Rock Listner's Guide To Jazz Music

(番外編)プロジェクター
(2008年2月) 2台目
(2008年2月) 3台目



これまでのプロジェクター履歴は3台。

2004年の7月に日立のPJ-TX100J(実売20万円、解像度1280×720、コントラスト1,200:1)を導入。そもそもなぜプロジェクターを導入したかというと単に映画を大画面で見たかったら。そして画面の大きさを考えるとそれほどコストが高くないというだけというのがその理由。もともと画質にはこだわりがないし、DVDやアナログWOWOWで録画した映像を見るにはこれで十分でした。

一方で別の発見が。昨今のプロジェクターは多少明るい部屋でも見るに耐える画像を映す。とはいえ部屋を暗くしないとやはり美しい画質を望めない。暗ければ暗いほど奇麗に映るため、理想を言えば真っ暗な部屋が望ましい。したがって昼間観ようと思ったら遮光カーテンを導入する必要があるという面倒はあるけれど、部屋の暗さ故にいざ映画を見るときには映画だけに集中することになる。外の世界を一切遮断して「腰を据えて観る」という環境要因だけで映画を観るという行為がテレビで見るのとは別次元の贅沢なひとときになる。これは予想していなかった発見でした。

さて、特に不満は感じることもなくこのプロジェクターを使い続けて約3年弱。ところが WOWOWをデジタルに換えてハイビジョンで観れるようになると驚くほど画質が良くなったことで、フルハイビジョンのプロジェクターならそのポテンシャルをもっと引き出すことができるだろうなあと思うようになってきた。そんなあるとき、透過型液晶プロジェクターの宿命とも言える内部への埃の侵入によって、画面におぼろ月が浮かぶようになってしまったこともあって、フルハイビジョンのプロジェクターへの買い替えを決意。

選んだのはサンヨーのLP-Z2000。この製品に決めた一番の理由はフルハイビジョンのプロジェクターの中で一番安かったからという実に単純な理由。他にはレンズシフトの幅が広かったこと、またサンヨーは埃の対策が一番優れているという評判も大きな決め手になりました。

事前に新宿ヨドバシで見ていたとはいえ、映した瞬間からそれまでのPJ-TX100Jとは異次元の高画質に驚嘆。PJ-TX100Jは約3メートル離れた視聴場所からでもドット感が確認できたし、縦縞状のムラ、モアレがあった。これは恐らく多かれ少なかれ当時の同クラス製品共通の技術的限界だったと思われるんですが、LP-Z2000ではそれらが一切感じられない。画質に無頓着な人でも感動できるほどその差がはっきりとわかる。あと、よく雑誌のレビューに書かれている「黒が沈む」も肌で感じることができた。とにかく2004年当時の製品とは比べ物にならない進化。静寂性も飛躍的に向上。オートアイリスの動作音がそこそこ聞こえますがコントラストが大きく向上することとのトレードオフと考えればリーズナブルな範囲。どうしても気になる人はオフにすれば問題ないでしょう。

同じパネルを使用した他社製品の方が画質が良いのかもしれないけれど、自分にはこれで十分すぎるほど。当時、高画質プロジェクターとして確固たる評価を受けていたビクターのDLA-HD100とも店頭で比較して観ましたが僕はそれほど差を感じませんでした。今思うと2004年ころの透過型液晶のプロジェクターの画質は「プロジェクターはこの程度」というある種ガマンを強いるレベルだった。最近(2008年)のフルハイビジョン対応プロジェクターはそういう「この程度」というレベルは軽くクリアして既に画質については十分なクオリティに達していると言えるでしょう。画質に強いこだわりがある人はともかく、僕のように家電店に並んでいるテレビの(画作りはともかく)クオリティにそれほど差はないと感じる程度の一般的な人ならどのモデルを買っても満足できると思います。

他にLP-Z2000の良いところは自動シャッターがあること。悪いところはレンズシフトのダイヤルに遊びが大きく調整がしづらいところ、正面から見て左側は結構光が洩れることくらい。某掲示板で話題になっていたフォーカスずれ問題はときどき発生しますがほとんど気になりません。ウチは使うたびに引っぱり出して設置し直している、つまり観る前に毎回調整しているので参考にならないかもしれませんが。

LP-Z2000は20万円を切っている(2008年10月現在)という価格面の魅力も大きいコスト・パフォーマンスに優れたプロジェクターと言えます。

実は、故障で2週間ほど使えない時期がありましたが、リビングの42インチ・プラズマテレビでは映画を観るといういうよりはビデオを観る感覚になってしまい、代わりが務まりませんでした。拙宅の制約でスクリーンは80インチでしかないんですが、それでも部屋を暗くして大画面で観ることの意味の大きさを実感させられた次第です。映画好きなら絶対にプロジェクターでの鑑賞をお薦めします。

(追伸その1:サンヨーがついにコンシューマー向けプロジェクターから撤退してしまいました。今後は Panasonic にそのノウハウが注ぎ込まれることを祈りたいです)

(追伸その2):LP-Z2000の画質で一般人なら十分に満足できると僕は思うので、その後低価格化を進めればより多くの人にプロジェクターを楽しんでもらえたような気がしますが、どうせ(高ければ良いと思い込む傾向が強い)マニアしか買わないだろうと、こちらもオーディオと同様に高級路線に進み、今ではリーズナブルで良い製品がほとんどなくなってしまったのは残念なことです。

プロジェクターLP-Z2000の満足度:★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★★★


そのLP-Z2000も、気がつけば使い始めてから8年半が経過し、使用時間は1500時間を超過。遠くない将来に迎えるであろうランプ寿命の時期が来たとしても交換して使い続けようかなくらいのつもりでのんびりと構えている状態だった。そもそも家電店に行っても4Kテレビは遠巻きに眺める程度の関心で画質に大きなこだわりもなく、昨今のプロジェクターに投資するつもりもなかったから。

なにしろ、最近のプロジェクターはお値段が高い。ちょっと高い、どころではなくかなり高い。もともとプロジェクターは誰もが欲しがるようなものではなくマニア向け製品。フルハイビジョン・フィーバーでそれなりに売れたあとは地道な画質向上のモデルチェンジを重ねるのみとあって買い替え需要が少なく、市場がどんどん縮小。プロジェクターという家電は更にマニア向けとなり、海外メーカーを除けば今ではビクター、ソニー、エプソンの3社のみが細々と作り続けているのみ。4Kネイティヴのプロジェクターとなると更にマニア向けの高価な画質追求モデルばかり。こんな値段ではとてもじゃないけれど、気軽に買おうという気になれない。

そんなとき、2年前に発売されたソニーの4Kプロジェクターの最下位モデルで既に生産終了品であるVPL-VW315が、在庫処分的におよそ40%オフで売りに出されているのを発見。VPL-VW315(解像度4096×2160、コントラスト非公開、最大輝度:1500ルーメン)は、ファームウェアのアップデートでHDR対応となり、個人的にはスペックに不足なし。プロジェクター・ユーザーには憧れの反射型液晶パネル搭載機で4K云々以前にプロジェクターとしての基礎能力が高いことに疑いの余地はない。もちろん、40%オフでも一般人には呆れるような値段であることには変わりない。しかし、4Kプロジェクターがこれより安い価格で市場に出ていたことは恐らくこれまでにもなかっただろうし、少なくともこの先しばらくはこれより安く買える機会もないんじゃないかと思える(エントリー機に適した透過型液晶のネイティヴ4Kパネルはまだ存在しないし開発されているという情報も聞こえてこない)。

Ultra HDプレーヤーを導入し、「ラ・ラ・ランド」のUltra HD盤を購入して、しかし何の恩恵にも預かっていないどころかUHD盤を2Kディスプレイで観るとむしろ劣化(注:本稿最後に書いてある通り結果的に別原因だった)する事象を目の当たりにすると、薄っすらとモヤモヤした感情が心のどこかに居座り始める。UBP-X800の特典で「パッセンジャー」UHD盤も無料で配布されることになっていて、ディスプレイが対応していないことは、まるでパズルのピースがひとつだけ欠けているかのような気分になりつつあった、そんなときに現れた在庫処分品。「LP-Z2000はだいぶパネルが劣化して色ムラが出始めているなあ」「ランプもそのうち交換しないといけないし」「フォーカスずれの持病と付き合い続けるのも微妙に疲れてきたなあ」「そもそもサンヨー製品は故障したらもう直してもらえないかも(実際、パナソニックになってから一度修理に出したときには対応が悪かった)」とLP-Z2000を使い続けるデメリットを並べ、在庫処分品の購入を決定。本当は4Kで見るためにはAVアンプも対応している必要があるものの、それを見越してかUBP-X800にはHDMIが2ポートあって、アンプを買い替えなくて済むことがわかったのも購入を後押し。

こうしてやってきたVPL-VW315。

まず、ふた回り大きくなったサイズは視聴時の設置場所では困らなかったものの、非視聴時の収納ではこれまでのラックに入らなかったので他の収納場所を空けてなんとか確保。やはりLCOSのプロジェクターは大きい。重さは2倍の14キロになって視聴のたびに毎回引き出す拙宅の運用ではやや負担増といった感じ。

仕様上の騒音が19dBから26dBとかなり大きくなってしまうことを懸念していた通り、確かに動作音は以前より大きく感じられるようになった。まあ、ウチは機器と視聴位置が1メートル程度離れているのでランプモード「低」であればそれほど気にならないけれど、強いて言えばここが唯一の不満かも。

以下、画質について。

画質は、世代の違い、パネルの違いで、LP-Z2000と比べると大幅に向上。LP-Z2000ではスクリーンに寄ると見えた格子柄(画素間の隙間)は、かなり近寄っても認識できないレベルで、ここが画質の精細さとなって現れているんでしょう。明るさもスペック通り十分な輝度。発色は妙な強調感がなく自然な感じであるところが個人的には好ましい。上位機種から(そしてLP-Z2000にはあった)オートアイリス機能が省かれているものの、もともとあまり好きな機能ではない(字幕の明るさが変わったり、短時間に輝度が繰り返し変化するとアイリス調整の音がカチャカチャとうるさかったり)し、固定アイリスでも十分に高コントラストで、黒の沈み込みも、画質にそれほどのこだわりがない僕には十分。やはりパネルの基礎能力が違うのは大きく、画質にまったく関心がない妻でさえも「わあ綺麗!」と言うくらいLP-Z2000との差は歴然としたものがある。DVD解像度+αのWooo PJ-TX100JからフルハイビジョンのLP-Z2000にしたときに「テレビに近い感覚で観れる画質」と感じた画質は「テレビの画質に肉薄する鮮明で精緻な画質」へと進化。上級クラスのプロジェクターの地力は、なるほど高価なだけはあるという説得力があった。

4Kソースの再現性はどうか。UHD盤「パッセンジャー」で、プレイヤー側の解像度設定を4Kにしたときと2Kにしたときで比較。2K出力ではHDRではなくSDR(スタンダード・ダイナミックレンジ)となるため、4Kも合わせてSDR設定にしての確認。結論から言うと解像度の差がよくわからず、正直なところ見分けがつかない。よほどの画質マニアでないと違いはわからないように思える。

2Kで解像度が十分でプロジェクターの基礎性能の向上を望むのであれば、VPL-VW315と同時期発売で価格が半分ほどになるSONY VLP-HW60で十分だったのではないか?そうなると4Kプレーヤー、4Kソフトを味わうために購入したVPL-VW315は過剰な投資だったのではないか?とイヤ〜な汗が出てきそうになってくる。

しかし、HDR機能が入ってくると事情が変わる。

まず、SDRからHDRをオンにすると誰もがわかるくらいに画面全体がだいぶ暗くなる。プロジェクターであれば暗室環境でないとしっかりと描写できないのではないかと思われるレベルで暗くなり、部屋が明るい環境で使っている人、明るい画面を好む人には「こんなに暗くては見れたもんじゃない」という声も聞こえてきそう。しかし、それは暗部を暗く表現できるようになったと見ることもできる。「ラ・ラ・ランド」の冒頭シーンは、ロサンゼルスの明るい日差しを後ろから受ける人物のカメラアングルが多くあり、逆光になるために顔がだいぶ暗めに描写される。SDRだと顔の表情はある程度わかりやすい明るさである反面、部屋の照明を付けたときのように画面全体が白浮きしたような画像になり、HDRオンのときには黒がぐっと沈み、逆光のときの顔が暗くなって表情がわかりづらくなる。

これはつまり、HDRが暗いということがひとつの事実としてある一方、SDRだと暗いところが黒潰れしやすいために全体の輝度を上げてることでそれを回避しているのではないかという見方ができる。また、HDRでも顔が暗めに映るのは、強い日差しの逆光ではそれが本来の画であるとも考えられる。更に、SDRでは白に近い青空がHDRだとより青く、SDRではうっすらとしか見えなかった雲がHDRではよりハッキリと見えるようなるという違いも確認できる。SDRでディスプレイの輝度を落としてもこの雲が大幅に明瞭に見えるようになるわけではなく、このあたりもHDRならではの表現力ということになるでしょう。宇宙の真っ黒な空間描写が多く出てくる「パッセンジャー」では、HDRでは深い黒で描写できるところが、SDRでは白浮きし、感度を落としたフィルムのようなざらついたノイジーな描写になるところも大きな違いとして挙げられる。

尚、「ラ・ラ・ランド」で、Ultra HD盤とブルーレイ盤の輝度比較をすると、画面が明るい順(UBP-X800のHDRソフト表示設定標準のとき)に

Ultra HD SDR > ブルーレイ(=SDR)>>> Ultra HD HDR

となっていて、明るいものほど白潰れしてディテールの表現を損なっており、暗い部分が白浮きしていることがわかる。Ultra HDでの微細な描写はHDRでこそ、より効果が出やすい。一方で、HDRは画面全体が暗くなり、理屈の上ではその暗い部分が黒潰れせずに表現できる筈のところ、その効果はそれほど感じんし。ディスプレイ側の技術なのか、ソフトの作り込みの問題なのかわからないけれど、HDRはまだ技術的に未完成(そもそもプロジェクターではHDRを表現する輝度が足りないと言われている)で、場面によっては描写が望ましくないということもあるんじゃないか、というのが僕の想像。少なくとも僕が目を通した雑誌では実際にディスプレイに写っているSDRとHDRの画面比較紹介写真がなく、イメージ画での比較しかないのは、すべての面でHDRが優れているとまでは言えないからという気もする(広告主にとってネガティヴな情報に成り得るものを雑誌が掲載するとは思えない)。

まとめると、単なる4K解像度にはブルーレイ2Kからのアドバンテージをほとんど感じられなかったものの、HDRを含めた総合的な画質では4Kディスプレイでしか表現できない描写がある、というのが僕の感想。

このように、プロジェクターとしての基礎能力の高さと、HDR対応のプロジェクターならではの表現があるという画質のメリットは確かに価値がある。でも、従来の2Kディスプレイ、ブルーレイと比較して価格差相応に映像表現の飛躍的向上(大袈裟に言うならば視覚的感動)があるかと訊かれると、少々微妙で、やはり4Kネイティヴ・プロジェクターの価格がもう少し下がってこないと、胸を張って「かなりお勧めです」とまでは僕は言えない。とはいえ、これまでより確実に画質が上がったVPL-VW315で観る映画は、映像の表現としてのレベルが従来機と大きく違うことは間違いなく、この世界を味わってしまうと元には戻れないと思ってしまうのも正直なところ。

ところで・・・4Kプロジェクターに入れ替えるきっかけになった、Ultra HD盤を2Kディスプレイで再生するときに発生する暗部の階調破綻現象(バンディングと言うらしい)は、VPL-VW315をポチった翌日に、プレーヤーUBP-X800のファームウェア・アップデート通知がソニーからあり、「HDRコンテンツ再生時に、色合いが適切に再現されない場合があることの改善」が含まれていて、あれ、これってまさにビンゴなのでは思ってアップデートしてみたらナント改善されてしまった。アップデート前にVPL-VW315への4K出力でも現象が確認できたのでこれはもうUBP-X800の問題で確定。この現象がなかったらプロジェクターを買い替えようと思っていなかったかも、と思っても後の祭り。まあ、LP-Z2000の余命もそれほど長いわけではなく、タイミング良く割安で4K LCOSプロジェクターを購入できたということでこれも何かの巡り合わせと思うことで自分を納得させるしかない。この素晴らしい画質で映画を存分に味わえるのは大いなるの喜びで、家で映画を観ることがより楽しみになった。

プロジェクターVPL-VW315の満足度:★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★