Rock Listner's Guide To Jazz Music

音楽よもやま話


ブートレグについて

あるミュージシャンにハマると、すべてのアルバムを揃えていくような求道者的聴き方をする人が行き着く世界のひとつにブートレグがあります。僕は基本的にはブートレグにはあまり肯定的ではありません。やはりアーティストの望んでいないものを勝手にこの世に出して、しかも著作権も守られていないというのは良くないからです、という建前は別にして本当の理由は、音質が悪く、値段が高いわりに、「これは!」というような内容のものが少ないからです。

ブートレグは当然アングラ的なものであるからして、貴重な音源を集めることを喜びとしている人がいるのはわかっていて、それを否定するつもりはありません。ただ僕は純粋に音楽を楽しみたいだけなので、ブートレグであっても音質評価の基準をオフィシャル盤と区別していない。ブートレグ・マニアは音の評価水準を独自に持っている(彼らは少々悪い音でも楽しんでしまう)ので、それを理解したうえでマニアの評価を受け止める必要があると思います。あとブートレグ初心者への注意点としてはショップの音質についてのコメント。僕の場合「最高級」「超高音質」「マスタークオリティ」と謳われているもの=鑑賞に耐えるレベルである可能性がある、「良好」=かなり悪いレベルで音のバランスが自分の好みに合っていれば辛うじて聴けるレベルかも、それ以下なら単なる記録、という感じで判断しています。あと、音質以上に問題なのは音(各楽器)のバランスで、これは好みが大きく関わってきます。音のバランスが好みでなければ、音がクリアでも良いと感じないし、好みに合っていれば少々コモリ気味でも楽しめたりします。とにかく音質に関しては自分以外の感覚はアテにならないと思っておいた方がいいです。このサイトで紹介しているブートレグには音質評価を付けています。ブートレグ初心者には最低でも星4つ以上のもの、音質への要求度が高い人は最低でも星4つ半以上でないと聴けないレベル。星5つでオフィシャル・レベルなので、ひとつでも減点があるということは悪い点があると考えてもらっていいです。ただし、あくまでも僕の感性での話なので参考程度にということで。

また、ブートレグの売り文句としては以下の点に注意しましょう。

マスタークオリティ・・・なんだか良さそうだけマどスターの音質が悪くても使える意味不明で便利な言葉。
過去最高の音質・・・過去の音質が酷ければ、少し良くなっただけでも使える便利な言葉。

いずれにしても、世の中、オーディオ・アクセサリーの効果や iPod のエンコード・ビットレートについて大騒ぎする人がいるかと思えば、劣悪なブートレグの音質で満足している人もいて、音質については本当に人それぞれだなあと思います。

基本的に、ブートレグはオフィシャル盤を聴き尽くした人が手を出すものだと思っていますが時には例外もあります。オフィシャル盤では発売されていないメンツで録音された記録がそれ。例えばジェフ・ベックが第2期から BBA に移行する途中のメンバーが混在していた時期の音源なんかがそうです。特にマイルス・デイヴィスのようにどんどん音楽性が変化していった人は、オフィシャルでは発売されなかったメンツでの音源が沢山あって、その音楽性の変遷を追おうと思った場合にブートレグは欠かせないものとなっています。


音楽のどこを聴いているのか

オーディオ環境の違いは別にして、CD から流れてくる音はすべての聴き手に平等に提供されている。超名盤に馴染めないものがあったり、無名盤に感動したりするのは音楽的な好みというのももちろんあるでしょうが、それ以外にも好みに左右される要因があることを意識している人は少ないように思えます。それは、流れている音楽のどこを聴いているのか、より具体的に言えばどの楽器をどのように聴いているのかということ。人間の視覚、聴覚は与えられた情報すべてを満遍なく感じるのではなく、集中力を注げるものから情報を感じ取ることは広く知られていることで、それはそのまま音楽にも当てはまるのは当然というもの。ある人はヴォーカルに、ある人はピアノに、またある人はベースやドラムの音を主に拾い上げて聴く。しかもその人なりの拾い方で。そうなると、同じ音を出しているはずの CD からの情報は聴き手の音の選別により、結果的に違うものとして聴こえているように思えてならないのです。

この観点で考えると録音状態というのも大きな意味を持ってくる。それはオーディオ的に優れているかどうかとはまた別の話として、あくまでも好みの問題として浮上してくるのです。それは、自分の拾い上げようとしている音がどのような音質と音量で聴こえてくるかということが聴き手に与える印象を大きく左右することになり得るということでもあります。

例えば僕の場合、ベースはバンド全体のグルーヴを決定付ける非常に重要な楽器と考えているために、ベースの音量が小さいというだけで魅力が薄れてしまうことが少なくない。ブートレグのライヴ音源は特にベースをうまく拾えていない、というか聴こえないものが少なくないために、僕にとっては鑑賞に耐える音源が非常に少ないという結果になるのは半ば必然と言えます。しかし、ベースを重要視していない人にとってはそんなことに関係なく楽しめてしまう。音が良い悪いという判断は単にクリアかどうかというだけでなく、聴きたい音がちゃんと聴こえてくるかということも聴き手は無意識に判別しているのではないかと思うのです。

ルディ・ヴァン・ゲルダーはジャズの録音エンジニアとして圧倒的な支持を受けています。僕も個人的には彼の録音、特にブルーノートでの録音が大好きなのですが、プロのミュージシャンの中にも苦言を呈する人がいる。そのくらい「音」に関する感性は個人差が大きく、その落差は時に音楽的な好み以上に聴き手に影響を与えるのではないでしょうか。

あるアーティストを新規開拓しようと、ある1枚を手にする。しかしどうもあまりピンと来ない。音楽的にピンと来ないからというのが一番の理由だと思われますが、ひょっとすると録音状態が好みに合わないということもあるかもしれない。1枚のアルバムからだけで合う、合わないを判断するのは早計という僕の意見は録音の質も含めての話なんです。


CDの意外な落とし穴

まだ CD などなかった時代に音楽が好きになった僕のような世代にとって、アルバムというのは40分前後のものでした。それが CD だと80分近くまで入ってしまう。しかも長時間収録しても音質が低下しない。音質だけでなくいいことだらけのように思える CD。ところが、いろいろ聴くようになるとアナログ時代のアルバムというのは実に聴きやすいと感じることに気づく。

一方で、現代のアルバムで収録時間一杯まで曲を詰め込んだものは、その存在の重さ故になかなか手が伸びないことにも気づきました。人間の集中力は30分程度しか持たないという説を考えると、実は40分という長さはちょうど良いんじゃないかと思うのです。作り手も、40分の中で工夫を凝らして作品を作り上げようとしていたアナログ時代に対し、CD の容量が空いていると手抜き商品と思われるという妙な脅迫概念があるのか、現在では、いかに曲を詰め込むかだけを考えてアルバムとしているものも少なくない。正直なところ、74分、飽きさせずに最後まで聴けるほど充実したアルバムは、ジャズでもロックでも、そうお目にかかることはありません。作り手の側で、聴く時間という観点から収録時間を意識している人はほとんどいないように思います。40分とは言いませんが、せめて60分未満でアルバムを作った方が聴き手に受け入れやすいと思うのですがいかがでしょうか、作り手の皆さん。

SACD、DVD-Audio、ハイレゾ音源

CD が登場して既に30年近い年月が経過、それまでのレコードと比べると取り扱いが格段に楽であり、音質も優れていることから今ではすっかり「録音された音楽メディア」のスタンダードとなりました。オプティカル・ディスク再生機で CD を再生できないものは存在しないわけですから、レコードなんて問題にならないほどの普及と言えるでしょう。製造コストの安さと、レコード会社の利益に対する考え方も変わり、輸入盤が簡単に手に入る現代では、歴史を彩ってきたかつての名盤が1枚1,000円未満で買えてしまう。近年は、ボックスセット化され、名盤の数々が1枚あたりの300円台なんてことすらあります。

CDを超える音質を実現するものとして、SACD、DVD-Audioが登場しましたが、一部マニア以外にはまったく浸透しませんでした。理由は簡単です。既にスペックで人間の聴覚を大幅に超えた領域までカバーしているCDより、音が良いと感じることができないから。強いて言えばサンプリング周波数が高いことは、元の音(当然全ての音声は本来アナログ)に近づくことに理論上なるわけですが、それとて人間が感じられるほどの違いがあるかどうかは疑問。実際そういった論文発表などは誰もしていない。効果がないことが証明されるとオーディオを生業としていくあまたの大手企業を敵に回すからあえてやらないんでしょう。オーディオ・マニアはプラシーボで「良くなった」と喜べるある意味幸せな人たちなのでこの際放っておきましょう。ちなみに古い録音に使用しているマイクは当然その時代のものであり、アナログテープをマスターとしている以上、CDよりハイスペック化しても音が良くなることは理論上ありえません。

いやいや、明らかに音が良くなっているじゃないか、と反論される方、まずはブラインドテストをやってみてからにしてみましょう。もちろん同じ音量を確保した上で。自動車教習所で習いましたよね?100キロでずっと走っていると60キロが遅く感じるということとか。先に聴いた音より、後で聴いた音の方が良く感じるなど、とにかく人間の感覚というのはいい加減なもの。それが人間という生き物なんですから別にオーディオに凝っているからといって違いが聴き分けられないことを恥じる必要なんてないんです。

とはいえ、一部には確かにCDより良く聴こえる物があります。これ、SACD化、DVD-Audio化するのあたりマスタリングからやり直しているんだと思います。つまり、SACDやDVD-Audioのスペックがもたらした音質向上ではない。証明することができないのであくまでも僕の推測ですが、モノによってはリマスタリングのクレジットもあります。

さて、最近は新たな高音質を売りにするものとしてハイレゾ音源が一部マニアに注目されてきました。これもいくつか試しで聴いてみました(拙宅の環境では96KHz/24bitまでが限界です)が、ほんの僅かにカドガ取れて音が丸くなったように感じる程度で、何度も聴き比べて「違うかも」という程度。ブラインドテストをしたら聴き分ける自信はありません。

こういったハイスペック音源は、リマスタリングされているか否かが明らかにされていないケースもあり、どの程度音質が向上しているかの判定が難しい。個人的にはCDの音源がひどかったハービー・ハンコックの「Maiden Voyage」なんかはリマスタリングで見違えるほどの音質向上を実現していて大変価値があると思うのですが、リマスタリングされていないと思われる音源のハイレゾ化は、そのアルバムをとにかく最良(に近い)音質で手元に置いておきたい、聴きたいという人以外には価値がないと思います。なにせ価格はCDの2倍〜3倍もするわけですから、音楽好き(未知の音楽を求めてどんどん音楽を購入する人)なら、新しいCDへの投資に回そうという考えるのがごく当たり前のことでしょう。
(2013年9月23日)