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「路地裏の風景」

少し前のことですが、趣味を聞かれた時に、よく「路地裏の散策」と答えていたことがありました。

音楽鑑賞、映画鑑賞、読書、スポーツ…。一般的な趣味の枠は、私の場合恥ずかしながらすべて中途半端。でも、人間関係のはじめの一歩として、「趣味」というのは確かにその人となりを明確に著してくれます。そこで考えた末、私という人間もなんとなく伝わり、突っ込んだ質問もかわせる「路地裏の散策」に思い当たったのです

確かに、私は路地裏が好きです。きれいなメインストリートより、一本入った細い道。家々は、生活の匂いを隠すこともなく、家族の会話が聞こえてきそうな空気感。理屈抜きにそういう風景が好きなんだと実感しています。


好きな街を歩こう

そうは言いつつも、このごろの私はもっぱらクルマ人間、表通りを通り過ぎることが多くなりました。

しかし、時間が短縮される分だけ、車での移動は街の生きた表情に出会えないのです。それどころか、町中だと、車よりも歩いた方がよっぽど早く目的地に着くということは、みなさんよくおわかりでしょう。

こうなればもう、歩くしかありませんね。信号を避けて大通りから小路へと入って行きましょう。思いがけない風景に出会います。それは、小さな神社、懐かしいホーロー看板、古びた銭湯や小さな商店、水を打った玄関先…。家の中から聞こえる子供を呼ぶ母の声。大通りでは決して出会えない数々の小さなドラマに触れられ、いつしか心も元気になって来ます。

あなたの好きな街、車から解放されて一本奥の道を歩いてみませんか。


「名古屋リビング新聞」2002年04月
『わ・た・しの時間』