Rock Listner's Guide To Jazz Music

AVアンプの導入
(2007年8月)



せっかくデジタルWOWOWを契約したのに5.1chで放送されている番組が楽しめないのは非常に悔しい。そこでAVアンプを物色しはじめるとちょうどこの時期が製品の大きな変わり目であることがわかってきた。Blu-rayの世界ではDolby-TruHDやDTS-HD Master Audioというロスレスの新しい高音質フォーマットが収録されるようになりつつある、そしてそのデコードに対応したAVアンプがこれから続々と出てこようというタイミング。今思えばこの数ヶ月前にAVアンプを購入していたら、その後主流になるHD音声フォーマットに対応できない製品を買って泣きを見ていた可能性が高く、そういう意味では運が良かったのかもしれません。

しかし、当時にそれら最新の音声フォーマットに対応したAVアンプをいち早く店頭に並べていたのはオンキヨーのみ。その中から一番下のモデルTX-SA605の購入を決めかけたときにふと頭に欲望がよぎった。「上級のアンプならシアター用の安いスピーカーでも音楽を楽しめるかもしれない」。そこで雑誌などの評判も良かったTX-SA805を思い切って導入することに。

これでようやくWOWOWを5.1chサラウンドで鑑賞できるようになり大満足。そして驚いたのがペアで50,000円程度のフロント・スピーカーが生き生きと鳴り始めたこと。音のクリアさが大幅に向上、特に管楽器の響きのリアリティに歴然とした差がある。ショボイと思っていたこのスピーカーにこんなポテンシャルがあったとはと感心。DR-90は前項にも書いたとおり、DVDプレイヤーが40,000円くらいしていた時代に70,000円弱というプライスだったことを考えるとアンプ部にかかっているコストはたかが知れていると容易に想像できる。189,000円のプライスタグを付けるTX-SA805に換えて音が良くなるのは考えてみれば当たり前のことではあるけれど、AVアンプの入れ替えによる音質の向上は予想を超えていました。一般的に音を決めるのはスピーカーであってアンプは味付けが変わる程度と言われてはいますが、さすがに「一応5.1chで鳴ります」程度のものからミドルレンジ・クラスへのアップグレードは誰が聴いてもわかるくらいの音質差があったということです。

このTX-SA805は上位機種のTX-NA905と比較すると、映像のアップ・スケーリングなどの映像機能を搭載していないこと、端子の数が違うこと、トロイダル・トランスを装備していないことが違う程度で基本構造は同じ、それでいて価格はかなり抑えてある。電源部の違いがどの程度音質に差をもたらすのかはわからないけれど、恐らくそう大きくは違わないはずで映像のアップ・スケーリングが必要でなければコストパフォーマンスは抜群と言えるものでした。AVアンプはモデルチェンジが早く、すぐに陳腐化することを考えると、大きく値下がりした中古を購入しても悪い買い物じゃないと思います。

良いことだらけの新AVアンプの導入でしたが、これはちょっと許せないということも。映像をD端子で、音声を光ケーブルで接続したところ音声の遅延が著しい。音楽モノの映像を見ているとドラムの動きと音が明らかに合っていない。メーカーに確認したところ仕様という回答。後にHDMI接続に換えるとその遅れはほとんどわからないレベルになった。この現象は、光ケーブルとHDMIではアンプ内部で通る回路が違っていて光ケーブル経由の回路の方がより処理時間を要しているからと思われます。これを解決することが技術的にどのくらい難しいことなのか、どのくらいコストがかかるのかわからないけれど、音と映像に大きなズレがあるのは商品として欠陥だとすら思う。何よりも安価であることがウリであったDR-90でもそんなことはありませんでした。

もし技術的に解決不可能な問題でないとすると、メーカーは古い規格の練り込みに手間をかけずにもう見捨てているのかもしれない。儲けがあまり見込めず、アッという間に陳腐化していくAVアンプの開発コストに制約があるのは当然のことで、今後消えてゆく古い規格のための手間暇かけている余裕がないというのが現実でしょうか。発売してしばらく待てば信じがたいほど価格が下がるというメリットをユーザーは享受していますが、その裏返しとしてこのようなシワ寄せがあることも受け入れなければならないようです。

もう一点、このアンプは再生開始時に音の入力信号を判別している間、短時間ではあるけれど音が出てこない。つまりCDを再生すると最初の一音が出てこない。これは音楽を聴くには興醒めです。ディスクから最初に出てくる音は、そのアルバムを印象付ける重要なファクターにもなり得るもの。メーカーの言い分は「スピーカー保護のため」ということらしいんですが、音楽の魅力を削ぐこの仕様を歓迎する人など誰もいないでしょう。映画では最初に前置きがあるため無視できるんでしょうが、このような仕様が見過ごされているようでは、やはりAVアンプというのは音楽を聴くことを重視していないものなんだと評価されても仕方がないのではないかと思います。

(他機器入れ替え後の追伸)後に導入したよりハイ・グレード・アンプと比べてもTX-SA805の音質はなかなか侮れない。音色にあまり特徴がなく、やや音の滑らかさに欠け、重低音の再現性や中高音域のきめ細かさこそ劣るものの、解像感はまずます健闘していて、音にこだわらない人ならオーディオ用のアンプと違いがわからないと言うかもしれません。やや広がり感のある音場に映画再生を目的としている出自を感じさせるけれど、そこは好みの範疇で納得できる人も少なくないと思われます。ただ、この評価の前提はピュア・オーディオ・モードに限っての、そしてJBL Project 1000と Arrayいう情報量が多くて押し出しの強いスピーカーで鳴らした場合でのこと。解像感や情報量では決して褒められたものではないクリプシュRF-82をピュア・オーディオ・モードで鳴らすと音が痩せて聴こえていました。BASSとTREBLEの調整が効く、それ以外のモード(例えばステレオ・モード)を選択すると、音の傾向がガラリと変わり、派手な映画の効果音を上手く鳴らすためのシャリシャリした薄くて安っぽいチューニングの音になってしまう。クリプシュのようなタイプで相性が合えばそれが吉と出る可能性もあるとはいえ、情報量が多くクリアに鳴るスピーカーなら音質的にはピュア・オーディオ・モードがベスト、極低域の不足を補うためにサブ・ウーファーで補えば十分楽しめる音で鳴ってくれる。ただし、ピュア・オーディオ・モードを選ぶとサブ・ウーファー端子への出力がカットされてしまうので、フロント左右のプリアウト出力からの接続にする必要があります。

AVアンプの満足度:★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★★