5−3.回路修正への応用
第1章において、Ga+集束イオンビームを利用したスパッタエッチングとアシスト蒸着法の組み合わせの応用としてIC回路の修正3)について述べた。IC回路修正において、アシスト蒸着法に代えて直接蒸着法を用いると、周辺に対する汚染が全くなく、高純度低抵抗率の金属パターンにより配線をおこなうことができる。それにより、従来のアシスト蒸着法を用いた手法では不可能であった、IC作製プロセスの途中で修正をおこないそのままプロセスを継続することが可能となり、また、電流が多く流れる場所における使用が可能になるといった実用的な利点が生じる。
図5−4に、回路修正の代表的な手順を示す。この例は、保護膜により被覆されている2本の導電パターンを接続するものである。まず、最初の手順として非減速ビーム(たとえば40keVのSi2+)を用いた走査イオン顕微鏡像により修正個所の位置確認をおこなう。次に非減速ビーム(たとえば20keVのAu+)を用いてスパッタエッチングにより保護膜に溝を形成し導電パターンを露出させる。最後に、露出した導電パターン間に減速ビーム(たとえば50eVのAu+)を用いて接続パターンを作製し、両導電パターン間の接続をおこなう。このようにして高純度低抵抗の金属パターンにより、IC回路内部の配線を変更することができる。
図5−5に実際に配線パターンを修正した例を示す1)。SiO2保護膜でおおわれた2本のAl導電パターン上に20keVのAu+ビームによるスパッタエッチングで溝を形成し、露出した導電パターン間に直接蒸着法により接続パターンを作製したものである。接続パターンは54eVのAu+ビームによりおこない、接続パターン部分の抵抗を評価したところ1.0Ω以下であった。これはAuの抵抗率(第4章において述べた実測値)より計算により求めた抵抗値ともほぼ一致するものであった。この値は、集束イオンビームアシスト蒸着法により得られるWの接続パターンと比較して1〜2桁小さいものと考えられる。今後、アシスト蒸着法では対応できなかった、抵抗値の小さな接続が要求されるような配線パターンの修正に対応することが可能となった。
図5−4.IC回路修正の手順例
図5−5.IC回路修正例(光学顕微鏡写真)