パレスティナ2001 - ver.7

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Shifaその3


朝Al Qudsの病棟で起きて、ホテルに戻り、そのままShifa病院に行った。 昨日の攻撃でどの程度の患者が来たのか完全には分からなかったが、 receptionと呼ばれるER(救急外来)には朝でも軽症の患者が処置を受けていた。
一般外科のメジャーサージャリーはどうやらなかったようだが、 手術室では、今日はやたらと整形外科の手術をやっていた。
Shifaには一般外科医がシニア、ジュニア等全員で30人くらいいて、それが4つのグループに分かれて診療をしているらしい。 私の行ったグループは、今日は手術日ではないが、今日と明日が当番の日だそうで、48時間は当番のグループが外科の緊急の対応にあたることになっている。 そこで私も呼ばれて、手伝うことになっている。
本来の待機手術の手術日は週二回あるそうなのだが、現在は各科緊急対応の状態で、 緊急手術をいつでも出来るようにするため、待機手術は 週一回に絞っているそうだ。
今日は昨日の攻撃後なので、特にどこに行っても今は緊急事態であるという言葉が聞かれる。 ここに来るまでの間でも、いつも通っている警察の前の道は通行止めになり、遠回りをしなくてはならなかった。
また、ガザ地区は北部、中部、南部と3つのエリアに分かれるのだが、その各エリア間に住むユダヤ人入植者が 各エリア間の道を封鎖したらしい。それで今日は病院にこれない看護婦も多いとのことだ。 この封鎖はpoliticalな関係でしょっちゅうあるらしい。 このように各エリアを封鎖できるように、入植する地域も選んでいるとのことである。 ユダヤ人は全くもって狡猾である。
現在はラマダンであり、さらに手術数を絞っているので、さすがにShifa病院でも患者数は減っていて、 私のグループで入院している患者は、 糖尿病で足を切断した患者が二人と、銃創で人工肛門を作った患者、直腸癌の術後、 腹壁ヘルニアの術後、あと交通外傷による多発外傷で、 ICUでレスピレーターが付いている若者が二人いるだけである(写真左)。
Shifa病院もalquds病院と同様、実は日本の援助で造られており、 写真のように、日本の援助でこの病院が出来たという旨が掲示してあった。 ちょっと、自分の居場所があったという感じである。
この病院のシステムは、reception(ER)に外科レジデントのGP(general practician:一般医)がいて、 軽症の外傷はGPが見て処置できるものは処置してしまう。 ここのレジデントであるGPは日本で言う研修医というよりは何でも医であり、小外科はもとより 整形外科、脳外科など、一通りの救急患者を見る。 そして、そこで手に負えない患者を各専門医にコンサルトするという体制である。 よって、一般外科のセクションでは通常手術になる患者しか見ない。
術後の外来患者はreceptionではなく直接外科病棟にきて、そこでちょっとした外来や 術後の消毒、処置などをやっている。また手術患者は一般に日本よりも退院が早い。
パレスティナの場合、他国で医師になり、ある程度トレーニングをしたりしてから戻ってくるので、 レジデントといっても医師経験が3-4年ある場合も多く、日本の研修医とは比べ物にならないほど優秀である。 とくに他科の救急の知識は豊富なので、それについては私が教えてもらうような状態である。
しかも就職難であるので、specialityを持つ医師もreceptionで働いていたりする。

今日は、回診をしたのち、手術室で直腸癌患者の手術創の縫い直しをやり、 外来で虫垂切除後の患者の消毒をして、外来のコンサルトの患者をみて、とりあえず一通り仕事が終わった。 あとは、救急体制に入ったが、私に関しては今日は寝る場所もないので、緊急手術があり次第コールをするということで、 明日に備えて一旦ホテルに帰された。


連夜の攻撃


昨日、午前3時までアタックが終わらず、睡眠不足のまま昼間働いたので、今日は夕食を食べると早々に寝た。 しかし、午後8時ころまた、突然起こされて、「攻撃がはじまったので下に降りろ」とのこと。 下に降りていく。
すると、今回は武装ヘリによる攻撃であり、すでに、救急車も動き出している。 あちこちで爆弾の落ちる音が聞こえていた。 F16による攻撃は時間差があるのだが、武装ヘリの攻撃はすぐ来るということを聞いていたが、 まさにその通り、まもなく一台目の救急車が到着した。例によってpsychic traumaだが、 一応全身検索をしなければならない。一人目の患者の処置、 検査をしている最中に二台目の救急車が到着する。武装ヘリによる攻撃は続いたままである。 レントゲン室にいるときに、かなり近くでドカンとするいう音が聞こえた。 昨日の今日だが、今日は医者が手薄で、救急外来にはレジデント以外はdirectorと私とDr.Nidaliしかいなかった。 しかし、そのDr.Nidaliがtraumatologyのスペシャリストであり、非常に頼りになり助かった。
幸い今日の攻撃は小一時間ほどで終わり解散となった。

今日のナースにはHydinがいて、彼とはじつは今朝ShifaのICUで会ったばかりであった。 聞くと、彼はShifaのICUのchief nurseであり、午前中Shifaで働き、 午後と夜はalqudsの救急外来で働いているそうである。 経歴をきくと 3年制の看護学校をでてから、近くにあるイスラミック大学で2年学び、学士を取得したとのことで、 なかなか頼りになるナースである。 彼といろいろと話したときに、彼はこの状況を是非日本に帰って伝えてほしいと力説した。
彼は言う。
「この攻撃をみたか?パレスチナ人は飛行機もミサイルも持たない。武装ヘリもない。 あるのは投石と銃だけだ。しかし、イスラエルはF16やアパッチを使って、小さな子供を狙って殺している。 信じられない。どちらがテロリストだ? ユダヤ人はパレスティナが攻撃をするとテロリズムといって宣伝する。 しかし、彼らがやっていることがまさにテロリズムではないのか?」
同じことは、レジデントの一人からも聞いたことがある。
パレスティナ過激派のやっていることは確かにテロリズムだが、 イスラエルのやっていることは戦争である。しかも、武器を持たないテロリスト以外の人間を犠牲にするものである。 アメリカがアフガンでやったこと、 イスラエルがパレスティナでやっていることは本当に正当化されていいのだろうか?
私はパレスティナにボランティアに来ているので、当然パレスティナよりの情報を得て、 パレスティナよりの考えになっているといわれてもしかたないと思う。
しかし、テロリストに対する戦争というような理屈で、国家に対して攻撃を加えて罪のない人間が殺されるのは正当化されるのだろうか? 非常に疑問である。

ガザの町は全面的に停電となっていた。幸いここの病院だけは自家発電になっているので、明かりがついており、 そのためか、多くの警察関係者が病院内にきていろいろ対応している。 まるで臨時作戦本部のようになっており、なんだかすごい状況になってきている。
もしかしたら、今Shifaでは重症の患者が搬送されているのかも知れないが、まだ連絡はない。 どうやら電話は使えているようだが、警察関係が使いっぱなしなので、なかなかつながらないと思われる。 しかし、この状況で移動するのは危険だし、実際車もないので事実上無理である。 ということで、Shifaには明日の朝に行くことにした。
部屋に帰ってテレビをつけると、被害状況についてのニュースをやっていた。数人死亡者が出ている模様である。 時折勇ましい音楽が流れ、インティファーダの映像がはさまれている。
まるで、戦時下に入ったような放送であった。

(写真)
   左上: TraumatologyのスペシャリストDr.Nidali
   右上: 防弾チョッキをきた救急隊員
   左下: 救急外来のナース達。左がAmez、右がHydin。
   右下: 翌日の警察署の壁。銃撃あとが生々しい。