Rock Listner's Guide To Jazz Music

センター・スピーカーの入れ替え
(2013年1月)



僕のオーディオ・システムは、映画を観るためのサラウンド環境を作ろうと思ったことからその歴史が始まっている。家に塩漬けになっていた父のオーディオがあったので音楽はそっちで聴けば良いという理由があったからにせよ、いわゆるピュアオーディオ的な思想などハナッから持ちあわせておらず、そもそもオーディオに強い感心があるわけでもなかった。使えるお金があるのならとにかく「新しい音楽を!」とCDを買うことしか頭になかったからです。

映画の面白さに気付き始めてからホームシアターの構築に着手、まずは形式だけでも5.1chをと思い99年にオンキヨーの廉価なスピーカーセットを、2007年にクリプシュのRF、RC、RBシリーズにすべて入れ替えたことは他のページで書いている通り。そうこうしているうちに音楽を聴くためのオーディオにシフトし、フロントスピーカーをJBL Project 1000 Arrayにアップグレードして、オーディオ用アンプを追加していった。欲を言えば映画用のオーディオと音楽用のオーディオは別で用意したかったけれど、ごく一般的な3LDKのマンションでそんな理想が叶うはずもなく、共用のシステムであることは自然の流れだった。

音楽を聴くことを重視してグレードが高いフロントスピーカーを導入したことで、それまでとは世界が変わったと言えるほど別次元のHi-Fidelityな音質で音楽が聴けるようになって大いに満足。一方で残りの3つ、センタースピーカーとリアスピーカーはクリプシュのままで映画鑑賞に従来のまま利用していた。

実はJBL Project Arrayシリーズはセンター・スピーカーもラインナップされていたものの、とてもウチのラックに収まるサイズではない巨大な代物。しかもそれは結構な価格で新製品としては販売終了、中古市場に出回るほど数も出ていなかったなどいろいろと条件が悪くて導入が困難な状況。また、フロントスピーカーをJBLにしてから映画を観ると確かに音は素晴らしく良くなったものの、音楽を聴いているときに比べると感動をそれほど底上げしているとまでは感じず、つまり僕のホームシアターへの要求度はその程度だったというわけで、この構成で使い続けていて特に大きな不満を感じていたわけではなかった。

しかし、またしても自身の音楽趣味に大きな変化が。それまでどちらかと言えば忌み嫌っていたほどのクラシックを、中でも管弦楽を聴くようになってしまった。しかも貪るように。クラシック愛好家はジャズ愛好家と同じくらいオーディオに情熱を傾けており、個人的はCDと大して変わらないと思っているSACDが崇拝されていたりする。レコード会社もそんな商機を逃すはずがなく、SACDのタイトルが結構揃っている(そして不当に高価)。僕はSACDの音質向上はごくわずかと考えていてそんな風潮を冷ややかに見ているんだけれど、SACDマルチ(5.0chなど)の音だけはCDでは得られない付加価値を持っていると言わざるをえない。。

SACDマルチは手持ちのタイトルだとピンク・フロイドの「The Dark Side Of The Moon」、マイルス・デイヴィスの「Kind Of Blue」「In A Silent Way」、ジェフ・ベックの「Blow By Blow」(これは70年代のクアドロフォニック4チャンネルをベースにしたリア強調が過ぎるミキシングですが)がある。でも、ほとんど聴いていない。恐らく2チャンネル・ステレオで耳に馴染んでいて、サラウンドで聴かなくとも音楽が素晴らしいことを既に十分わかっているからでしょう。

クラシックについてはSACDはまったく静観していたものの、昨秋のヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の生演奏でその素晴らしさに感銘を受け、CDを買おうと探してみると、自主出版のRCOレーベルから出ているものはすべてマルチチャンネルを含むハイブリッドSACD形式のみのリリースになっていた。これをマルチチャンネルで聴いてみるとまるでコンサートホールで聴いているかのようなリッチな響きが得られる。その素晴らしい録音とサウンド、音場に魅せられ、どんどんRCOのカタログをコレクションししていった。

そうやってサラウンドで聴いているうちに、ついに気になってきたのがセンタースピーカーのクリプシュRC-62の実力。クリプシュのこのシリーズは勢い重視のジャズやロックを聴くにはなかなか良いスピーカーではあるんだけれど、弦楽器や木管の艶やかさといった繊細さの表現があまり得意ではなくフロントスピーカーのJBLと比較したときの落差が目立ってきてしまった。

JBL Project 1000 Arrayと音色の違和感がないようなセンター・ピーカーのグレードアップをどうしたら良いか。センタースピーカーの試聴はなかなか難しいので世評と推測で選ぶしかない。無難なのは同じJBLの製品と思い、LS Centerというスピーカーに照準を合わせるも、やや古い製品なだけに既に在庫がない。ELACやB&W、Monitor Audioという、本来は良い意味での個性を持つメーカーのスピーカーはJBLとの相性が合うのかどうか心配になる。例えばCM1を所有する身からするとB&WのCMシリーズは音の性格が違いすぎてとてもじゃないけど相性が良いとは思えない。

そしていろいろ迷っているうちに見つけたのがSONY SS-NA8ESという製品。このセンタースピーカーのレビューはまったく見つからないものの、同じシリーズのスピーカーの世評から、高音質でありながら自然で癖がなくコストパフォーマンスが高いことがなんとなく見えてくる。ソニーとしてもかなり力を入れて開発したという情報もちらりと見かけた。そもそも癖を求めず高品質でC/Pが良いという方向性は国内メーカーがもっとも得意とするところ。価格で2倍強というクラスアップ程度でも、大幅な音質アップが期待できそうだ。拙宅のラックに綺麗に収まる、このクラスとしてはコンパクトなサイズであることも魅力的とあって導入と相成った。

結果から言うと、これほど思い通りに鳴ったことはないというくらい狙っていた音、求めていた音が出てくれてた。もちろん運が良かったというのはあるかもしれない。でも好みの音を自分でしっかり自分で把握できているという自負はある。過去にスピーカー試聴をしてきた経験、それに加えて雑誌のレビューをどう読み取ったら良いのかという情報読解鍛錬の賜物ではないかと自画自賛したくなるほど、雑誌や口コミなど世間の情報だけで選んだ製品から理想的な音色と音質を得ることができてしまった。

オーケストラのマルチチャンネルではセンターにホルンや木管を配されることが多いんだけれど、これが実に艷やかで上質に響く。弦楽器の繊細な音も美しい。鼻にかかったようなややくぐもった響きを持つクリプシュと異なりクリアで鮮明、それでいて音像のコントラストが強すぎず、とにかく自然でバランスの良いサウンドを放つ。まさにクラシックにはピッタリの性格。万能のスタイルを持つだけにジャズの管楽器の表現もクリアかつリアルで、例えばトランペットの息継ぎや微妙な音のニュアンスまで鮮明に描き出す。低音域はJBLに比べれば厚みは劣るものの、引き締まったしっかりとした音を出してくれる。

JBL Project 1000 Arrayは、極低音域を中心に骨太な低音の充実に特徴があるものの、それ以外の要素は実にバランスの取れたスピーカーで、透明感がありながら刺々しさ皆無の自然で柔らかい高音域表現がそのバランス感を生み出す要因となっている。そういった特徴がSS-NA8ESと近いので、並べてマルチ・チャンネルで鳴らしても違和感が非常に少ない。

サラウンド環境のスピーカーは、バランスの心配をしなくて済むようにできれば同じシリーズで揃えたい。でも、限られた予算でステレオ再生の充実を目指すのならフロントスピーカーにできるだけ投資を厚くしたいと考えてしまうのが人情というものでしょう。一方で世間ではセンタースピーカーには良いものを使ったほうが良いという意見は少なくない。映画鑑賞ではセリフを筆頭にセンターから重要な音が出てくるケースは意外と多いからという理由は確かにその通りかもしれない。今回のセンタースピーカーのアップグレードで図らずともそれを実感することになった。セリフの明瞭さはもちろん、音楽や効果音のクリアさが格段に増して確実にワンランクアップ。センタースピーカーの充実で全体の音質が格上げされた印象すらある。

ソニーのこのシリーズは、恐らく他のスピーカーも同様の性質を持っていると思われ、極めてコストパフォーマンスが高いであろうことがなんとなく予想できる。音色にあまり個性がないのは人によってはむしろ魅力と感じられるはず。とにかく大変高品質でバランスが取れた良いスピーカーだと思う。

これで僕のスピーカー選びは「あがり」。そう納得できるほどこのスピーカーのクオリティは高く、大変満足できたアップグレードだった。

満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★★