Rock Listner's Guide To Jazz Music

iPod を楽しむ

このページを書いていたのは2008年ころの話。デジタル・オーディオの世界は移り変わりが激しく、今となっては有効な情報もないノスタルジックなページになってしまいました。過去にこんなことがあったというアーカイヴ情報として残しています。


多忙な現代人に豊かな音楽を生活を提供してくれるポータブル音楽プレイヤー。家で聴いている時間がない人にとって、いや、そうでなくても気軽に音楽を聴ける道具として今やなくてはならない存在。

僕のポータブル音楽プレイヤー歴
カセットテープのウォークマン
ポータブルCD (CDウォークマン)
メモリー内蔵型ウォークマン
iPod 20GB (3G)
iPod photo 30GB (4G)
iPod classic 80GB (6G)

カセットテープの時代、それはそれは面倒でした。まず当たり前ですが、テープを買わなきゃいけない。録音するときには入力レベルを調整しなくてはいけないし、レコードから録音するとなると針を落とすタイミングとテープ・デッキをスタートさせるタイミングを計る必要があり、これがまた面倒。カセット・テープには回転ムラなどがあるし、音質は今のデジタル・プレイヤーと比べるとずいぶん酷いものだった。もっとも、カセット・テープにはデッキとの相性なんかもあって、安くて自分のデッキに合うテープを探す楽しみなんていうのもあった。ノスタルジーとわかっていてもアナログは面白かったと今でも思う。

CD の時代になり、ポータブルCDプレイヤーも登場、外でも CDで音楽が楽しめるようになって音質面での不満はなくなった。その代わり今度は音飛びという構造上避けようのない問題が。カバンに入れて聴いていても音飛びしないように気を遣うのがなんとも億劫だった。音飛びを防止するためにバッファリング機能を持たせるものだから電池の持ちが良くない。

テクノロジーの進歩の順番では、次はMDに行くのが自然の流れだったんだけれど、その頃はクルマで通勤していたこともあって必要性がなく、新しいメディアとしても魅力も感じなかったので手も伸びなかった。

その後、電車通勤に戻り、当時としては最先端の SONY Network Walkman NW-E3 を購入。64MB のメモリー容量は今となっては笑ってしまうほどのサイズとはいえ、これでも 28,000円くらいした。この容量で往復2時間の通勤をもたせるためには 66kbps のビットレートを選択せざるを得なかったけれど、カセットテープよりも遥かに良好で安定した音質は電車の中で聴くには十分だったし、100円ライターのサイズで、ワイシャツのポケットに入れても気にならないのが何よりも良かったし、2001年という時代に、この扱いやすさは間違いなく革命的だった。

ほどなくして iPod の知名度が徐々に上がってきた。最初は Mac の周辺機器という位置づけで Windows ユーザーの自分には縁のない製品だったこともあって特に気に留めていなかった。ところが、いつの間にか Windows にも対応。容量も20GB、上位モデルで 40GB までになっていた。当時 NW-E3 用にパソコンに蓄えていた音楽ファイルは約 9GB。んん?ということは、20GBモデルで全部入れてもまだまだお釣り来るということじゃないか!という事実に気づく。これは更に革命的なことだ。これまでは出勤前日の夜に、翌日に聴くアルバムを選択しなくてはいけなかった(朝にそんなことやってる時間ない)わけで、その日の仕事に疲れきっていたときなどに、例えばコルトレーンのハードなヤツしかプレイヤーに入っていないとゲンナリすることもあった。iPod なら聴きたいときに聴きたい音楽が聴ける。家の廊下の壁を埋め尽くすようにCDが並んでいる人間にとっては、大げさでなく夢のようなプレイヤーだった。

そして、本当はソニー・ファンであるにもかかわらず、ついに iPod を購入。当時はソニーから HDD 音楽プレイヤーが出る気配すらなく、それも iPod を選ぶ後押しになった。手にしてみるとなんとも愛着が持てるツールであることを実感。これまでのいかにもオーディオ製品然とした他者の携帯音楽プレイヤーとはまるで異なるデザイン、独特のフレンドリーな操作性、扱いやすい iTunes。iPod のおかげで通勤が楽しくなった。アクセサリーも充実していて、さまざまなシチュエーションに使えるのもうれしい。特にクルマで使えるのがありがたく、CD チェンジャーは過去の遺物となった。何百枚も CD を持っていても、NW-E3 で聴くには限界があったのでどうしても好きな音楽ばかりに偏りがちだったんだけれど、iPod のおかげで所有 CD を片っ端から聴くようになった。ときどき、「全曲シャッフル」を使うと、普段聴いていない曲の良さを再発見することもあり、音楽をより楽しめるようになったのは 「所有 CD が全部入る」 iPod の功績。いつでも音楽を聴けるようになったという安心感から、より CD を買うようになってしまい、家の CD が増える一方になってしまったという思わぬ副作用をもたらしたとはいえ、新しい音楽にたくさん出会う機会を増やしてくれた功績は大きい。

音楽生活を変えてしまう iPod。テクノロジーの進歩に感謝。

・・・と、今では当たり前のことを振り返ったところで、昔を知らない人が読んでも「So what?」と思うだけに違いない。人間、あって当たり前のことと思った瞬間にありがたみがなくなるというもの。それでも僕はDAPというものがこの世の中にあることを常に喜ばしく思っている。

でも、僕のように iPod/携帯音楽プレイヤーに依存している人に警告を。音楽はもともとスピーカーで聴くもの。音の反響は音楽にダイナミクスを与え、低音は体で感じることができる。イヤフォン/ヘッドフォンでは味わえない世界が絶対にある、というかそれが本来の「耳に入る音を楽しむ」という行為である、脳内に音が定位するイヤフォン/ヘッドフォンは音楽を聴くという行為としては妥協であるということを、iPod漬けの生活をしていると忘れそうになる。CD を購入してから iPod でしか聴いていなくて、あまり良い印象を持っていないものがある場合には、スピーカーで聴きなおすことをお勧めしたい。時に印象が大きく変わる可能性すらあるんです。スピーカーで聴いたときの好印象は記憶に残り、イヤフォンで聴いたときに、頭の中で不足している分を補正することだってできる。時には(許される範囲で)大音量で音楽を聴いてみましょう。


ビットレートとファイル形式

iPod を使うにあたって、悩ましいのがファイル形式とビットレートの設定。僕の場合は容量の都合上、64kbps を選ばざるを得なかった。汎用性を考えると MP3 にしたいけれど、さすがにここまでビットレートを落とすと AAC との音質の差が大きいので AAC にしています。つまり、ビットレートもファイル形式も、自分が詰め込みたい CD の枚数と音質を優先することによって決まってしまったというわけです。

僕は、父がオーディオ好きだったおかげで、周囲の友人に比べると遥かに恵まれた音響環境で育ちました。それなりに高価なオーディオが家にあったし、150,000円のヘッドフォンを使わせてもらったこともあるなど良い音には触れてきた方で、音質についても気にする方だと思っています。それでも、AAC 64kbps で十分満足しています。

さて、ネット上では 「MP3 なら 192kbps、AAC なら 128kbps」 あたりがまともに聴ける最低ラインというのが半ば定説のように語られています(最近はもっと厳しい意見が増えている)。こういう状況を見るとネットの定説もアテにならないなあと思ってしまう。皆さん、iPod をどこで使っているのでしょう?クルマの中、電車や飛行機の中など劣悪な環境の中で使っている人が多いのではないでしょうか。そんな中で AAC の 64kbps と 128kbps を聴き分けることができる人なんてまずいません。少なくとも普段 10,000円以下のイヤフォンを使っている人、つまりイヤフォンなんかにさほどこだわらず普通に気軽に音を楽しめれば良いと思っている人は定説に惑わされる必要はありません。ネット上で耳が悪いと言われても気にすることなんて全然ありません。誤解を恐れずに言えば、彼らの多くは、設定をいじることで何かが変わったような気がすることを楽しむ音質マニアの人たちです。それはそれでひとつの楽しみ方なので否定はしませんが、ネットで「どのくらいのビットレートがいいんでしょうか?」という疑問を投げかける普通の人と、そういう音質マニアが同じ場所で、助言し、助言されているという歪んだ状況を生み出している、そして当事者たちがそれにまったく気づいていないうところが問題です。

それからひとつ、高いビットレートでないと聴けたもんじゃないと主張している人に訊いてみたい。「音じゃなくて音楽聴いてますか?」。百歩譲ってビットレートごとの音質差が出るものであったとして、その違いを聴き比べているときの自分は「音」を聴いているだけで「音楽」は聴いていません。iPod で聴いている限りでは、そのくらい音に集中しないとビットレートの差なんてわからないほど微々たるものです。知人に、iPod を買う前からネットの情報で圧縮音源は音が悪いと頭に刷り込まれてしまい購入を躊躇している人がいて、その人に実際に AAC 64kbps の音を聴かせたら大いに満足していました。また、自分が 64kbps で使っていると言うと、「せめて 128kbps にしようよ」と言ってくる人がいて、「64kbps の音を聴いたことあるの?」と聴いてみると「ない」という無責任な答えを返してくる人もいました。知りもしないで刷り込まれている人がかなりいるのは間違いないようです。あまりネットの情報を鵜呑みにせず、自分流に楽しめばいいんじゃないでしょうか。パソコンでそれなりの音楽再生能力の環境がある、という前提になりますが iTunes は無料でダウンロードできるんですから自分でビットレートやファイル形式を試して容量とのバランス・ポイントを探ればいいと思います。

それにしても、iPod は高級オーディオ機器でもないのに音質を叩かれていて驚く。本来は気軽に音楽を楽しむツールなのにユーザーの要求とは恐ろしいものです。パソコン用USB接続 1.8inch HDDと、カラー液晶+バッテリー+映像再生機能まで備えているiPodとの差額を考えてみれば、オーディオ部分は最低限のものしか奢られていないことがわかるはず。家にある 20年前の 59,800 円の CD プレイヤーにイヤフォンを直結して聴くと、iPod (ロスレス)とは比べものにならないほど音がいい。コストを考えるとあたりまえの結果ではあります。本当はDAPのオーディオ部分が貧弱なだけなのに、多くの人が「圧縮音源は音が悪い」と履き違えているような気がしてなりません。


アクセサリー

音楽生活のスタイルに合ったアクセサリーがたくさんあるのも iPod の魅力。所有しているものを紹介。

ヘッドフォン(MDR-G74SL)

会社で深夜残業や休日出勤したときにたまに使っているネックバンド式ヘッドフォン。4,000円弱程度の汎用品とはいえ、静かな環境で聴いている分には値段以上のパフォーマンスを発揮します。第一印象はややコモリ気味にも感じますが、そこそこのクリアさも持っているし、何よりも低音の響きはイヤフォンでは出せないフィーリングがある。音漏れが盛大なので、通勤や静かな図書館などで聴くのには向いていません。

イヤフォン(SONY MDR-EX71)

僕はiPod純正品のようなインイヤー型のイヤフォンをしていると1時間程度で耳の穴が痛くなってしまう。そうかといってスーツ姿の通勤でヘッドフォンを使うのもちょっと考え物。このカナル型ならOK、というわけで手ごろな値段も手伝って購入。解像度が低く、ちょっと低音過多のブーミーな音がするので好みが分かれると思いますが、値段を考えればリーズナブルだし装着しやすいので、とりあえず純正以外のカナル型をという人には勧められます。普通の人はこの程度の音質で不満はないはずです。(このイヤフォンを入手したときはそうでもなかったんですが、音漏れを気にする人が増えたせいか、今ではイヤフォン=カナル型が定着しました)

ヘッドフォン(BOSE QuietComfort 2)

iPod を使っていると、もっと良い音で聴いてみたいというごく自然な(?)欲が出てきます。低音フェチの僕は、候補として Bose の TriPort に照準を定め、銀座のアップル・ストアに試聴へ(2004年ころ)。そこには iPod ユーザーに人気のヘッドフォン、イヤフォンが何種類か置いてあり、片っ端から試聴。当時人気の SENNHEISER HD-25 は音が余り好みじゃなかったのと左右の締め付けがかなりキツイこともあって却下、装着感に優れる TriPort にしようと思いはじめたいたとき、すぐ隣りに置いてあったこの QuietConfort 2 もついでに試聴したところ、音質とノイズ・キャンセリング機能の素晴らしさに魅了され、数日悩んでから購入。電車内、飛行機内におけるノイズ・キャンセリング機能の効果は絶大で、それでいて車内アナウンスなどは自然に聴こえてくるというところも素晴らしい。音の解像感は値段を考えるとそれほどでも、という気もしますが Bose 独特の低音の鳴りが頼もしいサウンドの音場はロックやジャズに向いているので好みに合っています。また、TriPort ほどではないにしてもヘッドフォンとしては装着感が軽いところも美点。ヘッドフォンは、見た目が大げさになってしまうけれど、カナル式のイヤフォンとは違って音場が広いところがいいです。

イヤフォン(Ultimate Ears super.fi 5 pro)

良いヘッドフォンで聴くようになってしまうと、通勤で使うイヤフォンも良いものをという自然な欲が出てきます(そればっかり)。そこで今度はカナル型の高級イヤフォンを物色。その中から、当時 SHURE E5c に次ぐクラスで注目を集めていた Ultimate Ears super.fi 5 pro を選択。このくらいのクラスになるとさすがに音がいい。薄皮が一枚剥がれたように音が明瞭で、トランペットやサックスの音の艶、スネアドラムの響きなどに思わずハッとさせられることも。でも音にうるさくない人なら、3,000円程度のイヤフォンとそんなに変わらないよ、って言う人もいると思います。つまり、汎用品と高級品との差はその程度のものだということで、それを大きな違いと感じるかそうでないかは人それぞれ。カナル型は遮音性が高く、音漏れがないのもいいんですが、やはり耳栓をしている=外の音を遮断しているというのは人間にとって不自然な音環境で、電車に乗ってじっとしているとき以外はあまり使いたくないと思ってしまう。あと、音の出所と鼓膜の距離が短いという物理的な制約のせいか狭苦しい音になってしまうことから、ヘッドフォンのような音場を得るのは難しい。

満足して使っていたある日、突然左耳から音が出なくなり、調べてみたところどうやらケーブルの接触不良と判明。購入して1年以内だったため保証の範囲で対処してもらおうとお願いするとケーブルは対象外と言われてしまいました。このイヤフォンはケーブルだけ交換できることから、断線した場合に本体ごと買い替えなくてもいいことも人気の一因なのに、こと保証に関しては裏目に。しかも、その時にケーブルの在庫がなく入荷するまで使えないという憂き目にも遭いました。やっぱりただ輸入しているだけの代理店が扱う外国製はこういう不便もあります。ようやく納品されたケーブルは、当初の細く滑らかなものから一転、太くゴツいものに仕様変更。断線防止のための改善だったと思われるのですが、耳周りのワイヤーを入れているところを中心に非常に硬い。装着状態で首を動かしたりしていると硬直したケーブルが耳に押し込んでいるイヤフォン本体を圧迫する形になり、その外圧のせいで徐々にイヤフォンが緩んできてしまうのです。スケルトンな見た目が安っぽいのもマイナス・ポイント。このケーブルのせいで一気に魅力が薄れました。(後に改善されたようです)

イヤフォン(SHURE SE530)

5 pro の音質には満足していたものの、上記ケーブルの不満と、別なキャラクター持った(そしてあわよくばもっとイイ音の)イヤフォンを、という欲求から SHURE のフラッグシップである SE530 を購入。第一印象は「レベルとしては 5 pro とそんなに変わらないかなあ」というもので、これはカナル式特有の狭い音場がそう感じさせたことが最大の原因。というかカナル式というのはどうしてもこのような傾向の音になってしまうんだなあと思い知りました。音の良し悪しよりもまったく異なるキャラクターを期待していただけに、ここは大いなる失望点。とはいえ、カナル式同士として比較すれば音のイメージ、性格の違いは当然ある。

毎日、いろいろな音楽を聴いているとやはり SE530 の方が解像感が高く、繊細な音の描写に優れていることがわかってくる。5 pro では聴こえていなかった音が至る場面で聴こえてくるのだからやはり SE530 の方が一枚上ということ。感覚的に言うと音の末端にある微妙なニュアンスをしっかり表現しているところにクオリティに高さを実感できる。聴けば聴くほど違いが分かってきます。

5 pro も SE530 も低音に定評があり、その評価通りだと思いますがウッド・ベースのふくよかな量感は 5 pro の方が上。ただ、5 pro は少しブーミーかつ曖昧な感じで SE530 は引き締まった低音をしっかりと鳴らしてくれるという違いを感じる。中音域でも SE530 の方が描写がきめ細かく、ピアノの音も含めて全体的にナチュラルな音をきれいに出す印象。シンバル系の高音は価格の安い 5 pro の方がむしろ総体として良く響くけれど、もちろん SE530 が物足りないレベルということはなく、あくまでも音の出し方、個性の違いで SE530 の緻密な高音の方に質の高さを感じます。トランペットやサックスの管楽器の音色、艶っぽさは非常に近いフィーリングで、しかし、こちらも SE530 の方がわずかに原音っぽくナチュラルに感じられる。繰り返しになるけれどこれらディテールはパッと聴いただけでは分かりにくいほど些細な違いで、音質にこだわらない人ならどっちでも同じと言うかもしれないし、違いがわかったとしてもどちらを良いと感じるかは好みに左右される類のものかもしれません。僕の感覚では 5 pro は低音も高音も出ているけれど、良く言えば広がり感が、悪く言えば曖昧な音像になる印象。引き締まった原音をバランス良く忠実に、そして高密度で鳴らす SE530 という感じです。SE530 は録音状態の良いアコースティック楽器をじっくり聴かせる音源で本領を発揮すると思います。

また、イヤフォンという道具として総合的に見た場合に両者の違いは別のところにあると思います。それは装着感がまったく違うこと。共に耳の穴に押し込むカナル型ながら耳の穴への馴染み方は雲泥の差がある。これは個人差も当然あるでしょうが、SE530 標準のソフト・フォーム・パッドは耳の穴にピッタリと馴染み、普通のシリコン・パッドの 5 pro と比較すると遮音性が圧倒的に高い。その効果は外部の音がほとんど聞こえないほどで、それでいながら耳に圧迫感が少ないところが秀逸。ケーブルが常識的な柔らかさであることもあって首の動きでイヤフォン本体を圧迫して緩んでくるということこともない。装着の安定感に関しては SE530 の圧勝で、その密着度の違いが前述の音質の違いにも影響していると思います。ただし、その遮音性の高さは弊害もあって、たとえば歩いているときに踵から伝わる振動が耳の中にガンガン伝わってくるし、歩道を歩いていても車の音がまったくと言っていいほど聞こえないというのは非常に危険です。

某有名サイトで「音漏れがする」と書かれていたのが気になっていたんですが、確かに少しします。音の出口を指で塞いでも音がするので本体そのものから出ているということ。漏れていることじたいに不快感を感じたり、静かなところで大きめの音量で聴く人は気になるかもしれない。しかし、それこそ電車の中や街中で隣の人が気になるほどの音漏れはかなり音量を上げたときに限れれるでしょう。前述のとおり遮音性が優れているので、そこまで音量を上げる必要もないし、そんな音量で日常的に音楽を聴いていたら難聴になるかもしれない。常識的かつ必要十分な音漏れ防止性は確保されていると思います。余談ですが、難聴になりはじめると更に音量を上げたくなるという負のスパイラルに陥り、症状が進むと2度と戻らないという恐ろしい障害に至ることになるので、このイヤフォンで音漏れが気になるほど大きな音で聴くのもどうかと思うのですが。

結論。5 pro と比べると総合的には SE530 がワンランク上であることがしっかりと実感できる。価格帯が違うのでフェアでないのは承知の上ですが、全体的なレベルはやはり一枚上です。ナチュラルで破綻のない整った、それでいながら豊穣な音質の性格も僕の好みに合っているので、おそらく 5 pro はもう使わないでしょう。しかし、繰り返しになりますがこれは好みに負う部分もあります。判定の基準にイヤー・パッドとケーブルの違いが占める割合が高いことも事実で、あくまでも総合的に判断した結果ということをお断りしておきます。

追伸:約13か月の使用で耳にかかる部分のケーブルがひび割れてしまいました。ここは耳に合わせてカーブを描くところで、使っているうちに曲線が馴染んで好都合と思っていたんですが、徐々にケーブルが硬くなり、ついにはひび割れてきたというわけです。かなり丁寧に扱ってきたつもりですが、個体の問題ではなく他の人でも同じ憂き目に遭っている人が多いらしい。いくら良い製品でもわずか1年余りでこのような状態になってしまうのは欠陥です。保証が2年あるとはいえケーブルの改良がない限り、この製品はお勧めできません。SE535ではその部分がゴムでガードされて改善されているようです。

イヤフォン(Klipsch Custom-3)

ケーブルがひび割れた SE530 に代わるイヤフォンとして、スピーカーでお世話になっていたクリプシュのイヤフォンを選びました。ケーブルが細くて(5 pro のように姿勢を変えたくらいではイヤフォン本体を圧迫しない)、素材がビニールではなく負担のかかる耳かけ部分が頑丈に補強されている(SE530 のようにひび割れしない)から、という過去の苦い経験を二度と味会わないための実用面から見た選択です。

音質の傾向は SE530 ととても良く似ています。ただし、低音の響きと深さ、中音域の艶、高音域の抜け、いずれもがワンランク落ちる。価格差を考えれば当然のことではあります。スピーカーのパワフルな鳴り方と比べるとそれほど個性が強いわけではないのはやや期待外れ。しかしながら、あくまでもSE530ととっかえひっかえ聴き比べての話であってその差は小さく、このイヤフォンにも不満はほとんど感じない。十分に良質な音がするしイヤフォンへの期待度がかなり高い人でなければこの製品の音質に大きな不満を抱く人は少ないでしょう。低音もこの種のイヤフォンの中では良く出ている方。家のオーディオ環境に投資して「音楽はスピーカーで聴いてこそ」と思うようになったこともあって通勤で聴くのイヤフォンではこれで十分と思えました。ただし、ひび割れそうにないケーブルと引き換えにタッチノイズが盛大なので気になる人はやめた方が良いでしょう。

イヤーパッドの馴染みがあまり良くないために、SE530のものを転用。これだけで大幅にフィット感が向上。このソフト・フォーム・パッドは本当に素晴らしい。単品で入手できるのなら多くの人に試してもらいたいと思えます。

尚、これまで3種類の、それなりに高額なイヤフォンを使用してきましたが、しょせんイヤフォンはイヤフォンで、ある程度の低域はそこそこ再生できてもローエンドはバッサリと切り捨てられています。例えば「The Trio /Oscar Peterson」はベースのローエンドの響きが心地よい録音ですが、イヤフォンではまったくと言って良いほどそれが再生されません。その点ではスピーカーの足元にも及ばないのはもちろん、オーバーヘッドタイプのヘッドフォンにも大きく劣るということだけは気に留めておいた方が良いでしょう。

ヘッドフォン(BOSE QuietComfort 15)

BOSE QuietComfort が発売されたころはまだ物珍しかったノイズ・キャンセリング機能は、今となっては一般的なものになり、インイヤー式のものでさえ珍しくなくなりました。後発ヘッドフォンのノイズ除去力は強力で QuietComfort 2 (以下 QC2)は水を開けられた感があり、例えばソニーの MDR-NC500D だと音の解像感も非常に高く、オーディオ的パフォーマンスの点でも明らかに上と感じられます。それでも QC2 を使い続けていたのは、MDR-NC500D のように無機質な音ではなく、低音が豊かで音のカドが丸くて温もりのある BOSE サウンドが好きだったから。そんな QC2 がついにモデルチェンジ、でも大きく変わったわけではないだろうと思って静観するつもりでした。ところが、QC2 のイヤーパッドはすでに2年くらい前からボロボロ、表面の人工皮革はすべて剥がれた状態で、ついに虎の子の布の部分まで破れてしまったためにイヤーパッドの交換なしには使えない状況に。交換部品は 4,725円、ヘッドバンド部分も同じ状態だったために BOSE に交換部品を尋ねると「修理扱いになります」と言われ、更に出費(確か8,000円弱)が重なりそうという事態に至って、意識の片隅に追いやったはずの QuietComfort 15 (以下QC15)がまた気になり始めてしまったのです。まだ、買う決意にまでは至らなかったものの、実際に使ってみて QC2 とあまり変わらなかったり、好み合わなかったりしたら返却しようという前提のもとオーダー。

ヘッドバンドやイヤーカップの作りはほとんど変わっていないはずなのに、装着しただけで外部の音の侵入が明らかに少ないのが不思議。手元の QC2 のイヤーパッドがボロボロだからなのでしょうか。 これが電源をオフにするとさらに違いが顕著に現れ、予想以上のノイズ・キャンセリング機能の向上ぶりに驚きました。後追いの国産品と比べても恐らく遜色ないでしょう。例えば地元の京葉線のように、高架を高速に走行する電車のノイズは車内でも強烈で、そういうときには QC2 でも iPod のボリュームを上げたくなってしまうという限界を感じていました。しかし、QC15 のノイズ・キャンセリング効果はそんな不満を一気に解消してしまうほどノイズ・キャンセリング機能が強力です。

肝心な音質についてですが、音の見通しが非常に良くなっています。完全にワンランク上がったと評しても良いでしょう。とにかく音のリアリティ表現、音場が広くクリアに聴こえるところに長足の進歩を感じます。それでいて BOSE らしいサウンドは継承。QC15 を聴いてしまうと、QC2 の音は不明瞭でスケール感のない、音の塊を聴かされている気分になってしまう。世評では「低音が弱い」「音が痩せている」「普遍的な音になり BOSE らしさが後退した」というものも見かけ、確かのその傾向はあるとは思いますが、明確にネガティヴ要素となっているようには感じない。音が断然クリアになって、QC3 のような厚い音とまではいかなくとも太くてウォームなBOSE らしいサウンドが聴けるというだけで十分な進化でしょう。僕は 「QC2 にあって QC15 にないものはない」と思います。QC2 は音質的には価格に見合わないと評されていましたが、QC15 は価格に見合った、オーディオ的にも納得できる高音質のヘッドフォンに進化しています。これまでも手持ちのヘッドフォン/イヤフォンの中で QC2 は一番のお気に入りではあったものの、それは装着感の快適さと鳴り方が自分の好みに合っていたからだったんですが、QC15 は音質的にも最高と断言できる。とにかく、QC2 との違いはとっかえひっかえしなくとも誰でもわかるほどの差で、結局は返却することなくこのまま使い続けることにしました。いや、これだけの進化を聴かされたらよほどの自制心の持ち主でない限り返却などできないでしょう。(2009年11月)

イヤフォン(SENNHEISER IE8)

5 pro は装着感がイマイチなのと融通の利かないケーブル(あくまでも僕が交換品として受け取ったものの話)が鬱陶しい、SHURE SE530 は音と装着感はいいんだけどケーブルが長持ちしない、Klipsch custom-3は悪くはないんだけど個性が薄く、ケーブルのタッチノイズが大きくて特に厚着をする冬場には身動きするのも嫌になってしまう。なかなか理想的なイヤフォンに出会えないものです。

しかし、人気モデルの中で気になっていた SENNHEISER IE8 でようやく落ち着けるときがよやく来ました。

音質以外の大事な要素、ケーブルが柔軟で SHURE のようなひび割れの報告がないこと、表面が滑らかなのでタッチノイズが少ないこと、というこれまでのイヤフォンのネガティヴ要素がないことでまずは選定候補に。

次に、低音のパフォーマンスに定評があること、ヘッドフォン的な音場であると言われているところが自分の求めている傾向に合っていると思い購入に踏み切りました。SHURE SE530 が最高音質のイヤフォンだと思っていたので、総合的な音質的パフォーマンスでは妥協になるだろうという懸念を承知のうえでのことです。

しかし、実際に使ってみると音質的な面でも十分に満足のいくものでした。SE530 の音は最上級でジャンルを選ばない万能性があると今でも思っていますが、僕の音楽的趣向を考えると音が精緻でキレイにまとまりすぎているという言い方もできる。バランスド・アーマチュア方式の基本的な特性である繊細な音の表現、言い換えると美しい音に注力しているところも自分の欲している方向性と若干違っていた。それでも気に入って使っていたのは純粋に音が良かったから、という理由に尽きます。

IE8 は定評通り低音のパフォーマンスに優れたイヤフォンで、その鳴り方は SE530 とはまるで異なっている。毎日聴いていると「おおっ、この曲はこんなにいい音がするのか」と思うことがあれば「あれ?この曲はこの程度の音でしか鳴ってくれないんだ」と思うこともあるくらい、これまで使っていた SE530 と鳴り方に違いがあります。これはどちらが良いか悪いかという話ではなく、そもそも狙っているものが大きく違っているということです。

低音の量感が豊かであるという定評に付け加えるとするなら、イヤフォンの苦手とする超低域まである程度がんばって出しているところが IE8 最大の魅力だと思います。ボトムの厚みは低域だけでなく、中音域にも影響があり、たとえばサックスやピアノの音にも厚みが加わって音にコクがあるように感じる。また音の押し出し感が強く、音楽にパワーを求める人には一度試してみる価値があるイヤフォンだと言えます。この特性が「ヘッドフォ的」と言われる所以でしょう。さらに付け加えるならば、そういう傾向がありながら力づくで品のない荒っぽさとは無縁であるところも魅力。

その低音の特性から聴き疲れも懸念される方もいるでしょうが、実に聴きやすいのもこのイヤフォンの特性。これはダイナミック型のおおらかさと、高音域が控えめで中音がどちらかというとアッサリしているという特性が主な理由。ただし、控えめであるというのはあくまでも量であって質は素晴らしく情報量は豊か。生楽器の音の艶を表現できるのは高音域の情報量が豊富でしっかりしているからでしょう。

乱暴に例えるのならリビングのスピーカー、JBL Project 1000 ARRAY をマッキントッシュ MA6900 で鳴らしたときの傾向と似ていて、まさに自分の好みにあったイヤフォンだと思えます。

ただし、イヤフォンはイヤフォンであるのもまた事実。望外に骨太で厚みのあるサウンドを聴かせるとはいえ、ヘッドフォンの重厚感との差は大きく、音場感はやはりカナル式独特の狭さを超越するまでには至っていない。それでも、通勤で気軽に使えるイヤフォンとしては非常に満足度が高い。SE530 の半額程度でこれだけの音が楽しめるのですから音の性格が合う人にとってはコスト・パフォーマンスが抜群、個人的にはもう手放せない逸品です。自分の耳にフィットするイヤーチップ探しが未だに残された課題ではありますが、心置きなく音楽を楽しめるようになりました。あとは寿命が長ければもう言うことはありません。ちなみに、コンプライ T-400 イヤーチップは機能的に良かったものので1ヶ月もしたら割れてくる耐久性に難有りでした。 (2010年2月) ウレタン系のチップならビクターの EP-FX3 がお薦めです。これがあれば高価ですぐにダメになるコンプライなんてもう要りません。

スピーカー(Altec Lansing inMotion iM3)

出張に行って1人でホテルにいると音楽が恋しくなる。そうかといって1人ヘッドフォンで聴くのも妙だし、それだと部屋の中で動き回れない。そうなると欲しくなるのが小型のスピーカー。このスピーカーはクリアで解像感の高い音質が素晴らしい。サイズがサイズだけに低音はさすがに厳しいんですが、このポータビリティでこれだけの音質であれば十分。しかも聴きながら iPod の充電までできる。出張や旅行、洗車時のパートナーとして大いに活躍してもらいました。

スピーカー(BOSE SoundLink Wireless Mobile speaker)

ポータブル・スピーカーとして使い倒した Altec Lansing inMotion iM3 は、残念ながら低音を期待できる性格の製品ではないというのは前述の通り。ベースの響きを音楽の重要な要素と考える僕でも、あのサイズなんだからそれも仕方ないとあきらめるしかありませんでした。コンパクトで低音が出るといえば、BOSE、その BOSE には SoundDock Portable digital music system という持ち運び前提の製品があって気になっていたんだけれど少し大きすぎるし価格も高すぎる。そしてついに出ました。よりコンパクトで持ち運びを前提とした SoundLink Wireless Mobile speaker が。コンパクトな割りには量感が豊かな低音、温もりのある中音域、伸びきらないけど耳に優しい高音。決してワイドレンジやハイ・フィデリティな方向性を狙ったものではないので音の抜けは決して良くはない(この特質がオーディオ・マニアに蔑視される)けれど、音楽を心地よく聴かせるBOSEらしいEサウンドを楽しむことができる。一度説明書を読めば直感的に使えるシンプルさ、ボタンの大きさや押しやすさという優れた操作性といったBOSEの特長も凝縮されている。ついでに言えば、音声切り替え時に急に音が出たりせずにフェードインしながら切り替わるというホスピタリティもBOSEらしい(アップルも似たところがある)し、シンプルさにこだわるが故にリチウムイオン・バッテリーが組み込み式で交換できないというのもBOSEらしい(バッテリー機能が劣化したら10,000円くらいで新品と交換の可能性大)。Altec Lansing inMotion iM3 では低音が薄いために、ホテルのリスニングのときなどでボリュームを上げたくなってしまうというジレンマを抱えていましたが、この低音のおかげで音量を上げなくても音のバランスを損なわずに音楽を気軽に楽しめるようになりそうです。尚、AUXポートでミニプラグでの接続も可能ですが、iPod でもワイヤレスで操作するために Bluetooth アダプター、SONY TMR-BT8iP も購入しました。SONYから Made for iPod の名の下に製品を作っているというのは意外でしたが、ネット上での高評価の通り安定した接続で利用できます。他の Dock 経由から操作する製品と同様、iPod からの操作は可能ながら音量の調整ができないこと、電源を iPod 本体から取っているため、バッテリーの減りがだいぶ早くなってしまうのは仕方がないところ。(2012年1月)

スピーカー(BOSE SoundLink Mini Bluetooth speaker)

ポータブル・スピーカーとして2年にわたって使い倒したSoundLink Wireless Mobile speakerは外出先で音楽を楽しむための最良のパートナーでした。そのSoundLink Wireless Mobile speakerのウィークポイントを強いて挙げるとすれば、もう少し小さく、そして軽くなってくれればということ。重さ1.3キロは、ちょっと洗車の時に持ち出すときには少し重いし、海外旅行に連れ出すと土産で膨らんだ帰りのスーツケースの中では意外と邪魔に思えてくる。そんな要望に応えて次にBOSEがリリースしたのがこのSoundLink Mini Bluetooth speaker。使い勝手は全く同じで、クレードルによる充電機能が加わる。そしておよそ半分の大きさと重量。ここまで気軽に持ち運びできるスピーカーでありながら、BOSEらしく低音が豊かでしっかりとした厚みを伴った音が出てくるのは流石です。高音域ももう少し良く出るようになっています。もちろんHi-Fidelityの観点ではそれほどポイントは高くない。ステレオ感が得られないという評価を耳にするけれど、これより大きい SoundLink Wireless Mobile speaker や以前使用していたWave Radio/CDでもあまりステレオ感がないのは同じことで、小型故の物理的な制約として仕方がない。確かに交響曲などではその広がり感のなさにやや物足りなさを感じたりもする。DSPなど電気的な処置によって広がり感を確保することは可能かもしれないけれど、BOSEはそういうことはやらないし恐らくそういう不自然な電気的加工はポリシーに反するのでしょう。音の性格にBOSEらしさが良く出ているところをどう判断するか、ですが、あまり解像度が高くなく、音の実体感はあるというのはBGM用として聴きやすいと僕は思います。(2014年1月27日)

カーオーディオ・アダプター(Belkin Autokit for iPod)

クルマのシガー・ライタ・ーソケットから電源を取り、AUX 端子を持つオーディオにそのまま接続すればクルマでもそのまま iPod が使える。これは僕にとって革命でした。さらば CD チェンジャー。機能としては特筆するほどのことはないでんですが、この利便性を実現してくれるだけでもう言うことなし。余談ですが、僕のクルマ(イタリア車)ではライター・ソケットの奥まで入りきらないためにたまに段差を乗り越えたときに接触不良が起きて再生が途切れてしまうこともあります。2012年1月追記:最近のカーナビには iPod アダプターが付いているのでこの種の製品は必要性が低くなりました。しかし、僕のカーナビ carrozzeria AVIC-MRZ088ナビからの操作性の悪さと言ったらもうそれは酷いもので、とても使う人立場で設計されたものだとは思えません。iPod の操作性でカーオーディオでも使いたい人のために、このようなアダプターはまだ必要なのかもしれません。スティーヴ・ジョブスがこだわった操作性というのはなるほど大したものだと改めて実感させられます。

ちなみに、Altec Lansing inMotion iM3、Belkin Autokit for iPod、その他に持っていたサードベンダーの iPod アクセサリーは iPhone ではすべて使えませんでした。残念。


iPod classic

僕は iPod に音楽プレイヤー以外の機能を求めていない。iPod photo(30GB) を購入したのも写真が見たいからではなく、それまでの 20GB では容量が足りなくなってしまったからという理由だけで、買い換えてからも特に機能面(モノクロからカラーになった点を含めて)でプラスを感じていませんでした。iPod video(5G) が発売されてからも動画再生には魅力を感じず、しかもバッテリーの持ちが iPod photo よりも悪いという評判だったので心は動かなかった。しかし、2年ほど経過すると CD の枚数も増え 30GB モデルですら残りが 2GB を切ってしまい、危機感を覚え始めたタイミングで iPod が6世代目にモデルチェンジ。80GB で値段はリーズナブル、しかもバッテリーは長持ちしそうとあって入手。

モノが届いての第一印象は・・・「ずいぶん箱が小さくなったなあ」。それも当然で、いまや付属品はイヤフォンと USB ケーブル、ドック・アダプター(あくまでも単なるアダプター)のみ。AC アダプターすら付いておらず、「もう買い替えだからいらないでしょ」という態度です。初めて買った iPod の立方体の箱を開けたときに書かれていた「Enjoy」というシンプルかつ娯楽性に富んだ演出もなく、ずいぶんと素っ気なくなったものです。

iPod classic から、ついにイメージ・カラーの白がラインナップから落ちました。classic というサブネームを与えたとはいえ、iPhone や iPod touch のような新世代製品も出現、もはや新鮮味がなくなり、胸を張れるのはディスク容量だけであることを自ら認めたようなネーミングで iPod legacy と揶揄されてもおかしくないという状況ではシルバーへの転換で少しでも目新しさを出そうとしたのも無理はないかもしれません。そのシルバー、質感はそれほどでもないものの表面が傷つきにくいのがメリットでしょうか。

これまで使っていた iPod photo と比べて 5.6 ミリ薄くなり、26 グラム軽くなった物理的な進歩には、当初余りメリットを感じませんでした。特に軽量化には期待したのですが、薄くなったことが災いして「この薄さにしては結構ズッシリ」という印象。でも、毎日触れているとやっぱり扱いやすいと感じるようになってきて、特に薄くなったことでポケットに入れたときのスッキリ感にメリットを感じます。

次に機能面の話を。iPod photo と比べて良くなった点は、まず画面が広くなってディスプレイの情報量が増えたこと。長い曲名、長いアルバム・タイトルも表示できてスッキリ。アルバム・ジャケットに思い入れを持つ僕としては、これを画面に表示させても狭さを感じないのはありがたいです。まあ、これは 5G iPod でも同じことですが。ちなみにディスプレイはバックライトなしでは表示内容の確認がほとんどできなくなってしまいました。昔の iPod はバッテリーの持ちが悪かったので、節電のためにバックライトを使わないことが習慣になっている僕のような古いタイプの人は少し戸惑うかも。後述しますが、バッテリーの持ちが良くなったのでバックライトを使うことにデメリットはないと言えます。あと、細かいところで、これも 5G からの改善点ですがようやくギャップレス再生に対応したのが嬉しい。

新機能の Cover Flow (アルバム・ジャケットをスクロールさせて選択できる)はなかなか楽しい機能。でも、すべてのアルバムが対象でアルバム順、アーティスト順に出てくるので、僕のように1,000枚以上登録している人には非実用的(iTunesもそうなので仕方ないかも)です。トップメニューでは、登録してあるアルバム・ジャケットがランダムで表示される機能が実装されました。音楽を聴く行為とは何の関係もない上に、iPod の反応の悪さの要因になっているはず。そう、この classic、とにかく反応が悪い。本音を言えば、よくこんなに酷いレスポンスで商品化したなと思えるほど酷い。操作しても「あれ?フリーズしてる?」と思うことがしばしばある。ところが、トップメニューに表示されるジャケットを見るのが思いのほか楽しく、思わず「これ聴いてみよう」という気持ちになることさえあります。製品としての完成度に力を注がずに、このようなエンターテイメント機能を実装してしまうなんていうことは日本の企業ではありえないでしょうが、僕は元来完成度よりも楽しさを優先するタイプなので基本的には歓迎です。でも、そんな僕ですら反応の悪さにはときどきイライラするので、気になる人は実際に触れて確認することをお勧めします。

(追伸:ファームウェアを 1.0.2 にアップデートしたら、レスポンスがかなり改善されました。それでも決して褒められたレベルではないのですが、1.0.1 があまりにも酷かったので大幅に良くなったように感じます。)

あと、困るのは音楽再生をはじめてしばらくすると画面が時計表示になってしまうこと。僕は曲を聴いていて曲名を思い出せなかったりするときに、画面の表示で確認することがよくあるのですが、いちいち何か操作をしないと曲名表示に戻らないのは非常に不便。5G でどうだったのか知りませんが、iPod で時間をどうしても確認したいというニーズが多かったとは思えず、何のための機能なのか理解に苦しみます。これは次のファームウェアで是非修正してもらいたいところです。(ひょっとするとバッテリーの節約効果あり?)

iPod photo との比較では音質はわずかに変わったような気がしますが、聴き比べなければわからないレベル。ただし、心持ち低音が割れる現象が解消されているような気がします。以前は「サウンドチェック」と呼んでいた「音量の自動調整」機能は制御が上手くなって、全曲シャッフルを使った場合の音量のバラツキがかなり小さくなったのは嬉しい改善ポイント。

iPod photo では、片道1時間20分の通勤×3日間で残り約1時間+α程度のキャパシティだったバッテリーは、月〜金曜日までの5日間+4時間のロング・プレイにも耐えるほどで、ほぼ倍増の印象。動画を安心して快適に楽しむことを目的とした容量アップは音楽を聴くには十分過ぎるほどで、これこそが iPod classic の最大の美点かもしれません。

総合的には地道に商品力がアップしていて、より魅力的な商品になったと思います。

(2012年1月追記)ただ、一般消費者にとっての DAP は iPhone で十分事足りるようになっており、実際 iPod の売り上げは大幅に下落しているというのは紛れもない現実。 それでも僕は iPod を今後も使うでしょう。64kbps という今では最低レートでインポートしていても40GBの容量を消費していては iPhone には収まらないし、仮に64GBモデルが出たとしてもDAPとしての機能は iPod には劣っているから。ワイシャツのポケットに忍ばせて、手探りで曲飛ばしや音量調整をするという行為は iPhone にはできないし、バッテリーの持ちも比較にならない。音楽を聴くことを最優先に考えるなら、そのプレイヤーはやはり専用機であってほしい。今後はiPod を使っている人=音楽好きという傾向が強まるかもしれません。