n次元数ベクトル空間の次元  〜  数学についてのwebノート

・定理:数ベクトルの個数と、一次独立・従属の関係     
・定理:
数ベクトルが基底となる十分条件,数ベクトルが基底とならない十分条件,一次独立なベクトルからの基底の生成
・定理:
数ベクトル空間の次元 

n次元数ベクトル空間関連ページ:n次元数ベクトル空間の定義/線形結合/一次独立・一次従属/線形結合と線形独立・従属の関係/基底/部分ベクトル空間   
上位概念:一般のベクトル空間における次元の定義/数ベクトル空間一般における次元/実ベクトル空間における次元  
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定理:一次結合が一次従属となるための十分条件(1)
       一次結合の個数・一次結合を構成するベクトルの個数と、一次従属

本題

n次元数ベクトルv1, v2, , vl一次結合(l+1)個つくる。
これら
(l+1)個の「v1, v2, , vl一次結合」は一次従属
 

[文献]
永田
理系のための線形代数の基礎』補題1.2.1(p.12);

詳細

定理:一次結合が一次従属となるための十分条件(2)
       一次結合の個数・一次結合を構成するベクトルの個数と、一次従属

命題1

n次元数ベクトルv1, v2, , vl一次結合m個つくる。
m>l ならばm個の「v1, v2, , vl一次結合」は一次従属

[文献]
永田
理系のための線形代数の基礎』補題1.2.1(p.12);
佐武
線形代数学』V§1定理11(p.90);

命題2

上記命題の対偶
n次元数ベクトルv1, v2, , vl一次結合m個つくる。
m個の「v1, v2, , vl一次結合」が一次独立ならばml

命題3

n次元数ベクトルv1, v2, , vl一次結合」をl個つくる。
l個の「v1, v2, , vl一次結合」が一次独立ならば
v1, v2, , vl一次独立であり、
v1, v2, , vlはそれぞれ、
l個の「v1, v2, , vl一次結合」の一次結合として表せる。

詳細

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定理:数ベクトルの個数と、一次独立・従属の関係

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
+n次元数ベクトル空間Rnにおいて定義されているベクトルの加法 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:n次元数ベクトル空間Rnにおいて定義されているスカラー乗法
v1, v2, , vmm個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
i=1,2,, mにたいして、vi1, vi2, , vinRとして、vi=( vi1, vi2, , vin )   
       したがって、
v1, v2, , vm n
       なお、個数
mが有限個であることに注意。

命題1

n次元数ベクトルv1, v2, , vmm>n ならばv1, v2, , vm一次従属
  (
v1, v2, , vmmnならば
    
v1, v2, , vm一次従属の場合もあれば一次独立の場合もある) 

[文献]
永田
理系のための線形代数の基礎』定理1.2.2(p.13);
高橋
経済学とファイナンスのための数学』定理A.1.2(pp.172-176);
佐武
線形代数学』V§1定理12(p.90);

命題2

上記命題の対偶として、次が得られる。
n次元数ベクトルv1, v2, , vm一次独立ならばv1, v2, , vmmn
  (
v1, v2, , vm一次従属ならば
    
v1, v2, , vmm>nの場合もあればmnの場合もある) 

図解


  
  
Pの内側:n個より多いn次元数ベクトル 
  
Pの外側:n個以下のn次元数ベクトル 
  
Qの内側:一次従属なn次元数ベクトル 
  
Qの外側:一次独立なn次元数ベクトル 

証明

n次元数ベクトルはどれでも、
 
nにおける単位ベクトルe1, e2, , en一次結合として表せる。()   
 したがって、
v1, v2, , vmも、それぞれ、e1, e2, , en一次結合として表せる。…(1)
nにおける単位ベクトルe1, e2, , en一次結合を、n個よりも多くつくると、
  それらのの
一次結合どおしは、一次従属。()  …(2)
(1)(2)より、n次元数ベクトルv1, v2, , vmは、m>n ならば一次従属。 

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定理:数ベクトルが基底となるための十分条件

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
v1, v2, , vnn個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
i=1,2,, nにたいして、vi1, vi2, , vinRとして、vi=( vi1, vi2, , vin )   
       したがって、
v1, v2, , vn n
       なお、個数
nが有限個であることに注意。  
a1, a2, , an スカラーa1, a2, , an R  

本題

n次元数ベクトル空間Rnにおいては、
n個の一次独立n次元数ベクトルがそろえば、基底となる。
つまり、
v1, v2, , vnn 一次独立ならばv1, v2, , vnは、n 基底である。

[文献]
永田
理系のための線形代数の基礎』系1.2.3(p.13);

ポイントは、「n個」と一次独立

なぜ?→証明 

定理:数ベクトルが基底とならないことの十分条件

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
+n次元数ベクトル空間Rnにおいて定義されているベクトルの加法 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:n次元数ベクトル空間Rnにおいて定義されているスカラー乗法 
v1, v2, , vnn個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
i=1,2,, nにたいして、vi1, vi2, , vinRとして、vi=( vi1, vi2, , vin )   
       したがって、
v1, v2, , vn n
       なお、個数
nが有限個であることに注意。 

本題

n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lnより少ないならば
 
v1, v2, , vl一次従属の場合もあれば一次独立の場合もありえる。 
 もし、ここで、
v1, v2, , vl一次独立だとしても
 
v1, v2, , vlは、l<nである限り、n 基底になりえない。 

[文献]
永田『
理系のための線形代数の基礎』定理1.2.4(p.14);

なぜ?→証明 

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定理:一次独立なベクトルからの基底の生成 

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
v1, v2, , vll個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
i=1,2,, lにたいして、vi1, vi2, , vinRとして、vi=( vi1, vi2, , vin )   
       したがって、
v1, v2, , vl n
       なお、個数
lが有限個であることに注意。  

本題

n次元数ベクトル空間Rnにおいては、
一次独立n次元数ベクトルに、適当な単位ベクトルを補充することによって基底をつくることができる。 
つまり、
v1, v2, , vln一次独立ならば
ある
単位ベクトルei(1), ei(2) ,, ei(nl) が存在して、    
v1, v2, , vn, ei(1), ei(2) ,, ei(nl)は、n基底となる。

[文献]
永田『
理系のための線形代数の基礎』定理1.2.4(p.14);

補足

(補足説明:ベクトルの個数と上記定理の関連) 
n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lで、場合分けをする。
[case1] l > n  
 
n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lが、nより多いならば
  
v1, v2, , vlは、つねに一次従属であって、一次独立であることはありえない。() 
  だから、この場合に、上記定理の仮定「
v1, v2, , vln一次独立ならば」が成り立つことはない。
  このケースでは、上記定理に出番はない。 
[case2] l = n  
 
n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lnならば
  
v1, v2, , vlvn一次従属の場合もあれば一次独立の場合もありえる。 
  もし、ここで、上記定理の仮定が成り立ち、
v1, v2, , vlvn一次独立ならば、() 
  
v1, v2, , vlvnは、すでに、n基底である。() 
  だから、このケースでは、上記定理は自明なのであって、ありがた味がない。   
[case3] l < n  
 
n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lnより少ないならば
 
v1, v2, , vl一次従属の場合もあれば一次独立の場合もありえる。 
 もし、ここで、上記定理の仮定が成り立ち、
v1, v2, , vl一次独立だとしても
 
v1, v2, , vlは、n基底になりえない。   
 
一次独立n次元数ベクトルv1, v2, , vlが、基底の定義を満たすには、
 
v1, v2, , vl一次結合として、n属す任意のn次元数ベクトルを表すことができなければならないが、
 これは不可能である。
 
v1, v2, , vl一次結合としては表し得ないn次元数ベクトルがあることは、
 次の点について考えてみると判然とする。
 |
n単位ベクトルは、いつでもn個ある。 
 |また、
n単位ベクトルは、いつでも一次独立である。()  
 |つまり、
nには、一次独立n個のn次元数ベクトルが、単位ベクトルを実例として存在している。 
 |ところが、  
 |
l < nという設定下で、v1, v2, , vl一次結合n個つくると、 
 |この
n個の「v1, v2, , vl一次結合」は一次従属にしかならない。(
 |「
v1, v2, , vl一次結合」としてあらわしうる、一次独立なベクトルの個数は、l以下である。()   
 |したがって、 
 |
単位ベクトルを実例とする、一次独立n個のn次元数ベクトルを、 
 |           「
v1, v2, , vl一次結合」として表そうとしても、 
 |表せない
(nl)個のベクトルが存在することになる。   
 したがって、
n次元数ベクトルv1, v2, , vl の個数lnより少ないケースにおいて、
 「
一次独立n次元数ベクトルに、適当な単位ベクトルを補充することによって基底をつくることができる」
 とする上記定理は、意義をもつ。 

なぜ?→証明

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定理:実n次元数ベクトル空間Rnの次元  

設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 

[文献]
永田
理系のための線形代数の基礎1.2(p.13);1.3(p.23)
神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.4(p.115)
佐和『回帰分析2.1.2(p.18);

本題

n次元数ベクトル空間Rn基底は、
いつでも
n個のn次元数ベクトルからなる。
つまり、
n次元数ベクトル空間Rn次元は、n
 
dim Rn=n 

(Vの次元)は、Vに含まれる一次独立なベクトルの最大個数であるとともに、Vを張るために必要なベクトルの最小個数でもある」(佐和『回帰分析2.1.2(p.18);)

証明

l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vlについて、以下のことが成り立つ。
 ・
l<nのケース(v1, v2, , vl一次独立であるケースも一次従属であるケースも含む)
   
l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vlは、n基底とならない。
     なぜなら、
n基底であるための条件P2を満たせないから。(
 ・
l>nのケース
   
l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vlは、n基底とならない。
      なぜなら、
l>nならば定理によって、v1, v2, , vlは常に一次従属となって、
           
n基底であるための条件P1:一次独立を満たせないから。 
 ・
l=nのケース
  ・
l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vl一次独立ならば、   
   
v1, v2, , vlは、n基底となる。(
  ・
l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vl一次従属ならば、   
   
v1, v2, , vlは、n基底とならない。(n基底であるための条件P1:一次独立を満たせないから。)
要するに、
 
(i) l=nかつv1, v2, , vl一次独立ならば、 
        
v1, v2, , vlは、n基底となる。 
 
(ii) 「l=nかつv1, v2, , vl一次独立』」が成り立たないならば
   すなわち、
lnまたはl=nかつv1, v2, , vl一次従属』」ならば、    
        
v1, v2, , vlは、n基底とならない。 
(i)(ii)の条件は、あらゆる場合を尽くしており、また(i)(ii)の結論は同時に成り立たないので、 
転換法により、
l個の任意のn次元数ベクトルv1, v2, , vlについて、
 
(i)' v1, v2, , vlが、n基底ならば
    
l=nかつv1, v2, , vl一次独立」 
 
(ii)' v1, v2, , vlが、n基底とならないならば、         
    
lnまたはl=nかつv1, v2, , vl一次従属』」 
といえる。 
v1, v2, , vlが、n基底である」ことの定義には、「v1, v2, , vl一次独立」ということが含まれているから、
 
(i)'は、 
 
(i)'' v1, v2, , vlが、n基底ならばl=n 
といってよい。
以上で、
n次元数ベクトル空間Rn基底は、どれもn個のn次元数ベクトルからなることが示された。

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線形代数目次総目次

(reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト

志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、15講基底と次元(pp.94-99):有限次元ベクトル空間のみ扱っている。
ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)
永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§5.3-b(p.173).
佐武一郎『線形代数学(44)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91) 線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2(p.249)

代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ
5新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)
酒井文雄『共立講座
21世紀の数学8環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22):数ページしか触れていないが、逆に、一般の線形空間の理論の骨組みだけを浮かびあがってくるので、何が重要事項なのかを見極める上で便利。

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)
高橋一『
経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、附録A.1ベクトルとベクトル空間(pp.172-176)

 

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