Rock Listner's Guide To Jazz Music

スピーカーの入れ替え その2
(2009年1月)



パワフルなアンプを導入したことにより、より良く鳴るようになったクリプシュRF-82。しかし、このスピーカーでは手に余る部分が出てきてしいるように感じ始めた。また、既に触れている通り、RF-82はクリプシュのホーン型ツイーターの特性に由来すると思われるクセ・・・・ピアノやヴィブラフォン、シンバル系の音が特定の音だけがわずかながら耳に付くというバランスの悪さがある。それが元気なクリプシュ・サウンドを演出している一因でことは理解できるものの、音のクオリティという意味では決して褒められたことではない。

これらを解決するにはスピーカーを入れ替えるしかない。ホーン型ツイーターの魅力に取り憑かれた故にアップグレードするならやはりホーン型のモデルにしたいのだけれど、その独特の癖のせいか採用しているメーカーは少なく、クリプシュの上を探すとJBL、エレクトロボイス、アルテック、ジンガリといったメーカーあたりが目につく程度。

拙宅は標準的なマンションの3LDKで贔屓目に見ても広くはなく、当然設置スペースが限られている。また、リビングのスペースの都合上、映画鑑賞でスクリーンを立てるときには右スピーカーだけを50センチほど移動させることを余儀なくされているため、自力で動かせる重さであることも必須条件になっている。こんな制約があるために上記メーカーのモデルの多くは導入対象から外れてしまうのです。

そして一番大きな障壁は一気に値段が跳ね上がること。ない袖は振れない。しかし、この世界には中古というありがたい市場がある。特にスピーカーは時間が経ってもあまり陳腐化しないから大事に使えば一生モノになる可能性があり、ヴィンテージ・モデルでもない限りそのまま長く使い続けることができる。

サイズの観点からジンガリは選択肢のひとつになり得るものの、外見が周囲の機器にまったく合わない(僕はマニアにありがちな見た目のバランスがメチャクチャで雑然としたオーディオ機器の陳列を好まない)し、取扱いが少ないために試聴も困難。中古市場でもなかなか見当たらない。

そんな状況の中、選んだのはJBL Project 1000 ARRAY BG。シンボルであるホーン・ツイーターを縦に配置することで設置面積を少なくするというJBLのミドル・クラス(マニアには入門クラスですが・・・)にしては珍しい配慮をしつつ、トールボーイ型としては規格外の25センチ・ウーファーを抱え、低音も期待できるという、まるで僕のためにあるようなコンセプトの、しかしどういうわけか殆ど話題になっていないモデル。お値段は中古でもクレルKAV-400xiの実勢価格とほぼ同じ。

あくまでも店頭でのチョイ聴きだけでの印象ではあるんですが、実はジャズ・ファンに人気のあるJBLのモニタータイプ(43xxなど)の音を僕はあまり良いと感じたことがない。重く芯のある低音と一体感のある鳴り方は確かに独特だとは思いつつ、解像度が不足していて音の表現が前時代的と感じてしまうから。もちろん、それこそが個性であること、そして今でも多くの愛好家を喜ばせていることは承知しているものの、ちょっとスイート・スポットが狭すぎる。僕は50〜60年代のジャズ、70年代のロックを中心に聴いているために、ヴィンテージ録音を味わい深く聴かせてほしいとも思っているのだけれど、現代的な解像度を持ち合わせた上でというのが前提。オールド・ジャズ・ファンに好まれるようなスピーカーにするとヴィンテージ録音の音楽しか楽しめないということになりかねないし、現在のセンター、サラウンド用のスピーカーとの整合性が絶望的になりそうなところも望ましくない。
JBL 1000 ARRAYは現代的な解像度を持ちつつ、JBLらしい低音や音場感と押しの強さがあると評価されていることから注目。運よく中古を見つけることができたというのも何かの縁だったのでしょう。当然、ショップで試聴して大まかな特徴に納得して導入しました。

さて、家でセットアップしていよいよ鳴らしてみるとそこには確実に別世界が待っていた。押し出し感が強いという大まかな傾向がクリプシュRF-82と似ているのは当初の狙い通りのこと。しかし、その鳴り方は大きく違う。また、音の情報量、解像度と緻密さも文字通り格の違いが出ている。微細なニュアンスをしっかりと描き出すところは楽器を問わず、次元が違うと表現しても言い過ぎではない。ライヴ録音の拍手までもが「手を叩いている音」として出てきて耳を奪われてしまうし、楽器のリアリティに至っては文字通り本物かと思わせるものがある。解像感が高いとB&W CM1のようにアッサリしすぎてしまうこともあるけれど、1000 ARRAYは音の密度も充実していて古い録音の旨みを打ち消してしまうこともない。

トランペット、ヴィブラフォン、ピアノ、そしてシンバルなどのアタックが強い音を鋭く出していたRF-82と比べると、そのあたりの音についてはカドが取れている分、一見、刺激が薄らいでいるように感じる。でもそれは優等生的で味気ないとか地味だとかいうことではなく、確実かつ滑らかな音で主張しているということ。RF-82の音にはキンキンする場合があり、それがうまくハマれば刺激的に聴こえるんですが、それはつまり音に雑味(微かな歪み)があるということでもあるし、連なるフレーズの中でも微妙に前に出る音と出ない音があるという癖のある鳴り方をする。また、管楽器の音を感覚的に表現するとRF-82がその楽器の音全体を鋭く鳴らすとすれば、1000ARRAYはその楽器の音の細部までを正確に描き分けつつ、ホーン型ツイーターならではのキャラクターで生音のように鋭く鳴らす。矛盾するようですが、マイルドな音と刺激的な音をしっかりと描き分ける表現の幅があるということ。音のバラツキがなく、ひとつひとつの音が正確でキメの細かさ(特にシンバル)に至ってはもう次元が違っていて中音域の見通しの良さも抜群。ベースの唸りやバスドラムの響きは、量感、アタック感、厚み、いずれも骨太かつパワフルで重心が低く足腰がガッシリしたものになるし、バスドラムに至っては太鼓のサイズが二回りほど大きくなったかのような音圧で迫ってくる。クレルのアンプの影響もあってか、ローエンドの音域から余裕を持って鳴らしてくれるからジャズもロックもパワフルかつエネルギッシュで揺さぶるような躍動感が出て聴き手の体温を上げてくれる。その音の厚みは全体に影響を及ぼし、サブ・ウーファーでの補助による低音とはまた違う世界を描く。おかげで、サブ・ウーファーは低域の録音状態が良くないソース以外では使わなくなってしまったほどです。また、このスピーカーでこんな聴き方を目的とする人はいないでしょうが、深夜に小音量で聴いても情報量が落ちず音が痩せないために十分豊かに音楽を聴くことができるのには思わず唸ってしまう。音量をかなり上げると、一部ベースを強調した録音のものについては制御しきれないシーンが皆無ではないところはトールボーイ・サイズの、つまりはリビングに置くことができるスピーカーの限界なのかとも思わせますが、リビングのレイアウトの都合上、左スピーカーをコーナーに配置しているからという良からぬ設置環境も原因でしょう。
音場の表現とスケール感についても大いに納得。でも、その点ではRF-82も優れていた。というより、RF-82はエコーのような余韻が出るために音の空間が広く感じるタイプで、それが独特のスケール感に繋がっていた。ARRAY 1000は音像が非常に正確で緻密なため、エコーがかった音場を描くことはなく楽器が目の前で鳴っているかのようなリアリティがあり、相対的に音の広がりと奥行き感が控え目になったような印象を受ける。つまり空間ではなく、リアルな音像の押し出しでスケール感を描くタイプで、同じようにパワフルなタイプのスピーカーでもその性格はクリプシュとはかなり異なるということです。音像が非常にしっかりしているところにはこのクラスでこそなのかもしれません。しかも、エレクトリック・ギターの歪んだ音やグチャグチャな演奏も混沌さとワイルドさを殺がずに生々しく表現してくれるのだから思い描いていた理想に限りなく近い。とにかく聴けば聴くほどクリプシュRF-82との差は大きく、価格差の大きさを十分以上に実感させてくれる。今の居住環境にいる限り、これ以上スピーカーに何を望もうかという感じで映画鑑賞に使うのなんてもったいないとすら思ってしまうほどです。

懸念していた、AVアンプと連携した5.1ch再生時の他のスピーカー、特にセンター・スピーカーとのバランスは、違和感がそれなりにあるものの、フロント左右がクレル+JBL、その他がオンキヨー+クリプシュという個別の組み合わせの割には整合性に破綻はなくリーズナブルな範囲で収まっている。それよりもフロント左右スピーカーのグレードが上がったことによってスケール感を得たメリットの方が大きいです。

強いて注意点を挙げるとすれば低音域(特にローエンド)が強力すぎて、マンション住まいだとあまり大きな音で鳴らせないということでしょうか。調子に乗って大音量で鳴らしていたら「低音がズンズンと響く」と苦情が来てしまいました(クリプシュのときには同じくらいの音量でも響いてこなかったそうです)。

(追記)

3.11の大震災で横倒しになったスピーカーはツイーター部分が壁に激突、なんと根元からもげてグラグラになってしまいました。ハーマン・インターナショナルで修理を受けていただき、完全に元通りに固定された状態とまではいかないまでも見た目には元通りというところまで回復しました。被災した機器に対して無償で対応していただいたことに大変感謝しています。

(2014年1月追記)

ジャズをもっと良い音で聴きたい!オーディオ機器に投資してきたのはそんな強い思いがあったから。つまりジャズを気分良く聴くためだけにあれこれと悩み、あちこちに足を運んで機器を選んできたというわけです(ついでにロックも気持ちよく聴ければ尚良し)。アンプは正直なところブランドイメージなど趣味的な選び方をした面もあったものの、スピーカー選びは設置性やサイズなどから熟考して実際に音を確認して決めたものなので非常に満足しており、5年使い続けた今もまったく飽きが来ない。これ以上の何かが欲しいとすら思わないのです。

オーディオに興味がない人からすると尻込みするようなプライスタグを付けるレベルのスピーカーは、好みに合うかどうかはともかく、多くの人が「いい音だね」と思えるレベルにあると思います(強い個性を売りにする一部のモデルを除く)。JBL Project 1000 array は、オーディオに関心のない妻や義妹からも「生の音みたい」「贅沢」という声が上がるほど汎用オーディオとは別世界に誘ってくれます。

そして、探究心や好奇心が尽きずに新しい音楽を求める人であればあるほど「いい音」のスピーカーはその助けをしてくれる。

個人的なことを言うと2014年現在の僕はクラシック、中でもオーケストラの音楽にハマり95%はクラシックを聴く生活を送っています。ジャズを聴くために選んだ JBL Project 1000 array は、しかしオーケストラ音楽の再生にもまったく不足を感じない。ヴァイオリンの鋭利かつ繊細な音を滑らかかつリアルに再生するところは感心するし、コントラバスの量感と低音の深さはまさにこのスピーカーの得意分野の表現。木管の自然な音色やホルンの包み込むような響きがとても豊かで、ホールローンの再現力も素晴らしい(古いジャズのデッドな録音では目の前で楽器が鳴っているかのように響きがないのに!)。マーラーやブルックナーのような大編成オーケストラを要求する曲を大きなスケールで描く表現力は汎用オーディオでは絶対に味わえないもので、ジャズやロックに向いていると思っていたこのスピーカーは実は交響曲向きだったんじゃないかと思うほどうまく鳴ってくれます。

「いい音」のスピーカーはそもそも基礎体力が高く、音源を問わずあらゆる音を美しく再現することができる。もともと好きでもなかったクラシックを楽しむことができているのは、ひとえにこのスピーカーがあったからこそだと思っています。これがその前に使っていたクリプシュRF-82だったら恐らくこうはなっていない。オーケストラ・サウンドの素晴らしさがわからずに終わっていたか、別のスピーカーが欲しくなっていたかのどちらかだったことでしょう。

つまり「いい音」で自分の好みに合ったスピーカーは、音楽を聴く楽しみの幅をより広げてくれるポテンシャルを秘めているということです。当たり前のことではありますが、スピーカーは音楽ライフを決定する最も重要なファクターであり、だからこそ全身全霊を捧げて選ぶものだと思います。

満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★(中古価格として)