Rock Listner's Guide To Jazz Music

スピーカーの入れ替え その1
(2007年10月)



AVアンプを入れ替えたことでホームシアター入門用クラスのスピーカーでここまでの音が鳴ってくれるとなると、より上位クラスのスピーカーを使えば本格的な音楽鑑賞に堪えるのではないかと今度は思いはじめ、5.1chスピーカーの総入れ替えを決意。

ネットや雑誌で評価が高いモニターオーディオのRSシリーズが候補に。ただし、音楽鑑賞におけるクオリティ・アップを目指すという狙い、言い換えるとフロント左右スピーカー重視の観点からするとセンター用とサラウンド用のスピーカーが高すぎて勿体ない。そして更に調べているとクリプシュというメーカーのスピーカーが浮上してきた。クリプシュは低音に迫力があり、活発な鳴りっぷりで評判になっているところが自分の嗜好に合っているだろうとと予想できたことと、実際に新宿のヨドバシカメラで試聴してみるとその通りの印象だったことが決め手となり導入決定。もちろん、センターとサラウンドのスピーカーの価格がRSシリーズより低めだったこともクリプシュを選んだ理由のひとつです。

尚、サブ・ウーファーはやはりヨドバシで試聴させてもらったヤマハのYST-SW1500に決定。サブ・ウーファーなんて設定で鳴り方を調整すれば同じようなものだろうということでどの機種でも良かったんですが、スピーカーとのバランスを取る意味で中級クラスの導入を決め、リモコンでカットオフ周波数と音量を調整できることに魅力を感じてこのモデルを選択。リモコン付きのサブ・ウーファーは実は少なく、ソースによって低音の出方が大きく異なる映画を観ながら、あるいはCDを聴きながらリスニング・ポイントで調整できないことをほとんどの人が受け入れているのは僕には不可解。あとこの製品は3つのメモリーが用意されていて、音楽用、映画用の好みの設定を瞬時に呼び出せるなど、とても使い勝手が良いところも美点です。

Klipsch RF-82F \186,900 (Pair)
Klipsch RC-62 \70,350
Klipsch RB-51 \56,700
YAMAHA YST-SW1500 \110,250(以上、定価)

ポイント込みで実売は、IWCの腕時計アクアタイマー程度。

事前に寸法を計算していたとはいえ、いざ家に搬入されるとその大きさにやや戸惑いました。フロント・スピーカーは奥行きが43センチもあるし、センター・スピーカーの大きさ(597W×203H×318D)と存在感はかなりのもの。この3つのスピーカーに囲まれた重量約90キロの36インチ・ブラウン管テレビが小さく見える。質感はほどほどで外見については残念ながらあまり強調できるポイントはありません。

CDを再生してみると廉価モデル・スピーカーからのアップグレードだけにやはり音質向上は目覚ましかった。ライヴ感のあるスピーカーという謳い文句に偽のない押し出し感のある鳴りっぷりに十分満足。そして何よりも驚いたのがトランペットやサックスの音の張りと艶、それに響き方。管楽器というのはこんなにも素晴らしい音がするのかという圧倒的な驚き。ホーン型ツイーターと相性がいいのかとにかく聴き惚れてしまうほど気持ち良く鳴ってくれる(尚、ウチのリビングは14畳。以降のコメントはその環境でのものということをお断わりしておきます)。

オーディオ雑誌のクリプシュの評価ではその鳴りっぷりの良さを認めつつ、解像度や繊細さはもうひとつと書かれることが多いけれど、エントリー・クラスのスピーカーと聴き比べると音の解像度が異次元と言ってもいいくらい違う。同じ価格帯のスピーカーなら方向性の違いこそあれ、エントリー・クラスよりも大幅なレベルアップが期待できるでしょう。

低音のボリューム感は定評通りでベースの響きが心地良い。その低音は伸びやかでスピード感も瞬発力も上々。ただし、バスドラムの音圧はそこそこ、またローエンドは意外と伸びません(後に換えたJBLと比較すると特に)。ピアノのタッチは鮮明で低音域の響きも雄大。高音もしっかりと出ていてシンバルの響きはかなり派手。鮮明度は中音域にも良い影響をもたらしていて、アコースティック・ギターの弦を弾く固い響きもシャープに描いてくれるし肉声をリアルに表現する力もある。エレキ・ギターの歪んだ音の濁り方も適度で荒々しさをしっかりと演出。鋭い音を描いてくれる一方で引き締めすぎていない適度な低音、ただ鮮明なだけでなく少し丸みのある僅かにくすんだ中音域によってウォームな響きも持ち合わせているし、エコーがかかった音処理の録音ではその余韻が尾を引くイメージでライヴハウスのような雰囲気を出す要因にもなっている。高音のキレと中低音のおおらかさ、オンマイクな録音のリアルさと残響音の余韻を表現するという相反する要素を持ち合わせていながらそれらを絶妙にバランスさせているところ、全体的にパワフルで音が前面に押し出してくる元気の良さがこのスピーカーの個性です。

弱点は、ある意味美点との裏返しになりますが、録音状態によっては管楽器の音がキツすぎると感じる場合があること。また、ピアノ、ヴィブラフォン、シンバルといった打楽器系の音にも僅かな歪みがあり、場面によっては刺すような鋭さを感じるときがある。つまり良い点も合わせてそれがこのツイーターの個性ということです。あとはベースの音域で制動しきれずにうまく鳴らしきれないことが稀にあることですが、このサイズのスピーカーでこのレベルの低音が良く出ていることとのトレードオフであれば納得できるレベルだし、録音状態によってはというあくまでも限定的な場面でしか気にならない程度。低音の響きがもたらす奥行き感は独特のものがあってその個性で音楽を楽しませてくれました。ブックシェルフ型のスピーカーと比べると音場が圧倒的に大きく、雄大なスケール感を得ることができるのは間違いありません(その分定位感がやや曖昧になるのは仕方のないところですが)。また、肉声にやや鼻にかかったような響きがあるのは一般的に言われるホーン型の特徴で、これも好みの分かれるところでしょう。

アンプTX-SA805とこのスピーカーで鳴らすジャズとロックはパワフルで躍動感に溢れていて本当に楽しい。TX-SA805の特性として筋肉質で俊敏、細かい音を表現できる解像度の高さとメリハリ感を評価されており、このスピーカーと相性が良いのかもしれない。いわゆるドンシャリ系とも言えるけれど、安価なオーディオにありがちな無理やり低音と高音を出している感じではないので、好みに合わない人は避ければ良いだけのこと。

それまで家にあった別室のオーディオ・システムと比較すると音の細部を描く力は劣っているし、繊細な音の表現力はやはり敵わない。とはいえその差は僕の感性にはさほど大きくはなく、それよりも全体としての音の鳴らし方の違いが大きいことの方が僕にとっては重要だった。別室オーディオ・セットの方はバランス良く全域にわたって綺麗に描く反面、癖がなく優等生的で大人しい(後にわかったことですが、あの組み合わせだと繊細で柔らかいクラシック向きサウンドになるらしい)。一方でTX-SA805+クリプシュは勢いと臨場感があって遙かに楽しく聴ける。サブ・ウーファーを加えてより低い音を深い音で鳴らすことができることもあって、ライヴ・ハウスに居るような音空間(広い音場)を作ることができるという点で別室オーディオ・セットを大きく上回っていました。いずれにしても個性がかなり違っていることは確かです。

話が前後しますがヤマハのYST-SW1500にも驚かされた。実はサブ・ウーファーなんてグレードを上げてもたいして変わらないと思っていたほど軽視していたんですが、実際に導入してみるとその重低音の響きと深さ、鳴りの余裕が以前のものと全く違っている。映画における低域効果音の再現性も異次元で、低く唸る重低音は文字通り地響きを思わせるレベル。以前のエントリー機はそれほど低くない音がただゴロゴロ鳴っていただけだったと今になってわかった。音の傾向としてはやや伸びのある響き方で低重心の空気感を作るところが得意と感じる。このような傾向を指して「締まりがない」とその性格を軽蔑する声が少なくないけれど、制御できずにだらしなく膨らんでいるわけでなく、ある程度の伸びやかさを狙ったものに思えるし、このくらい伸びてくれないとベースの響きをうまく表現できないから僕はこれでいい。ちなみに音楽再生時に使う場合にはカットオフ周波数を低く設定(50Hz)して音量もそれほど上げずに文字通り補助的に使っている。サブ・ウーファーを付けると、付けたという実感を得たいがためについつい強調したくなるけれど、そのような不自然な音場を僕は好まない。某掲示板ではビビリが出ると主張している人がいましたが、よほど大きな音を出さない(=不自然な音場にならないレベルで収めている)限りそのようなことはありません。

では、このスピーカーを使用してホームシアター・システム全体で映画を観た場合はどうか。音楽を聴くときの印象と同じで鮮明度が2ランクくらい上がった。やはり中高音がしっかりと表現できることが影響して「シュン」という風切り音やガラスが砕けるときのような効果音の再現性が飛躍的に向上。Blu-rayレコーダー、ソニーBDZ-X90を導入してDolby-TruHDやDTS-HD Master Audioを再生させてみるようになるとより顕著になり、映画再生にこれ以上のシステムは必要ないと思うほどの臨場感が楽しめる。こだわりの強い音質マニア、あるいは音の好みが合わないという人でもなければこのシステムで映画を観て不満を抱く人は少ないんじゃないかと思えるほどです。平均的な日本のリビングの広さなら、このくらい投資すればホームシアターとしてはかなりのモノが手に入ると個人的には達観してしまいました。

ここまでのグレードアップから感じたことは、とりあえず鳴ってくれる程度のエントリークラスからミドルクラスへのステップアップなら音にうるさくない人でもハッキリと感じ取れるくらいの投資に応じた音質の向上が見込めるということ。一方で後の体験から、ここから明確に誰にでも感じ取れるほどの音質向上を目指すには倍以上の投資が必要になります。つまり、ミドルクラスはそこそこの価格でなかなかの音質を備えた一番美味しいクラスで、マニアでない堅気の人にとっても手が届きやすい最もお勧めできるクラスではないかと思うのです。また当たり前のことですが、製品、特にスピーカーには明確な個性があるわけで個人的にはミドルクラス以上の製品なら、その特徴が自分の好みと合っているかどうかの方が重要だと思えてなりません。

たとえば、クリプシュRF-82と近い価格帯には競合製品が数多くあり、前出のモニターオーディオやB&W、ELACあたりだともっと解像感が高くてバランスも良く、癖のない音を出すでしょう。僕のように特に50〜60年代のジャズを当時の雰囲気を持たせながら躍動的に聴きたいのならクリプシュを勧められるけれど、もっと繊細で新しい録音の音楽を楽しみたいなら他の製品の方が良い可能性が高い。こうなるともう完全に好みの問題で、製品の性格と自分の好みが合えば価格以上の満足感を得ることができるのではないかと思います。

実際、このクリプシュを含むオーディオ・システムはジャズ喫茶や高級オーディオ専門店にあるタンスのような巨大かつ高額なスピーカーと比べて、重低音の厚みと剛健さこそ劣るものの、ホーンの鳴り方の鋭さに至っては勝っているとさえ感じるときがある。これはあくまでも僕の感覚でそう思っているだけのことですが、この価格でそこまでの満足感が得られたという経験から、好みに合ったスピーカーを選ぶことの重要性をこの場で強調しているというわけです。

正確さが際立ちながらも癖のない演奏家よりも、精度はそこそこでも他に得難い個性があって表現したいことが明確な演奏家の方が人を感動させるのと同じで、オーディオだって個性があった方が聴き手を楽しませると思う。でもオーディオマニアは得てして前者を好む傾向があるように思います。

より良い音を求めて更なるグレードアップを考えた場合、同じメーカーで同じシリーズの上位機への乗り換えなら基本的な性格を変えることなく音質の向上が見込める可能性が高いけれど、他社製品に換えるような場合、例え1本50万円のスピーカーでも好みに合っていなければ満足できないかもしれない。このあたりがオーディオの難しさです。

スピーカー・システムの満足度:★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★☆