Our Stolen Future (OSF)による解説 2006年11月19日
フタル酸モノエステル及び酸化代謝物の
尿中濃度に関連して変更される精子の質

Epidemiology 17: 682?691. . の掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, 19 November, 2006
Altered Semen Quality in Relation to Urinary Concentrations of Phthalate Monoester and Oxidative Metabolitest
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/phthalates/2006/2006-1101hauseretal.html

オリジナル論文:Epidemiology. 17(6):682-691, November 2006
Altered Semen Quality in Relation to Urinary Concentrations of Phthalate Monoester and Oxidative Metabolites
http://www.epidem.com/pt/re/epidemiology/abstract.00001648-200611000-00014.htm;jsessionid=FGMRymTJQ2vZzrV118NwZVTQhRPFlLGlT7MmPyFxwwY0tCCPnjR1!-1946698971!-949856145!8091!-1
Lennart Hardell et al. 1
Hauser, Russ *; Meeker, John D. +; Duty, Susan ++; Silva, Manori J. [S]; Calafat, Antonia M. [S]
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年12月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_11_osf_phthalates_sperm.html


 ハーバード大学研究チームの以前の研究結果と一致して、フタル酸ジブチル(DBP)の代謝物レベルが高い男性の精子濃度と精子運動能は世界保健機関が健康ではないと考えるレベルよりもっと劣る。その暴露濃度は過大ではなく、多くの人々が経験する範囲内の暴露である。

背景:

 ヒトの精子の質は人により、そして場所により著しく異なる。また決定的ではないが精子の質は近年著しく低下ているという証拠がある。例えば北ヨーロッパのある地域では、若い成人の集団の中で驚くほど高い割合の人々の精子の質が低下している。

 ヒトの精子の質の変動も中に見いだされているパターンは、特に動物実験では広く環境中に分布している汚染物質によって精子の質が影響を受けているように、恐らく環境的要因が関連しているということを示している。従って疫学者らは化学物質への暴露と精子の質との関係をテストするための研究を実施した。

 精子の質に与えるフタル酸エステルの影響を検証するほとんどの動物実験は、発達期の暴露、すなわち妊娠期間中の暴露がその子どもが成人した時にどのような影響があるかに目を向けていた。これらは一貫して親物質である DBP、BBzB 及び DEHP への暴露の影響があることを示している。あるものは成長してからの暴露影響を観察しており、比較的高いレベルでの DBP、BBzB 及び DEHP への成長後の暴露は精巣に有害影響を与える可能性があるとする証拠がある。

 今回の研究は成人の現状の暴露レベルと精子の質との間の関連を検証するものである。フタル酸エステル類は直ぐに代謝され排泄されるので、研究者らが得た汚染レベルの測定値は測定した日の暴露を大きく反映している。

Primary
Phthalate
Metabolites
DEHP
フタル酸ジエチルへキシル
MEHP, MEHHP, MEOHP
DBP
フタル酸ジブチル
MBP
DEP
フタル酸ジエチル
MEP
BBzP
フタル酸ブチルベンジル
MBzP
DMP
フタル酸ジメチル
MMP
何をしたか?

 5年以上にわたってハウザーらは不妊治療のために病院に来たことのある463人の男性の精子と尿のサンプルを得た。彼らは5つのフタル酸エステル類の代謝物のレベルを測定した。

 彼らはフタル酸エステル類代謝物と精子の濃度、運動能、及び形態との関係を分析した。

何がわかったか?

Q1- Q4 は4分位 (1〜4)
赤横線はオッズ比=1
黒縦線は95%信頼区間
 ハウザーらはMBPレベルと精子の運動能及び濃度との間に統計的に有意な関連性を見いだした。MPBが高い男性の精子の質は低い(精子の両方のパラメーターともに p < 0.04)。精子の形態にはなんらの傾向もなかった。

 影響を受けた(WTO参照レベル以下の)精子濃度のオッズ比(上図)及び影響を受けた精子運動能(下図)はともにMBPレベルが高くなると大きくなる。MBPレベルの最大四分位の男性は最も低い四分位の男性よりも3.3倍、より低い精子濃度を持つように見える。

 他のフタル酸エステルル類の代謝物については強い関連性は見られないが、MBzPには若干の傾向がある(p = 0.13)。

 この研究のためのデータを収集するのに5年に以上かけているので、ハウザーらは代謝物の濃度の傾向を探すことができた。彼らは MEHP が増加すると MMP は減少することを観察したが、他には何も傾向はなかった。

何を意味するか?

 その代謝物 MBP によって測定される DBP (フタル酸ジブチル)への暴露は、一般の人々に存在する MBP のレベルで精子の質が損なわれるリスクと関連する。この結果はこの研究チームがもっと小さなサンプルで実施した MBP に関する以前の研究結果と一致している。以前の研究は精子の質の劣化と他の3つの代謝物 MBzP、MMP 及び MEP との間の強い関連を報告していた。

 この結果はまた、DBP が精巣に毒性があることを示すげっ歯類の実験結果と一致する。それらの研究はまた、DEHP が精巣に有害影響を及ぼすことを示している。この研究では DEHP と精子の質の劣化との間に関連性は見られなかった。

 ハウザーらはまた、彼らの研究が MBP と関連がないという結果を出したスウェーデンの研究とどのように異なるのかについて検討した。スウェーデンのサンプルはもっと若い一般人の集団からのものであり、不妊クリニックの患者のものではない。ハウザーらはスウェーデンの研究よりもっと感度の高い分析を用いたので、スウェーデンの研究の検出下限界はこの研究の検出下限界より数倍高かった。



化学物質問題市民研究会
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