実行列の積の性質 ― トピック一覧

・定理:行列積は可換則を満たさない/積の結合則/積の分配則/行列積とスカラー積の混合/零行列との積
・定理:
行列積の各列/行列と基本ベクトルとの積/行列のべき乗の計算 

実行列関連ページ:実行列の定義/正方行列に関する様々な定義/行列和・スカラー倍の定義/行列積の定義/逆行列・正則行列・特異行列の定義/転置行列の性質/行列の代数系
上位概念:体上の行列積の性質
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定理:行列積は可換則を満たさない 


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R実数をすべて集めた集合実数体) 
A, B 実行列 

[文献]
・斎藤『線形代数入門2章§1(p.34);
・藤原『線形代数2.1(p.25);
・『高等学校代数幾何』(p.83);
・グリーン『計量経済分析2.3.4(p.15) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.3.1(p.64)

本題

実行列について、可換則は成立しない
 つまり、「
任意の(m,n)型実行列A(n,l)型実行列Bに対して、AB=BAとなる」とはいえない。
     
AB=BAを満たさない、(m,n)型行列A(n,l)型行列Bの組が、存在する。
そもそも、mlの場合、
 
(m,n)型実行列A(n,l)型実行列Bに対して、ABは定義できても、BAは定義できない。
 (
BAの定義は、BlAmの一致を要請するが、
    
mlの場合これが満たされないから、BAは定義不能。)  
m=lの場合でも、(m,n)型実行列A(n,l)型実行列Bに対して、AB=BAとならないケースがある。
 たとえば、
  
AB=BAが成り立つ場合、「ABとは交換可能」という。[藤原『線形代数2.1(p.25);] 

 

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定理:行列の積の結合則


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R実数をすべて集めた集合実数体) 
A, B, C 実行列 

[文献]
・『岩波数学辞典83行列B(pp.219-220);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.25);
・斎藤『線形代数入門2章§1(p.34);
・藤原『線形代数2.1(p.26);
・『高等学校代数幾何』(p.83;86);
・グリーン『計量経済分析2.3.4(p.17) ;
・松坂『解析入門415.1-C命題1 (p. 5) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.3.1(p.64)

本題

実行列は、結合則を満たす。 
すなわち、
 
任意の(m,n)型実行列A(n,l)型実行列B(l,k)型実行列Cに対して、
 「『
ABの積Cとの積」は、「Aと『BCとの積との積」と等しい
     
(AB)C=A(BC)  

可換則は成り立たないことに注意。

なぜ→証明 

   

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定理:行列の積の分配則


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R実数をすべて集めた集合実数体) 
A, B, C 実行列 

[文献]
・『岩波数学辞典83行列B(pp.219-220);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.25);
・斎藤『線形代数入門2章§1(p.34);
・藤原『線形代数2.1(p.26);
・『高等学校代数幾何』(p.83;86);
・グリーン『計量経済分析2.3.4(p.17) ;
・松坂『解析入門415.1-C命題3 (p. 6) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.3.1(p.64)

本題

実行列は、分配則を満たす。 
すなわち、
任意の(m,n)型実行列A(n,l)型実行列B,Cに対して、
   
A(BC)=ABAC  
任意の(m,n)型実行列A,B(n,l)型実行列Cに対して、
   
(AB)C=ACBC  

可換則は成り立たないことに注意。

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定理:行列積とスカラー積


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R実数をすべて集めた集合実数体
A, B 実行列 
c実数

[文献]
・斎藤『線形代数入門2章§12(p.34);

本題

任意の(m,n)型実行列A、「(n,l)型実行列B実数cに対して、
   
c(AB)=(cA)B=A(cB)  

行列の積については、可換則は成り立たないから、
ABの位置は入れ替えられないことに注意。

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定理:零行列との積


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R実数をすべて集めた集合実数体) 
A 実行列 

[文献]
・斎藤『線形代数入門2章§1(p.34);

本題

 任意の(m,n)型実行列Aと、零行列とのは、零行列
 
AOn,lOm,l   
 
Ol,m AOl,n  

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定理:行列積の各列


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R実数をすべて集めた集合実数体
A, B 実行列  

[文献]
・斎藤『線形代数入門2章§1-4(pp.35-36)

本題

任意の(m,n)型実行列A(n,l)型実行列Bに対して、
 ・「
行列積AB1」=「実行列Aと『実行列B1』との行列積
 ・「
行列積AB2」=「実行列Aと『実行列B2』との行列積
 :       :                :

 ・「行列積ABl」=「実行列Aと『実行列Bl』との行列積
が成り立つ。  

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定理:行列と基本ベクトルとの積


任意のn次正方行列
  

基本ベクトルe1, e2,, enとの行列積について、以下が成り立つ。
 ・
A e1=「A1
 ・
A e2=「A2
 :       :

 ・A en=「An

※活用例:
 ・
一次写像による基本ベクトルの像
 ・
対角行列であるための必要十分条件―固有値固有ベクトルの観点 


 

※なぜ?→行列積の計算をすればわかる。
 ・
A e1=  
    
    
    
    =「
A1」  
 ・
A e2=「A2
 :       :

 ・A en=「An
 も同様に。  

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定理:行列の冪の計算

[文献]
・志賀『線型代数3029TeaTime(p.187)
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング』問題2.24(pp.110-111);

1.

[対角行列のべき乗]
n次正方行列A対角行列 diag(λ1,λ2,,λn)であるならば
 つまり、
    
 
 ならば
Ak= diag(λk1,λk2,,λkn)   
   
   
なぜ?→→行列積の計算をすればわかる。

2.

[対角化可能な行列のべき乗]
n次正方行列A n次正則行列Pによって diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能ならば
 すなわち、
n次正方行列Aに対して、P−1AP= diag(λ1,λ2,,λn)を満たす n次正則行列Pが存在するならば
Ak=P diag(λk1,λk2,,λkn) P−1   

なぜ?
 ・
P−1AP= diag(λ1,λ2,,λn)A=P diag(λ1,λ2,,λn) P−1 
 ・だから、
   
n次正方行列A n次正則行列Pによって diag(λ1,λ2,,λn)対角化可能ならば
   
A=P diag(λ1,λ2,,λn) P−1 であるから、
   
Ak=P diag(λ1,λ2,,λn) P−1)(P diag(λ1,λ2,,λn) P−1)…(P diag(λ1,λ2,,λn) P−1
    =
P diag(λ1,λ2,,λn) P−1P diag(λ1,λ2,,λn) P−1P)…( P−1P diag(λ1,λ2,,λn) P−1 ∵行列積の結合則 
    =
P diag(λ1,λ2,,λn) In diag(λ1,λ2,,λn) InIn diag(λ1,λ2,,λn) P−1  ∵逆行列の定義 
    
= P diag(λ1,λ2,,λn))k P−1   
    =
P diag(λk1,λk2,,λkn) P−1 ∵上記1[対角行列のべき乗]から。 

3.

n次正方行列Aが、n個の一次独立固有ベクトルを有すならばAk=P diag(λk1,λk2,,λkn) P−1  

なぜ?→行列対角化の条件と、上記2[対角化可能な行列のべき乗]から。 

4.

n次正方行列Aに、n個の相異なる固有値を有すならばAk=P diag(λk1,λk2,,λkn) P−1  

なぜ?→行列対角化の条件と、上記2[対角化可能な行列のべき乗]から。 

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト

永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2-3行列の演算(pp.4-16)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)

ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)
志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)

数理経済学のテキスト
西村和雄『
経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
高橋一『
経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、1.2ベクトルと行列(pp.6-25).

計量経済学のテキスト
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)
岩田暁一『
経済分析のための統計的方法(2)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)

 

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