Rock Listner's Guide To Jazz Music

プリメインアンプの導入 その3
(2012年8月)



今のオーディオ環境になって丸2年、基本となるアンプとスピーカーは3年以上経っているけれど、これ以上何も要らないというほどに満足して日々音楽を聴いている。妻も音楽が好きで、聴くのは洋楽ポップス系とクラシックが中心。ただし、音質にはこだわりがない。すると家でオーディオを鳴らしている時間は圧倒的に妻の方が長く、そしてほとんどBGM的に使っていることになる。僕自身も常にオーディオに正対して音楽を聴いているわけではなく、BGM的に音楽を流していることが多い。というか、マンション住まいで近所迷惑を顧みると夜は大きな音量で聴くことができないこともあって、オーディオを気分良く鳴らしている時間というのはよく考えてみるとそれほどあるわけじゃない。

そこでふと思った。ケチ臭い話ではあるんだけれど、あんまり使いすぎるとアンプの寿命にも多少は影響するんじゃないか、BGMで流しているときまでクレルやマッキントッシュで聴く必要があるのか、と。壊れたら修理すればいいじゃないかとは思うものの、代理店の都合でいつサポート終了になるのかわからないクレルと、34キロもあって搬出する気力も萎えるマッキントッシュMA6900は、できることなら壊れて欲しくない。

3.11以降、気にするようになった節電の観点で見ると、クレルもマッキントッシュも決して消費電力は少なくはなさそう。カタログ値によると、クレルはスタンバイ(驚くべきことにこの状態でも少し熱を発している)で20W、電源を入れるとアイドルでも60W、最大で1800Wを消費する。マッキントッシュは主電源スイッチがあるためこれをオフにしておけば消費電力をゼロにできるという古典的な作りは良くても、最大4.0Aとなっている消費電力は100V電源なら400W、恐らく通常使用時は60Wくらいは使っているのではないかと想像できる。アップル製品もそうだけれど、アメリカ製品は節電をまったく考慮していないものが多く、実際に最大消費電力まで鳴らすことがないとわかっていても特にクレルの電力消費量にはアメリカ的なものを感じてしまう。実はそれは昔から認識していて、当時は週末にしか音楽を聴かなかったので平日は電源タップのスイッチをオフにしていたくらいだったんだけれど、妻がよく使うようになって普通に通電したままにするようになって再度消費電力が気になりだした。

というわけで、ORB製アンプ・セレクターの口がもうひとつ空いていることもあり、エコノミー(クレルとマッキントッシュの寿命を伸ばすことになるかも)とエコロジー(消費電力低減)を狙って、安価なアンプはないものかと考え始めた。置くスペースが非常に限られているので小型であることと、AirMac ExpressとSqueezeboxからのデジタル入力を直接受けることができること、という条件で探してみる。

調査の結果、TEACのA-H01がすぐに浮上。コンパクトで省電力なデジタルアンプ、そしてデジタル入力をそのまま受け付けるという製品で評判も良く、こういう安価で一定レベルの商品を作ることにかけては日本製は信頼できることから、これでいいんじゃないかと思ったものの、置けるスペースの高さよりわずか2ミリ高い。

次に浮上したのが、日本で発売されたばかりの NuForce Dia (Digital Input Amplifier)。Iconシリーズと同じくらいのコンパクトサイズで縦置きの省スペース。同軸デジタル1つ、光デジタル2つだけを入力とする潔い設計。そして省電力(スペックはわからないが取説で謳っている)。DAC機能を持つ最近の製品にしては珍しくUSB入力がなく、メーカーは光出力を持つテレビやAppleTVユーザーをターゲットにしている模様。このコンパクトさでリモコンまでついているということもあって、結果的には自分の要求にピッタリな製品ということで決定。

事前に仕様がわかっていたとはいえ、実物はやはり小さい。オーセンティックなオーディオ製品ではないので、高級感ははじめから追求していないはずで、選んだ色がブルーということもあってポップなガジェット的な佇まいで悪くない。ただし、細かいところを観察するとLEDは安っぽいし、ダイヤルの操作感も軽い。入力切替のLEDの見え方がいまひとつ曖昧。リモコンの音量調整のステップも大味だったり、如何にも外国ガレージメーカーらしい作りになっている。

DAC-1000に接続していたAirMac Expressからの光ケーブル、SqueezeBoxで空いている光ポートからのケーブルを接続し、定価ベースで価格が30倍のスピーカーの駆動を試みる。普通はこういう組み合わせはやらないと思うので、どんな結果になるか期待と不安を抱きながら鳴らしてみる。出てきた音はクリアで情報量も豊か、解像度もパワーも十分。とても12W(8Ω)の出力しかないとは思えないしっかりとした鳴りっぷりで、正直なところここまでの音がするとは思いませんでした。管楽器、ピアノ、など楽器の音ひとつひとつ、明確で滑らかに再生してくれるところは期待以上。冷静に考えてみると、やはりオーディオはスピーカーが音の80%以上を決めていて、アンプの要素は10%くらいと思っている僕にとっては、良いスピーカーを「ある程度のアンプ」で鳴らせば良い音で聴けるだろうことは予想していないわけではなかった。それでもアンプがが低レベルであればさすがにたいした音が出ないのでは?という疑念があったのも事実で、NuForce Diaは、この価格にしてその「ある程度のアンプ」のレベルにはあるところに大いなる価値があると言えるでしょう。

もちろん、クレルのような重低音やマッキントッシュのような濃い空気感は出ないし、サウンドステージの再現力、スケール感という点でもさすがに劣る。音量を上げると低音を中心にパワーに余裕がなくなり、音の厚みがなくなっていく。高音もシンバルの響きなどは僅かに粗いと感じるところもある。それでも十分に優れた音質で、特にBGM的にあまり大きくない音量で鳴らす分にはクレルやマッキントッシュとの差は非常に小さいと言ってもいいくらいです。

言い換えると、やはりある程度の音量でしっかりと鳴らすとアンプの底力が見えてくる。そしてある程度以上の音量で鳴らして、腰を据えて音に向き合わないと良いアンプの真価は見えにくい。身も蓋もない言い方をすれば、ハイグレードのアンプというのはその決して大きいとは言えない差分の音を得たい人、そしてその僅かの差にこだわっているという自己満足が欲しい人のためのものだと思います。

NuForce Diaは、このように音を鳴らすという基本性能において価格を上回る価値のあるアンプだと思います。オーディオ機器としてのプレゼンスや、操作性、高級感という観点では割り切っているので、オーディオにこだわりたい人にはコレ1台で満足できないでしょうが、省スペース・低コストで高音質を目指す人や、セカンド・システムを楽しもうという人の要求には十分応えてくれるでしょう。実際、このアンプとSqueezeboxがあって、あとはお気に入りのスピーカーさえあれば、日常ユースのオーディオとして十分に満足のいくサウンドが得られるはずです。デジタル音源を中心にしたハイ・コストパフォーマンスのオーディオのコンポーネントとしてお勧めできます。(2012年8月4日)

音量がときどき勝手に下がってしまったり、リモコンが利かなくなったりと小さなトラブルは発生しています。前者は修理依頼するも現象再現せず、一応中身の基盤(恐らく実質の中身全部)を交換してもらったものの現象変わらず。拙宅の電源に問題がある可能性もありますが、ガレージメーカーの信頼性に不安があることはわかった上での導入をお勧めします。(2013年9月28日)

満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★★