Rock Listner's Guide To Jazz Music

リア・スピーカーの入れ替え
(2015年8月)



拙宅は普通の3LDKのマンションでごく平均的なリビングでプロジェクターとサラウンド環境のホームシアターを楽しんでいる。リビングをシアターにするということはそれなりの代償が当然あって、常時置きっぱなしにするわけにはいかないプロジェクターとリアスピーカーは普段は然るべきところに収納、その都度設置するという面倒を余儀なくされている。リアスピーカーはオーディオの脇や後ろに隠してあるところから引っ張り出し、然るべきところに設置するんだけれども、いずれもある程度の高さが必要なため、ダンボール箱を置いてからその上に置くという手間のかかることをしなくてはならない。プロジェクターやリアスピーカーだけでなく土台となるダンボールまで別室から運び出していて、映画を見る時には毎回リビングとの間を何往復もしながらドタバタとやっている。

とはいえ、週末に観る映画だけのためならそれほど苦にならない。ところがクラシックを聴くようになってから、マルチ・チャンネルのSACDが増えてきて、それを聴きたいときが増えてきたので、こうなるとリアスピーカーをいちいち設置するのがいよいよ面倒だと思うようになってきた。

もともとリア・スピーカーとして使用しているKlipsch RB-51というブックシェルフ型スピーカーはそれほどクリアな音を聴かせるものではないということもあって、必要なときに容易にセッティングできて、あわよくば音質もグレードアップできるものがないかと探してみる。

選んだのはKEF T301という、壁掛けできる薄さと軽さをウリにした縦長スピーカー。この製品はホームシアター用のセットものでありながら単品でも購入できる。高さもそれなりにあるので、リアスピーカーを置く場所にダンボールのような土台をいちいち置かなくても良さそうだし、軽いので使わないときに片付けるのも楽そうだ。

ところが調べてみると音質についてのレビューがまったくと言っていいほどない。どうやらオーディオ・メディアにもオーディオ・マニアにも注目されていないらしい。試聴できるところもなさそうで音質の傾向を掴む手段がないので、本当にこの製品で良いのかという懸念を払拭できない。これがスピーカー選びの難しいところ。なにしろ音色は好みと合うかが極めて重要なため、試聴せずに購入するのは「エイヤッ」の気合いと覚悟が要る。とはいえ、僕が求めている設置性の観点で他に代わりになる製品は他になさそうで、定評あるブランドKEFであることと、米アマゾンの評価が高いことを信用して購入に踏み切った。

商品が到着。なるほど、確かに薄くてスタイリッシュ。

まずは単体で音を確認してみる。寝室にあるセカンド・オーディオのDENON RCD-CX1に、普段使っているB&W CM1と入れ替えて試聴してみた。音が出た瞬間・・・正直なところ「これは失敗したかも」と思った。もちろんある程度予想していたとはいえ低音域が想像以上に弱い。なんだか芯が詰まっていない中身スカスカの全体に薄っぺらな音が出てくる。サイズの割にはローエンドの音域までよく出ていて厚みと深みのある低音を聴かせるCM1と比べるとその差は歴然としていて、オーケストラのコントラバスやジャズのウッドベースの響きは非常に弱々しく、ある程度音量を上げないとそれらの実体感が出てこない。また解像度も低く、オーケストラの弦の美しさや、金管楽器の艶もほどほど。まあ、それほど高価な製品ではないので高音域はこんなものかもしれないし、キンキンした高音よりもこの方が自然ではある。しかし、CM1よりやや価格帯が低いとはいえ、高音域を含めオーディオ的パフォーマンスは残念と言わざるを得ない。一般的なブックシェルフ型のスピーカーとは音の傾向がまったく違うので、なにはともあれ違和感が残るところからはじまってしまい、音づくりの個性を楽しむという気持ちにもなれなかった。それでもしばらく聴いて慣れてくるとそれなりに良いところも見え、木管楽器の艶の表現などはなかなか上手く表現できていることも感じられるようになってきた。

つまり、この製品はやはりセットもの前提ということで、サブウーファーの助けを前提とした音作りがされているということ。壁掛けでスタイリッシュにセッティングすることもこの製品の狙いであり、薄さが最優先されている。この薄さに「それでもある程度の低音は出てくれるのでは?」と期待した僕が間違っていたようだ。KEFはBOSEのように「サイズから想像するよりも力感のある低音を」という考え方はしていないように見える。無理に低音を稼いで中高音の見通しを悪くすることは避けたかったのかもしれない。このように割りきった設計の製品であるため、純粋に音楽を聴くためのステレオ・スピーカーとしてこの製品を高く評価する人はたぶんいないと思う。

と、ここまでは悪態をついてきたけれども、そもそも購入した目的は拙宅でのサラウンド用リアスピーカー。どっしりした低音を余裕で鳴らすJBLのフロントスピーカーにサブウーファーもある拙宅のシステムでは少なくともサラウンド用のスピーカーに低音は必要ない。マルチチャンネル録音のオーケストラものではホールのように全体の響きをサポートしてくれて、特に金管と木管の響きが伝わってきて欲しいところなんだけれども、その点でKEF T301は悪くない。拙宅ではサラウンド用スピーカーをやや後方においていることもあって、直接音が耳に入る要素が少なく、解像度がそれほど高くないことも特に気にならない。映画でも効果音が中心なのでまったく問題なし。Klipschよりも少しだけ上の価格帯でありながらクオリティアップを実感できるほどではなかったのは、コンセプトの違いによるものであり、まあ仕方がないかなと言ったところ。

もちろん、狙ったポイントである設置の容易さは期待通りで、重量が1.5キロしかないこと、ダンボールなどの土台を用意せずともそのまま置くだけで適切なポジションに収まるようになったため、聴きたいときに気軽にセッティングできるようになった。少々大げさに言うなら、これまでは「マルチチャンネルの音源を聴こう」という決心が必要だったものが、思いつきで聴く行為に到れる様になったという精神的な軽さが個人的には大きな収穫であり、当初から狙ったものであった。視聴時だけの設置とはいえ、見た目もスッキリするので、外観を気にする人もきっとこの形状を支持することでしょう。

満足度:★★★ コスト・パフォーマンス:★★★