全米研究評議会(NRC)
ニュースリリース 2008年12月18日 EPAはフタル酸エステル類とその他の化学物質の 累積的リスク評価を実施すべきである フタル酸エステル類の健康リスク委員会 情報源:NATIONAL RESEARCH COUNCIL News Release Dec. 18, 2008 EPA Should Pursue Cumulative Risk Assessment of Phthalates and Other Chemicals Committee on Health Risks of Phthalates http://www8.nationalacademies.org/onpinews/newsitem.aspx?RecordID=12528 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2008年12月22日 このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/nrc/081218_nrc_Phthalates.html 【ワシントン】米環境保護庁はフタル酸エステル類として知られる化学物質類への複合暴露がヒトに有害健康影響を与えるかどうか検証すべきであると全米研究評議会(NRC)の新たな報告書は述べている。さらに、累積的リスク評価と呼ばれるこの分析(訳注1)は、EPAの現在の手法である構造が類似の化学物質に着目するよりも、フタル酸エステル類と同様な健康影響を潜在的に引き起こし得るその他の化学物質を考慮すべきである。さらにEPAは、他の種類の化学物質に関しても、勧告されている将来の累積リスク評価のためのアプローチを採用することを検討すべきである。 フタル酸エステル類は、化粧品、医療機器、子どものおもちゃ、建材のような広い範囲の様々な消費者製品中で使用されている。その懸念に照らして、欧州連合(訳注2)とアメリカ(訳注3)では子どものおもちゃの中のいくつかのフタル酸エステル類の濃度を制限する法案を採択し、欧州連合はまた、いくつかのフタル酸エステル類の化粧品中での使用を禁止した。EPAは全米研究評議会(NRC)に、フタル酸エステル類の累積的リスク評価を実施すべきかどうか、もしすべきなら、それはどのようなされるべきかを勧告するよう要請した。したがって、全米研究評議会(NRC)の報告書はフタル酸エステル類の健康影響に関する包括的なプロファイルではない。 フタル酸エステル類の健康影響に関するヒト研究はほとんど入手できないが、動物研究によりフタル酸エステル類の潜在的なリスクの理解が最近、増大している−とこの報告書を作成した委員会は述べた。累積的リスク評価に正当性があるかどうかを決定するためには、二つの要素が決定される必要がある。ヒトはいつでも複数のフタル酸エステル類に暴露しているかどうか、及び、暴露が類似の有害健康影響に関連することを示す証拠が存在するかどうか−ということである。 そこで、委員会は動物研究を見直した結果、実験動物において様々なフタル酸エステル類への暴露が、オスの生殖系の発達への広い範囲の影響を含んで、類似の健康影響を生成することがわかった。オスのラットにおける最も顕著な影響は、不妊、停留睾丸、ペニスの奇形、その他の生殖系の奇形である。しかし、影響の深刻さの程度さはフタル酸エステル類の中で異る。あるものは程度は軽く、又は影響がない。さらに、暴露時期が影響の深刻さの程度にとって重要である。例えば、胎児が最も感受性が高い。もし、フタル酸エステル類への複合ヒト暴露があり、異なるフタル酸エステル類への暴露が実験動物に類似の影響をもたらすことを研究が示すなら、累積的リスク評価が求められる−と委員会は述べた。 委員会により見直された動物研究はまた、あるフタル酸エステル類はテストステロン(訳注:男性ホルモンの一種)濃度を下げることを示した。この低下がいつ起きるかにより、動物におけるオスの生殖系発達に重要な様々な影響を引き起こし得る。男性ホルモンの働きを妨げる又は抑制する抗アンドロゲン剤として知られるその他の化学物質類は、実験動物に類似の影響を生じさせることができる。動物のオスの生殖系発達に類似の影響をもたらすフタル酸エステル類及び他の化学物質は、抗アンドロゲン剤を含んで、累積的リスク評価が検討されるべきであると委員会は勧告した。他の化学物質を除外してフタル酸エステル類だけに着目することは人為的であり、リスクを著しく過小評価することになると委員会は強調した。 現在、累積的リスク評価を実施するときに、EPAはしばしば、構造的に関連する化学物質だけを考慮するが、それは、それらの化学物質が最終的な健康影響をもたらす一連の同じ反応を示すという仮定に基づいている。その実施法は、異なる化学物質への暴露が同じ健康影響をもたらすかもしれないということを無視している。類似の健康影響を引き起こす化学物質を考慮するために、フタル酸エステル類に対してとられる概念的アプローチはまた、どのような累積的リスク評価をも完全なものにする時には適用されるべきであると委員会は述べた。例えば、鉛、メチル水銀、PCB類などは全て、子どもの知能指数(IQ)の低下と首尾一貫した認識能力の欠如に関係するのでEPAは、これらの複合暴露のリスクを評価できるはずである。 さらにフタル酸エステル類に関連する累積的リスク評価のより大きな改善を可能とし、そのような評価に関連する不確実性を低減するために、さらなる研究が実施されるべきであると同報告書は述べている。構造的類似性に基づく化学物質をグループ化するという手法の制約を超えて前進することは難しいことのように見えるかもしれないが、ヒト暴露の多様性を評価することは実施可能である。それはまた、人の健康を守るというEPAの使命を直接的に反映するものであると委員会は述べた。そのようなアプローチの転換は、最も顕著な有害健康影響の中から優先度の高いものを定義し規定するというような相当な努力がEPAによってなされることを必要とする。しかし、類似した結果に着目することは、含まれるべき化学物質のグループを特定することによるプロセスを容易にする。 全米科学アカデミー、全米工学アカデミー、医学研究所、及び全米研究評議会は全米アカデミーを構成する。それらは、1963年の議会憲章の下に科学、技術、及び健康政策の助言を提供する独立した非営利の機関である。ボランティアとして公共の利益を提供する委員会メンバーは、彼らの専門性と経験に基づき、それぞれの研究ごとにアカデミーによって選定され、アカデミーの利益相反(conflict-of-interest)基準を満たさなくてはならない。結果としての合意報告書(consensus reports)は完了前に外部のピアレビューを受ける。 さらなる情報: http://national-academies.org/studycommitteprocess.pdf 報告書:Phthalates and Cumulative Risk Assessment http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12528 訳注0:関連情報 訳注1:累積的リスク評価
訳注4:欧米日ののフタル酸エステル類規制比較 |