2008年11月22日発行 ピコ通信/第124号
フタル酸エステルの生殖毒性明らかに EU・米国が対策/日本も早急に規制すべき 化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tsuushin/tsuushin_08/pico_124_phthalates.html フタル酸エステルは、以前から環境ホルモン作用等の毒性が指摘され、おもちゃ等に一部規制がかけられてきました。 EUが本年10月に発表したREACHの高懸念物質候補リスト(15物質)には、三つのフタル酸エステルが含まれています。 また、今年7月に米国は、子ども用品へのフタル酸エステル6種への新たな規制を決めました。EUでは2005年に同様の規制を決めています。日本の規制の状況はどうなっているのでしょうか。 欧米の規制の状況とも比較しながら、フタル酸エステルをめぐる問題について報告します。 ■フタル酸エステルとは? フタル酸エステルは、プラスチック(主に塩化ビニル)を柔らかく加工しやすくする可塑剤として使われています。 ビニールレザー、ビニールホース、ビニール壁紙、クッションフロア、電線被覆、ビニールボール、浮き輪、ビニール人形等々。あらゆるところで使われています。 可塑剤の8割はフタル酸エステルで、年間約40万トンが生産されています。可塑剤としては、他にはアジピン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系などがあります。 フタル酸エステルの中でもっともよく使われているのがDEHP(フタル酸ジエチルヘキシル、DOPとも言う)で、汎用可塑剤としてフタル酸エステルの6割以上を占めています。
※化学工業日報社(2007):15107の化学商品 出典:(株)島津テクノリサーチ ウェブサイトから http://www.shimadzu-techno.co.jp/technical/phthalate.html#1 ■フタル酸エステルの毒性 フタル酸エステルは、これまで色々な研究で生殖への影響等を指摘されてきました。 ロチェスター大学生殖疫学センターのディレクターであるシャナ・スワンによる新たな研究が本年10月に発表されました。 スワンは以前の研究で、子宮中でフタル酸エステルに曝露させたオスのラットは、短い肛門性器間距離(AGD)、小さな性器、不完全な睾丸降下、その他オス生殖器官系の変化をもって生まれる。影響を受けた動物が成熟すると、精液の質と繁殖能力が減少し、場合によっては精巣腫瘍を起こすことを明らかにしました。 それがヒトに起こるかどうかを確かめたのが、本研究です。 「米化学会ES&Tサイエンスニュース08/11/12 可塑剤は男児の男らしさを損なうかもしれない」 母親の血液と尿のサンプルを妊娠中及び妊娠後に採取し、男の赤ちゃんの尿を出生後に採取しました。フタル酸エステル類の中で最も生殖毒性の強いものの一つであるフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)の代謝物の高いレベルと、彼女らの息子の短い肛門性器間距離(AGD)、細いペニス、及び不完全な睾丸降下との間に有意な関連性を見出したのです。 ”全国調査で、アメリカ女性の25%は、我々の研究における短い肛門性器間距離(AGD)やその他の変化と関連するレベルと同様なレベルのフタル酸エステル類を持っていた”と彼女は米国全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)を参照しながら述べています。 DEHPはアレルギー患者の炎症反応を高めるという研究結果も、本年11月に発表されています。 ■環境ホルモン学会の研究発表から 12月13日、14日に東京で開催された環境ホルモン学会で、「日本人妊婦のフタル酸エステル類摂取量」(鈴木弥生さんら)の研究発表が行われました。 結論から言うと、フタル酸エステルの1日摂取量は耐容1日摂取量(European Food Security Authority)とのマージンが小さい妊婦が存在し、中には越える者もいたということです。 研究の概要を紹介すると、 2005年から2008年に東京都内の139名の妊婦が対象。尿中の7種類のフタル酸エステルの代謝産物9種類を測定し、摂取量を推定した。結果は、体重当たり1日摂取量の平均値はDMP(0.259)、DEP(0.304)、DnBP(1.70)、BBzP(0.155)、DEHP(1.83)、DINP(0.0376)、DnOP(0.0141)であった。DnBPのTDI(10μg/kg/day)を越える者が3名いた。また、DEHPの最大値は24.6μg/kg/day(TDI 50μg/kg/day)であった。 また、フタル酸エステル代謝産物7種類は、ほぼすべての妊婦の尿から検出されたということです(DINPとDnOP代謝産物の検出率は低かった)。 ■欧米と日本の規制の状況 2000年1月、市販の弁当からDEHPが検出され、塩ビ製の調理用手袋からの移行が主原因であるとされました。その後、厚生労働省は塩ビ製手袋の食品への使用を避けるよう通知を出しています。 さらに、2002年8月、厚生労働省はDEHPは乳幼児(6歳未満)が接触する可能性のあるおもちゃ全般を対象として、またDINPは乳幼児が口にするおもちゃを対象として使用禁止としました。さらに、油脂又は脂肪性食品を含む食品に接触する器具又は容器包装にDEHPを原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を禁止しました。 EU、米国、日本の規制をまとめた表をごらん下さい。
■REACH高懸念物質 欧州化学物質庁(ECHA)は、REACHの高懸念物質候補リスト(SVHC)(15物質)に3種のフタル酸エステルを入れましたが、その内訳は以下の通りです。
(発がん性、変異原性についても同様にカテゴリー1,2,3とクラス分けされている) 今後、EU内のさらなる手続きを経て、2009年秋に最終的に高懸念物質として発表される予定であり、認可の対象となり、規制がかけられます。 日本では、EU、米国に比べて早い段階に規制したものの、ほんの一部の規制に終わっていることが分かります。日本が、EUや米国の子ども用品対象の規制並みに多種類のフタル酸エステルを規制するのは一刻も早くするべきですが、はたしてそれで十分でしょうか。 胎児の段階で曝露して影響があるのですから、単に生まれてからおもちゃや乳児用品を規制するだけでは決して十分とはいえません。妊婦は、食べ物、容器・包装、水、空気、化粧品等から体内に取り込んでいると考えられますから、環境中からフタル酸エステル類を減らさなくてはなりません。そのためには、そのような可能性の高い製品中のフタル酸エステル類を早急に規制することが求められていると思います。 REACHの高懸念物質に決まれば、日本のメーカーも対応を迫られます。日本も政策としての対応を当然迫られますが、その前に必要な対策をとるべきです。 ■複合曝露のリスク評価 さらには、米国アカデミーの一員である米国研究協議会は12月18日、「EPAはフタル酸エステル類とその他の化学物質の累積的リスク評価を実施すべきである」と勧告しています。EPAの要請に対して米国研究協議会(NRC)がEPAに勧告したもので、フタル酸エステルのリスク評価には、類似の有害健康影響をもたらす異なる化学物質の複合曝露についての累積的リスク評価を行うよう勧告しています(本紙13頁参照)。 日本においても、これまでその必要性は指摘されながら、単体のリス評価しか実施されてきていません。実際の曝露においては、当然複合曝露であるのですから、今すぐにも複合曝露のリスク評価に取り組むべきです。 (安間節子) 訳注:フタル酸エステル類関連記事
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