n変数関数の全微分  

 ・1点における全微分可能性・微分係数の定義:原意/数式表現1/数式表現2/数式表現3/数式表現4 
 ・
1点における全微分可能性と偏微分可能性:全微分可能ならば方向微分可能/微分係数は勾配ベクトルに等しい/全微分可能と方向微分/接平面の方程式 
 ・1点における全微分可能性と連続性:全微分可能なら連続
 
全微分可能の十分条件
 ・全微分total differential  

 ※関連ページ
 ・
n変数関数の微分定義:偏微分/微分演算子/高次の偏微分/方向微分/高階全微分  
 ・
n変数関数の微分の応用:合成関数の微分/平均値定理・テイラーの定理/極値問題
              陰関数定理/逆関数定理/ラグランジュ未定乗数法
 ・微分以外のn変数関数の概念: n変数関数/極限/連続
 ・
n変数関数以外の()微分定義:1変数関数の微分 /2変数関数の()微分/ n変数ベクトル値関数の()微分  
参考文献総目次 

 

定義:n変数関数の点x0で微分可能differentiable・点x0における微分係数・導値differential coefficient 




直感的な
定義


[直感的な定義]

・「 n変数関数y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)で微分可能・全微分可能」とは、
 
y=f (x1,x2,,xn )が表すグラフ{( x1,x2,,xn, y ) | y=f (x1,x2,,xn ) }
 
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面 
    
{( x1,x2,,xn, y ) | y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an ) }
 を定められることをいう。
・「
(a1, a2, …,an)におけるf (x1,x2,,xn )導値微分係数」とは、
   ・
y=f (x1,x2,,xn )が表すグラフに(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面
         の
x1軸方向への傾き
   ・
y=f (x1,x2,,xn )が表すグラフに(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面
         の
x2軸方向への傾き
   :  
   ・
y=f (x1,x2,,xn )が表すグラフに(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面
         の
xn軸方向への傾き
 を組にした
n次元数ベクトル(A1, A2, , An )  
 のことである。
微分係数(A1, A2, , An )勾配ベクトルに等しくなる[定理]  
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )で表せない
 超接平面も存在しうる。
 それは、どういうときかというと…。
  
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ) )で接するあらゆる超平面は、
   
{( x1,x2,,xn, y ) | A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+t (y- f ( a1, a2, …,an ))=}
  で表せる。
    
t≠0ならば、
    超平面の方程式
       
A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+t (y- f ( a1, a2, …,an ))=
    について、
    両辺を
tで割って
      
(A1/t) (x1a1)+ (A2/t) (x2a2)++(An/t) (xnan)+ y- f ( a1, a2, …,an )=
    移項して、
      
y =(A1/t) (x1a1)(A2/t) (x2a2) +…−(An/t) (xnan)+f ( a1, a2, …,an ) 
    とできるので、
    この超平面を、
       
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )
    のかたちで表せる。
    ところが、
    
t=0ならば、  
    超平面の方程式
       
A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+t (y- f ( a1, a2, …,an ))=
    は、
       
A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan) =
    となってしまい、
yが消去されてしまうので、
       
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )
    のかたちに変形しようがない。


[文献−数学]
・小平『解析入門II』§6.4 (p.310) n変数実関数-非ベクトル表記;
・松坂『
解析入門314.1-D(p.132) n変数実関数-ベクトル表記;
・杉浦『
解析入門』U§5定義1 (p.120)n変数実関数-ベクトル表記;
・杉浦『
解析演習』U章§2-2.2(p. 88-9) n変数実関数-ベクトル表記;
・黒田『
微分積分学8.3.2定義8.9(pp.285) n変数実関数-非ベクトル表記;
Lang,Undergraduate Analysis,15-§2(pp.321-2);
・ルディン『現代解析学9.10(p.207) n変数ベクトル値関数.


[文献−数理経済学]
de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, PartI-4-3 (p.170) n変数ベクトル値関数.
・入谷久我『数理経済学入門』定義5.10(p.131) n変数実関数.

 
 

 このように、
 
法線ベクトルの最終成分が0となる超接平面(値の軸に平行な超接平面)は、
 
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )で表せない。  
 ここでは、このような超接平面を超接平面から除外して、
 
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )で表せる超接平面のみを
 超接平面と呼び、
 
y = A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )で表せる超接平面が
 定まることを、
 
微分可能と呼ぶ。
  
[→杉浦『解析入門』例12 (p.86)]

[一般化]
2変数関数の()微分可能
多変数関数の()微分可能
ベクトル値関数の()微分可能


厳密な
定義


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
ということの定義は、
厳密には、次の数式で与えられる。
 ※ 
表現1表現2表現3表現4 はどれも同じ。
 ※ これらの定義は、
1変数関数の微分定義2を、 n変数関数へ拡張したもの。

[表現1a−ベクトル演算・増分を用いずに]

  
y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
「定
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
  どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、
  定
(a1, a2, …,an)へ近づく動(x1,x2,,xn)は、 
   
{f (x1,x2,,xn )−(A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )}/d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) 0  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)
 を満たす」
ということ。
ランダウの記号を用いて表すと、
「定
A (a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
  どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
A (a1, a2, …,an)へ近づく動(x1,x2,,xn)は、 
  
f (x1,x2,,xn )−(A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)  
 を満たす」
となる。

 
* d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) )は、
   
(x1,x2,,xn)から(a1, a2, …,an)へのユークリッド距離{ (x1a1)2+ (x2a2)2++ (xnan)2}1/2
  を表す。  


[文献]
笠原『
微分積分学』定義5.1(p.153);
高橋『微分と積分2』§3.2 (p.71)

微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

 * この微分可能の定義は、
  
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
  「
(x1,x2,,xn)(a1, a2, …,an)に近づけたときの、
   
(x1,x2,,xn)における
     《
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an )))を通って、(A1, A2, , An,1)を法線ベクトルとする超平面A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )》と
     《
y=f (x1,x2,,xn )
     との誤差
        
f (x1,x2,,xn )−(A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )   
   が
0に近づくスピードは、
   
d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) )0に近づくスピードよりも、
   
速くなる
   ということを意味し、
   
ランダウの記号を用いて表すと、
     「
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
         
f (x1,x2,,xn )−(A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)  
      を満たす」
   と表せる。

[表現1 b−ベクトル演算を用いずに・増分を用いて]


y=f (x1,x2,,xn ) (a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
「定
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
  どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、
  定
(a1, a2, …,an)へ近づく動(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn)は、 
   
(Δx1, Δx2,, Δxn) (, , …, )としたときに
   
{f ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )−(A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn +f ( a1, a2, …,an ) }/ (Δx1,Δx2, …,Δxn )
 を満たす」
ということ。
 
* (Δx1,Δx2, …,Δxn )は、(Δx1,Δx2, …,Δxn )ユークリッドノルム{ (Δx1)2+(Δx2)2++(Δxn)2}1/2 を表す。
  これは、
(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn)から (a1, a2, …,an)へのユークリッド距離
       
d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) )={ (x1a1)2+ (x2a2)2++ (xnan)2}1/2
  に等しい。  


[文献]
入谷久我『数理経済学入門』定義5.10(p.131) n変数実関数.

微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

 * この微分可能の定義は、
  
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
  「『
(a1, a2, …,an)からの増分』(Δx1,Δx2, …,Δxn )(, , …, )に近づけたときの、
   
(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn)における
     《
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an )))を通って、(A1, A2, , An,1)を法線ベクトルとする超平面A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )
     と
     《
y=f (x1,x2,,xn )》との誤差
      
f ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )−(A1(a1+Δx1a1)+ A2(a2+Δx2a2)++An(an+Δxnan)+f ( a1, a2, …,an )
       
f ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )−(A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn + f ( x0,y0 )   
    が
0に近づくスピードは、
       
(Δx1,Δx2, …,Δxn ) 0に近づくスピードよりも、速くなる
   ということを意味し、
   
ランダウの記号を用いて表すと、
     「
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
         
f ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )−(A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn + f ( x0,y0 ) o ((Δx1,Δx2, …,Δxn ))  ( (Δx1,Δx2, …,Δxn ) (, , …, ) ) 
      を満たす」
   と表せる。

[表現1 c−ベクトル演算を用いて]


y=f ( x)n次元数ベクトルa()微分可能で、aにおける微分係数Aである」とは、
 「
n次元数ベクトルaに対して、ある一定のn次元数ベクトルAが存在して、
  どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
a近づく動a+hは、 
   
{ f (a+h)−(Ah + f (a) }/h0  h
  を満たす」 
ということ。
あるいは、
y=f ( x)n次元縦ベクトルa()微分可能で、aにおける微分係数n次元横ベクトルAである」とは、
 「
n次元縦ベクトルaに対して、ある一定のn次元横ベクトルAが存在して、
  
n次元縦ベクトルhを、h とすると、 
   
{ f (a+h)−( Ah +f (a) }/h0 
  が満たされる」 
ということ。
 
* Ahは、Ahとの内積を表す。
  
Ahは、n次元横ベクトルAn次元縦ベクトルhとの行列積を表す。
  (どちらも、結果は同じとなる) 

  +は、n次元数ベクトル空間に定められているベクトル和を表す。
  −は、実数体に定義されている引き算を表す。
  
n次元零ベクトルを表し、0は実数の0を表す。
 
* h は、hユークリッドノルムを表す。
  これは、
a+hからaへのユークリッド距離
       
d ( a+h , a ) (a+h)a
  に等しい。  
 
* この微分可能の定義は、前述の表現1bを、以下の要領でベクトルを使って表現しなおしたもの。
    ・
(a1, a2, …,an)       → n次元縦ベクトルa    
    ・実数
A1, A2, , An      → n次元横ベクトルA  
    ・増分
(Δx1, Δx2,, Δxn )   → n次元縦ベクトルh  
    ・
(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn) → n次元縦ベクトルa+h  
    ・A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn   → 内積Ah または、行列積Ah 
  だから、この定義が意味するところは、表現
1bとなんら変わらない。 


[文献]
・杉浦『
解析入門』U§5 定義1(5.4)(p.120)
・松坂『
解析入門314.1-D(p.132) n変数実関数;

[表現2a−ベクトル演算・増分を用いずに]


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
(a1, a2, …,an) に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
 どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
(a1, a2, …,an)に近づく動(x1,x2,,xn)は、 
   
f (x1,x2,,xn )= f ( a1, a2, …,an )+ A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+ o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)
 を満たす」
ということ。

*
 恒等的に、
   
f (x1,x2,,xn )={ f ( a1, a2, …,an )+ A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)}+{f (x1,x2,,xn )−( A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+ f ( a1, a2, …,an )}
  だから、
   
[微分可能定義の表現1a]
    「定A (a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
       
f (x1,x2,,xn )−(A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)
     を満たす」
    が成立するならば、表現
2 aも成立(恒等式最右辺に表現1を代入するかたち)。
    逆に、表現
2 aが成立するならば、表現2の右辺12項を左辺に移項すれば、
       表現1
aの成立がわかる。  


[文献]
・笠原『
微分積分学』定義5.1(p.153);
・杉浦『解析演習』U章§2-2.2(p. 89);
・黒田『微分積分学8.3.2定義8.9(pp.285)
・小平『解析入門U』§6.2-b(p.267):2変数関数; 
・加古『自然科学の基礎としての微積分』定義6.4注意1(pp.93-4):n変数関数;


微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

[表現3a−ベクトル演算・増分を用いずに]


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
(a1, a2, …,an) に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
 どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
(a1, a2, …,an)に近づく動(x1,x2,,xn)は、 
   
f (x1,x2,,xn )f ( a1, a2, …,an )=+ A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+ o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )  (x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)
 を満たす」
ということ。
 
* ランダウの記号o ( d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) ) )は、
       「
x1,x2,,xn関数」のうち、 
         
(x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)としたときに、
           「
d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) )が0に近づくよりも速いスピードで0に近づく
       ものを表す。
 


[文献]
・小平『
解析入門II』§6.4 (p.310) n変数実関数-非ベクトル表記;
・岡田『
経済学・経営学のための数学1.6(p.44)2変数関数



微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

 

[表現3b−ベクトル演算を用いずに、増分を用いて]

 


y=f (x1,x2,,xn ) (a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
(a1, a2, …,an) に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、 
 どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
(a1, a2, …,an)へ近づく動(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn)は 
  Δ
yf ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )f ( a1, a2, …,an )A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn +o ((Δx1,Δx2, …,Δxn )) ( (Δx1,Δx2, …,Δxn )(,,…,)
 を満たす」
  ということ。
  
* これは、 
   「
(a1, a2, …,an) に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、  
     『
x1a1から「無限小の増分Δx1」だけ増やし、
       
x2a2から「無限小の増分Δx2」だけ増やし、
        :
        
xnanから「無限小の増分Δxn」だけ増やしたときの、
       
f (x1,x2,,xn )の値の増分
          Δ
yf ( a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn )f ( a1, a2, …,an )
      を、
      (「
無限小の増分Δx1」の実数A1倍)+(「無限小の増分Δx2」の実数A2倍)+…+(「無限小の増分Δxn」の実数An倍)
        
+(「無限小の増分からなる数ベクトル(Δx1,Δx2, …,Δxn )ノルムより高次の無限小
      として表せる』
    ということ」
   を意味する。
 
* ランダウの記号o ((Δx1,Δx2, …,Δxn ))は、
       「Δ
x1,Δx2, …,Δxn関数」のうち、 
         
(Δx1,Δx2, …,Δxn )(,,…,)としたときに、
           「
(Δx1,Δx2, …,Δxn )が0に近づくよりも速いスピードで0に近づく
       ものを表す。


[文献]
・『
岩波数学辞典333G全微分(p.985):n変数関数.
・志賀『解析入門3025(pp.193-5) :2変数関数;



微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

[表現3c−ベクトル演算を用いて]


y=f ( x)n次元数ベクトルa()微分可能で、aにおける微分係数Aである」とは、
 「
n次元数ベクトルaに対して、ある一定のn次元数ベクトルAが存在して、
  どの方向からであれ、いかなる経路を通ってであれ、定
a近づく動a+hは、 
   Δ
yf (a+h)f (a)Ah + o (h)  h   
  を満たす」 
ということ。
あるいは、
y=f ( x)n次元縦ベクトルa()微分可能で、x0における微分係数n次元横ベクトルAである」とは、
 「
n次元縦ベクトルaに対して、ある一定のn次元横ベクトルAが存在して、
   
f (a+h)f (a)Ah+ o (h)  h   
  が満たされる」 
ということ。
 
* Ahは、Ahとの内積を表す。
  
Ahは、n次元横ベクトルAn次元縦ベクトルhとの行列積を表す。
  (どちらも、結果は同じとなる) 

  +は、n次元数ベクトル空間に定められているベクトル和を表す。
  
+は、実数体に定義されている加法を表す。
  −は、実数体に定義されている引き算を表す。
  
n次元零ベクトルを表し、0は実数の0を表す。
 
* h は、hユークリッドノルムを表す。
  これは、
a+hからaへのユークリッド距離
       
d ( a+h , a ) (a+h)a
  に等しい。  

 
* この微分可能の定義は、前述の表現3bを、以下の要領でベクトルを使って表現しなおしたもの。
    ・
(a1, a2, …,an)       → n次元縦ベクトルa    
    ・実数
A1, A2, , An      → n次元横ベクトルA  
    ・増分
(Δx1, Δx2,, Δxn )   → n次元縦ベクトルh  
    ・
(a1+Δx1, a2+Δx2, …,an+Δxn) → n次元縦ベクトルa+h  
    ・A1Δx1 + A2Δx2 ++ AnΔxn   → 内積Ah または、行列積Ah 
  だから、この定義が意味するところは、表現
3bとなんら変わらない。 


[文献]
杉浦『解析入門』U§5 定義1(5.4)(p.120)
・松坂『解析入門314.1-D(p.132) n変数実関数;

微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

[表現4a−ベクトル演算・増分を用いずに]


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
 定
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
   
f (x1,x2,,xn )f ( a1, a2, …,an )A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+ε(x1,x2,,xn )d ( (x1,x2,,xn), (a1, a2, …,an) )
 と書くとき、
(x1,x2,,xn) (a1, a2, …,an)のとき、ε(x1,x2,,xn )0 を満たす
ということ。


 
* 表現2aランダウの記号を用いない表現の一例。

 

[文献]
小平『
解析入門U』§6.2-b(p.267)2変数;


微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

[表現4b−ベクトル演算を用いずに・増分を用いて]


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、
  
(a1, a2, …,an)における微分係数( A1, A2, , An )である」
とは、
 定
(a1, a2, …,an)に対して、ある一定の実数A1, A2, , Anが存在して、
   Δ
yf (x1,x2,,xn )f ( a1, a2, …,an )A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan )+ε(x1,x2,,xn )(Δx1,Δx2, …,Δxn )
 と書くとき、
(Δx1,Δx2, …,Δxn ) (, , …, )のとき、ε(x1,x2,,xn )0を満たす
ということ。


[文献]
高木『
解析概論p. 55 :2変数関数;
吹田新保『理工系の微分積分学6章§3U(p.164) :2変数関数;

微分係数(A,B)勾配ベクトルに等しくなる[定理]

[表現4c−ベクトル演算を用いずに・増分を用いて]


y=f ( x)n次元数ベクトルa()微分可能で、aにおける微分係数Aである」とは、
 
n次元数ベクトルaに対して、ある一定のn次元数ベクトルAが存在して、
   Δ
yf (a+h)f (a)Ah + ε(h )h  
 と書くとき、
h0のとき、ε(h )0を満たす
ということ。


[文献]
・松坂『
解析入門314.1-D(p.132) n変数実関数-ベクトル表記;

[トピック一覧:n変数関数の高階全微分]
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定理:n変数関数の点(x0, y0)での微分可能性と方向微分可能性 


定理


1.   y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能ならば
  
y=f (x1,x2,,xn )は、(a1, a2, …,an)で、任意の方向に方向微分可能。 

  y=f (x1,x2,,xn )が、(a1, a2, …,an)で、x1,x2,,xnのそれぞれについて方向微分可能だとしても、
   
y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能とは限らない。  


[文献]
・杉浦『解析入門』U§5定理5.2 (p.121)n変数実関数。証明付。
・高橋『
微分と積分2』§3.2 定理3.14(p.74): 2変数関数;
・松坂『
解析入門314.1-I(p.144) n変数実関数;

証明

[トピック一覧:n変数関数の高階全微分]
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定理:n変数関数の点(x0, y0)での微分可能性と偏微分可能性、微分係数と偏微分係数 


定理


1.  y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能ならば
  
y=f (x1,x2,,xn )は、(a1, a2, …,an)で、x1,x2,,xnのそれぞれについて偏微分可能。 

2.  y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能ならば
   
(a1, a2, …,an)における微分係数は、
   
(a1, a2, …,an)における勾配ベクトル
    
grad f ( a1, a2, …,an )f (a1, a2, …,an)/x1 ,f (a1, a2, …,an)/x2 ,,f (a1, a2, …,an)/xn
   に等しい。

 y=f (x1,x2,,xn )が、(a1, a2, …,an)で、xについてもyについても偏微分可能だとしても、
   
y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能とは限らない。  


[文献]
Lang,Undergraduate Analysis, 15-§2Theorem2.1(pp.322-3):証明つき;
・志賀『解析入門3025(pp.194-5) :2変数関数:証明つき;
・杉浦『解析入門』U§5定理5.2 (p.121) n変数実関数。方向微分から導出。
・高橋『
微分と積分2』§3.2 定理3.11(p.72): 2変数関数;
・高木『
解析概論p.56;小平『解析入門U』p.267;
・吹田新保『理工系の微分積分学p.164.
・松坂『解析入門314.1-D命題1(p.132)n変数実関数;

証明


[文献]

志賀『解析入門3025(pp.194-5)

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定理:n変数関数に点(x0, y0)で接する超接平面の方程式 


定理


[非ベクトル表記]
 y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能で、(a1, a2, …,an) における微分係数( A1, A2, , An )であるならば
 
y=f (x1,x2,,xn )が表すグラフ
    
{( x1,x2,,xn, y ) | y=f (x1,x2,,xn ) } 
 に、
 
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面の方程式は、
     
y= A1(x1a1)+ A2(x2a2)++An(xnan)+f ( a1, a2, …,an )
 
定理より、
 
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面の方程式は、
  
y=(f (a1, a2, …,an)/x1 ) (x1 a1 )+(f (a1, a2, …,an)/x2 ) (x2a2 ) ++(f (a1, a2, …,an)/xn ) (xnan ) +f ( a1, a2, …,an )
 として表される。   
  

 
[非ベクトル表記]
 y=f ( x)n次元数ベクトルa()微分可能で、aにおける微分係数Aであるならば、    
 
f ( x)に、(a, f (a ))で接する超平面の方程式は、   
     
y= A(xa) +f (a)
 
定理より、
 
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))で接する超平面の方程式は、
     
y= grad f ( a1, a2, …,an )(xa) +f (a)
 として表される。   
  


[文献]
・杉浦『解析入門』U§5定義2 (p.120n変数実関数。
・小形『
多変数の微分積分pp.55-61.
・志賀『解析入門3025(pp.194-5) :2変数関数:証明つき
・高橋『
微分と積分2』§3.2 定理3.11(p.72): 2変数関数;
・松坂『
解析入門314.1-E命題1(p.136)n変数実関数;

証明

[トピック一覧:n変数関数の高階全微分]
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定義:n変数関数の全微分total differential 



y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)()微分可能であるとき、
(a1, a2, …,an, f ( a1, a2, …,an ))y=f (x1,x2,,xn )に接する超平面
  
y=g(x1,x2,,xn) = (f (a1, a2, …,an)/x1 ) (x1 a1 )+(f (a1, a2, …,an)/x2 ) (x2a2 ) ++(f (a1, a2, …,an)/xn ) (xnan ) +f ( a1, a2, …,an )
のうえで、
x1についての増分Δx1x2についての増分Δx2、…、xnについての増分Δxnにたいして、
y=g(x1,x2,,xn)がどれだけ増減するかを示す値
 Δ
g= g(x1+Δx1, x 2+Δx2 ,, x n +Δxn)g(x1, x2,, xn)  
   
=(f (a1, a2, …,an)/x1 ) (x1+Δx1a1 )+(f (a1, a2, …,an)/x2 ) (x2+Δx2a2 ) ++(f (a1, a2, …,an)/xn ) (xn+Δxnan ) +f ( a1, a2, …,an )
      
−{ (f (a1, a2, …,an)/x1 ) (x1a1 )+(f (a1, a2, …,an)/x2 ) (x2a2 ) ++(f (a1, a2, …,an)/xn ) (xnan ) +f ( a1, a2, …,an )}
  =
(f (a1, a2, …,an)/x1 )Δx1+(f (a1, a2, …,an)/x2 )Δx2++(f (a1, a2, …,an)/xn )Δxn 
を「
(x0,y0)におけるf (x,y )全微分」とよび、
 
d f ,
 (f (a1, a2, …,an)/x1 ) dx1+(f (a1, a2, …,an)/x2 ) dx2++(f (a1, a2, …,an)/xn ) dxn
等で表す。 
※このように、
 「
(a1, a2, …,an)におけるf (x1,x2,,xn )全微分d fは、
 超接平面
y=g(x1,x2,,xn)の増分Δg= g(x1+Δx1, x 2+Δx2 ,, x n +Δxn)g(x1, x2,, xn)
 なのであって、
 
y=f (x1,x2,,xn )そのものの増分Δf= f(x1+Δx1, x 2+Δx2 ,, x n +Δxn)f(x1, x2,, xn)
 とは別の概念であることに注意されたい。   
  


[文献]
・笠原『微分積分学』定義5.2(p.154):2変数関数
・岡田『
経済学・経営学のための数学1.6(p.45)
・高橋『微分と積分2』§3.2 (p.71): 2変数関数;
Chiang,Fundamental Methods of Mathematical Economics 8.2 (p.195)
[類概念]
. 1変数関数の微分differential,

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定理:全微分可能と連続 


定理


y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)全微分可能であるならば
y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)連続である。 


[文献]
・黒田『微分積分学8.3.2定理8.8(p.285) n変数実関数-ベクトル表記;
・小平『
解析入門U』p.267;
吹田・新保『理工系の微分積分学p.164.

証明

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定理:全微分可能の十分条件:連続な導関数 


定理


y=f (x1,x2,,xn )C1級関数ならば
y=f (x1,x2,,xn )(a1, a2, …,an)全微分可能である。


[文献]
・笠原『微分積分学』定理5.6(p.158):2変数関数
・高木『
解析概論p.56;
・吹田・新保『理工系の微分積分学p.164.
・杉浦『解析入門』U§5定理5.3 (p.123)n変数実関数。証明付。
・高橋『
微分と積分2』§3.2 定理3.15(p.75): 2変数関数;

証明

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定義:n変数関数の導関数


定義

 


[文献]
・杉浦『解析入門』U§5 (p.118).
・ルディン『現代解析学9.10(p.207)

1変数関数の導関数の公式 をそのまま適用して良い

 
   

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reference

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版) 岩波書店、1985年。

神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.235-227.

高木貞治『解析概論 改訂第三版』岩波書店、1983年、p. 55.

小平邦彦『解析入門II (軽装版)岩波書店、2003 p.267-268

和達三樹『理工系の数学入門コース1・微分積分』岩波書店、1988年、pp.119-120.

吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.164-165.

杉浦光夫『解析入門』岩波書店、1980年、pp.118-126.  ただし、いきなり多次元。

高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.60-61

高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2 岩波書店、1995年、pp.70-72

小林道正『Mathematicaによる微積分』朝倉書店、1995年、pp.98-99
小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996pp.44-63.
Chiang,
Fundamental Methods of Mathematical Economics: Third Edition, McGraw Hill,1984, pp.194-195.

 

 

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