パレスティナ2001 - ver.2

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Shifa hospital


12月5日、今日は朝から雨であった。Al Quds病院にいてもしょうがないことは分かったので、 今日はShifa病院に行くことにした。 勝手に行ってしまう手もあったが、一応Director の顔を立てて、まずShifaに見学に行きたいと言ってみた。 そうすると、案の定、
「見学に行くのはOKだが、働くのは出来ない。 というのはShifaは政府の病院でPRCSとは違う経営だからだ」
と彼はいう。 そんなことは鼻から分かっている。 彼にしてみれば私が向こうの病院に移るのは面白くない話だろうから、そう簡単に認めるはずがない。 しかし、おそらくShifaはそんなことは関係なく、ボランティアとして私を受け入れてくれるだろうと思いながらも、 とりあえず行ってみて、向こうのDirectorに直接聞いてみるという作戦を考えた。 もちろんPRCS側にはあくまで見学ということにした。 PRCSにアレンジを頼むと、なんと救急車の送り迎えつきでアレンジしてくれた。 さらに、PRCSの医者を一人つけてくれた。 彼は実は一年間Shifaで働いたことがあるそうで、院内の医者もよく知っていた。 Shifaに行く途中、私が
「Al Qudsには仕事がないので、Shifaに移りたいと思う」
というと彼もそれに賛成してくれて、
「Directorと相談すればShifaは受け入れてくれるはずだ。」
と言ってくれた。 彼に限らず、Al Quds病院で働くスタッフにはShifaで働いた経験のある医者は多く、 上層部ではない医者は結構フリーな立場である。 したがって、Al Qudsでの待遇の悪さなどについてもいろいろと私にこぼしたりしている。

Shifaに着き、初めにDirectorのJumaaに会い、一般外科のチーフを紹介してもらう。 JumaaももともとGeneral Surgeonである。
彼に案内されて、まず救急部の責任者にあった。 すると、昨日のアタックの様子や、現在のガザの現状について、いろいろ話しをしてくれた 。
結局昨日のアタックで緊急の手術は、妊婦の外傷、足の切断、脾臓破裂による脾臓摘出、子供の骨折、等がメジャーサージャリーで、 他に小さな外傷の類は60例ほど。問い合わせは300件くらいあったそうだ。 今日の待機手術はすべてキャンセルになり、いまは緊急体制になっているとのこと。 というのも、これは今までのイスラエルの報復を考えると、何時アタックがあってもおかしくないからだそうだ。 (実は、結局この日のアタックはなかったのだが、それは雨が降っていたからかも知れない)

その後、手術室に行き、中を見学する。 手術室は6部屋。麻酔器などはきちんと整っている。 麻酔はいま欧米や日本では肝障害を起こすので、ほぼ使われないハロセン麻酔が主体である。 その理由はセボフルレンという欧米や日本などの先進国で汎用される麻酔ガスがコストが高すぎて使えないからだそうだ。
その他の機械では、腹腔鏡の機械もあり、これは日本のオリンパスのもので比較的新しい。 使用するポートなどは、もちろん新品ではなく再生である。 心臓循環器外科もあるので、体外循環の機械もあった。 これは何年前のものかというような古そうな機械であったが現役であるらしい。

その後、一般外科病棟に行く。入院患者を説明してもらった。 通常の待機手術患者はラマダン中なのであまりいないが、 ここ最近のイスラエルのアタックによる外傷の患者が多いようで、銃創の患者が多く、皆若い。 なかには肝破裂で手術した患者などもいた。
また、交通外傷で気管内挿管をし、長期レスピレータ管理となった後、気道狭窄がきて気管切開をしたとか、 腹腔鏡下の胆嚢摘出術後、胆道狭窄となり、再手術してT-tube が入った患者などもいて、 診療や手術のレベルに問題があるのかも知れないと思わせる患者もいた。

ICUに行くと、頭部外傷でレスピレーターが回っている患者ばかりであった。主に銃創である。 中には脳死になっている若者もいたが、やはり死ぬまでレスピレーターははずせないそうだ。 こちらではさすがに臓器移植などは行われていない。 レスピレーター自体は、年代ものなのか、見たことのないような型であった。 医療レベルは一体どのくらいなのかはまだちょっと不明である。
一通り、見てきたが、やはり患者数は圧倒的に多く、 働くならやはりShifaでないと意味がないことは明白であった。 帰りがけに向こうのDirectorにもし可能だったらこっちで働いてもいいかどうか聞いてみたところ、 案の定、全くOKとのことであった。 しかし、PRCSは結構大きな組織であり、その名前は利用できるだけ利用しようと思うので、難民キャンプなどの見学やらをアレンジさせてから、 Shifaに移ろうかと思う。

<写真の説明>
左上:頭部に被弾して脳死になった若者。(Shifa病院ICU)
右上:Shifa病院の手術室。十分な機械が備わっている
左下:右前腕を撃たれ、動脈が切断された患者。血管外科のチームによる緊急手術で血行再建された。
右下:あごに被弾した若者のX線写真。この後、手術で摘出された。





イスラエル爆撃跡


Shifa病院からの帰りがけには昨日爆撃のあった軍の建物(左)や、public securityの建物(右)を見学してから帰った。 いずれもすごい壊され方である。隣のビルも爆風で吹っ飛んでいた。
イスラエル軍が狙うのは、軍関係や公的建物と言うことになっているが、 このpublic securityの建物の近くで10歳の子供が命を落としたそうだ。
この辺はアメリカのアフガンでの空爆と全く同じ構図である。 いろいろ言い訳していても、罪のない民間人を犠牲にしているのだ。

しかし、銃創の患者や実際の生々しい爆撃跡などをリアルタイムでみるのは生まれて初めてであり、 ちょっと自分でも、すごい経験をしていると思う。 明日は、難民キャンプの見学に行くつもりである。
午後は、メールを出してからガザの中心に行って両替をした後、また、 インターネットショップによってから帰ってきた。人々の生活は全くいつもと同じである。 雨は一日中ひどくずぶぬれであった。