パレスティナ2001 - ver.14
その1、
その2、
その3、
その4、
その5、
その6、
その7、
その8、
その9、
その10、
その11、
その12、
その13、
その15、
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その18、
その19、
その20、
その21、
その22、
その23、
その24、
その25、
その26、
その27、
その28、
その29
PRCS ハリールアルワジールクリニック
今日から勤務体制が変わった。
これはPRCSからの申し出で、ShifaにはER当直日と手術日の2日、その他はPRCSのガザのクリニックに3日、
そして1日は前回行ったハンユニスのAmal病院に行くというプログラムとなった。
意味のないAlQudsでの勤務はこれで完全になくなった。
ただし、ホテルは相変わらずAlQudsの隣なので夜間緊急のときや、
クリニック勤務日にAlQudsで手術がある場合は、そちらに参加するということになった。
これで、PRCSにもある程度メリットがあり、現在考えうる限りでもっともベストな勤務体制となった。
PRCSも現場の人間は、いろいろ考えてくれている。
早速今日から、ガザのクリニックに行くこととなった。
ちなみに、PRCSのクリニックは、ガザ地区にはガザ、ジャバリヤ、ハンユニスの3箇所にある。
もともとクリニックであるからやれることは限られるが、AlQuds病院と違い保険はきくので、
患者はそれなりに来るらしい。もちろん、手に負えない症例はShifaやAlQudsに送るそうである。
クリニックへはDr.Musaが連れて行ってくれた。
彼はもともとルーマニアで医師になったGPで、現在はPRCSのガザ地区の3つのクリニックの責任者である。
Dr.Musaとクリニックに行く間に話をしたとき、ずばり聞いてみた。
「なぜPRCSはAlQuds病院を作ったのだ?全く意味がないのではないか?」
彼はPRCSの人間だから、どう答えるか興味があったが、あっさり
「それはFathiが自分達のために作ったのだろう」
と正直に答えた。
FathiとはFathi Arafat、PRCSの名誉総裁でPLO議長のアラファトの弟である。
彼も、やはり現在のAlQuds病院の意味のなさは十分分かっているようだ。
「それでありながら、PRCSはAmal病院から、高価な病院の備品を持ってきたり、優秀な医師、看護婦を皆引き抜いてきて、
AlQuds病院で働かせているのだ」
と、彼は言う。
PRCSの末端の人間や比較的自由な立場の医師だけでなく、彼のように、ある程度PRCSの中枢に近いところで働いている者も、
この病院の存在には疑問をもっており、それを部外者の私にためらいもなく言うのにちょっと驚いた。
逆にいうと、彼らPRCSで働いている人間は、非常に感覚がまともであるともいえる。
そういえば、Shifaで周囲の人間に
「PRCSで働いている。」というと大抵
「ああFathiか」とはき捨てるように答えが返ってくる。
ようするに、PRCSはFathiが私物化しているらしい。
そして、PRCSの問題は他の医療関係者のなかにも知られているようだ。
とりあえず、ガザのクリニックに着いた。
クリニックは海岸沿いにある。今日は天気も良く、気持ちがいい。
ここの医師はDr.ArajaというGPの女医さんが一人。看護婦が二人の小さなクリニックである。
レントゲンも検査室もないが、簡単な外科的処置くらいは出来る。
主に、患者は子供で風邪をひいたり、下痢したりといういわゆる普通の病気である。
それでも、患者を診れれば良いので、私としては十分満足である。
まず仕事は、朝食をとることから始まる。
何故か、クリニックの奥のほうで、写真のようなアラブ風の朝食が出来上がっている。
ちなみに、左の煮込みはフールといい、右の皿はファラーフェルというそうだ。(写真左)
このあたり田舎のクリニックという感じで、のんびりしている。
今日来たのは、風邪、喘息、胃腸炎、関節炎と、なんとパレスティナならではのロバによる打撲(写真右下)が一人。
処置は抜糸が一件であった。
あとは健康相談みたいな人もいて、中には、自分のことでなく、家族のことを相談しにくるものもいる。
まさにいわゆる町医者である。
処置のカートは写真左下のようにきちんとしていて、Shifaのカートに比べはるかに立派であった。
ということで、パレスティナでは、どこでも消毒がいい加減ということではないということが分かった。
ここの患者の処方は、風邪に関しては、日本で出すような感冒薬や抗生剤、解熱薬、鎮咳薬などで変わりはないが、
胃腸炎、特に粘液便による下痢に関しては、必ずフラジールという赤痢アメーバの薬を出す。
というのはここら辺の子供の下痢の原因のほとんどは赤痢アメーバによるものだからだそうだ。
もちろん、アメーバによるものでなくとも、フラジールは嫌気性菌にもきくので、都合が良いこともある。
そういえば、Shifaでも術後の患者の抗生剤に必ずフラジールが入るのだが、それもそういった環境によるものかもしれない。
ちなみに、アメーバ赤痢は日本では法廷伝染病であり、隔離が必要である。
赤痢というと、日本では大変な病気と思われているが、アメーバ赤痢は、ここでは単なる普通の下痢の一つにしか過ぎない。
フラジールとORSを出して終わりである。
今日の患者は9時から1時までで、全部で15人。ほとんどがこの近辺の子供かその母親であるが、
なんと全員同じ苗字である。つまり、この一帯に住んでいるのは、とてつもない大家族で、そこの人たちしか、
このクリニックには来ないのである。
日本では考えられない。
パレスティナ内部対立
先日のアラファト演説以来、隣の警察が物騒になってきた。夜間によく銃声が聞こえる。
子供の遊びである場合もあるのだが、警察署側の対応を見ると、どうも、子供の遊びだけではなさそうである。
たまに、爆弾と思われる爆発音も聞こえる。幸い、今までのところ負傷者はないようだ。
ハマスなどのメンバーが、デモンストレーションとして行っているようである。
ガザ市内の警察署は大半イスラエルに破壊されたので、病院に隣接して、
今まで爆撃を免れてきたこの警察署がいまや唯一の施設なのかもしれない。
警察の周囲には兵士が昼間からうろうろしている。そこを通り抜けてクリニックに行く。
ようやくイスラエルの攻撃が一段落したと思ったが、治安自体はそうそうよくはならないらしい。
ちょっと、夜間の外出を少し控えようかと思っている。