n変数ベクトル値関数の微分  

 ・定義:微分可能・微分係数[要旨/表現1/表現2]/導関数 
 
・定理:微分可能と連続/ベクトル値関数の微分可能の実数値関数の微分可能への還元/微分係数の偏微分係数・ヤコビ行列への帰着 
  
  

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 ・微分定義−
n変数ベクトル値関数:偏微分の定義/方向微分の定義/ヤコビ行列とヤコビアン  
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 ・
n変数ベクトル値関数の諸概念―微分以外: n変数ベクトル値関数の定義と属性/極限/連続/極限の性質
総目次 

 

定義:n変数ベクトル値関数の微分可能、微分係数


要旨


n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn) についても、
  
微分可能微分係数を定義できる。
n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)(a1, a2, …,an)で微分可能である」とは、
 
(a1, a2, …,an)から(h1, h2, …,hn)だけ動かしたときのf の値の増分
  Δ
f(Δf1, Δf2, …, Δfm)

[文献]
・杉浦『解析入門I』U§6定義1 (p.127).
・杉浦『解析入門U』Y(p.1).
・ルディン『現代解析学9.10(p.207)
・入谷久我『数理経済学入門』定義7.6(p.175)
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3 (pp.170-1)

 

    =(f1(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)f1(a1, a2, …,an), f2(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)f2(a1, a2, …,an), …, fm (a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)fm (a1, a2, …,an)) 
 が、
 
(h1, h2, …,hn)(,, …,) としたとき、
 高次の無限小
o ((h1, h2, …,hn))を除き、
 「
一次写像g: RnRm」によって(h1, h2, …,hn)Rmに写したとして表せることをいい、
 このとき、
 「
一次写像gの行列」を、
 「
(a1, a2, …,an)における n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn) 微分係数
 という。

 

こういう次第で、 n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)微分係数は、mn実行列となる。
 なお、
n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)微分係数は、結局、(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)ヤコビ行列となる。

定義

(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)(a1, a2, …,an)で微分可能であって、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数は、m×n行列Mと表される」
は、
厳密には、次の数式で定義される。
 ※ 
表現1表現2はどれも同じ。
 ※ これらの定義は、「
多変数実数値関数の全微分可能」の定義を、ベクトル値関数へ拡張したもの。

[表現1−ランダウの記号を用いずに]


n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)
  
(a1, a2, …,an)で微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数は、m×n行列Mである」
とは、
 
n次元縦ベクトルat(a1, a2, …,an)に対して、ある一定のm×n行列Mが存在して、
 
n次元縦ベクトルht(h1, h2, …,hn)を、h とすると、 
   
f (a+h)−( Mh +f (a) / h 0 
 が満たされる 
ということ。
 
* Mhは、m×n行列Mn次元縦ベクトルhとの行列積を表す。
   
Mhは、m次元縦ベクトルとなる。 
  
+は、n次元数ベクトル空間に定められているベクトル和を表す。
  
+,−は、m次元数ベクトル空間に定められているベクトル和,逆ベクトルを表す。
 
* は、・のユークリッドノルムを表す
   
(分子はm次元ユークリッドノルム、分母はn次元ユークリッドノルム)


[文献]
・杉浦『解析入門U』Y(p.1).
・ルディン『現代解析学9.10(p.207)
・入谷久我『数理経済学入門』定義7.6(p.175)
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3 (pp.170-1)

[表現2−ランダウの記号を用いて]


n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)
  
(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数は、m×n行列Mである」
とは、
 
n次元縦ベクトルat(a1, a2, …,an)に対して、ある一定のm×n行列Mが存在して、
 
n次元縦ベクトルht(h1, h2, …,hn)を、h とすると、 
   
f (a+h)f (a)Mh+ o (h)  h   
 が満たされる 
ということ。

 
* Mhは、m×n行列Mn次元縦ベクトルhとの行列積を表す。
   
Mhは、m次元縦ベクトルとなる。 
  
+は、n次元数ベクトル空間に定められているベクトル和を表す。
  
+,−は、m次元数ベクトル空間に定められているベクトル和,逆ベクトルを表す。
 
* は、・のユークリッドノルムを表す。


[文献]
・杉浦『解析入門I』U§6定義1 (p.127).
・杉浦『解析入門U』Y(p.1).
微分係数はヤコビ行列に等しくなる[定理]

 


(a1, a2, …,an)から(h1, h2, …,hn)だけ動かしたときのf の値の増分
 Δ
f(Δf1, Δf2, …, Δfm)
   =
(f1(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)f1(a1, a2, …,an), f2(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)f2(a1, a2, …,an), …, fm (a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)fm (a1, a2, …,an)) 
が、
(h1, h2, …,hn)(,, …,) としたとき、
高次の無限小
o ((h1, h2, …,hn))を除き、(h1, h2, …,hn)の一次写像M t (h1, h2, …,hn)で表せる。

 

 

 *a+hは、n次元縦ベクトル t(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)になるので、
   
f (a+h)は、m次元縦ベクトル t( f1(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn), f2(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn), …, fm (a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn))  
  
Mhは、m×n行列Mn次元縦ベクトルhとの行列積だから、
   
m次元縦ベクトル
   
t(M11h1+M12h2++M1mhn, M21h1+M22 h2++M2mhn, …, Mn1h1+Mn2h2++Mnmhn) 
  
f (a) は、m次元縦ベクトル t( f1(a1, a2, …,an), f2(a1, a2, …,an), …, fm (a1, a2, …,an)) 
  
+,−は、m次元数ベクトル空間に定められているベクトル和,逆ベクトルを表すから、
  
f (a+h)−( Mh +f (a))は、m次元縦ベクトル 
  
t(f1(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)(M11h1+M12h2++M1mhn)f1(a1, a2, …,an), f2(a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)( M21h1+M22 h2++M2mhn)f2(a1, a2, …,an), …, fm (a1+ h1, a2+ h2, …,an+ hn)(Mn1h1+Mn2h2++Mnmhn)fm (a1, a2, …,an)) 
     

 

[トピック一覧:n変数ベクトル値関数の全微分]
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定義:n変数ベクトル値関数の導関数


定義


n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)が各微分可能ならば
(a1, a2, …,an)におけるf微分係数は、各(a1, a2, …,an)のとり方で一意に決まるので、
(a1, a2, …,an)の関数とみなされる。

このように、
に対して、各(a1, a2, …,an)におけるf微分係数を対応付けた関数を、
n変数m値ベクトル値関数 (y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)導関数」と呼び、
f ' で表す。
 
(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)導関数f ' は、
  
n次元数ベクトルに対して、「一次写像」ないし「一次写像を表すm×n行列」を対応付ける関数となる。
  
n変数m値ベクトル値関数微分係数が、「一次写像」ないし「一次写像を表すm×n行列」として定義されたため。 


[文献]
・杉浦『解析入門』U§6定義1(p.128)..
・杉浦『解析入門U』Y(p.2).
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3 (pp.171)

導関数は、ヤコビ行列になる。

 
   

[トピック一覧:n変数ベクトル値関数の全微分]
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定理:n変数ベクトル値関数の微分可能と連続性


定理




[文献]
・杉浦『解析入門』U§6定理6.1(p.128).

   
   

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定理:n変数ベクトル値関数の微分可能の、n変数実数値関数の全微分可能への還元


定理


以下の命題
P,命題Q同値
命題P
 
n変数m値ベクトル値関数
  
( y1,y2,,ym ) = ( f1 (x1,x2,,xn) , f2 (x1,x2,,xn),, fm (x1,x2,,xn) ) = f ( x1,x2,,xn )
 は、
(a1, a2, …,an)で微分可能
命題Q
    
 
n変数実数値関数y1 =f1 (x1,x2,,xn) は、(a1, a2, …,an)()微分可能。 
 
かつ 
 
n変数実数値関数y2 =f2 (x1,x2,,xn) は、(a1, a2, …,an)()微分可能。 
 
かつ 
  : 
  :
 
かつ 
 
n変数実数値関数ym =fm (x1,x2,,xn) は、(a1, a2, …,an)()微分可能。 
  
  
  


[文献]
杉浦『解析入門』U§6定理6.2(p.128):証明付.
杉浦『解析入門U』Y(p.1).
ルディン『現代解析学9. 13(p. 211)
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3-Theorem3.3 (p.172)


証明

   
   

[トピック一覧:n変数ベクトル値関数の全微分]
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定理:n変数ベクトル値関数の微分係数の計算は、偏微分係数に帰着できる


定理


1. n変数m値ベクトル値関数
  
( y1,y2,,ym ) = ( f1 (x1,x2,,xn) , f2 (x1,x2,,xn),, fm (x1,x2,,xn) ) = f ( x1,x2,,xn )
 が、
(a1, a2, …,an)で微分可能
 
ならば
 
(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)(a1, a2, …,an)における微分係数M(m×n行列)は、
  
1に、f1 (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an) における微分係数 
          
grad f1 ( a1, a2, …,an )
           =
f1 (a1, a2, …,an)/x1 ,f1 (a1, a2, …,an)/x2 ,,f1 (a1, a2, …,an)/xn
  
2に、f2 (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an) における微分係数 
          
grad f2 ( a1, a2, …,an )
           =
f2 (a1, a2, …,an)/x1 ,f2 (a1, a2, …,an)/x2 ,,f2 (a1, a2, …,an)/xn
  : 
  :
  
mに、fm (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an) における微分係数 
          
grad fm ( a1, a2, …,an )
           =
fm (a1, a2, …,an)/x1 ,fm (a1, a2, …,an)/x2 ,,fm (a1, a2, …,an)/xn
 が入る
m×n行列となる。

2.
 つまり、
 
n変数m値ベクトル値関数
  
( y1,y2,,ym ) = f ( x1,x2,,xn )
 が、
(a1, a2, …,an)で微分可能
 
ならば
 
(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)(a1, a2, …,an)における微分係数M(m×n行列)は、
 
(y1,y2,,ym)=f (x1,x2,,xn)ヤコビ行列となる。


[文献]
・杉浦『解析入門』U§6命題6.3 (pp.129-130) :証明付..
・ルディン『現代解析学9. 13(p. 211)
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3-Theorem3.3 (p.172)


証明

   
   

 

 

 

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