1変数関数の微分可能・微分係数・導関数の定義 : トピック一覧 

 ・1点における微分可能性・微分係数の定義:概説/定義1/定義2/定 義1と定義2は同値  
 ・1点における微分可能性・微分係数の性質:微分可能ならば連 続だが逆は成り立たない 
 ・片側微分可能・片側微分係数の定義:右微分可能・右微分係数/左微分可能・左微分係 数/片側微分係数  
 ・区間における微分可能の定義:区間上の微分可能性/導関数/連続微分可能・C1級の定義/「微分する
 ・微分 differential  

※1変数関数の微分関連ページ:導関数の計算公式1/導関数の計算公式2/導関数の計算公式3/高階導関数 
               ロルの定理・平均値の定理/テイラーの定理/テイラー展開・マクローリン展開/極大極小
※1変数関数の関連ページ:1変数関数の定義と属性/極限/連続 
※微分関連ページ:2変数関数の偏微分/2変数関数の全微分/n変数関数の偏微分/n変数関数の全微分 
         n変数ベ クトル値関数の偏微分/n変数ベクトル値関数の全微分  

総目次


概説:1変数関数の微分可能性・微分係数の二つの定義 




根源的な

定義


根源的な定義

y=f (x)は点x0で微分可能」とは、
 y=f (x)( x0, f (x0) )で接する「y=f (x)の接線」
    y = f (x0)+A(xx0)
 を
 ただひとつ引けることをいい、
 この接線の傾きAを、「点x0における f (x)微分係数」と呼ぶ。 

y = f (x0)+A(xx0)で表されない接線(例えばy軸に平行な接線)を     
 引けることもあるが、
 ここでは、このような接線を接線から除外して、
 y = f (x0)+A(xx0)で表される接線のみを接線と呼び、
 y = f (x0)+A(xx0)で表される接線を一本だけ引けることを、
 微分可能と呼ぶ。
  [→杉浦『解析入門』例12 (p.86)]


(例)
下図のy=f (x)は点x0で微分可能。  
   x0で微分可能(図例)
   点x0y=f (x)に接する
   「y=f (x)の接線」は
   一本しか引けない 
(例)
下図のy=f (x)は点x0で微分可能。
   x0で微分可能 図例
   点x0y=f (x)に接する
   「y=f (x)の接線」は
   一本しか引けない    
 


(例) 
下図のy=f (x)=xは点x=0で微分可能でない。 
  x0で微分可能でない図例
  点x=0でy=f (x)=xに接する
  「y=f (x)の接線」は、
  いろいろ引ける。
 

(例) 
下図のy=f (x)=x1/3は点x=0で微分可能でない。 
   x0で微分可能でない図例
 y軸が、点x=0でy=f (x)=x1/3に接するが、
 y軸はy=f (x0)+A(xx0)のかたちで表されない
 ので、接線としてカウントしない。  



操作化

【二つの操作化】 

ところが、
上記の
  「y=f (x)は、x=x0微分可能で、x=x0における微分係数Aである」
ということの根源的定義
   〜 y=f (x)に点x0で接する「y=f (x)の接線」を、ただひとつ引け、
       この接線の傾きはAであるということ 〜
は、
二通りのやりかたで数式化可能であり、
ここから、
2タイプの「微分可能・微分係数の数式化された定義」が生じることになる。   

その第一のタイプは、高校で習う定義であり、
x0からΔxだけxを動かした時のy=f (x)の平均変化率
    Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx
の動きに着目する。
このタイプの定義は、
多変数関数について定義される偏微分のベースとなる。

その第二のタイプは、
x0からΔxだけxを動かした時の
y=f (x)」と「x0を通る直線y=h (x) 」との間の誤差
   f (xx )h (xx ) 
の動きに着目する。
このタイプの定義は、
多変数関数について定義される全微分のベースとなる。

もちろん、いづれのタイプの「微分可能・微分係数の数式化された定義」も、  
同値となることは、言うまでもない。

操作化1


第一のタイプの微分可能・微分係数定義は、
x0からΔxだけxを動かした時の y=f (x)の平均変化率
  Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx
の動きに着目して、
y=f (x)に点x0で接する『 y=f (x)の接線』をただひとつ引け、この接線の傾きはAである」
ということを操作化したもの。

操作化は、次の手順で行われる。

step1:右から(Δxがプラス値)
step1-1:
 x0からΔx (>0)だけxを動かした時の y=f (x)の平均変化率
  Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx   (Δx>0)
 を求める。  
 これは、
  xx0からΔx(>0)だけ増やした際の、
  y=f (x)f (x0)からの増分Δy=f (x0x)f (x0)が、
 「Δx」1単位あたり平均で、どれだけあるか、
 を表し、
 点(x0, f (x0)), 点( x0x , f (x0x) )を結ぶ直線の傾きとして、グラフに図示される。
    
step1-2:
 x0からのxの増分Δxを狭めていく。
 このΔx (>0) の削減に対する
 y=f (x)の平均変化率Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx の反応を
 追跡する。
    
step1-3:
 x0からのxの増分Δx>0を限りなく0に近づけたときの、
 y=f (x)の平均変化率
   Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx (Δx>0)
 の極限を求める。
 * このとき、 Δx>0を限りなく0に近づけても、Δx=0としてはならない。
 これを数式で表すと、
     
     
step2:左から(Δxがマイナス値)
step2-1:
 x0からΔx<0だけxを動かした時のy=f (x)の平均変化率
  Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx   (Δx<0)
 を求める。  
 これは、
  xx0から|Δx|だけ減らした際の、
  y=f (x)f (x0)からの増分Δy = f (x0x)f (x0)が、
 「Δx」1単位あたり平均で、どれだけあるか、
 を表し、
 点(x0, f (x0)) 点( x0x , f (x0x ) )を結ぶ直線の傾きとして、グラフに図示される。
    
step2-2:
 x0からのxの減分|Δx|を狭めていく。
 この|Δx|の削減に対する
 y=f (x)の平均変化率Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx の反応を
 追跡する。
    
step2-3:
 x0からのxの減分|Δx|を限りなく0に近づけたときの、
 y=f (x)の平均変化率
   Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx (Δx<0)
 の極限を求める。
 * このとき、 Δx<0を限りなく0に近づけても、Δx=0としてはならない。
 これを数式で表すと、
     
    
step3:
y=f (x)に点x0で接する『y=f (x)の接線』をただひとつ引け、この接線の傾きはAである」は、
step1で求めた
  x0からのxの増分Δx>0を限りなく0に近づけたときの、
  y=f (x)の平均変化率
   Δyx = { f (x0x )f (x0)}/Δx (Δx>0)
  の極限
と、
step2で求めた
  x0からのxの減分|Δx|を限りなく0に近づけたときの、
  y=f (x)の平均変化率
   Δyx = { f (x0x)f (x0)}/Δx (Δx<0)
  の極限
が、
ともに値Aで一致すること、
 すなわち、 
  
として、表現できる。
したがって、「y=f (x)は、x= x0で微分可能で、x= x0における微分係数はAである」は、
  
と、定義できる。

二つの極限
     
が一致しない場合は、
y=f (x)に点x0で接する「y=f (x)の接線」をいろいろ引けてしまうので、
y=f (x)x0で微分可能でない」といわれる。
ただし、
があれば、右微分可能といわれ、右微分係数と呼ばれる。
があれば、左微分可能といわれ、左微分係数と呼ばれる。

  →1変数関数の微分可能性・微分係数の概説 /定義1 /トピック一覧  

操作化2

y=f (x) に 点 x0 で接する『y=f (x)の接線』をただひとつ引け、この接線の傾きはAである」ということの操作化の第二タイプは、
  x0 からΔxだけxを動かした時の、「y=f (x)」と「x0 を通る直線 y=h (x) 」との間の誤差
   f (x+Δx)h (x+Δx) 
 の動きに着目する 

Step0:

 点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線 y= f (x0) + A(xx0)をひく。
 任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0) )を通る直線 y= f (x0)+A'(xx0) 》をひく。

Step1:

x0からΔxだけxを動かした時の
 《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線 y= f (x0)+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
 を測る。
 数式で表すと、 
  f ( x0Δx )−( f (x0) + A (x0Δxx0) )
  = f ( x0Δx )f (x0)AΔx 
x0からΔxだけxを動かした時の
 任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0))を通る直線 y= f (x0)+A'(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
 を測る。
 数式で表すと、 
  f ( x0Δx )−( f (x0) + A'(x0Δxx0) )
  =f ( x0Δx )f (x0)A' Δx 
   
   

Step2:

 Δxを限りなく0に近づけていくと、
  ・x=x0Δxにおける《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線 y= f (x0)+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                        f ( x0Δx )f (x0)AΔx 
  ・x= x0Δxにおける、任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0))を通る直線y= f (x0) + A'(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                        f ( x0Δx )f (x0)A'Δx 
 も限りなく0に近づいていく。
 しかし、
 このΔxの削減に対する、
 ・x= x0Δxにおける《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0) + A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                        f ( x0Δx )f (x0)AΔx 
 ・x= x0Δxにおける、任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0))を通る直線y= f (x0) + A'(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                        f ( x0Δx )f (x0)A' Δx 
 の0へ近づく速さは同じではない。  

Step3:

 「y=f (x)に点x0で接する『y=f (x)の接線』をただひとつ引け、この接線の傾きはAである」とは、
 Δxを限りなく0に近づけたとき、
  x= x0Δxにおける、《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0) + A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                          f ( x0Δx )f (x0)AΔx 
  が
  x= x0Δxにおける、任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0))を通る直線 y= f (x0) + A'(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
                        f ( x0Δx )f (x0)A' Δx 
  に比べて速く0に近づくこと、
 として表せる。

 これを数式で表すと、
   (A'≠A) ( { f ( x0Δx )f (x0)AΔx}/{f ( x0Δx )f (x0)A' Δx } 0 (xx0))  
 であり、実はこれは、
   { f ( x0Δx )f (x0)AΔx}/Δx 0 (xx0)  
      x= x0Δx における《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線 y= f (x0) + A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差は
        Δxに比べて速く0に近づく 
 と同値となる[→詳細]。 
 ランダウの記号を用いて表すと、
    f ( x0Δx )f (x0)AΔxo (Δx)  (Δx0 ) 
 したがって、「y=f (x)x0微分可能で、x0における微分係数Aである」は、
  「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
     f ( x0Δx )f (x0)AΔxo (Δx)  (Δx0 ) 
   を満たす」
 と定義されることになる。 

 
  →1変数関数の微分可能性・微分係数の概説 /定義2 /トピック一覧  



→[トピック一覧:微分可能・微分係数・導関数の定義]
総目次

定義1:点x=x0で微分可能differentiablex=x0における微分係数 differential coefficient 


微分可能


y=f (x)は、x=x0の近くで定義されているとする。
f (x)は、x= x0で微分可能」とは、
有限な極限値

  
が存在すること
    つまり、
    xx0で、{ f (x)f (x0) }/(xx0) が有限値に収束する、ないし、
    h0で、{ f (x0+ h)f (x0) }/hが有限値に収束すること
をいう。


【文献】

松坂『解析入門1』4.1-A (p.119);

青本『微分と積分1』§2.1-b(p.59): 差分商

高木『解析概論』13微分導関数(p.35-37. );


[類概念]

・2変数関数の偏微分可能/全微分可能  

・1変数関数の左微分可能右微分可能 

「有限な極限値
  
 が存在する」
とは、
 ┌右極限
 |   
 |左極限
 |   
 |がともに存在し、
 |かつ
 |それらが一致する
 |
 └ 
という意味。
したがって、
右極限しかないケース、左極限しかないケース、それらが一致しないケースでは、
f (x)は、x= x0で微分可能」とはいわず、
f (x)は、x= x0右微分可能」、「f (x)は、x= x0左微分可能」、などという。

微分係数

f (x)x= x0で微分可能であるとき、
すなわち、
有限な極限値
  
が存在するとき、
この有限な極限値
  
を、f (x)x= x0 における微分係数とよび、
  f ’ (x0) と書く。

f (x)x= x0微分可能であるとき」とは、
  ┌右極限
  |
  |左極限
  |
  |がともに存在し、
  |かつ
  |それらが一致する
  |
  └とき
 という意味であるから、
 右極限しかないケース、左極限しかないケース、それらが一致しないケースでは、
       
       
 を「 f (x)x= x0における微分係数」とは呼ばない。
 
 は、「 f (x)x= x0における右微分係数」、
   
 は、「 f (x)x= x0における左微分係数」と呼ぶ。  

[類概念]

・1変数関数の左微分係数右微分係数 

・2変数関数の偏微分係数/n変数関数の偏微分係数 


   x= x0 におけるxの増分xx0、それに対応するyの増分yy0と書くと、
   
 は→0とするときの増分の比の極限。
 x0を固定しておけば、の関数。





→[トピック一覧:微分可能・微分係数・導関数の定義]
総目次

定義2:点x0で微分可能 differentiable ・点x0における微分係数 differential coefficient

[意義]

1変数関数の微分可能の定義1を、そのまま使って、
2変数関数の微分可能多変数関数の微分可能ベクトル値関数の微分可能に拡張しようとすると、
うまくいかない。
そこで、以下のように、1変数関数の微分可能の定義1とは別のかたちで微分可能・微分係数を解釈してみる。
すると、微分可能・微分係数の、この解釈に基づいて、
   ・2変数関数の(全)微分可能
   ・多変数関数の(全)微分可能
   ・ベクトル値関数の(全)微分可能
へ自然に拡張する道筋が得られるようになる。


[文献]
高木『解析概論』p.35-37.;
吹田新保『理工系の微分積分学』pp.36-37;
小形『多変数の微分積分』pp. 44-46;
小平『解析入門』§3.1(p.108)

杉浦『解析入門』命題5.1(p.118)
杉浦『解析演習』U章§1-1.3(p. 86)
笠原『微分積分学』定義2.1(p.38);命題2.2(p.39)

青本『微分と積分1』§2.1-b(p.60):表現4

[一般化]
2変数関数の(全)微分可能
多変数関数の(全)微分可能
ベクトル値関数の(全)微分可能

[定義]

y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」は、
 次のように定義される(表現1〜4はどれも同じ)。

[表現1]    

 「y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」とは、
    「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
       { f ( x ) f (x0 + A(xx0) }/(xx0) 0 (xx0)  
     を満たす」
  ということ。 

  * これは、
   点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
     「xを点x0に近づけたときの、
       xにおける《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y = f (x0) + A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差
         f ( x )−( f (x0) + A(xx0) )
       が0に近づくスピードは、
        (xx0) が0に近づくスピードよりも、速くなる
   ということを意味し、
   ランダウの記号を用いて表すと、
     「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
         f ( x )−( f (x0) + A (xx0) )= o ( xx0)  ( xx0 ) 
      を満たす」
   と表せる。      [笠原『微分積分学』定義2.1(p.38)]


[表現2] 

 「y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」とは、
    「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
       f ( x ) = f ( x0 ) + A (xx0) + o (xx0)  ( xx0 ) 
     を満たす」
  ということ。    [杉浦『解析演習』U章§1-1.3(p. 86)] 
     * 恒等的に、f ( x )={ f (x0) + A( xx0) } + { f ( x )−( f (x0) + A (xx0) )} だから、
        [微分可能定義の表現1]
           「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
              f ( x )−( f (x0) + A (xx0) )= o (xx0)  (xx0) 
             を満たす」
        が成立するならば、表現2も成立(恒等式最右辺に表現1を代入するかたち)。
       逆に、表現2が成立するならば、表現2の右辺1項2項を左辺に移項すれば、
       表現1の成立がわかる。  

[表現3] 

 「y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」とは、
    「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
       Δy=f ( x0+Δx )f (x0)AΔx + o (Δx) (Δx0) 
     を満たす」
  ということ。         [杉浦『解析入門』命題5.1(p.118) ]

 * これは、 
   「点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
     『 xx0から「無限小の増分Δx」だけ増やしたときの、f (x)の値の増分
         Δyf ( x0+Δx )f (x0)
      を、
      (「無限小の増分Δx」の実数A倍)+(「無限小の増分Δxより高次の無限小
      として表せる』
    ということ」
   を意味する。

 * ランダウの記号o (Δx)は、
       「Δx関数」のうち、 
         Δx0としたときに、
           「Δxが0に近づくよりも速いスピードで0に近づく
       ものを表す。

[表現4] 

 「y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」とは、
    点x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
         Δy=f ( x0+Δx )f (x0)AΔxε(Δx )Δx (ただし、Δx=0のときε=0とする)
         と書くとき、Δx→0のときε(Δx)→0を満たすことである。 
          [高木『解析概論』p.35-37.;吹田新保『理工系の微分積分学』pp.36-37;
           小形『多変数の微分積分』pp. 44-46;小平『解析入門』§3.1(p.108);
           杉浦『解析入門』命題5.1-c(p.118)] 

        * ランダウの記号o (Δx)を使わずに、表現3を述べると、こうなる。 
          移項していくと、表現1と同じことを言っているとわかる。

[解説]


・以上のように定義された「y=f(x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」は、
  
y=f (x)に点x0で接する傾きAの接線y=h (x)=f (x0 )+A(xx0)を引けること
 を表している。
 「
y=f (x)に点x0で接する傾きAの接線y=h (x)=f (x0 )+A(xx0)を引けること」を
      {
f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )}/(xx0) 0 (xx0)  [→表現1]
 と表せることを、ここで確認する。

Step1 
命題
Qy=f (x)に点x0で接する傾きAの接線y= f (x0 )+A(xx0)を引ける
とは、
命題Q'x0付近でxx0に限りなく近づけていく過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、
    点
xにおける「《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0 )+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差」
        
f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )  
    が、
    点
xにおける「任意の《A以外の傾きA'で点(x0, f (x0))を通る直線y= f (x0 )+A'(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差」
        
f ( x )−( f (x0 )+A' (xx0) ) 
    
に比べて
    
速く0に近づく
     
(A'A) ( { f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x )−( f (x0 )+A' (xx0) } (xx0)  ) …(Q'-1)
ということである。


 
Step2:
 (Q'-1)の分析 
三つのケースに分ける。
(ケース1)
  
x0付近でxx0に近づける過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、
  点
xにおける「《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0 )+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差」
     
f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )  
  が、常に0。
このケースでは、命題Q'は常に満たされており、
 したがって、命題
Qも常に満たされているといえる。
 つまり、このとき、《点
(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0 )+A(xx0) 》は、y=f (x)に点x0で接する接線であるから、
 
y=f (x)に点x0で接する傾きAの接線y= f (x0 )+A(xx0)を引けるといえる。 
(ケース2)
  
x0付近でxx0に近づける過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、
  点
xにおける「《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0 )+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差」
     
f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )  
  が、0になったり、ならなかったり。
もっとx0に近い位置から、xx0に近づけるようする。
 そうすることで、ケース
2は、ケース1か、ケース3のいずれかに還元できる。 
(ケース3)
  
x0付近でxx0に近づける過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、
  点
xにおける「《点(x0, f (x0))を通る傾きAの直線y= f (x0 )+A(xx0) 》と《y=f (x)》との誤差」
  が、0になることがない、
  すなわち、
xx0に近づける過程で、常に、f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )≠0 …(Q'-2) 
このケースでは、命題Q'は満たされる場合もあれば、満たされない場合もある。
 命題
Q'が満たされる条件を、探っていこう。 
    { f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x ) f (x0 )+A' (xx0) }
    =
{ f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x )f (x0 )+A(xx0)+ f (x0 )+A(xx0)f (x0 )+A' (xx0) }
       ∵−
f (x0 )+A(xx0)+ f (x0 )+A(xx0)=0 を、分母に加えた。
    =
{ f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x )f (x0 )+A(xx0)+ f (x0 )f (x0 )+A(xx0)A' (xx0) }
       ∵分母の後ろのほうで括弧をはずし、足し引きの順番をかえた。
    =
{ f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x )f (x0 )+A(xx0)+A(xx0)A' (xx0) }
  
     ∵分母の後ろのほうのf (x0 )f (x0 )を消去した。  
    =
{ f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }/ {f ( x )f (x0 )+A(xx0)+AA'(xx0) }}
   
    ∵分母の後ろのほうのA(xx0)A' (xx0)を分配則にしたがって(AA'(xx0)と書き換え。
    
  
        ∵
(Q'-2)より、分子分母を、ともに{ f ( x ) f (x0 )+A(xx0) }で割る 
    
  
 となるから、このケースでは、
(Q'-1)は、次のように書ける。
  
A'Aにたいして、
          
(Q''-1)
以上、すべてをまとめると、
命題
Q'は、次の命題Q''同値になる。
命題
Q''
 
f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )=0 
 
または
 
A'Aにたいして、
       
(Q''-1) 
Step3: (Q''-1)の分析 
1/z→0 となるのは、z+∞か、z→−∞か、のいずれかに限られるので()、
 「
1/zを0に収束させること」と、「zを限りなく大または限りなく小とすること」とは、同値
だから、
1/z(x)→0(xx0) と「z(x)+∞またはz(x)→−∞ (xx0)」も同値
こういう次第で、
(Q''-1)は、次の(Q''-2)同値。 
 
A'Aにたいして、
     
(Q''-2) 
Step4: (Q''-2)の分析 
 
(Q''-2)で、xx0としても、1とか、(AA')は動かないから、
 
(Q''-2)は、次の(Q''-3)同値である。
  
(xx0)/ (f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )→±∞  (xx0)  (Q''-3) 
Step5: (Q''-3)の分析 
1/z→±∞ となるのは、z→0のときに限られるので()、
 「1/zを限りなく大または限りなく小とすること」と、「zを0に収束させること」とは、同値
だから、
1/z(x)→±∞(xx0) と「z(x)→0(xx0)」も同値
こういう次第で、
(Q''-3)は、次の(Q''-4)同値。 
  
(f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) ) /(xx0) 0  (xx0)  (Q''-4) 
Step6: まとめ 
以上、すべてをまとめると、
命題
Q''は、次の命題Q'''同値になる。
命題
Q'''
 
(i)x0付近でxx0に近づける過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )=0 
 または
 
(ii)  x0付近でxx0に近づける過程で(ただし、xx0に一致させないことにする)、f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )≠0
    かつ  
(f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) ) /(xx0) 0  (xx0)  (Q''-4) 
   
命題Q'''は、次の命題Q''''同値
 命題Q'''' (f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) ) /(xx0) 0  (xx0) 
 なぜなら、(i)のケース「f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) )=0」ならば、命題Q''''(f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) ) /(xx0) 0  (xx0)」  
 だから、下図のようになっているため。
      




表現3による微分可能の定義を、多変数関数に拡張。
 
[表現3]xx0から「無限小の増分Δx」だけ増やしたときの、f (x)の値の増分
       Δ
yf ( x0+Δx )f (x0 )
     は、
      (「無限小の増分Δ
x」の実数倍)+(「無限小の増分Δxより高次の無限小
     として表せる。 
N変数関数y=f(x1,x2,xn)の場合、y=f(x1,x2,xn)
   x1x10から「無限小の増分Δx1」だけ増やし
   
x2x20から「無限小の増分Δx2」だけ増やし
   :
   
xnxn0から「無限小の増分Δxn」だけ増やし
たときの、
f(x1,x2,xn)の値の増分
    Δ
yf ( x10+Δx1, x20+Δx2,, xn0+Δxn)f ( x10, x20,, xn0 )
   は、
   (「無限小の増分Δ
x1,Δx2,,Δxn」の線形結合
   +(「無限小の増分のベクトル
(Δx1,Δx2,,Δxn)のノルム」より高次の無限小
   として表せる。 




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定理:二つの微分可能、微分係数の定義は、同値



[定理]


y=f (x)は、x0で微分可能で、x0における微分係数A」の定義1定義2同値
つまり、以下はどれも
同値
[定義1-表現1] 
  
x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
      {
f (x)f (x0)}/(xx0 ) A ( xx0 )  
[定義1-表現2] 
  
x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
      {
f (x0+Δx)f (x0)}/Δx A ( Δx )  
[定義2-表現1] 
  
x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
       
{ f ( x )−( f (x0 )+A(xx0) }/(xx0) 0 (xx0)  
[定義2-表現3] 
  
x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、 
       
f ( x0+Δx )f (x0 )AΔx+ o (Δx ) (Δx)   
[定義2-表現4] 
  
x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
         
f ( x0+Δx )f (x0 )Axε(x )x (ただし、x0のときε=0とする)
         
と書くとき、x0のときε(x )0を満たす


[文献]
杉浦『解析入門』命題5.1(p.118)
吹田新保『理工系の微分積分学』pp.36-37;
高木『解析概論』p.35-37.;
笠原『微分積分学』命題2.2(p.39)
小平『解析入門』§3.1(p.108)
杉浦『解析演習』U章§1-1.3(p. 86) :証明略
青本『微分と積分1』§2.1-b(p.60):証明略


[証明]


・[定義1-表現1][定義2-表現1]の証明:笠原『微分積分学』命題2.2(p.39) 
・[定義2-表現1][定義1-表現1]の証明:笠原『微分積分学』命題2.2(p.39) 
・[定義1-表現2][定義2-表現3]の証明:杉浦『解析入門』命題5.1(p.118) 
・[定義1-表現2][定義2-表現4]の証明:高木『解析概論』p.36.; 吹田新保『理工系の微分積分学』定理1(p.36);
・[定義2-表現4][定義1-表現2]の証明:高木『解析概論』p.36.; 吹田新保『理工系の微分積分学』定理1(p.36); 小平『解析入門』§3.1(p.108)

[定義1-表現2] [定義2-表現4]の証明:
 x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
      {
f (x0+Δx)f (x0)}/Δx A ( Δx )  
 と仮定する。
    
f ( x0+Δx )f (x0 )Axε(x )x    
  
と書くと、
  両辺をΔ
xでわって、
    {
f (x0+Δx)f (x0)}/ΔxAε(x ) 
  ともかけるが、
  ここで、Δ
x0とすると、仮定より左辺Aだから、右辺も、右辺Aとならねばならず、
  したがって、
x0のときε(x )0を満たす。



[定義2-表現4][定義1-表現2]の証明:
  x0に対して、ある一定の実数Aが存在して、
         
f ( x0+Δx )f (x0 )Axε(x )x 
         
と書くとき、x0のときε(x )0を満たす
 
 かつx0
 と仮定する。
    f ( x0+Δx )f (x0 )Axε(x )x 
 
は、両辺をΔxでわって、
    {
f (x0+Δx)f (x0)}/ΔxAε(x ) 
 とかけるので、
 
x0のとき、仮定よりε(x )0、となるから、
    {
f (x0+Δx)f (x0)}/ΔxA (x0) 
 
[定義1-表現2]が得られた。






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定理:連続性と微分可能性の関係


f (x)が点x=x0で微分可能ならばf (x) は点x= x0で連続である。
しかし、f (x)が点x=x0で連続であっても、f (x)x= x0で微分可能だとは限らない。
つまり、連続性微分可能性の必要条件だが、十分条件ではない。
     「 f (x) が点x=x0で微分可能f (x) が点x=x0で連続

 

[文献]

 ・『高等学校微分・積分』p.47;
 ・『社会科学者のための基礎数学改訂版』71;
 ・高木『解析概論』39
 ・小平『解析入門I』109
 ・『理工系の微分積分学』36-37
 ・『経済学のための数学入門』209

【なぜ?】

・「 f (x) が点x=x0で微分可能f (x)が点x=x0で連続
 f (x) が、点x=x0で微分可能ならば微分係数 f ' (x0)が存在する。…(1)
  
           ∵関数の極限値どおしの演算に関する諸定理
          =0・ f ' (x0)            ∵(1) 
          =0
  ゆえに、xx0で、f(x)=f(x0)
  これは、点x=x0で連続であることの定義に他ならない。

・「 f (x) が点x=x0で連続f (x) が点x=x0で微分可能」の不成立
 「 f (x) が点x=x0で連続f (x) が点x=x0で微分可能」の反例、
 すなわち、f (x) が点x=x0で連続だが、x=x0で微分可能にならない例を、
 少なくとも一つあげればよい。
 ここでは、そのような反例として、
 x=0における絶対値関数 f (x)| x |をあげておく。
 | x |は、x=0で連続だが、x=0で微分可能ではない。→詳細 

 


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定義:右微分可能differentiable from right・右微分係数

  が存在するとき、「f (x)は、x= x0右微分可能である」という。

 この極限値を「右(方)微分係数」と呼び、「f ’ (x0+0)」「f ’(x0) などと書く。

【類概念】 1変数関数の微分可能・微分係数/右連続/右極限 



定義:左微分可能 differentiable from left ・左微分係数


定義



が存在するとき、
f(x)は、x= x0で左微分可能である」という。
この極限値を「左
()微分係数」と呼び、
f(x00) f(x0)と書く。

※類概念:
 1変数関数の微分可能・微分係数/左連続/左極限



定義:片側微分係数

片側微分係数とは、左微分係数右微分係数の総称。
 

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定義:区間I上で微分可能

 ・「 f (x) はI上で微分可能」とは、
   f (x) が区間Iの各点で微分可能である
  ということ。
  
 ・ただし、Iの端点がIに属しているとき、そこでは片側微分係数をもつだけでよい。

定義:導関数 derivative



f (x)区間I上で微分可能であるとき、

 x0Iにおける微分係数  の値は、  

 x0によって変わってくるから、x0の関数。

x0xと書き直したI上の関数 f ’ (x) を、  f (x)導関数と呼ぶ。

【記法】

   y=f (x)の導関数の表記の例
    f ’ (x)導関数導関数y'導関数

 

【一般化】
  ・2変数関数の偏導関数  
  ・ n変数関数の偏導関数  



定義:連続微分可能・C1



・「 f (x)は区間Iで連続微分可能
 「 f (x)は区間Iで滑らかsmooth
 「 f (x)は区間IでC1
 とは、
    f (x)区間Iで微分可能でその導関数区間Iで連続である    
 ということ。 


【文献】 

 ・小平『解析入門I』p.126.

【一般化】
 ・1変数関数のCn
 ・2変数関数のCn/2変数関数の連続微分可能性


定義:微分する


  f(x)導関数を求めることを「微分す る」という。

※ 導関数の公式 (証明つき) 



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定義:微分 differential


 
 
 関数y=f(x)について、
 x微分differentialとは、xの増分dx=Δxを指し、
 y微分differential は、dy=f ' (x)dxを指す。
yの微分dyは、
 yの増分Δy=f(x0x)−f(x0)とは異なる概念であることに注意。

[文献]
和達『微分積分』69-72;
Chiang , Fundamental Methods of Mathematical Economics 188-193;308.
  微分 図解
※類概念:
 2変数関数の微分differential (全微分 total differential )
     
 

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reference

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年。
矢野健太郎・田代嘉宏『社会科学者のための基礎数学改訂版』裳華房、p.71.
吉田耕作・栗田稔・戸田宏『平成元年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 微分・積分 新訂版』啓林館、pp.46-47.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.201-207.
高木貞治『解析概論改訂第3版』岩波書店、1983年、p. 35-37;39.
小平邦彦『解析入門I』(軽装版)岩波書店、2003年 pp.107-111。
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.43-47;69-72.
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.36-37.
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.81-91.  ただし、いきなり多次元。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.46-48.
小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996、pp. 44-46.