Rock Listner's Guide To Jazz Music

セカンド・オーディオ・システム
(2008年10月)



寝室用のオーディオとしてBOSEのWave Radio/CDを使用。購入は確か2000年くらいで就寝前のリスニング用として使い倒してきました。アメリカのテレビドラマや映画でもベッドサイドに置いてあるシーンを良く見かける通り、寝室用に最適なベストセラー・モデル。この小ささで低音の量感がたっぷりあるのはさすがBOSEという感じで、それこそがこの製品のウリ。一方で常識を超えた大音量で鳴らしても歪まずに鳴らしきるところも立派。ベースが大きめの音量バランスで録音されたものだと低音が強調されすぎて制動しきれないこともありますが、このサイズでこの量感の低音を出していることを考れば仕方がないことでしょう。

6センチのフルレンジ・ユニット構成ということもあり、ローエンドとハイエンドの音域は潔くあきらめていて解像感もほどほど。中音域はツボにハマっているところはなかなかリアリティがあってどちらかと言えば楽器の数が少ない方が得意。独特の音場感と元気な鳴りっぷりが魅力の個性的なオーディオ製品と言える。その自慢の低音は内部のウェーブガイドによる生成という特性上、あまり締まりはなく豊かに響かせるタイプ。もともと「コンサートホールで耳に届く音の音の90%以上は間接音」という理論に基づいた、直接音による表現よりも響かせ方に特徴があるその「BOSEサウンド」はHi-Fi追及のオーディオ的な観点からはあまり評価が高くない。しかし、解像感が控え目ゆえに音に温かみがあり、小音量でも低域が不足しないという音のキャラクターは、睡眠前に音量を控えて軽く音楽を流すのにも都合が良く、CDをかけっぱなしで眠った場合にオートオフで電源が切れることも含めてベッドサイド用オーディオ機器としてとても良くできている。音楽をカジュアルに良い音で楽しみたいという層にはなかなか良い製品だと思います。

しかし、ホームシアター・セットのクオリティが上がったために相対的にその解像感に不満が出てくるようになってしまったのも事実。Wave Radio/CDはサイズに似合わない音場の広がりに特徴があるとはいえ左右のスピーカーの距離が30センチ程度という物理的な制約から、中音域以上の立体感の乏しさは如何ともしがたい(あえて例えれば広がり感のあるモノラルのような感じ)という欠点がある。また、リビングのホームシアター・セットは家族がテレビを見ているときには当然聴くことができなかったため、寝室でもよりHi−Fiな音響を楽しめるようにしたいという思いが強くなってきたのです。

そこで、Wave Radio/CDよりも高解像度で低音も見劣りせず、リビングのシアター・セットとも違う性格を持つサブ・オーディオ環境の構築を検討することに。設置スペースはスピーカーと合わせても横70センチ×奥行き35センチ以下が必須という限られた条件で製品選びに入りました。

まず、省スペースで汎用ミニ・コンポよりも上質な再生機として次のような製品がリストに挙がってきた(あくまでも2008年10月当時の話)。

LINN CLASSIK MUSIC

CARAT I57

SONY TA-F501+SCD-X501

Aura note CD/AMP Completer

DENON RCD-CX1

KENWOOD R-K1

BOSE WBS-1EX IV

LINNは予算を大幅にオーバー。CARATは実際に聴いて自然で癖がなく自分の用途を考えると十分高音質と思いつつやはり予算オーバー。聴きながら眠ってしまった場合に電源が切れてくれるタイマー機能があること条件にすると評価の高いSONYも選択肢から外れる。Aura noteは音質よりもデザインで評価されているように思えるし、KENWOODは筐体の奥行きが深すぎてカッコ悪いデザインが受け入れがたく、BOSEサウンドをあえてもうひとつ加えるほどBOSEマニアでもない。というわけで意外とあっさりとデノンに落ち着く。もともとこの種の製品は高音質をストイックに追及したものではなく、高級オーディオまでは要らないけれど普及版ミニ・コンポでは満足しきれないというニッチ層を狙ったもの。恐らくLINNやCARATと比べて価格差ほどの音質差はないと判断したのもデノンを選んだ理由です。しかもスペースファクターの点で最も優れているとうのも今回の目的に合っている。強いて言えば面白みのないデザインが所有する喜びに結び付かないところが欠点でしょうか(そんなところがデノンらしいけれど)。

問題は把握しきれないほど多くのモデルがラインナップされているブックシェルフ型スピーカー。個人的には音の80%はスピーカーが決めている(残りの10%はアンプ、10%は部屋とスピーカーのセッティング、CDプレイヤーはほとんど関係なし)と思っているほど重要なものだけに選びがいもあるというもの。ブックシェルフ型でペア15万円以下、そして横幅20センチ以下という条件を付けてもかなりの選択肢がある。以下、試聴したときのレビューを書き連ねてみます。ただし、それぞれ2〜6曲程度の試聴でショップという特殊環境での、という限定された条件、そしてもちろん100%主観であるということをお断りしておきます。試聴に使ったディスクはMiles Davisの「Miles Smiles」とFreddie Hubbardの「Here And Stay」のそれぞれ冒頭3曲で主にトランペットやサックス、ピアノの響きや質感、ベース、ドラムの量感と反応と響き方、さらにシンバルのキレと鮮明度を中心にチェック。楽器の音が重なったときの音の分離性、また就寝前に聴くことも想定して小音量時に音のバランスがどう変わるかも合わせてチェック。もちろん選択にあたっては音のディテールよりも全体の鳴り方を一番重要視しました。

47研究所 MODEL4722 "LENS"

フルレンジ一発構成の個性派。某雑誌で絶賛されていたので聴いてみましたが、やはりFレンジは狭く特に小音量時の低音不足は如何ともしがたい。サックスの音の艶はなかなか聴かせてくれましたが、Hi-Fiの観点から見るとお世辞にも高音質とは言えない。フルレンジの個性が好きな一部のマニア向けでしょう。

PIEGA TS 3

比較試聴した中では断然小さいモデルながら低音の量感は上位に来る。このサイズで空間の表現もなかなかだしシンバルの響きも上々。ホーンの艶や輝きもよく出てくるものの少しねっとりした感じのクセを感じる。押しが強いようでいて音にはある種の柔らかさもあるところがこのスピーカーの性格か。音全体に個性と主張があるので購入を検討されている方は試聴で確認した方がいいと思います。もちろん重低音の音域は望めないもののパワフルに鳴ってくれるためにかなり心を奪われた一品。

B&W 686

上下ともにFレンジはそれほどでもないし解像感もほどほど。その分中庸で聴きやすいところがいい。質が低いというよりはこの製品の個性ということでしょう。刺激を好む人、繊細な音を追及する人には物足りないでしょうが価格を考えるとこれだけの音がするのはなかなか立派だと思います。汎用ミニ・コンポより少し上の音をという人には良い選択ではないでしょうか。

Vienna Acoustic Model S-1G

クラシック系の音を得意とするという評判の縦長のスピーカー。その評判通り全体にバランスが良く美しい響きが特徴。Fレンジもなかなか広くどの音も奇麗に描く整った音は実に魅力的。当然音の傾向は柔らかい部類に入りますが解像感もあるためにボヤけた印象を与えないところがいい。ベースの躍動感に重きを置く僕にとっては低音がやや控え目であったために見送りましたが、聴き疲れしない上品な音は他のスピーカーにない個性でその種の音を求めている人にお勧めできます。

DENON SC-CX303

いわゆる「チリン、シャリン」系の打楽器、効果音が前面に出る。管楽器もクリアに出るし低音の出方も立派でサイズの割にスケール感もあって音質としは良いのだけれど、全体として聴いた場合に各音の出し方のバランスや一体感には違和感を感じてしまったのでどこか自分の好みと合わなかったんでしょう。音の傾向としてジャズには向いていると思います。

ELAC BS243

小型ブックシェルフ型の中ではスペース・ファクターに優れる。このサイズでスケール感と広がりのある音場を描くのは驚き。高音がクリアで解像感、透明感が秀逸。シンバルの音も鮮やかでトランペットの煌びやかさもグイグイと前に出してくる。ソースが持っている音を余すことなく描き出し、いわゆる「これまで聴こえなかった音が聴こえてくる」と思わせてくれるという意味では試聴した中では突出していてオーディオに興味がない人でもイイ音と思えるわかりやすさがある。低音の量感、締まり具合、スピード感も立派。ピアノ・トリオのような音数が少ないソースも明快に、大編成のコンボでも楽器の音を描き分ける高い分解能をもって余裕たっぷりに鳴らしてくれそう。あらゆる音にメリハリがあり人気があるのも納得です。解像感が高い割にはキンキンして刺々しいところがあまりなく、サッパリとしたところが魅力。本来は脇役的な音でさえも奇麗に出しすぎてしまうところを良いと感じるか不自然と感じるかは人によるでしょう。この爽快な解像感が個性と言える反面、音の演出という意味では淡泊と感じました。

DALI MenuetU

サイズはブックシェルフ型の中でも小さい部類に入り、ELAC BS243の後に聴くと解像度とリアリティ、そして低音の量感も明らかに劣る。音場の広さ、スケール感もELAC BS243に遠く及ばず箱庭的。ただし、しばらく聴いていると印象が変わってきた。低音はサイズの割にはそこそこ出ているしスピード感もまずまず、中高音は鮮明度が劣るというよりは芳醇で柔らかく温もりのある音を持ち味としていることがわかる。一聴するとトランペットの響きも派手さがないと感じるけれどマイルドで豊かな音色。音数が少なく、ゆったりした曲における艶のある表現力には確かな個性があって現代風の解像感の高いオーディオとは一味違う魅力に溢れている。DALI MenuetUを聴いたあとにELAC BS243を聴くと耳ざわりで押しつけがましい音に聴こえてくるから不思議。つまりは聴き疲れしないタイプ。またこのスピーカーは高剛性の箱で鳴らすタイプであるためにある程度音量を上げると低音の躍動感が変わってくるのが特徴でその場合には解像感も増してくる。この特徴を好む人が多いのも納得の個性の持ち主と言えるでしょう。小音量時の再生を重視していなければこれを選んでいたかもしれません。

B&W CM1

このサイズにしてこの低音の量感。シンバル系の鮮明な響き、全体の解像感とスケール感も優秀で煌びやかな音色に驚きました。価格もなかなかリーズナブルで人気モデルであることも納得。ただし、人によっては高音の煌びやかさが耳障りに感じる場面もあるかもしれない。同様に解像感に優れるELACとは、しかし誰が聴いても違うとわかるほどその性格が異なるところが面白い。解像度や横方向の広がりはELACが勝るけれど前後の立体感はCM1の方に深みを感じる。万遍なく綺麗に音を表現するELACよりも低音の音圧と高音の響かせ方、中音域の音の出し方と引っ込ませ方といったところにCM1の個性がある。モニタータイプで無味無臭な音を出すと評している人が多いんですが僕はそれなりのクセがあると思うし、それがこのスピーカーの魅力になっていると試聴では感じました。

結果、当初の狙いである「KlipschともBOSEとも違う」、そして解像感と低音の量感に優れているB&W CM1を選択。YESの"Roundabout"でも試聴してみましたが迫力とキレも十分納得できるレベル。性格が違っているのは承知の上でELAC BS243と最後まで迷いましたが、その違いはあくまでも性格であって格の差ではないと感じた上に価格差が5万円近くあることもCM1に傾いた理由です。

さて、寝室に来た新しいサブのオーディオ・システム。まずはRCD-CX1にホームシアター・セットのサラウンド用で使っているクリプシュのRB-51を接続して聴いてみる。このスピーカー、サイズは偶然にもCM1とほとんど同じで個性の違いを探るには格好のサンプル。今までサラウンド用でしか聴いていなかったためにその実力を聴いてみたいこともあって試してみたというわけです。

RB-51で聴いてみるとサイズの割に量感豊かな低音とまずまずの鳴りっぷり。思わずハッとさせるような音の解像度、クリアさがあるわけではないもののやはりトランペットの音の艶はトールボーイ型のRF-82譲り。RF-82で聴けるシンバル系の輝かしい響きと比べると高音にはやや曇りがあるし、やはりサイズの差からも部屋の隅々まで行き渡るスケール感を望むのはさすがに酷。クリプシュの魅力はRF-82でこそという感じがします。

次にいよいよCM1を。音を出した瞬間にクリプシュとはまるで方向性が異なることがわかる。解像感、音の抜けの良さはCM1の方が断然上。具体的にはシンバル音の粒の細かさ、ベースの弦を弾くときの固い付帯音、管楽器の音程が一気に変わるときの裏返り感を明確に表すリアリティなど、ディテールの表現力に格段の違いを感じることができる。ベースの音はCM1の方が固く締まっていて弾力性もあり、このサイズにしては極低域もそこそこ出しているところはエライ。試聴で感じた高音域のクセが寝室では薄まっているように感じるのはリスニング環境の違いのせいでしょう。

RB-51とCM1は価格が倍近く違うからそもそも比べるのはフェアではないんですが、CM1のクッキリした解像感が好きでない場合にはRB-51の方が良いと思う人がいるかも知れません。そういう意味ではRB-51のコストパフォーマンスはなかなかのもの。また、CM1はベースの弾力感も結構独特で好き嫌いがありそう。ただし、この低音の響き方は、スピーカーの左右がモノで埋め尽くされていて、背面から壁まで10センチしか取れないという寝室の設置環境にも原因があると思われます。

CM1の解像感や分解能はRF-82と比べてもずっと上。ユニゾンのアコギの弦を弾く音まで描き分けるのには感心するけれど、その分ハードロックの歪んだギターの音が奇麗すぎてワイルド感が削がれる場面もあるし、アグレッシヴなジャズに欲しい熱いフィーリングの演出は少し物足りない。CM1はちょっとお行儀が良すぎる感じがしてしまう。その分、落ち着いたジャズはなかな聴かせてくれますが、何でもクリアに聴こえればいいってもんじゃないということも学びました。ちなみに「聴き続けているとなんだかちょっと物足りない」という感覚は何ヶ月も所有して聴き続けてのことで、この感覚を試聴で予測するのはなかなか難しいと思います。

低音もかなりがんばっているCM1、しかし当然ながら「このサイズにしては」という枕詞は外せない。サイズ以上の低音の量感を得ようとしている代償として時にウッド・ベースの太い音を制御しきれず膨らんでしまうのは仕方がないところ。BOSE Wave Radio/CDよりも低い音域をしっかりと再生しているものの、その上の低音域(ちょうどベース中心音域からやや上あたりまで)の厚みはBOSEの方が上。いずれにしても箱の容積が何倍もあるトールボーイ型のような重低音と大柄なスケール感はさすがに無理です。とはいえ、もともとは狭いスペースで使うサブ・オーディオとしての導入、RCD-CX1を含めてこれだけコンパクトなシステムで得られる芯のある低音と全体に曇りのない優れた解像感は十分に期待に応えるだけのレベル。左右のスピーカーの距離をなんとか80センチ取ることができたのでステレオの広がり感も確保、もちろん小型スピーカーならではの繊細な表現と定位の良さも味わえるとあって当初の目的は十分に達成できたと思っています。もともと、寝室のオーディオにスケール感を要求するつもりはなく、それならまったく異なるキャラクターを選ぶ方が楽しみが増えるというもの。CM1 でこじんまりと明快でクリアなサウンドを楽しむというのもまた良いものです。

サブ・オーディオ・システムの満足度:★★★★ コスト・パフォーマンス:★★★☆