Rock Listner's Guide To Jazz Music

CDプレイヤーの導入
(2009年2月)



他の項目でも書いている通り、CDプレイヤーというのはレコード・プレイヤーと比べれば機器による音質の差が極めて小さく、結構な価格差があってもその差はごく僅かだと僕は思っている。新宿のヨドバシカメラでマランツのSA7003(実売約50,000円弱)とSA-11S2(実売約400,000円弱)を試聴で少し聴き比べたこともあるけれど、確かにSA-11S2の方が音を鮮明に出すような気がするものの、気のせいでないと言い切る自信がない。家でじっくり聴けば違いがもう少しわかるかもしれないとはいえ、これだけの価格差を納得できるのはよほどのオーディオマニアに限られるでしょう。音質向上を目的としてCDプレイヤーに投資するのはコスト的にかなり非効率であるという事実をある程度わかった上で、それでも自身のオーディオ・システムの仕上げとしてハイグレードなCDプレイヤーの導入をあえて決意。

理想を言えばハイエンドのユニバーサル・プレイヤーが欲しい。少し譲ってマルチ・チャンネル再生をあきらめたとしてもSACDプレイヤーが欲しい。そう思っていたものの、よくよく考えてみると1200枚以上所有しているCDに対してSACDとDVD-Audioなんて合わせても10枚くらいしか持っていないし、今後欲しいタイトルがどんどんリリースされる気配もない。僕はSACDがそれほど高音質と感じていないし、SACDやDVD-Audioのためだけに一気に価格が跳ね上がるユニバーサル・プレヤー、あるいはSACDプレイヤーにこだわるのはナンセンス、ならばCDのポテンシャルを最大限に引き出すと言われる専用機の方が良いのではないかと考えが変わってきた。

CD専用機に絞って高級機を探すと選択肢は非常に多くなる。しかし、世評を見聞きしている限り、やはり国産メーカーの製品は個性に乏しいように思えてしまう。オーディオに限ったことではないけれど、国産品は信頼性と精度が高いものの、こと個性については誇れるような工業製品がほとんどないことを考えるとやはり外国製品に目が向く(僕はクルマも国産には魅力を感じないタイプ)。また、家の環境の都合とはいえ、ラックの空きスペースは既になく、工夫して手を加えたとしても高さが8.5センチ以下でないと導入できないという制約がある中、国産品はあまりにも筐体が大きすぎる。国産品が例外なく外見が立派で必要以上に大きいところは、「物量が投入されて豪華でこそ音がいい」というオーディオマニアの盲目的かつナンセンスな風潮が招いた結果であるように思えてなりません。

それはともかく、外国製品の中でもオーディオマニアから圧倒的な支持を受けているのがLINN。人の評価を信用しすぎるのは危険とは思うものの、LINNのことを悪く言う人は少ないというのは興味をそそる。アンプとスピーカーをここまでグレードアップした結果、望外にクリアになった音に温もりと色気が欲しくなってきた自分にとって、アナログ的な味わいと何より音楽的に表現すると評価されていることに惹かれてしまうし、外国製品では共用されることが多いドライブまで自社開発しているこだわりもにもシンパシーを感じる。

そしてIKEMIというCDプレイヤーを中古で購入。99年発売(2006年まで販売された)と既に10年近く前のモデルで使用年数が不明というリスクの代償として定価の1/3(それでもエッティンガーのフラップオーバー・ブリーフケース程度)で入手できた。

いざ自分のシステムで鳴らしてみる。あえて結果から言いましょう。購入価格がポールスミスの傘程度のパイオニアDV-600AVと変わらない。LINNのマニアから罵倒されるのを承知の上で言うと、「今まで聴こえなかった音が聴こえる」「中高音がクリアになった」「解像度が高く情報量が多い」などという変化はまったくない。それでもメゲずに同じ曲を何度も聴き比べてみると一応違いがあるようにも思えてくる。僕が感じ取れたのはIKEMIでは特にピアノや管楽器の音がわずかにマイルドで柔らかく聴こえるということ。解像度を落とせば音はマイルドになるけれど解像度はそのままにそういう音が出てくるのがIKEMIの特徴なのかなと感じた。一方で低音の出方にも違いがあってIKEMIの方がわずかに量感が少ない。ただし、それもこれも含めて「気のせいかも」と思えるような極めて僅かの差。とにかく音色や音楽表現に差がないというのはあまりにも悲しかった。

ある意味予想されたことではあったとはいえ、これだけ価格差のあるCDプレイヤーの違いというのはこの程度のものだということ。ブラインドで聴き分けできる人はかなり凄い耳の持ち主だと思う。その僅かな違いについても良し悪しというよりは好みの領域であってDV-600AVの方が音が良いと感じる人がいたとしても僕は驚かない。つまり、CDプレイヤーへの投資で音質向上や音色の変化を望むのはほとんど無駄、そういったものを求めるのなら違うところに投資した方が賢明だということ。いや、アナタは耳が悪いと言い出す人がいることでしょう。しかし、所有しているパイオニアのDV-600AVとハイエンドの雄、ゴールドムンドのEdios 20という140万円のソレの中身がほとんど同じというネット上では結構有名な話(http://homepage1.nifty.com/iberia/column_audio_goldmund.htm)があることも「CDプレイヤーなんてどれでもたいして変わらない」という事実を象徴しているように思えるし、実際に音を聴いているはずの評論家やユーザーが誰も「ゴールドムンドの音はローエンド・モデルとたいして変わらない」あるいは「似ている」と気付かなかった、いやそれどころかむしろ絶賛されていたという事実は、CDプレイヤーの差がその程度のものであることを象徴しているように思える。これをもって「実はDV-600AVが凄い」とどこまでもハイエンド応援団な人もいますが、実際のところ、CDプレイヤーのテクノロジー、そしてデジタルからアナログへの変換技術はもう完成され尽くしてしまっているということだと思います。

しつこいようだけれど、これだけの価格差があっても「音楽が違って聴こえてくる」というほどの差はないと断言します。ミドルレンジのアンプやスピーカーを使っていて次はCDプレイヤーに投資しようというアプローチはほとんど意味がなく、それならもう少し頑張ってスピーカーに、スピーカーが決まっている人はアンプのグレードを上げた方がいい。高級CDプレイヤーの音質がイイと言っている人の99%はプラシーボ、高い製品を手に入れたという満足感がそう聴かせているのだ思えてなりません。まあ、それもひとつの楽しみ方と言ってしまえばそれまでですが。

IKEMIリモコンでクレルのアンプのボリュームをコントロールできたという予想外のささやかな喜びはありましたが、そんな結果に終わったCDプレイヤーへの投資。聴きこんでいっても感じ方に変化がなく売却してしまいました。理想の音を求めるためには時に授業料も必要だということです。

満足度:★ コスト・パフォーマンス:★(中古価格としても)