パレスティナ2001 - ver.6
その1、
その2、
その3、
その4、
その5、
その7、
その8、
その9、
その10、
その11、
その12、
その13、
その14、
その15、
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その18、
その19、
その20、
その21、
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その24、
その25、
その26、
その27、
その28、
その29
パレスティナ問題
今日はDr.Hazemが外科外来でパレスティナ問題について、熱く語った。
彼は普段は基本的に理知的であり、常識人である。ハマスなどの過激派に所属しているわけでもない。
彼の言い分はこうである。
「もともと、パレスティナにオスマントルコの時代住んでいたのはアラブ人であり、
アラブの土地である。その頃ユダヤ人は2%しか住んでいなかった。
そして、この2%のユダヤ系パレスティナ人とキリスト教徒、
ムスリムのパレスティナ人の間には何の問題もなかった。
しかし、第一次世界大戦後イギリス占領下で1918年から、世界中からユダヤ人がやってきて入植し始めた。
考えてみるがいい。日本に突然アラブ人が100万人来たらどうだ。いい気持ちはしないだろう。
そして、第二次世界大戦後イスラエルが独立した。
イギリス統治時代にアラブの土地を勝手にユダヤ人に引き渡されたので、当然アラブ人は怒った。
そして戦争となったが、アラブの国々は貧しく、戦争には勝てなかった。
すべての原因はユダヤ人がこの土地に来たことに始まる。
しかもユダヤ人国家を建設するというシオニズムがすべての元凶である。
その証拠に、以前から2%のユダヤ人がいたがその頃は何の問題もなかったのだ。
ユダヤ人はプロパガンダがうまい。
ホロコーストで500万人殺されたといっているが、あれは嘘で実際は50万人である。
アメリカのマスコミもユダヤ人がコントロールしている。ユダヤ人の嘘にだまされてはいけない。
ユダヤ教では、ユダヤ人は選ばれた民族で、他の異教徒は動物だといっている。
彼らは心の中ではそう思っているのだ。アラブ人にはそんな考えはない。
実際今でもキリスト教徒とは全く問題なくやっている。問題なのはユダヤ人なのだ。
イスラエルには行ったか?
あそこの町並みは全くヨーロッパやアメリカと同じである。
しかし、ここはアラブなのだ。アラブのどこにあんな町があるのだ?おかしいだろう?
ヨーロッパにはヨーロッパの、日本には日本の、そしてアラブにはアラブの町があるべきなのだ。
我々パレスティナ人は弱い。日本の神風と同じである。
弱いものが強いものに戦いを挑むときには自爆しかない。だから、やるのだ。
我々パレスティナ人は最後の一人になっても戦う。そして、必ず勝つ。」
この話の間に、彼は"We will win."を何度も繰り返した。
この話に反論はあるだろう。
ユダヤ人に言わせれば、「そもそもソロモン王の時代にはここはユダヤの土地で、、、」
とはじまるに違いない。
いずれにせよ、医師となり、社会的に成功し、経済的にも恵まれていて、
十分なインテリジェンスを持ったDr.Hazemでさえ、
「我々パレスティナ人は最後の一人になっても戦う」と考えているのである。
アメリカが思っているほど、この問題は簡単には終わらない。
パレスティナの現状
最近は、大分顔なじみが増え、初対面の人には多少聞きにくい事も聞くことが出来る様になってきた。
そこで、いろいろデリケートな話を良くするようになっている。
今日は救急外来のレジデントにパレスティナの労働状況についていろいろ聞いてみた。
パレスティナには400万人の人口があり、ガザには200万、西岸に200万人いる。
そのうち70%がイスラエルで主に肉体労働者として、工事現場やビルの清掃などをして働いている。
しかし、インティファーダ後は、多くが解雇されて、今は約10万人が失業状態であるそうだ。
労働者の平均収入はインティファーダ前が月給250US$で、インティファーダ後は約150US$位に減ったらしい。
ちなみにここal quds病院のスタッフドクターは月給400$。パートタイムのレジデントは150US$程度だそうだ。
失業者についてはauthorityから月50$支給されるのと、食糧などが現物で援助されるそうだ。
私が前々から不思議だったのは、貧しい貧しいといいながら、町にホームレスとか、
ストリートチルドレンがいないことなのだが、その理由は宗教にあるらしい。
イスラム教の教えで、豊かなものは貧しいものにdonationをするそうであり、
そのことにより、自分もアラーから助けられるとのことである。
したがって、貧しいものは、その属するsocietyが助けるのだそうで、貧しいものにはdonationが集まる。
それはイスラム国家どうしでも同様に行われる。
つまり、豊かなイスラム国家である、エジプトやサウジアラビアなどは、
貧しいパレスティナにdonationをするらしい。
その結果パレスティナのauthorityは収入を得て、失業者にdonationを出来るのだそうだ。
では、こんなに貧しいもの達がいる中で、なぜ高級外車や携帯電話を持っているものがいるのかと聞くと、
これは、残念ながらdonationの分配が公平でなく、余計にもらっているものがいるからだと彼は説明した。
いろいろ不明だったことが少しは分かってきたように思う。
緊張の夜
12月12日、午後8時、どうやらガザと西岸で結構な程度の規模で衝突があり、
緊急手術があるかもしれないので、外科医は皆待機せよという指令がでた。
いままで、空爆があってもそんな具体的な指令が出たことはないので、
これは本当に来るかも知れないと思いながら待っていた。
そうこうするうちに、今度は9時ごろからF16戦闘機が飛び始めた。
今まではせいぜい30分くらいで終わっていたので、その程度のつもりでいたところ、
今回は前回の様に短時間ではなく、何時までたっても終わらない。
しかも、飛行するのがまさに病院の真上である。何度も何度もF16が上空を行ったりきたりする。
彼らの話だと、初めに飛ぶのは偵察で、そのとき目標を見つけ、その後爆撃するのだそうだ。
そして、F16は絶え間なく何度も何度も上空を行き来し、そのうちミサイルの落ちる音も何度も聞こえてくる。
救急車は次々と出動していき、そのうち患者を運んできた。そして、患者が搬送されている最中や、
処置の最中もF16の爆音がとどろき続ける。
「これはまさに戦場だ」と思った。
最近のイスラエルの爆撃は主に警察署を狙っているのだが、この病院は実は警察署の隣にある。
初めに来たときは警察の近くだから安心であるなどど言っていたものの、今ではもっとも危険な場所ともいえる。
幸い、PRCSの病院であることはわかるはずなので、基本的には目標とはしないだろうとは思う。
警察の隣は私の泊まっているホテルであり、その隣に救急外来とファーマシーの建物、
さらにその隣が病院となっている。当然ホテル内は上の階に立ち入り禁止になり、
一番安全な地下の救急外来にいるようにと言う指令がでた。
病院の診療体制的には、内科患者、軽症の外科患者と重症の患者の3部屋にわけて対応し、
各部屋に責任者一人とレジデントを割り振るという体制にして、重症部屋を私が担当することとなった。
ただし、患者に関しては、いつもどおり軽症の患者しか来なく、救急車は4台、
3人のpsychic traumaの患者と1人のleg traumaの患者が搬送されてきただけで終わった。
しかし、空爆はF16やら無人偵察機やらの爆音が絶え間なく聞こえるなか、延々5時間、
朝の3時まで続いた。その後もホテルに帰る許可は出ず、結局その日は病棟で寝ることになった。
ホテルのフロントの人にこの攻撃について聞いてみたところ、
「今回の攻撃は今まで経験した中でもっとも恐ろしかった」と言っていた。
私もこれはさすがにシャレになっていないと思った。
結局後で聞くと、このときの攻撃では死亡者は女性が一名で、それも外傷によるものではなく、
ショックで心筋梗塞になったとのことである。
というのも、イスラエルが爆撃した建物からは人々がすでに避難していたからだとのことである。
イスラエルとしては、一連の攻撃で、直接的被害を狙うというより、
心理的な効果を狙ったのかもしれない。狡猾な作戦である。