実正方行列の固有値問題 ― トピック一覧 [数学についてのwebノート]

・定義:固有ベクトル/固有値/固有多項式・特性多項式/固有方程式・特性方程式/特性根 
・定義:対角化可能
・定理:相異なる固有値に対する固有ベクトルは一次独立/固有値は特性根に一致する
    対角行列の固有値・固有ベクトル/対角行列であるための必要十分条件―固有値固有ベクトルの観点
    相似な行列の固有値は同一
・定理:対角化可能な行列の固有値固有ベクトル/行列対角化可能の条件−固有ベクトルの観点/行列対角化可能の条件−固有値の観点
・定理:実対称行列の固有値固有ベクトル/実対称行列の固有ベクトルの直交性/実対称行列の対角化 

※固有値問題関連ページ:n次元数ベクトル空間上の一次変換の固有値問題/実ベクトル空間上の一次変換の固有値問題
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定義:実正方行列の固有ベクトルeigenvector 固有値eigenvalue固有空間eigenspace  


定義


実数λは
   『n正方行列Aの(実)固有値eigenvalue』であり、
 n次元数ベクトルx
   『固有値λに属する/対応する/に対する固有ベクトルeigenvector』である」
とは、
n正方行列Aにたいして、
  
実数λ, n次元数ベクトルxが、
     
Ax=λx かつ x 
  を満たす
ことをいう。

・つまり、
  (
λR)(xRn)(Ax=λx かつ x) 
 となる場合に、
 このλ
R, xRnを、
 「固有値λに属する
/対応する/に対する固有ベクトルeigenvector
 と呼ぶ。

[文献]
・『岩波数学辞典83行列L (p.222);
[
文献−線型代数]
*志賀『線型代数
30講』27(p.171):対角化との関連で;
*木村『線形代数:数理科学の基礎3.8(p.69):不変部分空間との関連で。
・斎藤『
線形代数入門5章§1(pp.131-8):体上のベクトル空間一般;
・佐武『線形代数学』W§1(p.133):複素ベクトル空間・複素行列のケース;
[
文献−数理経済・計量経済]
Chiang,Fundamental Methods of Mathematical Economics,11.3(p.326)
*西村『経済数学早わかり2章§5.3(p.94):;
・岡田『経済学・経営学のための数学』定義2.6(p.94)
・久我入谷『数理経済学入門4.3.2(p.103)
・岩田『経済分析のための統計的方法12.5.1(p.300)
・佐和『回帰分析2.3.1(p.30)
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.7(pp.102-5)

n正方行列Aの固有値・固有ベクトルは、
 
n正方行列Aによって定義される一次変換固有値・固有ベクトル
 でもある。
[一次変換の固有値・固有ベクトルと、一次変換の行列表現の固有値・固有ベクトルの関係]

 

・「正方行列Aの実固有値」は、
 存在しないこともあれば、
 一つしかないことも、
 複数存在することもある。
 正方行列Aの固有値の有無と個数は、
 正方行列Aに依存する。 

・おのおのの「
正方行列A固有値」に対する固有ベクトルは、無数に存在する。
 
n次元数ベクトルxが「正方行列A固有値λに対する固有ベクトル」ならば、
 
n次元数ベクトルx任意スカラー倍はどれも、
 「
正方行列A固有値λの固有ベクトル」となるからである。
 なぜなら、
  
n次元数ベクトルxが「正方行列A固有値λの固有ベクトルならば
  すなわち、「
Ax=λx かつ xならば[仮定]   
   
任意aRにたいして、
   
A(ax)=a(A x)  ∵行列積とスカラー積の性質  
      
= a(λx) ∵上記[仮定]より
      
=λ(ax) 

定義
固有空間とは、 
 

固有値・固有ベクトルの求め方→特性根との一致 
n正方行列Aの固有値・固有ベクトルは、
 
n正方行列Aによって定義される一次変換固有値・固有ベクトル  
 でもある。
  
[一次変換の固有値・固有ベクトルと、一次変換の行列表現の固有値・固有ベクトルの関係] 

活用例

2次形式の符号判定/多変数関数の極大の2階十分条件


 

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定義:実正方行列の固有多項式・特性多項式characteristic polynomial・固有方程式・特性方程式characteristic equation・特性根characteristic root




[文献]
・『岩波数学辞典83行列L (p.222);
[
文献−線型代数]
*志賀『線型代数
30講』27(pp.173-4);
・木村『線形代数:数理科学の基礎3.8(p.69)
・斎藤『
線形代数入門5章§1(pp.134-5):体上のベクトル空間一般;
・佐武『線形代数学』W§1(pp.133-4):複素ベクトル空間・複素行列のケース;

[
文献−数理経済]
*西村『
経済数学早わかり2章§5.3(p.94):;
・岡田『経済学・経営学のための数学2.6(p.102)
・岩田『経済分析のための統計的方法12.5.1(p.300)

定義

n正方行列A固有多項式・特性多項式characteristic polynomialとは、
 
det ( A−λIn ) 
のこと。

定義

n正方行列A固有方程式・特性方程式characteristic equationとは、
 
det ( A−λIn )=0 
のこと。

定義

n正方行列A特性根characteristic rootとは、
    固有方程式・特性方程式 
det ( A−λIn )=0 
の解・根のこと。

n正方行列Aの特性根は、n正方行列Aの固有値に一致(→定理)  



 

定理:実正方行列の固有値と特性根の一致



[文献−線型代数]
・斎藤『
線形代数入門5章§1[1.3](p.136):体上のベクトル空間一般:証明つき;


n正方行列A() 固有値は、
n正方行列Aの実特性根に一致する。

したがって、
n正方行列A() 固有値固有ベクトルを求めるためには、
まず、
n正方行列A固有方程式・特性方程式を解いて、
n正方行列Aの実特性根を求め、
そのうえで、
  
固有値・固有ベクトルの定義式 Ax=λx 
のλに、
Aの実特性根を代入し、
固有ベクトルを求めればよい。



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定理:相異なる固有値に対する固有ベクトルは一次独立


要旨


n正方行列Aの相異なる()固有値に対応する固有ベクトルは、一次独立

[文献]
松坂『解析入門418.1-B-命題5 (p.87):数ベクトル空間限定;
・志賀『線型代数3028(p.177):R2上の一次変換;29(p.183):固有空間:R2上の一次変換;
・斎藤『線形代数入門5章§1[1.1](p.131):体上のベクトル空間上の一次変換:証明つき;
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.1(pp.108-9)2次正方行列の証明。

・西村『経済数学早わかり2章§5.3定理5.2(p.95):証明つき;

一次変換の固有値・固有ベクトルについての同じ定理
※活用例:
行列対角化の条件−固有値の観点の証明 

設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間。 
  すなわち、
Rn=R×R××R{ ( v1, v2, , vn )v1Rかつv2RかつかつvnR }に、
        
ベクトルの加法スカラー乗法を定義したもの。 
  ただし、
Rnに属すすべてのn次元数ベクトルは、 n次元縦ベクトルの形式で表されているものとする。
A
n正方行列 

定理

k個の実数λ1 ,λ2 ,,λkはそれぞれ異なる値 
     
(i,jN) (1ikかつ1jkかつij  λi≠λj )  
かつ   
k個の実数λ1 ,λ2 ,,λkは、どれもn正方行列A()固有値  
     
(iN)( (1ik  (xiRn)( Axi=λI xi かつ xI )  
ならば   
k個のn次元数ベクトル   
 ・『n正方行列A()固有値』λ1に対応する固有ベクトルx1 
 ・『
n正方行列A()固有値』λ2に対応する固有ベクトルx2 
 :              :            : 
 ・『
n正方行列A()固有値』λkに対応する固有ベクトルxk    
は、
一次独立である。   

証明

松坂『解析入門418.1-B-命題5 (p.87):帰納法による証明。
斎藤『線形代数入門5章§1[1.1](p.131):背理法による証明。



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定理:固有空間の次元

定義


一次変換の固有空間の次元 




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定理:対角行列の固有値・固有ベクトル、対角行列であるための必要十分条件―固有値・固有ベクトルの観点


要旨


[命題1]
 実数λ1,λ2,,λnは、「n対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)固有値」であり、
 
基本ベクトルe1は『固有値λ1に対応する固有ベクトル』 
 
基本ベクトルe2は『固有値λ2に対応する固有ベクトル
       :      : 
 
基本ベクトルenは『固有値λnに対応する固有ベクトル
 である。

[命題2]
 実数λ1,λ2,,λnが、「n正方行列B固有値」であり、
 
基本ベクトルe1は『n正方行列B固有値λ1に対応する固有ベクトル』 
 
基本ベクトルe2は『n正方行列B固有値λ2に対応する固有ベクトル
       :      : 
 
基本ベクトルenは『n正方行列B固有値λnに対応する固有ベクトル
 である
ならば
 
n正方行列Bは、n対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)である。
 


[文献]
・松坂『
解析入門418.1-C (pp.87-8);
※発展:定理「相似な実n次正方行列は同じ固有値をもつ」とあわせて考えると、
    
n対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) に相似である行列、
    すなわち、
対角化可能な行列の
    
固有値固有ベクトルも、把握できたことになる。
    
[対角化可能な行列の固有値固有ベクトル]  


詳論


[命題1]
(1)
実数λ1, 基本ベクトルe1は、n次対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)に対して、
  ・
diag(λ1,λ2,,λn) e1 
       
    
=λ1 e1 
 
かつ
  ・
e1 
 を満たすので、
 
実数λ1 , 基本ベクトルe1は、
  「
n次対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)の『固有値,固有値λ1に対応する固有ベクトル』」
 の定義を満たしている。 
(2)
実数λ2, 基本ベクトルe2は、n次対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)に対して、
  ・
diag(λ1,λ2,,λn) e2 
      
    
=λ2 e2 
 
かつ
  ・
e2 
 を満たすので、
 
実数λ2 , 基本ベクトルe2は、
  「
n次対角行列Aの『固有値,固有値λ2に対応する固有ベクトル』」
 の定義を満たしている。


(n)

実数λn, 基本ベクトルenは、n次対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)に対して、
  ・
diag(λ1,λ2,,λn) en 
     
    
=λnen 
 
かつ
  ・
en 
 を満たすので、
 
実数λn , 基本ベクトルenは、
  「
n次対角行列Aの『固有値,固有値λnに対応する固有ベクトル』」
 の定義を満たしている。




[命題2]
実数λ1,λ2,,λnが、「n正方行列B固有値」であり、
  
基本ベクトルe1は『n正方行列B固有値λ1に対応する固有ベクトル』 
  
基本ベクトルe2は『n正方行列B固有値λ2に対応する固有ベクトル
        :             : 
  
基本ベクトルenは『n正方行列B固有値λnに対応する固有ベクトル
 である」とは、
       
Be1=λ1e1  
       
Be2=λ2e2  
       :   : 
       
Ben=λnen  
 が成り立つということを意味する。(∵
固有値・固有ベクトルの定義) 
   Be1=λ1e1 
    
Be2=λ2e2 
    :  :

    Ben=λnen 
 が成り立つ
ならば
 
行列と基本ベクトルの積の性質から、 
    
B1Be1=λ1e1=λ1t( 1,0,,0 )t(λ1,0,,0 ) 
    
B2Be2=λ2e2=λ2t(0,1,0,,0 )t(0,λ2, 0,,0) 
       :  
    
BnBen =λn en=λn t(0,,0,1)t(0,,0,λn ) 
以上二点から、
 
実数λ1,λ2,,λnが、「n正方行列B固有値」であり、
 
基本ベクトルe1は『n正方行列B固有値λ1に対応する固有ベクトル』 
 
基本ベクトルe2は『n正方行列B固有値λ2に対応する固有ベクトル
       :      : 
 
基本ベクトルenは『n正方行列B固有値λnに対応する固有ベクトル
 である
ならば
 
n正方行列Bは、n対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)になる。




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定理:相似な実正方行列の固有値の一致


概要


相似n次正方行列は、同じ固有値をもつ。

[文献]
・松坂『
解析入門418.1-B命題4(p.86):数ベクトル空間限定;
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理5.1.4(p.133):複素n次元数ベクトル。固有多項式の一致を証明。その系として。

※発展:対角行列の固有値固有ベクトルとあわせて考えると、
    
n対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) に相似である行列、
               すなわち、
対角化可能な行列の
    
固有値固有ベクトルも、把握できたことになる。
    
[対角化可能な行列の固有値固有ベクトル]  

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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詳細


以下の命題
Pが成り立つならば、命題Q,命題R同値である。
つまり、命題
P (命題Q命題R)  

命題Pn次正方行列An次正方行列Bとは相似である」
     すなわち、
       
B=P−1APを満たす n次正則行列Pが存在する
命題Q実数λは『n正方行列A実固有値』であり、
      
n次元数ベクトルxは『実固有値λに属する固有ベクトル』である」
     すなわち、
        
Ax=λx かつ x 
命題R実数λは『n正方行列B実固有値』であり、
      
P−1xは『実固有値λに属する固有ベクトル』である」 
     すなわち、
       
B(P−1x)=λ(P−1x) 

証明

[命題P (命題Q命題R) ] 
命題
Qで仮定された「n正方行列A実固有値λに属する固有ベクトルxと、
命題
Pで存在すると仮定された n次正則行列P
をつかって、
n次元数ベクトルx'=P−1xを定義する。
この
n次元数ベクトルx'の定義式より、
 
x = P x' 
である(両辺に対し、左から
Pをかけて、左辺右辺を入れ替えただけ)。
これを命題
Qで仮定された
  
Ax=λx 
に代入すると、
  
A(Px')=λ(Px') 
この左辺に行列積の結合則を、右辺に行列積とスカラー積の性質を適用すると、
  APx'=P (λx') 
と書き換えられる。
この等式が成り立つならば、
この等式の左辺に左から
P−1をかけたものと、この等式の右辺に左からP−1をかけたもの
も等しくなるから
 
P−1AP x'=λx' 
が得られる。
これを、命題
Pn次正方行列Bを用いて、言い表すと、B=P−1APだから、
 
Bx'=λx' 
ここで、われわれが勝手に定義した
n次元数ベクトルx' を、もとの記号P−1xに戻すと、
 
B(P−1x)=λ(P−1x) 
以上、命題
P,命題Qが成り立つという仮定のもとで、命題Rの成立を示した。
[命題P (命題R命題Q) ] 
命題
Rで仮定された
  
B(P−1x)=λ(P−1x) 
に、命題
Pで仮定されたB=P−1APを代入すると、 
  
P−1AP (P−1x)=λ(P−1x) 
この左辺を、
行列積の結合則をつかって書き換えると、
  
P−1A(PP−1)x=λ(P−1x) 
  
P−1Ax=λ(P−1x) 
この右辺を
行列積とスカラー積の性質を使って書き換えると、
  
P−1Ax=P−1 (λx) 
この等式が成り立つならば、
この等式の左辺に左から
Pをかけたものと、この等式の右辺に左からPをかけたもの
も等しくなるから
  
PP−1Ax= P P−1 (λx)  
  
Ax=λx  
以上、命題
P,命題Rが成り立つという仮定のもとで、命題Qの成立を示した。
 

 
   

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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定義:実正方行列の対角化diagonalization対角化可能diagonalizable



[文献]
松坂『解析入門418.1-C (p.88):数ベクトル空間限定;
・岡田『経済学・経営学のための数学2.6 (p.100)
・志賀『線型代数3027(p.170)
・永田『理系のための線形代数の基礎5.1 (p.133):
http://mathworld.wolfram.com/DiagonalizableMatrix.html
・戸田・山田『
計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.1(p.110)
・西村『経済数学早わかり2章§5.3 (p.99);


理論的には、一次変換に関する対角化可能の文脈のなかで、
 「実正方行列の対角化可能」を理解することが望ましい。
発展事項:
  ・
対角化可能な行列の固有値固有ベクトル
  ・
行列対角化の条件−固有ベクトルの観点
  ・
行列対角化の条件−固有値の観点


・「n次正方行列A対角化可能」とは、
  
n次正方行列A対角行列と相似であること
  つまり、
n次正方行列Aに対して、
        
B=P−1APを満たす
          
n対角行列B n次正則行列Pが存在すること
をいう。
・「
n次正方行列A n次正則行列Pによって対角化可能」とは、
        
B=P−1APを満たす
          
n対角行列Bが存在すること   
をいう。
 
* B=P−1AP   A= PBP−1 だから、
  「
n次正方行列A対角化可能」とは、
   
n次正方行列Aに対して、
    
A= PBP−1を満たすn対角行列B n次正則行列Pが存在すること
  と定義しても、同じこと。   



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定理:行列の対角化可能の必要条件−対角化可能な行列の固有値固有ベクトル


要旨


命題Tn次正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能
     すなわち、
n次正方行列Aに対して、
           
diag(λ1,λ2,,λn)=P−1APを満たす n次正則行列Pが存在する。」
が成り立つ
ならば
命題S実数λ1 ,λ2 ,,λnが、n次正方行列A実固有値であって、
    
n次正則行列P1p1, 2p2,, npn は、
        『
n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』となる」
           
Ap1 =λ1 p1 
           
Ap2 =λ2 p2 
            :  :
           
Apn =λn pn 
が成り立つ。
固有値λ1 ,λ2 ,,λnのなかに等しいものが存在するケースであれ、
 固有値λ
1 ,λ2 ,,λnが全て異なるケースであれ、
 この定理は成り立つ。
この定理の逆は成り立つとは限らない。
 この定理の逆を成り立たせるには、固有値λ
1 ,λ2 ,,λnが全て異なるケースに限定しなければならない。
 →
行列の対角化の十分条件  

[文献]
松坂『解析入門418.1-C定理1 (p.88)定理2 (p.89):数ベクトル空間限定;
・草場『線型代数4.2(pp.100-1)
・岩田『経済分析のための統計的方法』定理12.17(p.303)
行列対角化の条件−固有ベクトルの観点/行列対角化の条件−固有値の観点 
一次変換が対角化可能となるための必要十分条件 

 

証明

[命題T命題S]
(step1) 対角行列の固有値・固有ベクトル
 定理「
対角行列の固有値・固有ベクトル」より、
 
実数λ1,λ2,,λnは、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) 固有値であり、
 
基本ベクトルe1は『固有値λ1に対応する固有ベクトル
 
基本ベクトルe2は『固有値λ2に対応する固有ベクトル
       :      : 
 
基本ベクトルenは『固有値λnに対応する固有ベクトル
 である。
 すなわち、
e1, e2, , enを「基本ベクトル縦ベクトル」としたとき、 
  
diag(λ1,λ2,,λn) e1=λ1 e1 
  
diag(λ1,λ2,,λn) e2=λ2 e2 
      :       :
  
diag(λ1,λ2,,λn) en=λn en 

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[文献]
松坂『解析入門418.1-C定理1の証明の前半 (p.88)

※ここで利用した定理:対角行列の固有値・固有ベクトル/相似な行列の固有値の一致

 

(step 2)  Aの固有値・固有ベクトルを、対角行列の固有値・固有ベクトルに還元
対角化可能の定義より、
 
命題Tn次正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能である」
 とは、
 「
n次正方行列A対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) と相似である」ということ、
 すなわち、 
 「
n次正方行列Aに対して、 diag(λ1,λ2,,λn)=P−1APを満たす n次正則行列Pが存在する」
 ということを意味する。
・だから、
 命題
Tが成り立つならば定理「相似な実正方行列の固有値の一致」が適用され、
 
n次正方行列A固有値は、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) 固有値に一致し、
 
n次正方行列A固有ベクトルは、
   
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) 固有ベクトル縦ベクトル)の左から n次正則行列Pかけたものに等しくなる。
・したがって、
 命題
Tが成り立つならば
 
(step 1)で「対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) 固有値」であると明らかにされた「n個の相異なる実数」λ1,λ2,,λnは、
  
n次正方行列Aの「n個の相異なる固有値」でもあり、
 
(step 1)で「対角行列 diag(λ1,λ2,,λn) 固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル」であると明らかにされた
   
基本ベクトルe1, e2, , en縦ベクトル 
  の左から
n次正則行列Pかけてつくった 
        
Pe1, Pe2, , Pen 
  は、「
n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル」でもある。
  すなわち、
  
A(Pe1)=λ1(Pe1) 
  
A(Pe2)=λ2(Pe2) 
   :
  
A(Pen)=λn(Pen) 
・なお、
Pe1, Pe2,, Pen は、それぞれ、Pの1,Pの2,,Pのnである。
   (→
行列と基本ベクトルとの積
(結論)
以上から、
命題
Tn正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能である」ならば
命題
S実数λ1 ,λ2 ,,λnが、n次正方行列A実固有値であって、
    
n次正則行列P1p1, 2p2,, npn は、
        『
n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』となる」
       
Ap1 =λ1 p1 
       
Ap2 =λ2 p2 
        :  :    
       
Apn =λn pn 

   

→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
線形代数目次総目次

 

 

定理:行列が対角化可能となるための条件−固有ベクトルの観点


要旨


以下の命題
S,命題T同値
命題S:「以下の2条件を満たすn個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn が存在する。 
    
[条件1] n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn は、n次正方行列A固有ベクトルである。
         すなわち、
         
n次正方行列An次元数ベクトルp1に対して、ある実数λ1 が存在して
             
Ap1 =λ1 p1 を満たす
         
かつ 
         
n次正方行列An次元数ベクトルp2に対して、ある実数λ2 が存在して
             
Ap2 =λ2 p2 を満たす
         
かつ 
         
 
         
かつ 
         
n次正方行列An次元数ベクトルpnに対して、ある実数λnが存在して
             
Apn =λn pn を満たす
    
[条件2] n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn 一次独立である。  
命題T: 「n正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能
    すなわち、
    「
n次正方行列Aに対して、
      
diag(λ1,λ2,,λn)=P−1APを満たす n次正則行列Pが存在する。」
ここで、
 ・命題
Sのもとで、命題Tに登場するn次正方行列Pの実在を示す例は、
     命題
Sに登場するp1, p2,, pn 1,2,,nとするn次正方行列。 
 ・命題
Tのもとで、命題Sに登場する「n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn 」の実在を示す例は、
     命題
Tに登場した「 n次正則行列P1p1, 2p2,, npn」である。 

[文献]
松坂『解析入門418.1-C定理1 (p.88)定理2 (p.89):数ベクトル空間限定;
・志賀『線型代数3027(pp.170-1):固有値がn個未満のケースの検討が必読。
・斎藤『線形代数入門5章§1[1.2]'(p.133):体上のベクトル空間上の一次変換:証明つき;
・草場『線型代数4.2(pp.102-5)
・西村『経済数学早わかり2章§5.3 (p.99):証明つき;
戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.1(pp.109-110) : 証明つき;
・岡田『
経済学・経営学のための数学』定理2.30(p.106):証明つき。

※関連事項:
  ・
対角化可能な行列の固有値固有ベクトル
  ・
対角化可能となるための条件−固有値の観点  
  ・
一次変換が対角化可能となるための必要十分条件 

証明

[命題S命題T]
ここでは、命題Sに表現された以下の仮定のもとで、考察を進める。
  
[仮定0] p1t( p11, p12,, p1n ) , p2t( p21, p22,, p2n ) ,, pnt( pn1, pn2,, pnn )  
  
[仮定1] Ap1 =λ1 p1 
      
Ap2 =λ2 p2 
       :  : 
      
Apn =λn pn 
  
[仮定2] n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn 一次独立 
 

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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[文献]
・西村『
経済数学早わかり2章§5.3 (p.99):証明つき;
戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.1(pp.109-110) :基底や一次変換を持ち出さず、行列計算の枠内で示しているのが特徴的。西村の論法を踏襲。
・岡田『
経済学・経営学のための数学』定理2.30(p.106):証明つき-西村を踏襲。
・松坂『
解析入門418.1-C定理2 (p.89):数ベクトル空間限定;
・志賀『線型代数3027-30(pp.170-193):固有値がn個未満のケースの検討が必読。

 

(step1Pを定義)
1p1, 2p2,, n pnとするn次正方行列Pをつくる。
(step2Pは正則)
[仮定2]が成り立つならばstep1で定義したn次正方行列P正則行列となる。(∵正則行列になるための必要十分条件
(step3AP=P diag(λ1,λ2,,λn) )
[仮定0][仮定1]が成り立つならば
 つまり、
実数λ1 ,λ2 ,,λnが、「n次正方行列A実固有値」であって
     
p1t( p11, p12,, p1n ) , p2t( p21, p22,, p2n ) ,, pnt( pn1, pn2,, pnn )
       『
n次正方行列A実固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』であるならば
  
AP=P diag(λ1,λ2,,λn) である。
・なぜなら、
 
行列積APの各列を書き出すと、 
   「
AP1」=「実行列Aと『実行列P1』との行列積
   「
AP2」=「実行列Aと『実行列 P2』との行列積
       :                :

   「APn」=「実行列Aと『実行列 Pn』との行列積」 
 
step1より、『P1』がp1, P2』がp2,, Pn』がpnであったから、
   「
AP1」=Ap1
   「
AP2」=Ap2
        :   : 
   「
APn」=Apn  
 
[仮定1]より、
   「
AP1」=Ap1=λ1 p1
   「
AP2」=Ap2=λ2 p2
        :  :   :

   「APn」=Apn=λn pn 
 
[仮定0]をつかうと、  
   「
AP1」=Ap1=λ1 p1t(λ1 p11,λ1 p12,,λ1 p1n )   
   「
AP2」=Ap2=λ2 p2t(λ2 p21,λ2 p22,,λ2 p2n )   
        :  :   :

   「APn」=Apn=λn pnt(λn pn1,λn pn2,,λn pnn )   
 だから、
   
AP 
   
 他方、
   
P diag(λ1,λ2,,λn)
    
    
 したがって、
AP=P diag(λ1,λ2,,λn) となる。
(step4P−1AP= diag(λ1,λ2,,λn) )
[仮定0][仮定1] [仮定2]が成り立つならばP−1AP = diag(λ1,λ2,,λn) 
・なぜなら、
 
step3より、[仮定0][仮定1]が成り立つならばAP=P diag(λ1,λ2,,λn) …(等式1)
 
step2より、[仮定2]が成り立つならば、Pは正則行列となって、P−1が存在する。
 したがって、
[仮定0][仮定1] [仮定2]が成り立つならば
 等式
1の両辺に、左からP−1かけて、次の等式を得られる。
    
P−1AP = diag(λ1,λ2,,λn) 
(step5―結論) 
 「
対角化可能」という語の定義より、
 「 
P−1AP = diag(λ1,λ2,,λn) 」が成立することは、
 「 
Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能」と言い表せる。
 したがって、
step4より、
 
[仮定0][仮定1] [仮定2]が成り立つならば
 命題
Tn正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能
 が成立する
 といってよい。

証明

[命題T命題S]
・命題Tn正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能ならば
 
対角化可能な行列の固有値固有ベクトルより、
 「
実数λ1 ,λ2 ,,λnは、n次正方行列A実固有値であって、
    
n次正則行列P1p1, 2p2,, npn は、
        『
n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』となる」
           
Ap1 =λ1 p1 
           
Ap2 =λ2 p2 
            :  :
           
Apn =λn pn 

[文献]
松坂『解析入門418.1-C定理1の証明の前半 (p.88)

 

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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・一般に、 n次正則行列を構成するn個の列はベクトルとして一次独立であるから、
 命題
Tに登場した n次正則行列P のの1p1, 2p2,, npn は、一次独立。 
  となる。 
・上記二点より、命題
Tが成り立つならば
 以下の
2条件を満たすn個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn が存在することが示された。 
    
[条件1] n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn は、n次正方行列A固有ベクトル
    
[条件2] n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn 一次独立
 このような
n個のn次元数ベクトルp1, p2,, pn の実在を示す例は、
 命題
Tに登場した n次正則行列P のの1p1, 2p2,, npn である。 
 だから、命題
T命題Sである。

   

→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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定理:行列が対角化可能となるための条件−固有値の観点


要旨


以下の命題
S,命題T同値
命題
S: 「n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、n次正方行列A実固有値である。」
     すなわち、
       
Ap1 =λ1 p1 
       
Ap2 =λ2 p2 
        :  :    
       
Apn =λn pn 
      
かつ 
       
(i,jN) (1ikかつ1jkかつij  λi≠λj )  
命題
T: 「n正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能であって、
     
かつ
     
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数である」
    すなわち、
    「
n次正方行列Aに対して、
      
diag(λ1,λ2,,λn)=P−1APを満たす n次正則行列Pが存在し、
      
かつ
      
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数である」
したがって、
上記命題
Sは、
命題
Tから「λ1 ,λ2 ,,λnは相異なる」という条件をはずした命題T'
 「n正方行列A対角化可能
十分条件

[文献]
・松坂『解析入門4』18.1-C定理1 (p.88)定理2 (p.89):数ベクトル空間限定;
・志賀『線型代数30講』27-30講(pp.170-193):固有値がn個未満のケースの検討が必読。
・斎藤『線形代数入門』5章§1[1.2]'(p.133):体上のベクトル空間上の一次変換:証明つき;
・草場『線型代数』4.2(pp.102-5)
・木村『線形代数:数理科学の基礎』3.8定理3.5(p.72).
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング』2.8.1(pp.109-110)
・西村『経済数学早わかり』2章§5.3定理5.5(p.99):証明つき;


※関連事項:
  ・対角化可能な行列の固有値固有ベクトル
  ・行列対角化の条件−固有ベクトルの観点  
  ・一次変換が対角化可能となるための必要十分条件 

証明

[命題S命題T]
命題Sn個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、n次正方行列A実固有値」が成り立つとし、
 「
n次正方行列A実固有値λ1に対応する固有ベクトル」をp1t( p11, p12,, p1n ) 、
 「
n次正方行列A実固有値λ2に対応する固有ベクトル」をp2t( p21, p22,, p2n ) 、
               :              :   :  
 「
n次正方行列A実固有値λnに対応する固有ベクトル」をpnt( pn1, pn2,, pnn ) 
で表すとする。
つまり、ここでは以下の仮定のもと考察を進める。
  
[仮定1]  Ap1 =λ1 p1 
       
Ap2 =λ2 p2 
        :  : 
       
Apn =λn pn 
  
[仮定2] λ1 ,λ2 ,,λnは、どれも異なる実数
         
(i,jN) (1ikかつ1jkかつij  λi≠λj )  
  
[仮定3]  p1t( p11, p12,, p1n ) , p2t( p21, p22,, p2n ) ,, pnt( pn1, pn2,, pnn ) 

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
線形代数目次総目次

[文献]
戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.1(pp.109-110):基底や一次変換を持ち出さず、行列計算の枠内で示しているのが特徴的。
・松坂『
解析入門418.1-C定理2 (p.89):数ベクトル空間限定;
・志賀『線型代数3027-30(pp.170-193):固有値がn個未満のケースの検討が必読。

 

(step1Pを定義)
1p1, 2p2,, n pnとするn次正方行列Pをつくる。
(step2Pは正則)
[仮定1][仮定2]が成り立つならば
 つまり、
n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、「n次正方行列A実固有値」であるならば
 『
n次正方行列A実固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトルp1, p2,, pn一次独立となるので()、
 
step1で定義したn次正方行列P正則行列となる。(∵正則行列になるための必要十分条件
(step3AP=P diag(λ1,λ2,,λn) )
[仮定1][仮定3]が成り立つならば
 つまり、
実数λ1 ,λ2 ,,λnが、「n次正方行列A実固有値」であって
     
p1( p11, p12,, p1n ) , p2( p21, p22,, p2n ) ,, pn( pn1, pn2,, pnn )
       『
n次正方行列A実固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』であるならば
  
AP=P diag(λ1,λ2,,λn) である。
・なぜなら、
 
行列積APの各列を書き出すと、 
   「
AP1」=「実行列Aと『実行列P1』との行列積
   「
AP2」=「実行列Aと『実行列 P2』との行列積
       :                :

   「APn」=「実行列Aと『実行列 Pn』との行列積」 
 
step1より、『P1』がp1, P2』がp2,, Pn』がpnであったから、
   「
AP1」=Ap1
   「
AP2」=Ap2
        :   : 
   「
APn」=Apn  
 
[仮定1]より、p1, p2,, pn は、『n次正方行列A実固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』であるから、
   「
AP1」=Ap1=λ1 p1
   「
AP2」=Ap2=λ2 p2
        :  :   :

   「APn」=Apn=λn pn 
 
[仮定3]をつかうと、  
   「
AP1」=Ap1=λ1 p1t(λ1 p11,λ1 p12,,λ1 p1n )   
   「
AP2」=Ap2=λ2 p2t(λ2 p21,λ2 p22,,λ2 p2n )   
        :  :   :

   「APn」=Apn=λn pnt(λn pn1,λn pn2,,λn pnn )   
 だから、
   
AP 
   
 他方、
   
P diag(λ1,λ2,,λn)
    
    
 したがって、
AP=P diag(λ1,λ2,,λn) となる。
(step4P−1AP= diag(λ1,λ2,,λn) )
[仮定1][仮定2] [仮定3]が成り立つならば
 つまり、
n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、「n次正方行列A実固有値」であって、
     
p1( p11, p12,, p1n ) , p2( p21, p22,, p2n ) ,, pn( pn1, pn2,, pnn )
       『
n次正方行列A実固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』であるならば
 
P−1AP = diag(λ1,λ2,,λn) 
 
かつ
 
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数  
・なぜなら、
 
step3より、[仮定1][仮定3]が成り立つならばAP=P diag(λ1,λ2,,λn) …(等式1)
 
step2より、[仮定1][仮定2]が成り立つならば、Pは正則行列となって、P−1が存在する。
 したがって、
[仮定1][仮定2] [仮定3]が成り立つならば
 等式
1の両辺に、左からP−1かけて、次の等式を得られる。
    
P−1AP = diag(λ1,λ2,,λn)    
 なお、仮定
2より、このとき、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数である。
(step5―結論) 
 「
対角化可能」という語の定義より、
 「 
P−1AP = diag(λ1,λ2,,λn) 」が成立することは、
 「 
Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能」と言い表せる。
 したがって、
step4より、
 
[仮定1][仮定2] [仮定3]が成り立つならば
 命題
Tn正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能であって、
      
かつ
     
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数である」
 が成立する
 といってよい。

証明

[命題T命題S]
・「n正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能ならば
 
対角化可能の必要条件より、
 「
実数λ1 ,λ2 ,,λnは、n次正方行列A実固有値であって、
    
n次正則行列P1p1, 2p2,, npn は、
        『
n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』となる」
           
Ap1 =λ1 p1 
           
Ap2 =λ2 p2 
            :  :
           
Apn =λn pn 

[文献]
松坂『解析入門418.1-C定理1の証明の前半 (p.88)

 

[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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・したがって、
 命題
Tn正方行列Aは、 n次正則行列P によって、対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能であって、
     
かつ
     
対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)対角成分λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数である」
ならば
 「
実数λ1 ,λ2 ,,λnは、n次正方行列A実固有値であって、
    
n次正則行列P1p1, 2p2,, npnは、『n次正方行列A固有値λ1,λ2,,λnに対応する固有ベクトル』」
           
Ap1 =λ1 p1 
           
Ap2 =λ2 p2 
            :  :
           
Apn =λn pn 
  
かつ
  「
実数λ1 ,λ2 ,,λnは、n個の相異なる実数
となる。 
つまり、命題
T命題Sである。

   

→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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定理:行列が対角化可能となるための条件−固有空間の観点


定義






→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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定理:実対称行列の固有値・固有ベクトル



[文献]
・佐武『
線形代数学』W§3定理4(pp.152-3);
・佐和『回帰分析2.3.1(i)(p.30)
・木村『線形代数:数理科学の基礎4.5(p.91)
・西村『経済数学早わかり2章§5.3定理5.3(p.97):証明つき;
・岩田『経済分析のための統計的方法12.5.2定理12.24(p.307)
・岡田『経済学・経営学のための数学2.6定理2.32(p.109)
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.2(p.111)



n次対称行列A固有値は、すべて実数
n次対称行列A固有ベクトルは、すべてn次元数ベクトル
※なぜ?→略。
 証明は、複素数まで広げて考えなければ、得られない。

対称変換と対称行列との関連 
対称変換固有値・固有ベクトルについての同様の定理



[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
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定理:実対称行列の固有ベクトルの性質



[文献]
・木村『線形代数:数理科学の基礎4.5(pp.92-93)
・西村『経済数学早わかり2章§5.3定理5.4(p.98) :証明つき;
・佐和『回帰分析2.3.1(iii)(p.31)
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.8.2(p.111)

・永田『理系のための線形代数の基礎』系5.2.9(p.141)


n次対称行列Aの異なる固有値に対応する固有ベクトルは、直交する


対称変換と対称行列との関連 
対称変換固有値・固有ベクトルについての同様の定理 



→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
線形代数目次総目次

 


定理:n次実対称行列の固有ベクトルからなる「Rnの正規直交基底」の存在



次の二つの命題は同値。
命題S「n次正方行列Aは、n次対称行列である。」
命題Tn次正方行列A固有ベクトルから『n次元ユークリッド空間Rn正規直交基底をつくれる。」

n次正方行列A固有ベクトルを列とする直交行列をつくれる。 

 

[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理5.2.7系5.2.8(p.141)


・固有空間への直和分解と次元(→一次変換の対角化)。各固有値の固有空間の基底を、全ての固有値についてあつめてくると、n個になるから、Rnの基底になる。

・直交行列の性質より、
 正方行列が直交行列であること⇔正方行列の各列がRnの正規直交基底であること。

直交系・正規直交系は一次独立
・n個の一次独立なn次元数ベクトルがそろえば、Rnの基底になる。







→[トピック一覧:固有ベクトル固有値]
線形代数目次総目次


定理:実対称行列の対角化


文脈


1. 行列対角化可能の条件−固有値の観点によって、
   
n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、《n次対称行列A実固有値》であるならば
     
n次対称行列Aは、対角化可能
 である。   

2. それでは、
  「
n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが《n次対称行列A実固有値》とならないケース」では、
  どうだろうか。

  
実対称行列の固有値はすべて実数だから、
  「
n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが《n次対称行列A実固有値》とならないケース」とは、
  《
n次対称行列A実固有値》に重複があるケースになる。
  このような設定下でも、
  
n次正方行列AAは、対角化可能である。

3.だから、結局のところ、
 
n次対称行列Aは、無条件に、対角化可能
 となる。   
 

[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理5.2.7系5.2.8(p.141)
・佐武『線形代数学』W§3定理4(pp.152-3);
・斎藤『線形代数入門』5章§3系[3.2](p.150):対称変換がメイン。
・木村『線形代数:数理科学の基礎』4.5(pp.92-93)
・佐和『回帰分析』2.3.1(iv)(p.30) 1.のみ証明。スペクトル分解
・西村『経済数学早わかり』2章§5.3定理5.6(pp.98-9):1.のみ証明2は結果のみ;
・岩田『経済分析のための統計的方法』12.5.2定理12.22-23(p.307):証明なし
・岡田『経済学・経営学のための数学』2.6定理2.32(p.109)
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング』2.8.2(pp.112-3) :1.のみ証明2は大まかな解説のみ;


※活用例:実二次形式の標準化 
対称変換と対称行列との関連 
対称変換についての同様の定理 

1.

 n個の相異なる実数λ1 ,λ2 ,,λnが、《n次対称行列A実固有値》であるならば
     
n次対称行列Aは、直交行列Pによって、対角化可能
 である。
※なぜ?
 以下二点から
  ・
行列対角化可能の条件−固有値の観点と、
  ・
対称行列の相異なる固有値に対する固有ベクトルは直交する 

[文献]
・佐和『回帰分析』2.3.1(iv)(p.30) 1.のみ証明。
・西村『経済数学早わかり』2章§5.3定理5.6(pp.98-9);
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング』2.8.2(pp.112-3)

2.

 n次対称行列Aは、無条件に、対角化可能
 
 次の二つの命題は同値。
 命題1: n次正方行列Aは、n次対称行列である。
 命題2:n次正方行列Aは、直交行列Pによって、対角化可能 
     すなわち、
     「n次正方行列Aに対して、
        diag12,…,λn)=P−1APを満たす直交行列Pが存在する。」
     ※直交行列の性質より、P−1 tP だから、   
      「n次正方行列Aに対して、
         diag12,…,λn)= tPAPを満たす直交行列Pが存在する」
       といっても同じこと。   
  固有空間の視点。固有空間に直和分解される。          

            

            

            

            

  
 


[文献]
・戸田・山田『計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング』2.8.2(pp.112-3) おおまかな解説。
・佐武『線形代数学』W§3定理4(pp.152-3)基底の変換、正方行列の次数に関する帰納法、…;
・岡田『経済学・経営学のための数学』2.6定理2.32(p.109) 正方行列の次数に関する帰納法、直交補空間、正規直交系、基底変換:
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理5.2.7系5.2.8(p.141):正規行列の文脈で。

3.

 diag12,…,λn)=P−1APの両辺に、左からP,右からP-1をかけると、
   A=P diag12,…,λn) P−1

 という等式が得られる。
 これを、Aのスペクトル分解という。  
   ※直交行列の性質より、P−1 tP だから、   
            A=P diag12,…,λn) tP   
    としてもよい。   

[文献]
・佐和『回帰分析』2.3.1(iv)(p.30)



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線形代数目次総目次

 

定理:実対称行列と正値定符号行列・負値定符号行列



[文献]
・柳井竹内『
射影行列・一般逆行列・特異値分解』§1.4(p.18)
・戸田・山田『
計量経済学の基礎:統計的手法の理論とプログラミング2.9.2(pp.117-8)





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