Our Stolen Future (OSF)による解説 2006年11月7日
DEHP(フタル酸ジ 2- エチルヘキシル)は
成人のぜん息の発症と関連がある

American Journal of Epidemiology 164:742?749. 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, 7 November
DEHP linked to adult onset asthma
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/phthalates/2006/2006-1107jaakkolaetal.html

オリジナル論文:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 8, August 2006
Interior Surface Materials and Asthma in Adults: A Population-based Incident Case-Control Study
http://aje.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/164/8/742
Jouni J. K. Jaakkola1,2, Antonia Ieromnimon1 and Maritta S. Jaakkola1,3
1 Institute of Occupational and Environmental Medicine,
University of Birmingham, Birmingham, United Kingdom
2 Environmental Epidemiology Unit, Department of Public Health,
University of Helsinki, Helsinki, Finland
3 Finnish Institute of Occupational Health, Helsinki, Finland
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_11_osf_DEHP_asthma_adults.html


 フィンランドからのこの大規模な研究は、プラスチック壁材の部屋で働く成人はぜん息に2倍かかりやすいと報告している。ぜん息のリスクはまた、壁から壁まで部屋一面にカーペットを敷き詰めた環境、特にカビの問題がある場所で働く人々も高い。

 これらの結果はフタル酸エステル(DEHP)への暴露でぜん息のリスクが高まるという先の研究と一貫性がある。プラスチック壁材及び多くのカーペットはポリ塩化ビニル(PVC)を含んでおり、PVCは30〜40%重量のDEHPを含有しており、これらの材料が使用される場所ではダスト中のDEHPレベルが高い。

 最近のマウスによる研究を含めて、いくつかの研究は DEHP がアレルギー反応を増大させることができるということを示している。そのマウス研究はヒトが暴露する範囲のレベルでアレルギー反応を高め、より低いレベルで最も強い反応を示した(訳注1)。

背景:

 ぜん息発症率は一貫して増加しており、特に先進国において過去30年間顕著であり、それは子どもたちだけでなく成人も同じである。アメリカのぜん息の数は1980年以来2倍となっている。この増大は急速に起きているが、それに釣り合うようなぜん息反応を引き起こすアレルゲンの増加が考えられる生物学的な理由はない。全体としては大気の質は著しく改善されている。このことは何かが増大して、ぜん息を刺激する要因に対する感受性の基準を引き上げたことを示唆している。フタル酸エステル類がひとつの候補として出現しているが、それは、免疫系の感受性を調整するために用いられる遺伝子シグナルのメカニズムと分子レベルで似ているからである。

何をしたか?

 フィンランドの南部で研究しているジャッコラらは、その地域で1997年9月から2000年4月まで(タンペル市)及び1998年3月から2000年4月まで(ピルカンマ病院区域全体)で新たに診断した全てのぜん息患者を特定し、彼らに調査への参加を要請した。合計521人(回答率86%)が調査に参加することに同意した。彼らはぜん息患者に対応するコントロールとして、同じ母集団から任意に抽出した人々のうち過去にぜん息歴のある人及び年齢基準に合わない人を除いた932人を選んだ。

 ぜん息の症状は医学的な検査によって確認した。対象者らは家や職場で使用しているプラスチック材とカーペットについて、また家屋は修繕したり塗装をしたかどうかについてインタビューを受けた。対象者らはまた、カビの状況及びペットがいるかどうかについても質問された。

何が分ったか?
  • 少なくと壁の半分でプラスチック材が使用されている職場にいる成人は2倍以上高くぜん息であると診断されるように見える(オッズ比2.43、95%信頼区間1.03〜5.75)。
  • カーペットが敷き詰められておりカビのない環境で働いている人々はオッズ比1.43(95%信頼区間0.69〜2.96)
  • カビがありカーペットが敷き詰められていない環境で働く人々はオッズ比1.39(95%信頼区間0.91〜2.13)
  • カーペット敷き詰められておりカビのある環境で働いている人々はオッズ比4.64(95%信頼区間1.11〜19.4)
何を意味するか?

 この調査は、フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)がぜん息又はアレルギー反応の増加に関連しているとする増大する文献にさらに加わるものである。それは、今までに成人のぜん息発症の決定要因を評価したものの中で最大のものである。それはぜん息のリスクとプラスチック壁材との間、及びぜん息リスクと敷き詰めたじゅうたん(カビが存在)との間に統計的に有意な関連があることを示している。カビとじゅうたんは組み合わせられると統計的に有意となるリスク増大方向に独立した傾向を示した。

 ジャッコラらはフタル酸エステルへの暴露の直接的な測定は行わなかった。DEHPへの関連性は間接的である。それは、プラスチック壁材はPVCでできており、PVCは最大40%重量のDEHPを含んでおり、PVC壁材の部屋はDEHPを含む埃があることが示されていたという事実に基づいている。同様に、カーペットは通常PVCで裏打ちされているが、それはDEHP汚染の埃を生成する(ある製造者らは代替品を使用している)。

 ジャッコラらは、”プラスチック及び織物表面材質とぜん息リスクとの関連に関する我々の発見は、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン及びロシアで実施された子どもについての4つの疫学的研究と一貫性がある”とコメントしたが、4つの研究はそれぞれ PVC/DEHP と呼吸器系障害との関連を見いだしている。


訳注1
Our Stolen Future (OSF)による解説 2006年10月17日/DEHP(フタル酸ジ 2- エチルヘキシル)はマウスにアトピー性皮膚炎のような皮膚病変を高める (当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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