチック・ヒューム(plastic fumes)、印刷インク、及びフタル酸エステル類であった。

 個人情報(年齢、民族、所得、母親の職業など)、病歴、及び摂取(ビタミン、サプリメント、アルコール)もまた調べた。

 この調査により、妊娠中に職場でヘアースプレーとフタル酸エステル類に暴露した母親から生まれた男の赤ちゃんは尿道下裂のリスクが2〜3倍高いことがわかった。これは、そのあるものにはフタル酸エステル類を含むヘアースプレーへの暴露がこのリスクと強い関係にあることを示す初めての研究である。

 同様なリスク増大が、フタル酸への潜在的な暴露があることが知られている職場で働く女性に見られたが、それらには美容師(ヘアードレッサー)、美容セラピスト、分析化学物者、ある化学物質や医薬品などの職場で働く女性を含む。

 別に分析されたグループとしての美容師は、尿道下裂の男の赤ちゃんのリスクの有意な増加はみられなかった。

 この研究はまた、妊娠の最初の3か月に葉酸塩サプリメント(訳注1)を使用していた母親は赤ちゃんの尿道下裂のリスクが36%減少することを示した。

 このイギリスの研究は、尿道下裂の赤ちゃん471人と出生障害のない赤ちゃん490人及を対象とし、いくつかの異なる化学物質への母親の職業暴露を比較した。調査された他の化学物質のどれからもリスクの増大はなかった。

 この研究結果は、人々が環境汚染物質にどのように暴露しているかについての理解を改善する必要性に光を当てている。健康リスクは、どこで、いつ、最も高い暴露が起きているかを特定することによって低くすることができる。

 そして、予期しなかった葉酸塩の保護的な役割の発見は、公衆の健康と出生障害の防止のための直接的な応用である。


訳注1:葉酸塩
訳注2:EUのフタル酸エステル類規制
訳注3:アメリカのフタル酸エステル類規制
訳注:フタル酸エステル類規制関連情報
訳注:フタル酸エステル類の有害影響に関する海外情報 訳注:フタル酸エステル類関連資料(日本)



化学物質問題市民研究会
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