パレスティナ2002 - ver.25

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UNRWAと日本の援助



今日は久々に、朝からShifaに行った。
2日もあくと、「一体何をしていたんだと」皆から言われる。
本来私のShifaの仕事は週3回なのだが、もう皆毎日来るのが当たり前のことのように思っている。 他のグループの医師まで、Dr.ヤバニはどうしたのだと言っていたらしい。

今日は、折角Shifaに来たのだが、以前からお願いしていたUNRWAの件で、 Dr.Awadが今日UNRWAのHealth careのtop であるDr.Ayub Alaimに話をつけてくれたので、、 朝からUNRWAにクリニックの見学のpermissionをもらいに行くことになった。
ということで、回診もそこそこに、UNRWAに行った。
UNRWAは正式名称をUnited Nation Relief Work Agency for Palestinian Refugees in the near Eastと言う。 人々は「ウヌルワ」と呼ぶ。パレスティナの難民のために、医療や学校などを提供している国連の組織である。
まず、ガザにあるUNRWAの本部に行き、Dr.Ayub Alaimに会いに行った。
そこで、いろいろUNRWAのHealth care projectについて聞いた。
ガザの地域内にはUNRWAのクリニックが16ある。すべてクリニックであり、入院が必要な場合は他の病院に紹介する体制である。 紹介する病院はガザだと二つあり一つはShifaである。 またハンユニスとガザの間にあるEuropean Hospitalにも紹介することがあるらしい。
クリニックは無料だが、入院は有料で、ケースにより、UNが支払う金額が違うそうだ。 また、CTなどの検査も一部有料になる。
UNRWAのクリニックは基本的には午前中の診療だけであり、4つある大きなクリニックでは午後までやるところもあると言う。 大きなクリニックは、ジャバリヤ、ハンユニス、リマル、ラファなどにあるそうだ。
Dr.Ayub Alaimと会って少し話した後、permissionどころではなく、もう早速見学に行くことになった。

まず、ガザ市内の大きなクリニックであるRimal Health Centerに行った。
ここは多くのセクションからなり、家族計画、妊婦ケア、異常妊娠、産婦人科、新生児ケア、小児科、ワクチン、 慢性疾患(糖尿病、高血圧、喘息、心臓病)、一般外来、歯科 などに分かれる。
そして、各セクションで外来患者を1-2人の医師で見る体制である。 ちなみに一日の外来患者は心臓病は40人、糖尿病が160人、他の慢性疾患などで150人以上、小児科は80-100人だそうだ。 出産は正常分娩が12月1ヶ月に170件あったそうだ。それ以外にもちろん一般外来もある。
ちなみに、Shifaに勤めているDr.Awadの奥さんの話では、Shifaの正常分娩は一日40件、帝王切開は一日12-3件が平均だそうだ。 この辺、産科、小児科の需要は非常に大きい。
今日は雨なので、患者は少なかったが、外来数を聞く限り、事実上難民の医療はこういったUNRWAのクリニックが支えている ということは明らかである。 レントゲンや検査、ファーマシーも整っており、超音波検査などもやっている。 勤務している医師も経験が豊富な医師が多い。
ここだけで、10数人の医師が勤務しているそうで、中にはボランティアの医師もいるが、 ここで言うボランティアは外国人のボランティアではなく、ガザに住んでいるパレスティナ人の医師である。
話してみると、ここの医師はprimary careには自信満々で、自分達は多くの患者を見ていて、経験も豊富であり、 重症患者は病院に送るが、診療レベルは非常に高いと言うことを力説していた。 私がShifaで働いていると言ったせいかもしれないが、Shifaの医師には負けないぞというようなプライドがあるように思われた。

次にBeach camp内にあるBeach Health Centerに行った。 ここはやや小さなクリニックで、常勤医が3人、ボランティアが1人でやっている。
しかし、こういう規模が一般的らしい。
ここには産科と歯科はないが、他の科はRimal Health Centerと同じようにある。診療内容もマニュアルが出来ており、 どこのクリニックにかかっても、同じ疾患では同じ治療がなされるようになっているそうである。
ここの12月の外来患者数を見せてもらったが、新患が621人、再来が10191人。感染創の処置が11809人、包帯交換が1939人である。 一日平均では新患が約30人、再来が400人程度である。 単純に考えて医師一人あたり、一日100人の患者を見ていることになる。
慢性疾患や母子の外来は基本的に予約制であるが、一般外来はもちろんいつでも来れることになっているそうだ。 これらのクリニックは午前中だけの診療時間であることを考えると、日本と比較しても、 医師一人当たりかなりの多くの患者を見ていることになる。 逆にPRCSのクリニックは日本と比較しても患者数が圧倒的に少ない。

Beach Health Centerでここの医師と色々ディスカッションした。
まず、パレスティナの医療で問題点は何かと聞いたら、以下の様な答えが返ってきた。

10数年前くらいまでは、パレスティナの医療の大きな問題は、感染症であったが、 しかし、現在では、糖尿病、高血圧、喘息、リューマチなどの慢性疾患が問題となってきている。
これらに関しては、いろいろと指導しており、必要であれば訪問診療や看護もやっているらしく、活動は非常にアクティブである。 そして、患者の通院率も非常に良いのだが、糖尿の食事療法などは、 いくら指導しても患者が守らないために、効果が上がらないそうである。
また、パレスティナ特有の問題としては、占領、封鎖による、精神的な疾患が問題となっており、これに対しては、 UNRWAでガザ地区に専門家が2名いて、対策を講じているところだそうだ。
また、パレスティナ人は非常に多産であるので、riskyな妊娠が多く、合併症のある母親の妊娠ケアや、 また社会的環境により生まれた子供に発達障害が起きる例が多く、こういった問題に対する対策が現在の問題点であると語ってくれた。

また、ボランティアとの関係も聞いてみた。 基本的に外国のNGOなどのボランティアがUNRWAで働くことは認めていないそうだ。
しかし、実際MSFなどでは、外傷患者で手足を切断した患者の断端形成などの形成外科手術を患者を集めて行っているそうで、 そういった患者を集めるのは、UNRWAが協力しているそうである。
Dr.Elenの活動もそうであるが、パレスティナで最も求められているのは、パレスティナにはいないスペシャリストであり、 そういった医療を集中して行うと言うのが、NGOの活動としては、良い方法だと思われる。

見学を終えて、Shifaに帰ってきた。
そして、ICUの腸間膜静脈塞栓の患者のところに行ってみた。 現在のところ、血圧は安定しており、ドーパミンはテーパリングしている。 血糖コントロールは良好である。尿量も利尿剤を使いながらだが、確保されている。
しかし、昨日判明したことだが、この患者はなんとC型肝炎ウイルス陽性であるとのことだ。 術中見た感じでも正常肝ではないという。
多臓器不全で、唯一残っていた肝臓もC型肝炎では非常に予後不良であるが、今のところは何とか小康を得ている。 しかし、まだまだ当分安心できないので、今後の経過を見ていく必要がある。

そのあと、手術室でDr.Awadに呼ばれた。
今日は外科の手術はないはずなのに何だろうと思っていくと、整形外科の手術をしているところであった。 そして、整形外科の医師が呼んでいるらしい。
行ってみると、現在上腕骨骨折の手術をしている。 そして、私にネジがとれたドリルをみせて、
「我々はこういうドリルを使っている。これは日本のDonationだが、修理することが出来ない。他にも使えない機械が沢山ある。」 といって色々見せてくれる。
「壊れても直すことの出来ない機械が沢山あり、非常に困っている。かと思うと、 日本からはTotal Knee(人口膝関節)やTotal Hip(人工股関節)のセットがDonationで来ているが、 そういったものを使う機会はほとんどない。というのは一つには日本のセットは小さくてパレスティナ人には合わないということ。 もう一つにはもともと、こういった手術のニーズがあまりないということがある。」という。
彼が言うには使えない高価な機械が沢山ある反面、ドリルのような基本的機械が使えず、 やむなく大工用品を滅菌して使っている状態だそうだ。 このあたり、現場のニーズを考えてから援助をしてほしいというのが彼の趣旨であった。
たしかにTotal KneeやTotal Hipというのは、日本の病院の整形外科ではなくてはならない道具の一つであり、 しかも非常に高価である。だからこそ、日本の医師が考えて送ったのだろうが、こちらの整形外科はなんと言っても外傷がメインである。 この辺、実際の現場を知らずに日本の常識で援助をするので、非常に無駄が多いようだ。
単に金を送ったり、物を送ったりするだけではなかなか有効な援助にはならないこともあるというよい例である。