FIBDD ( Focused Ion Beam Direct Deposition ) Method
集束イオンビーム直接蒸着法
研究内容を学位論文としてまとめ、1998年3月に京都大学より学位を授与された
内容をいくつかに分けて掲載しました。英語のページにも概要紹介があります。
「集束イオンビーム直接蒸着装置の開発とその応用に関する研究」
長町信治
第1章 序論
1−1.緒言
近年、エレクトロニクス技術が急速に発達し、10年前、20年前には考えられなかったような恩恵を享受することができる。20年前に大学の大型計算機センターにおいておこなっていた数値計算を、現在では個人が所有するパーソナルコンピューターを用いて高速におこなうことができる。このようなエレクトロニクス技術の著しい性能の向上およびコストの低減は、その多くの部分を半導体デバイスの微細加工をおこなうプロセス技術に依存している。プロセス技術は大きく分けて、成膜技術、パターニング技術およびエッチング技術に分類することができる。成膜技術、パターニング技術およびエッチング技術はさらに多くの手法に分類され、そのそれぞれが独自の歴史を持ちながら発展してきた。現在主流となっているのは、シリコンの論理素子を大量に生産するために用いられる手法である。主流以外にも、特定のプロセスにおいて有用性が確立され、デバイスの生産に用いられている手法は多い。また、アイデアが提出され長期間研究されながら実用的な手法として確立されるに至っていない手法も多数存在している。本研究のテーマである、集束イオンビーム直接蒸着法の母体である集束イオンビーム技術とイオンビーム蒸着技術についてみると、集束イオンビーム技術はデバイスの生産のための手法あるいは開発のための手法として研究が続けられたが、研究の過程でプロセスを評価するための手段として有用であることが認識され、実用的な技術として生産ラインに取り入れられるようになった。質量分離したイオンビームをそのものを堆積させて成膜する(狭義の)イオンビーム蒸着法は、20年におよぶ研究期間を経過した現在も各地で研究が続けられている。そのような様々な手法も組み合わせることにより、思いがけない効果を生じることがある。集束イオンビーム技術とイオンビーム蒸着技術をかけ合わせた集束イオンビーム直接蒸着法は、単にイオンビーム蒸着法を微細なビームでおこなうことにより選択的な成膜(パターニングと成膜が同時に進行する)ができるだけのものであろうか?集束イオンビームの特質をビームの微細さのみに求めると選択的成膜というやや常識的な特性が期待されるのみである。しかし、液体金属イオン源を用いる集束イオンビームには、ビーム電流密度が、プラズマからイオンビームを引き出すイオン源を用いたイオンビーム装置と比べて、3〜6桁大きいというもう一つの重要な特質がある。この特質に注目するとき、イオンビーム蒸着法の最大の課題であった純度の問題を解決する一つの成膜手法となり得ることが予想できる。
本研究のテーマである集束イオンビーム直接蒸着法は、このように新しい微細加工の手段という面と新しい成膜手法という面の二つの側面を持っている。また、成膜技術であると同時にパターニング技術であり、最終エネルギーを変更することのみによりエッチング技術、露光技術、あるいは不純物導入技術にもなる、プロセス技術のすべての要素を持つ新技術である。
本章では、集束イオンビーム直接蒸着法の母体となった二つの技術、すなわち集束イオンビーム技術とイオンビーム技術について概説した後、集束イオンビーム直接蒸着法に期待することのできる特質について考察する。
第1章 序論(続き)
1−5.本研究の目的、1−6.本研究の内容、第1章の参考文献
第2章 低エネルギー集束イオンビーム装置
2−6.光学特性の改良に関する考察、2−7.結言、第2章の参考文献
第3章 直接蒸着用液体金属イオン源
3−7.エネルギー分布の測定、3−8.結言、第3章の参考文献
第4章 集束イオンビーム直接蒸着法で成膜した薄膜の評価
第5章 集束イオンビーム直接蒸着法の応用
5−7.微小試料に対する電極形成、5−8.結言、第5章の参考文献