パレスティナ2001 - ver.3

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ハマス


12月5日、夜間、銃声が聞こえた。しかし散発的な銃声は日常茶飯事でさして珍しいことではない。 そうこうするうちに、救急車が走っていった。 状況がつかめないので下に下りていくと、ハマスとパレスティナ警察の間での小競り合いがあったらしい。 そして、そういったケースの場合、患者はShifaに送られるようになっているそうだ。 下では当直の医者が一応待機していたが、我々の病院には来ないようだ。 結構近くで起こったようであるが、救急車も病院の前を素通りしていった。 ということで、早々に引き上げた。事件性があるので、 そういう決まりになっているのだろうが、救急に関しても全く機能していない病院である。 ただしPRCSの救急車は非常に活躍している。 自分のところに来ない患者を何人もShifaに運んでいる。


翌朝、起きると、なにやら周囲が物々しい。道には兵士がうろうろしており、病院の前で検問をしている。 どういうことか事情を聞くと、どうやら昨日の衝突以来、ハマスとパレスティナ軍との間にかなり緊張が高まっているようである。 また、アメリカとイスラエルが、ハマスのようなテロリストを一掃するようにアラファトに圧力をかけて来たという話もある。 そこで、ハマスの本拠地であるハンユニス方面とガザとの間で検問がなされているとのことだった。
イスラエルの爆撃があっても、皆大した変化はなかったが、 このように目の前で兵士がうろうろしていると、さすがに緊張感が出てきている。

本当は、今日は難民キャンプに行こうかと思っていたのだが、こういった情勢なので止めておいた。 Shifaに移る件はJPMAとPRCSで協議したいとのことなので、保留となった。 しかし、水面下では私が勝手に話しを進めているので、もう向こうの外科チームには話しが通っている。 あとは正式に上のほうで話がまとまるのを待つだけである。
今日はこの病院にしては、珍しく外科外来に4人ほど患者が来た。 いままで全くといっていいほど働いていないので、今日は少しは働いたわけである。 といっても、ヘルニアの手術後のフォロー、顔のケロイド、小さな頭部外傷の縫合と例によって兵士の魚の目の切除である。 縫合と切除は私がやらせてもらった。ただし、清潔操作はパレスティナ流でいい加減である。 滅菌していない手袋にアルコールをたらして、滅菌手袋とし、魚の目の場合、 メスのホルダーはなくメス刃を手で持って切る。 頭部外傷は滅菌の針糸で持針器を使うが、持針器は滅菌していなく、 それでも抗生剤を飲めば化膿はしないとDr.Hazemは言い切った。 頭部の縫合は麻酔もせず患者も平気な顔をしていた。 ということで、私もパレスティナ流でやることにした。


ガザ市内


今日は、(というより今日も)時間があったので、ガザの中心まで行ってみることにした。 市内の様子は、たまに街角に兵士の姿を見かけるくらいで、特に変わりないように見えた。 タクシーで行ったのだが、何度かぼられるうちにようやくレートが分かってきた。
こちらのタクシーは基本的に相乗りで、市内を一回移動するのに1NISである。 これが若干遠い距離になると2NISになることもある。 いわゆる日本流の一人で乗る乗り方は「スペシャル」という扱いになり、当然高くなる。 他に人が乗っていると考えれば、6-7NIS、時には10NISほど取られるのもうなずける。 この辺のレートが分からなかったので、初めのうちは結構ぼられた。
ガザ市内でよく見かけるのは、写真にあるようなパン屋さんである。 ここのパン屋は見てのとおり自家製である。 工場で大量生産するほどニーズがないのか、昔ながらのパン屋があちこちにあり、 ラマダンの夕方になると、おいしそうなにおいを漂わせる。 ちなみに、一個1NISである。
街角では子供が何事もないかのように遊んでいた。 (実際何事もなかったのだが)こういう光景を見る限り、パレスティナも平和である。 今日は木曜日。イスラムでは明日の金曜はお休みである。今日も無事一日が終わったかと思われた。

深夜、3:00頃、突然イスラエルと思われるジェットが3回ほど上空を飛んでいった。 そして、いきなり周囲が騒がしくなった。 そうこうするうち、PRCSのメンバーが
「今ガザ市内の警察署にミサイルが3発撃ち込まれた。 危険なので、すぐ下に降りろ。」
と呼びに来た。 私の泊まっているホテルは5階建てで、4階に私の部屋がある。 前回もそうだったが、警戒警報が出たときは階下に下りるというのがマニュアルのようだ。 私に言わせれば、ミサイルが落ちたら、上でも下でも関係ないように思うのだが、 言うとおりに下に降りた。
今回は結構遠いところでミサイルが落ちたので、救急車も出動せず、 サイレンを鳴らさずおそらく様子を見に行ったと思われる数台が患者を乗せずに帰ってきて, およそ30分くらいで終了解散となった。
こういう場面にはもう慣れっこになってきて、日本でやっている避難訓練のような感じになっている。 一つ大きく違うのは本当に負傷者や死亡者が出ているということである。 部屋に帰ってテレビを見ると、おそらくShifaと思われる病院の映像が出ており、 けが人をあちこちで縫合処置している様子が映し出されていた。 廊下やらロビーやら空いているスペースのあちこちで処置が行われている。 まさに野戦病院さながらの様子であった。