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「ふたりのディーバ」

これまで出会ったミュージカルの中でも、特に忘れられない一つの作品があります。昨年の春に上演した「ふたりのディーバ」です。台本、作詞、作曲、そのほとんどが共演の美口啓子さんとの共作の、文字通り手作りミュージカルでした。

とある国の二人の歌姫。幼なじみだった二人が対照的な道を歩む中で対立し、それぞれに戦禍をくぐりながらも歌に支えられて生き抜き再会、再びハーモニーを響かせるというストーリーでした。

私生活での私たち「歌姫」は、年頃の子供を持つ母親でもあります。子育てに悩む日もあります。でも限られた時間の中、「ちょっと聞いてよ」とお母さん同士の会話をしたいところをぐっと我慢して創作や練習に励みました。

やがて迎えた本番当日は、偶然にも子供たちの高校受験合格発表日と重なってしまいました。結果、幸運の女神は彼女だけにほほえむことに。

さまざまな思いを抱いて開演のベルは鳴ります。そして現実は舞台上の世界に飲み込まれていきました。2人きりで練習を重ねた稽古場から満席の劇場へ。笑う、踊る、叫ぶ。2人のディーバが確かにそこに生きていました。

鳴りやまない喝采の中でのカーテンコール。舞台と客席が一つになり再びテーマ曲が響きます。ふと、歌と現実が重なり、彼女と目が合った瞬間、言葉にならない静かな感動が胸にあふれてゆきました。


「名古屋リビング新聞」2003年04月
『白樺八青の Heartの休息』