Rock Listner's Guide To Jazz Music

プリメインアンプの導入 その2
(2009年2月)



クレルKAV-400Xi+JBL ARRAY 1000の組み合わせは、好みはともかく、多くの人を納得させるであろう質の高い音が出てくる。実際、オーディオに関心のない人に「うわあ、音がいいね」と言わせるくらいである。としかしソース(録音状態)によっては音がクリア過ぎて、「もう少しなんとかならないだろうか」と思うようところも出てきてしまった。アナログ的な音色を求めてLINN IKEMIを導入したもののまったくの期待外れ、やはり音色を求めるならばそのようなアンプを選ぶしかない。

そこで、個性的でコッテリした音色が固定ファンを掴んでいるマッキントッシュのアンプMA6900を導入してみた。無理やり機器を納めていたラックも新調して置くスペースも確保。

このMA6900はすべてにおいて「演出」のアンプと言える。物理的なサイズに加え、ロゴマークが光り、ブルーのイルミネーションが灯るパワー・メーターだけで圧倒的なプレゼンスがある。外板がなく、ヒートシンクが剥き出しになっている無骨な筐体も他のオーディオ機器とは異質な主張を感じる。僕はオーディオ機器の外観的な質感にはあまりこだわらない方だけれど、高級ともまた違うこの独特な存在感には確かに所有する悦びを感じることができる。また、このアンプはコントロール(プリ)部とパワー部が筐体内で接続されておらず、隣接するプリ出力端子とパワー入力端子をジャンパーで直結することによってプリメインアンプとして機能している。つまり、これも「独立したプリとメインをひとつの箱に収めたものなんですよ」という演出になっているわけです。

そして、最大の「演出」はなんと言ってもその音色に他ならない。

マッキントッシュのアンプは一部の下位モデルを除いて出力トランスが搭載されている。そもそも出力トランスとは非力な真空管アンプから大出力を取りだすためにあったもので、高音質化の観点からすると何のメリットもなく、難なく高出力を得られるようになった現代のトランジスタ・アンプにおいて採用しているメーカーは僕の知る限りありません(反面、真空管アンプにのほとんどには装備されている)。それを製品のアイデンティティとしてあえて搭載しているという点だけで、およそこのメーカーの指向性が予想できるというもの。

まずはトーン・コントロールをすべてニュートラルのポジションにして鳴らすと、Fレンジはそれほど広くなく、解像度もほどほどで全体にメリハリがない地味なサウンドが出てくる。しかし、このアンプの最大の面白さは5バンドのトーン・コントロールを駆使して好みの音を作れるところにある

どんなに優れた録音であっても自分の好みどおりの音のバランスで鳴ってくれるとは限らないし、部屋の環境によって異なる音の響きを調整するという意味でも本来トーン・コントロールは重要なものであるはず。一方で中級機以上のアンプでは音質を劣化させる余計な回路を通さないという理由でトーン・コントロールをバイパスしたり、省略されている場合があり、外国製品に至って付いているものをほとんど見かけない。しかし、トーン・コントロール部が介在することによる取るに足らない僅かな音質劣化よりも音のバランスを調整できるメリットの方が遥かに大きいと僕は思っています。

実際にMA6900はかなり自由に音作りができる。ごく大雑把に言うと、

30Hz:ベースの極低域

150Hz:ベースの中心音域

500Hz:サックス、ピアノやエレクトリック・ギターの低域

1500Hz:トランペット、ピアノやエレクトリック・ギターの高域

10KHz:シンバル(と透明な空気感)

といった感じでそれぞれの音をコントロール可能。楽器やヴォーカルに厚みを加えるのも引き気味にするのも自由自在。それぞれをうまく調整することで全体的な音の濃度もある程度調整できる。イコライザーは、いじり過ぎると不自然になるとはいえ、好みの音のバランスで聴く音楽が楽しくないわけがない。出力トランスを搭載したマッキントッシュのプリメインアンプということであれば、よりオールドスタイルな音色と言われるひとつ前のモデル、MA6800もありますが、こちらはBASSとTREBLEの標準的なトーン・コントロールを備えているだけであるために、このような楽しみ方はできない。購入時には迷いましたが、思い切って(中古でもクレルKAV-400xiの実勢価格程度の)MA6900にして本当に良かったと思っています。

アンプそのものが醸し出す音色はやはり独特でクレルとはまるで性格が異なる。KAV-400xiは低域のパワーが凄まじいだけでなく、全体の情報量も多く表現も鮮明で「ああ、イイ音するなあ」という瞬間をたびたび味わうことができる。一方でMA6900はトーン・コントロールをどのように操作してもクレルのような音にはならず、世間の評判通り厚みのある低域中域を中心としたバランスで表現され、音がまろやかでアナログ的な味わいがある。そして、この味わいこそがこのアンプの魅力。サックスやトロンボーンの豊潤な艶と厚み、70年代ロックのエレクトリック・ギターの柔らかみとワイルドさが際立って聴こえる。解像度が高くなくとも情報の密度が濃く、だからこそこのように音の滑らかさがしっかりと表現されるんでしょう。

思い起こせば、まだレコードしかなかった学生時代に初めて我が家にやってきたCDプレイヤーで最初に再生させたINXSの「Listen Like Thieves」。その冒頭ドラムのあまりにも鮮明な音に僕は腰を抜かすほど驚いた。しかし、解像度が高すぎる俗に言う「デジタル臭さ」が気になってCDに馴染むまでに数年も要した経験を持つ僕にとってMA6900のサウンドは懐かしい記憶を呼び醒ます。ノスタルジーとは技術的には後ろ向きなことではあるんだけれど、この味わいには独特の価値があると思う。

視点を変えてみると低音はやや締まりがなく(KAV-400xiと比べると極低域が出ない代わりにもう少し上の低域に厚みがある)、中高音域には独特の曇りがあるサウンドは解像度や音の分離性が不足しているということになるので、とにかく鮮明で先鋭的な音を、という人にはこのアンプはまったく勧められない。同じくらいの予算があれば、そのような好みの人には他にいくらでも選択肢があるでしょう。僕の想像では解像感や鮮明度の甘いスピーカー(例えばジャズ・ファンの間で黄金の組み合わせと言われているJBLのモニター・スピーカー)で鳴らすとコクが出過ぎてしまうような気もするけれど、アナログ的な味わいと中音域の濃密さを求める人にとってこのアンプは他に得難い魅力に溢れている。

このようにアンプという分野で突出した個性ががウリの製品とはいえ、こういった過剰な演出が鼻につくという人もいるでしょう。イルミネーションやパワー・メーターは音質とは何の関係もないし、常に右チャンネルの方がわずかに大きめな値を示すパワーメーターは正しいのかどうかさえ疑わしい。ヒートシンクをむき出しにしなくてはならないほどの発熱があるのかと思えば、ほんのり温かくなる程度でかなく、プリ部とメイン部をジャンパー接続するなんて入出力端子が無駄に塞がれているのと同じこと。出力トランスだって本来はトランジスタ・アンプには必要ない。

でも、それもこれも含めてすべてがマッキントッシュのアイデンティティ。嫌いな人は無視すればいいし、好みに合えば無理してでも手に入れる価値がある。

では「クレルとマッキントッシュのどちらが良いか」という展開に行きたくなりますが、表現が違いすぎて比較にならない。それぞれに持ち味が違うので実際の使用率も半々くらいという感じです。アナログ的な表現を持つMA6900は古い録音のCDを味わい深く聴かせてくれるものの、そのすべてに合うかといえばそんなことはなく、むしろ新しい録音で絶妙に柔らかみのある味わいを出すこともある。クレルで最新の録音のものを聴くと現代的でクリアな表現を聴かせる一方、56年前後の録音状態が良くないものを聴くと、古臭さが打ち消されてこんなに素晴らしい音がCDに封じ込められていたのかと驚くこともある。無論、どちらのアンプで聴いてもそれぞれにしっかりとしたサウンドが出てくるから、同じアルバムを違う味わいで楽しむこともできる。

オーディオマニアはどうしてもセパレート・アンプに走りたがるもので、セパレートでこそ上質なアンプと思っている人も少なくないようです。しかしソースはCD(やDAC)という現代において、レコード・プレイヤーから取り出した微小な信号を増幅する必要がなくなったプリアンプをパワー・アンプと別の筺体にして専用の電源部を与えることの優位性はほとんどなくなり、セパレートという形態が必ずしもハイ・クオリティを意味するものではなっている。また、いくら高級なセパレート・アンプでも、すべてのソースが自分の好みどおりに鳴ってくれはずはなく、ならば個性の異なるプリメインアンプを2台使い分ける方が贅沢な楽しみ方ができるのではないかと思うのです。
ちなみにMA6900をプリにKAV-400Xiをパワーにしてみると、MA6900がクリアかつパワフルなサウンドで鳴る。しかもイコライザーで色づけできるとあって、これはこれで面白い。このように「第3の音色」が作れることもまた楽しいものです。尚、「TX-SA805単体」と「TX-SA805プリ+KAV-400Xiパワー」の音質の違いよりも、「MA6900単体」と「MA6900プリ+KAV-400Xiパワー」の音質の違いの方が変化が大きくなるのは、マッキントッシュのサウンドを特徴付けているのがパワー・アンプ部(主に出力トランスか?)であることを推測させます。
(注意:他の項目でも書いていますが、実際に出ている音の80%はスピーカーが決めていて、アンプの割合は10%くらいというのが僕の考え、このページで書いているのはその10%についてです。アンプに力を入れるのはお気に入りのスピーカーが見つかってから、だと思います。)
満足度:★★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★(中古価格としても)