パレスティナ2001 - ver.10

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医師の資格



夕食時Dr.Mahmoudと話をした。彼はGPで救急外来で働いている。 大学はルーマニアだそうで、卒業して、こちらに来て一年働いて試験をうけ パレスティナで医師として働く資格を得たそうである。 他国で医師になったもの(といってもパレスティナの医師は皆そうであるが)は、一年働いた後、皆この試験を受けなくてはならないそうで、 そうすると自分の名前の入ったスタンプをもらえる。
このスタンプがないとすべての薬の処方はできないそうで、 処方箋はサインでは受け付けないそうである。
私の資格はそうなっているのか知らないが、この制度ができたのが5年前だそうだから、 ボランティア医師のことなど細かなことはまだ決まってないのかもしれない。 もちろん、私のスタンプはないので、薬は処方できない。
また、パレスティナではGPとspecialityを持った医師というのは大きくランク付けがされていて、
「お前はGPか?specialityを持つのか?」といった質問がよく来るが、そういう時は明らかに、 GPを格下の医師という認識を持って聞かれる。 もちろん、このspecialityとは各専門医資格を取って初めて名乗ることが出来る。
さらにsubspeciality(外科でいうと消化器外科専門医など)、PhDなども医師の実力の判断基準になり、 幸い、私は外科の認定医とPhDを日本で取っていたので、それなりに認めてもらえた。
日本では認定医とPhDはステータス的な面があり、医師の臨床の実力評価にさほど重要視されないが、 ここではspecialityは4-5年の外科レジデントが終了した証明となり、 PhDも外国の大学(主に何故かポーランド)で臨床の研究をして取得するので、パレスティナの医師の間では 医師の経歴として非常に重要視されている。そして、ここでは確かにそれが実力を反映している。
日本人は見た目で非常に若く見られるので、初めは私もGP扱いであった。 その後彼らは、私の経歴を知ってようやくランクが少し上がったようである。 従って、少なくとも、specialityを持たない場合、いくら日本から来たボランティアだとといっても、 指導的立場に立つことはまず出来ない。


パレスティナ人と日本人



パレスティア人は日本人に好意的である。 日本は豊かで、あこがれていることもあるが、大きな理由は別にある。
というのは、日本は第二次世界大戦でアメリカと戦って、原爆を落とされた国であるからである。 彼らは、第二次世界大戦での日本の境遇と自分達を重ね合わせている。 今イスラエルに攻められているのは、その背後にいるアメリカへの憎しみになっているが、 それに対して神風攻撃をした日本人に共感しているのである。
また日本赤軍が中東で、テロによってアラブ人に支持されていることもある。
そして、よく聞かれるのが、
「日本はアメリカに戦争で負けて、原爆まで落とされたのに、何でアメリカが好きなのか?」
ということである。
また、詳しい人にいわせると、
「日本にはアメリカ軍が駐留し、貿易問題ではアメリカに圧力をかけられ、事実上占領されているのではないか?」
などという質問まで来る。
それに対して明確に答えることは残念ながら出来ない。

また、最近、救急外来のGP達とよく話をするが、必ず政治の話になる。適当にあわせて 議論をごまかすことも出来るが、最近はあえて受けてたつことにしている。そのほうが、彼らの本音を聞けるからである。 この間は、
「ウサマビンラーディン問題をどう思うか?」 という話になった。 私は、
「アメリカの攻撃は支持できないが、テロリズムも認めることは出来ない。テロでは問題は解決しない。」
といったら、そこにいるGP達に総攻撃を食らった。
曰く、
「アメリカはビンラーディンがテロをしたという明確な証拠を示していない。」
「sucide bombingは、強力な軍事力を持つ相手に対し、われわれの出来る唯一の行動である。」
「アメリカこそテロではないか」等々
彼らは、GPであるから、ある程度経済的にも裕福で、教養もあるはずである。 しかし、その彼らでしても、少なくともその場ではテロを否定する意見は全くなかった。
アラファトがテロを止めさせようとしても止めさせられないわけである。

話は変わるが、パレスティナの男の子達に一番人気な遊びは戦争ごっこである。そこここの空き地でやっており、 中には本物の銃を持っているものもいる。 日本でもやるのだろうが、ここパレスティナでやると単なる遊びとは思えない。
また、「パレスティナ人が子沢山なのは、イスラエルに子供を殺されるからで、 沢山子供を産んで沢山兵士を作るのだ。」 という話もまんざら冗談と思えないところもある。 恐ろしい状況である。


アラファト


ラマダンが終わった翌日、アラファトがテレビで演説をした。 アラビア語の演説なので、そのときは内容がよく分からなかったが、あとでエルサレムで英字新聞をみて分かった。
どうやら、アラファトがハマスやイスラム聖戦等の過激派に爆弾テロを止めるように訴えたようである。 そして、ハマスなどの拠点を次々と封鎖したとのことである。
これに関して、ワシントンはおおむね評価をしているが、さらに踏み込んだ対応を求めるというようなコメントをだしたそうである。 イスラエルは、「われわれは彼が何を言ったかでなく、何をしたかで判断する」 といっている。
イスラエルは
「テロの目的は、相手を打ちのめすことよりも、恐怖を与えて、判断を変えさせることにある。 よって、我々は決して、テロによって政策を変えない。」
といいながら、
「アラファトは、パレスティナ人はイスラエルの圧力によっては何事も成就しないといっているが、 現にそれは彼に戦いの収束を決意させることを成就したのだ。」
として、イスラエルの武力行使を正当化している。 武力で相手に圧力をかけて、自分に従わせるという点では変わらないと思うのだが、 このあたり、アフガンでのアメリカの論理と全く同じである。

ちなみに、エルサレムから帰る途中にアラブ人のタクシー運転手と話をした。 聞くと、観光客も減り、タクシー業界は相当厳しいようだ。
彼の3時半時点での今日の儲けは320NISであり、本来はいい稼ぎのはずなのだが、 その内300NISは車の借り賃として雇い主に渡さねばならないそうだ。 稼ぎが300NIS以下の場合は一日50NISが給料である。 食っていくのが大変だと彼は訴える。
ずばり聞いてみた。
「お前はアラファトが好きか?」
彼は答えた。
「上の方の金持ちの人間は好きだろう。彼らは、寝ていても裕福に暮らしている。 でも、下のほうの民衆は彼のことを嫌いだ。我々は一生懸命働いても食べものにも困っている。」

アラファトの影響力は確実に落ちている。
PA(Palestinian Authority)に対する不満は大きい。 彼が、テロを止めろと言って、本当に止めるかどうかは疑問だ。
このまま、どんどん大衆の支持がなくなると、クーデターでも起こりかねない。 心配である。