EHN 2008年2月4日論文解説
乳幼児用品は乳幼児のフタル酸エステルの暴露源の可能性
ピート・マイヤーズ博士による概説

情報源:Environmental Health News, February 4, 2008
Baby Care Products: Possible Sources of Infant Phthalate Exposure
http://www.environmentalhealthnews.org/newscience/2008/2008-0204sathyanarayanaetal.html
Synopsis by Pete Myers, Ph.D.
Original: Sheela Sathyanarayana, Sathyanarayana, S, C Karr, P Lozano, E Brown, AM Calafat, F Liu, and SH Swan. 2008.
American Academy of Pediatrics
http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/121/2/e260?etoc

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年3月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_080204_baby_care_products.html


 乳幼児児の尿を分析した研究によれば、フタル酸エステル類への暴露は乳幼児の間に広まっており、乳幼児用品の使用がその原因のひとつとなっているように見える。ローション、パウダー及びシャンプーの多用とフタル酸エステル類のレベルが高いことと関連している。その関連性は乳幼児の年令が低い時に最も強かった。

 この研究を実施した科学者らは、自分の子のフタル酸エステル類への暴露を減らしたいと望む両親は、医療目的で必要とするものでない限り、乳幼児用品の使用を減らすことを勧めている。

 アメリカでは、フタル酸エステル類の含有を示す製品ラベル表示を求めていない。

何をしたか?

 サスヤナラヤナらは、直前24時間の乳幼児用品の使用について情報を得るために濡れたオムツから尿を収集し、質問表を使用した。乳幼児用品は5つのカテゴリーに分類された。ベビー・パウダー/タルク/コーンスターチ、デスティン/オムツかぶれクリーム、お尻ふき、ベビー・シャンプー、ベビー・ローション。彼らはまた、おもちゃの使用についての情報も得たが、それは2種類のフタル酸エステル類が一般的にプラスチック製おもちゃに使われているからである。

 オムツから尿を圧搾したのち、研究チームは化学分析のためにサンプルを米疾病管理センター(CDC)に送った。CDCの化学者らは、それぞれのサンプルから9種の異なるフタル酸エステル代謝物の濃度を測定した。

 これらの代謝物はフタル酸が体内に吸収され酵素によって化学的に他の化学物質に変換されて生成される。9種の代謝物は身体手入れ用品に加えられることが知られている7種のフタル酸エステル類から生成される。

 この研究の対象となった乳幼児らは、胎児期及び出生後の早い時期の暴露が健康に及ぼす影響の役割を理解する助けとするためにミズリー州、カリフォルニア州、ミネソタ州で同時に行われているプロジェク”将来の家族のための研究(Study for Future Families (SFF))”による研究対象の乳幼児らの一部である。既にSFFに参加していた母親は、もし乳幼児の月齢がが2〜25月で、診療所から50マイル以内に住んでいるなら、乳幼児を診療所に連れてくるよう要請された。診療所に連れてこられた347人の乳幼児のうち163人の乳幼児の情報と尿サンプルが得られた。

何がわかったか?

 全ての乳幼児の尿には少なくとも1種類は検出可能なレベルのフタル酸エステル代謝物質が存在した。実際、乳幼児の80%以上は少なくとも7種類の代謝物を持っていた(右図)。4種の代謝物(MEP, MBP, MBzP, MEOHP)はサンプル採取した乳幼児の90%以上から検出された。最も検出されなかった代謝物は MEHP と MMPであった(それぞれ、サンプルの76%及び66%)。

 サンプル中で、異なるフタル酸エステルのレベルは広い範囲に分布した。平均レベルは、MEP(178 μg/L)が最高で、 MMP (4.4 μg/L)が最低であった。平均レベルが 30 μg/Lを超える5種の代謝物質は、MEP, MBP, MBzP, MEOHP 及び MEHHP であり、その平均値はそれぞれ 178, 37, 31, 41, 61 μg/L であった。

 母親の94%以上が24時間以内にお尻ふきを使い、54%がベビー・シャンプーを使用したと報告した。ベビー・ローション、デスティン/オムツかぶれクリーム、ベビー・パウダーの使用は36%、33%、14%であると報告された。

 サスヤナラヤナらが乳幼児用品の使用とそれぞれの尿中のフタル酸エステルのレベルとの間の関係を検証した時に、統計的に有意な4つの関連を見つけた。母親がベビー・ローションの使用を報告していた場合は MEP と MMPのレベルが高い。ベビーシャンプーを使用しているとMMPが高くなり、ベビー・パウダーを使用しているとMiBPが高くなる。

 特に8ヶ月あるいはそれ以下の乳幼児において、個々に強い関連性を示した3つのフタル酸エステル MEP, MMP 及び MiBPの混合物に着目すると、より強い関連性が見られた。このことを精査するために、彼らは3つのフタル酸エステル類の複合暴露の指標を設定した。この指標の値の平均値は、母親がベビーローションを過去24時間以内に使用している場合には、8ヶ月以内の乳幼児について5倍以上高い値であった。ベビーパウダーとベビーシャンプーの使用もまた、高い複合暴露指標と有意な強い関連性を示したが、デスティン/オムツかぶれクリーム及びお尻ふきには関連性が見られなかった。

 複合暴露指標はまた、母親がより多くの製品を使用していると報告した乳幼児で著しく高くなった。

 おもちゃの使用とフタル酸エステルとの関連は見られなかった。

何を意味するのか?

 これらの結果は乳幼児製品の使用が増えるとフタル酸エステル類への暴露が増大することを示している。彼らの研究結果はどの製品がフタル酸エステル類を含み、どれが含んでいないかを特定していない。現在の法律はフタル酸エステル類を成分としてリストすることを求めていない。DEPは一般に香水中に添加されるが、それらは乳幼児製品中にしばしば使用されている。DEPの代謝物であるMEPは、測定された全ての代謝物の中で平均値が最も高かった。ある乳幼児は非常に高いレベルであった(約4ppm)。

 動物研究では、いくつかのフタル酸エステル類は発達影響があることが確認されているが、サスヤナラヤナらはによって報告された暴露の健康影響はいくつかの理由によって理解されていない。

  • 毒性を評価するために用いられる動物研究は、ヒトが典型的に経験する暴露レベルに比べて、比較的高い用量で行われる。最近まで、高用量実験は、低用量暴露が引き起こすことを予測するのに有用であると仮定されていた。すなわ比較的高い用量の限定的な範囲で動物を暴露させ、用量−反応曲線にそって影響が出なくなるまで下げる。”無影響レベル”以下の用量はテストされない。しかし、この仮定は、ホルモンやフタル酸エステル類のようなホルモン様化合物には有効ではない。内分泌学者らは、ホルモンは、高用量で引き起こされる影響とは全く反対に、低濃度で非常に異なる影響を引き起こすことがあり得ることを数十年前から知っていた。ドイツ日本の研究は、少なくともひとつのフタル酸エステル、DEHPはこの特性を有することを示している。したがって、フタル酸エステル類の潜在的な問題を測るために用いられるリスク評価は、可能性あるフタル酸エステルの暴露影響を見逃してきた様に見える。

  • この研究で十分に示されたように、乳幼児は一時にひとつだけのフタル酸エステルに暴露しているわけではない。実際に、この研究の80%以上の乳幼児の尿中には、少なくとも7種類のフタル酸エステル類が検出されている。米EPAの科学者らによって新たに発表された研究は、このような混合物は全体影響に非常に関連性がある。しかし、EPAとFDAの安全基準は混合物の影響をまだ反映していない。

  • 現在の科学では、乳幼児の尿中のフタル酸エステル類代謝物のレベルを危害を引き起こすのに十分な動物実験で用いられた用量に関連付けることは、不可能ではないにしても、非常に難しい。動物を使った実験室での研究は動物に与えられた用量については報告するが、これらの用量が血清中又は組織中に生成した化学物質のレベルについてはほとんど言及していない。実験での用量によって生成された尿中での濃度に関し報告されたフタル酸エステル類はない。
 なぜ月齢8ヶ月以内の乳児で関連性が最も強かったのか? このことは疫学の古典的な弱点の結果かもしれない。幼い乳幼児の暴露はほとんど完全に両親の管理及びその知識の下にある。乳幼児が歩くことができるようになると、調査に使用された質問表にはない他の暴露がもっと重要になるかもしれず、製品使用と尿中の濃度との関連が明確ではなくなる。

 おもちゃはどうか? なぜおもちゃの使用との関連がなかったのか? サスヤナラヤナらが研究報告書の中で書いているように、彼らはおもちゃでの主要なフタル酸エステルであるDiNPの代謝物レベルを測定しなかった。

 サスヤナラヤナらは自分たちの子どものフタル酸エステル類への暴露を削減したいと望む両親は、ベビー・ローションやパウダーを医学的に必要とするときだけに使用し、乳幼児用品の使用を制限することを勧めている。

 ”アメリカでは、製品中のフタル酸エステル含有についてラベル表示することを求められていない。両親は製造者が製品中のフタル酸エステル含有を表示することを求められるまで、情報に基づく選択をすることができない。乳幼児用品のフタル酸エステル含有に関し追加情報が入手可能となるまで、医療従事者は乳幼児用品を通じてのフタル酸エステル類への暴露に関し、家族を教育し相談に乗ることを望むかもしれない。いくつかの会社は製造プロセスでフタル酸エステル類の使用を削減し、製品にフタル酸エステル類不使用であることをラベル表示することに着手しているが、これらの代替品の安全性はまだ確認されていない。もし、両親が暴露の削減を望むなら、我々は使用する乳幼児用品の量を制限し、医学的な理由が示されない限りローションやパアウダーは使用しないことを勧める”。


化学物質問題市民研究会
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