Rock Listner's Guide To Jazz Music

プリメインアンプの導入 その1
(2008年12月)



お気に入りとなったスピーカー、クリプシュRF-82。それだけに鳴らしきりたい、という想いを叶えるためにアンプD-45を増強したものの、結果的には効果が得られたとは言い難かった。どうやら中途半端な投資でそんな欲を満たそうとしたのが間違いだったようです。

さて、今度こそ後悔しないアンプを選ぶべく何を重要視するかを考えた末に選んだのはクレルのKAV-400xiというモデル。実勢価格はロエベの高級ハンドバッグ程度と一般的常識からすると相当なものだけれど、ハイエンド・オーディオのメーカーである同社にとっては最も安いモデルにあたる(さらに低価格のS-300iというモデルが後に発売された)。

これだけの予算をもってすれば国産の王道であるアキュフェーズ、ラックスマン、マランツなどの高品質プリメインアンプも選択可能ではある。でも、僕は高品質でバランスが取れたアンプなんかには興味がない。クレルは精緻でパワフルという評判、でもあまり話題になっていないことから、きっとオールマイティではなく個性的なアンプではないかと思われる点に興味を惹かれた。外国製品らしくプリメインアンプながらボリュームとセレクター以外のコントロール機能は一切持たず、パワーアンプ的性格が強いところも惹かれた理由で、実際、シアター・スルー・モード(4つの入力端子それぞれに設定可能)にすればパワーアンプとして使用できることもAVアンプの増強用として申し分ない。

実はラックの空きポジションは高さが15センチしかなく、20万円以上のクラスのアンプでこのスペースに収まるものじたいが非常に少ないというの現実もあった。高さ僅か9センチのサイズでパワフルさを売りにしていることもこのアンプを選んだ理由です。

では実際に聴いてみてどうか。比較はオンキヨーTX-SA805。正直に告白すると、音を出し始めた瞬間には「う〜む、それほど変わらないかも」と焦りのようなものすら感じてしまった。クリプシュRF-82がそれほど情報量が多いスピーカーでないことも大きな要因のひとつでしょうが、先に結論めいたことを言ってしまうと、中の下クラスから上の下(上の上は際限なく上方に広い・・・)クラスのアンプにアップグレードしても一瞬にしてしてわかるほどの劇的な音質向上はないということ。

しかし、CD 1枚通して聴いてみると「やっぱり違うなあ」とわかってくる。楽器ひとつひとつの音の精緻さはやはり確実に向上している。それは単に音の輪郭がクッキリするということではなく、むしろ柔らかい音がしっかりと柔らかく表現できるという質の底上げを実感できる音質向上。ただ、それだけなら投資しただけの価値があるとは思えない。一番の違いは低音域のパワー。これまでもRF-82は十分な低音を出していると思っていたんですが、KAV-400Xiで鳴らすとさらに低い音域までがパワフルに鳴ってくれるようになる。しかも量感だけでなく芯のある低音が出てくるし、立ち上がりの速さが力強さをさらに印象付ける。

僕はもともと低音重視派で、それはロックやジャズといったビートの鋭い音楽を好むことに加え、音楽にとってリズムが非常に重要であると思っているから。そうでなくとも低音がしっかりしているオーディオは腰が安定してスケール感が圧倒的に増す。クレルが押し出す低音のパワーは音楽に力強さと躍動感を与えるのはもちろん、スケール感までをも広げ、個々の楽器の骨格までもが逞しくなったように感じさせる。低音を重視しない人には過剰にすら聴こえるかもしれないくらいですが、それこそがこのアンプの魅力でしょう。シアター・スルー・モードでパワーアンプとして使用して映画を観ても低域の充実が格別のスケール感をもたらしてくれます。

繰り返しになりますが、価格が約1/3のAVアンプ、TX-SA805と比べて圧倒的に大きく変わるわけではありません。しかし、大きくない違いが音楽の聴こえ方に少なからず影響を与えている。そこが誰にとっても価格差に応じた価値をもたらすかどうかは何とも言えませんが、僕はその「大きくない違い」に十分すぎるほど納得できました。とにかくベースの野太い唸りは低音重視派のロック、ジャズ好きにはおおいに魅力的。そのサイズと質感から、中古ショップで他のアンプに囲まれた時の存在感は絶望的に小さいけれど、そんな外見で判断するのは勿体ない逸材と言っておきましょう。

ところが、そのパワーによってRF-82が馬脚を現す場面に遭遇する機会が増えたのも事実。つまり低音の量感が過多な録音を聴くと制動しきれないシーンがやや目立つようになったということです。これは即ち、もっとパワーを要求する大型のスピーカーを楽々と駆動する可能性を秘めているということでしょう。将来性を考えた半一生モノのつもりで投資しただけに、その点でも納得できるアンプだと思っています。

ちなみに、B&W CM1も試しにクレルで鳴らしてみました。RCD-CX1で鳴らすのと比較してこちらも大きく変わったわけではありません。クリプシュを鳴らしたときに出た重低音はもともと小型のCM1では出ないのでそんなに影響がないかなと思ったんですが、音量を大きくしていくとベースの締まり具合と全体のスケール感に明確な差が出てきたということも付け加えておきましょう。

(追伸)後にJBL ARRAY 1000でTX-SA805とKAV-400Xiと聴き比べるとアンプの違いが明確に判りました。やはりスピーカーが良くないと違いが分かりづらいようです。なんと言ってもローエンドのパワーが圧倒的。しかも余裕を持ってダブつかせずに重みのある音で鳴らす。中高音域の解像度、情報量、滑らかさにも差があって、全体的により鮮明に音を出すところに格の違いを感じることができる。一方でソースによっては中音域がやや奥に定位する場面もある。全体としてクリアでソリッドな印象を与えるところがこのアンプのキャラクターと言えるでしょう。音場の表現は広がりより奥行き感が出る印象。

満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★