Rock Listner's Guide To Jazz Music

AVアンプの入れ替え
(2019年8月)



AVアンプ、ONKYO TX-SA805を使い始めて気がつけば12年。その間、多くの新しい規格が策定され、新しい技術、装備が現代(2019年)のAVアンプにはどんどん盛られてきた。それほど熱心にオーディオ&ビジュアルの技術トレンドを追いかけているわけでもない僕でも思いつくものとして、

・9.1chや、7.1.2chへの多チャンネル化

・4K対応

・LAN、無線LAN機能

・HDMI多ポート化(複数出力)

・HDMIパススルー機能

あたりが挙がる。

拙宅では4Kプロジェクターを使用しているものの、プレーヤーから映像と音声を2系統分けて出力できるため、AVアンプのHDMIが4Kに対応していなくても問題はなく、WOWOWの映画鑑賞(AACサラウンド)、音楽系映像ソフト、SACDやDVD-Audioマルチチャンネル再生はすべて5.1chであり、多チャンネル化の必要性もない(というかこれ以上リビングにスピーカーを並べられない)ため、実は新規格への対応という意味では、これだけ新しい規格が毎年出てくる中でも12年前のアンプでも特に困っていない。

一方で、12年前のAVアンプのHDMI周りの仕様は少々心許ない。当時のAVアンプは最上位機種を除いてHDMI出力は1つしかなく、ブルーレイ・レコーダーやプレーヤーも出力は同様にほとんどの機種で1つしかない状態で、テレビとプロジェクターの2台ディスプレイ体制の拙宅では、HDMIセレクターを導入したり、利用する機器に応じてHDMIケーブルをいちいちつなぎなおしたりする必要がありました。AVアンプを通したい場合、通したくない(バラエティ番組など見るときにいちいちアンプの電源を入れて良いスピーカーで聴きたいとは思わない)場合があり、そうなるとHDMI配線はいよいよ複雑になってきてしまう。

AVアンプの機能として今や当たり前すぎて売り文句としては前面には出てこないHDMI出力2系統+HDMIパススルー機能が、この状況をすべて解決してくれる。もちろん現在発売されているAVアンプであれば4K(あと3Dも)対応なので、プロジェクターにつなぐHDMIケーブルもAVアンプからの出力からで済むようになり、利用形態によっていちいち切り替えていたHDMIセレクターも不要になる。

正直なところAVアンプはそれほど上位機種でなくてもイイ音で聴けるんじゃないかと思っている。ただ。エントリークラスだとプリアウト端子が省略されるので選択肢から外れてしまう(フロント左右チャンネルはKRELLをパワーアンプとして使っているため)。ミドルクラス以上となると、今やオンキヨー、デノン、ヤマハ、パイオニアのみが製品販売を継続中で、その中から選んだのがパイオニアのLX-701。3年前に発売されたモデルとはいえ、ファームウェアのアップデートで現在でもほぼ最新の技術に対応しているため、古さについての懸念はない。消費税が上がる前、そしてパイオニアで開発された製品を入手できるのも最後のチャンス、定価の半額以下という在庫処分モードという条件が、LX-701の購入を後押し(購入後にパイオニア・ブランドでの後継機種の発表があった)。AVアンプは、今後ますます市場が縮小、メーカーも減り、中級クラスが手薄になることも考えられるため、そういう意味でも、良いミドルクラスのアンプは今後選択肢が減るだろう、というのも購入を決めた理由。

いざ、納品。そして設置、配線。フルオートMCACCというパイオニア独自の音場設定をまずは完了。

AVアンプを入れ替えても、音質傾向、性格の違いは出るかもしれないけれど、音のクオリティじたいはそうは変わらないだろうと思って、いろいろなソースを聴いてみる。従来通り、フロント左右はプリアウトで音楽鑑賞用のKRELL KAV-400xiというアンプを通して鳴らす構成。

ONKYO TX-SA805というアンプは、ミドルクラスの上位という位置付けで、ロスレス・サラウンドの時代を迎えるにあたってメーカーも当時相当力が入っていたのではないかと思えるもので、重量は23キロもあります。現代のAVアンプだと、チャネル数が増えているにもかかわらず各メーカーの最上位機種でも20キロを超えるモデルはないので、そこまでコストをかけられないんだろうなあ、と勝手に想像していました。一方で、技術的に進化しているのでミドルクラスの下位機種でもかなり音が良くなっているという話も聞きます。

さて、実際のところはどうか。

まずは、アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団のブルーレイ(DTS-HD Master Audio)でマーラーの交響曲第5番、そしてヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のSACDでリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲を聴いてみる。「なんとなく良くなったような気がする」レベルを超えた、ハッキリと体感できる音質向上で、それほど音質が良くなることはないだろうと思っていた僕にっては嬉しい誤算。音は明瞭で透明感が高く、それでいて自然でスッキリした響き。弦の美しさ、木管の豊穣な響き、金管の落ち着きがありつつも華やかな響きに思わずウットリしてしまう。また、ローエンド(低音の中でも一番下の重低音音域)がソリッドで力感に溢れ、サブウーファーはもういらないかも、と思わせるほど。ホールトーンの響きの再現も秀逸で、もともと録音の評価が高い音源とはいえ、その素晴らしい音質が確実にワンランク向上していることがわかる。

次にキング・クリムゾンの「Islands」ブルーレイでリニアPCM 5.1chを聴いてみる。こちらも同様の印象で、クリアで緻密かつ締まった音を聴かせる。ベースの輪郭が明瞭で、シンバルの緻密な響きの再現も素晴らしく、声(歌)のリアリティにも目を見張るものがある。ああ、ここでこんな音が出ていたんだと再認識する場面も少なくない。楽器ひとつひとつに無駄な付帯音がなく、とにかく純粋かつ愚直にありのままの音を綺麗に再生してくれる。解像感が強調されすぎることなく、情報量が多く、音の瞬発力やスピード感があるところは好みにピッタリ。

これまで使ってきたTX-SA805でも、イイ音するなと満足していた。AVアンプは映画を観るためのものであり、音楽のマルチチャンネル再生はボーナス程度に思っていたけれど、ここまでクリアで繊細な音の表現ができるとなると、単なるサラウンドを体験するためのものではなく、音楽に没頭するためのマルチチャンネルであると認識が変わってしまった。LX-701の音を味わってしまうと、TX-SA805がモッサリした音だったことに気付かされて、もう元に戻ろうという気にはなれない。

パイオニアのLX701はサラウンド・モードがいくつか用意されているし、アプリからいろいろな設定ができたりもするけれど、基本的にはAutoでソース音源の音をそのまま表現することを信条とするマジメな製品という印象で、そこも僕の好みに合っている。

機能面では、現代のAVアンプならネットワーク再生は標準機能のひとつで、Spotifyなどのストリーミング系サービスはもちろん、DLNAでのNASライブラリ再生も当然対応。ネットワーク・プレーヤーとして使う場合、テレビ画面(=リモコン)からの操作性はあまり良くなく、アプリは閲覧性が高くない(要は選択画面が小さくて表示される文字数が少ない)という弱点はあるものの、このアンプさえあればネットワーク再生はまかなえてしまう。再生プレーヤーやアンプの付加機能でネットワーク・プレーヤー機能があることは今や珍しくないけれど、LX-701はギャップレス再生にも対応しているため、プレーヤーとしての機能にも弱点は見当たらない。このアンプ一台(とスピーカー)さえあれば、映画を含めてあらゆる音源を高音質楽しめることを考えると大変コストパフォーマンスが高いオーディオ機器だと言えるんじゃないだろうか。

注:マルチチャンネルの音楽ファイルは再生できないとの情報あり。また、どういうわけかネルソンス指揮ボストン交響楽団のブラームス交響曲全集、内田光子とベルリン・フィルのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集のハイレゾ音源(FLAC、96KHz/24bit)はすべてトラックの冒頭が切れるという不具合が出ています。


AVアンプの世界において12年の進化は想像以上に大きかった。

満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★★