ES&T 2006年7月12日
プラスチック可塑剤 母乳から赤ちゃんへ
新たな研究が小さな乳児でも
フタル酸エステル類を取り込むことを示す

情報源:Environmental Science & Technology: Science News, July 12, 2006
Plasticizers go from breast milk to baby
Research finds that even tiny infants are getting a dose of phthalates.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jul/science/nl_plasticizers.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年7月14日


 母乳を飲む乳児は同時に、口紅からビニル床材にいたるまで多くの消費者製品中に存在し環境中いたるところから見いだされる有害プラスチック可塑剤、フタル酸エステル類を高濃度で吸い込んでいる。本日、 ES&T’s Research ASAP website (DOI: 10.1021/es060356w)に発表された新たな研究は、母乳を通じてフタル酸エステルが取り込まれる様子を初めて示した。6ヶ月間、科学者らはカナダの母親の母乳中のフタル酸エステル類のレベルを追跡したが、その健康影響は明確ではなく、乳児が摂取するこの有害物質の量は授乳ごとに変化することデータがを示した。

 赤ちゃんは母乳からフタル酸エステル類を取り込んでいるが、その影響は知られていない。長期間研究の予備的な結果は、80以上の母乳サンプル中のフタル酸エステルが著しく高いことを示している。フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、及びフタル酸ジエチル((DEP)の平均濃度は、それぞれ 222, 0.87, 及び 0.31 ppb (ng/g)であり、DEPはいくつかのサンプル中からのみ検出された。他の3つの目標エステル類であるフタル酸ジメチル、フタル酸ブチルベンジル、及びフタル酸ジオクチルは検出されなかった。カナダ環境省(Health Canada)のジピン・ズーに率いられた研究者らは、毎日750gの母乳を飲む7kgの赤ちゃんは160g/dのフタル酸エステルを摂取すると解釈した。

 この研究チームはまた、テストした21人の女性母集団において各フタル酸エステルの量は変動したと報告した。ある女性たちは、調査期間中に濃度(レベル)は徐々に上昇し、他の母親たちは濃度が減少したり、あるいは上昇してその後減少した。同チームは、フタル酸エステル類を含む製品への女性らの日々の接触が原因であろうと推定仮したが、この変動を考慮に入れることはできなかった。
 研究者らは彼らの結果をドイツの女性に関する以前の研究と比較し、ドイツの母親に比べてカナダの母親はDEHPのレベルははるかに高く、DBPのレベルははるかに低いことを見いだした。これら二つの研究の不一致は、暴露と暴露経路についての両地域の相違を示すもので、今後の調査が必要である。

 全体として、この研究は、フタル酸エステル類が尿から血液まで、”多くのタイプの生物学的サンプルで検出されていることの証拠のもうひとつの例として加えられる”−とハーバード大学公衆健康学部の研究者であるギャリー・アダムキューイッツは述べている。彼は、この研究結果は与える回答より疑問の提起の方が多いと付け加えた。
 ”母乳中にフタル酸エステル類が存在するという事実は、生命の最初の1年の間に受ける著しい用量の影響を理解する必要があるということである”−と彼は述べている。”どのような健康影響が今後待ち受けているのか? ”子どもへの健康影響な何か? それが光を当てられたひとつの大きな疑問である。”

 他の要素がひょっとすると個々の母親ごとに詳細に記録される変化を引き起こすかもしれないとアダムキューイッツは指摘している。しかし、もし暴露が鍵なら、もっと管理された研究調査(もちろん難しいことであるが)が日常生活で使用するフタル酸エステル類を制限し、それによって母親が母乳中に帯びる量を最小化するす方法を導くことができるかも知れない。このことは母乳をやめるよう求めることではない”−と彼は強調している。

 フタル酸エステル類は、動物では平均数時間で速やかに代謝して体外に排出されると、アメリカ疾病管理予防センターの全国環境健康センターの研究化学者であるアントニア・カラファトは述べている。カラファトは、ズーとその同僚らの研究を見ていないと強調したが、DEHPが脂肪中に囲い込まれることがあるなら、脂肪性の母乳中に存在しても不思議ではないと述べている。彼女はまた、(一般的に血中の)フタル酸ジエステル類を暴露マーカーとして使用した初期の研究は、これらのジエステル類を測定するための分析手法が難しかったので、その使用は高いレベルで暴露した集団(例えば職業暴露)に限定されていた。一般的には、フタル酸エステル類の検出は、体がフタル酸ジエステル類を代謝した後でモノエステルを測定することにより行われる。

 カナダ環境省(ヘルス・カナダ)の研究者らは、母乳サンプルを採取するための容器としてガラス製や可塑剤を使わないものを使用するなど、外部汚染を回避するために彼らがとった用心のいくつかについて報告している。研究者らはまた、母乳の社会的及び身体的有益性を強調し、乳児が取り込むフタル酸エステルの認識されているどのような危険にも勝ると強調している。ヒトラットでのこれまでの研究は、これらの化合物は潜在的に発達に影響を与えるということを示しているにもかかわらず、この化合物の子どもたちへの影響は論争の的となっている。

ナオミ リュービック(NAOMI LUBICK



化学物質問題市民研究会
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