Rnの部分ベクトル空間の直和が定める射影トピック一覧    

 ・定義:2つの部分空間の直和が定める射影射影は一次写像射影行列多数の部分空間の直和が定める射影 
 ・定理:
射影行列は冪等行列直和が定める射影の性質

関連ページ:
Rnの部分ベクトル空間:定義/具体例/部分空間における線型独立と線型従属/部分空間の集合算/
             〜に張られた部分ベクトル空間/部分空間の基底/部分空間の次元/直和分解と補部分空間 

直交射影 
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定義:2つの部分空間の直和が定める射影projection 

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 
W2n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 

[文献1]
佐武『線形代数学
  V
-研究課題I.冪等行列・射影子
     
(pp.125-6; p.128脚注)
柳井竹内
 『
射影行列・一般逆行列・特異値分解
   §
2.1定義2.1(p.21)
佐和『回帰分析2.1.4(p.22);
久米『数理統計学1.36.射影(p.34)


[文献2]
永田
 『
理系のための線形代数の基礎
  
4.3(p.120);
砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)

定義

n次元数ベクトル空間Rnが、
Rn部分ベクトル空間W1W2直和分解されるとする。
つまり、  
  
 
とする。
このとき、
直和分解の必要十分条件より、
任意のn次元数ベクトルvRnにたいして、
ある
n次元数ベクトルv1W1, v2W2が一意的に存在して、
  
vv1 +v2   
と表せる。 
したがって、
P1(v)=v1P2(v)=v2を満たす写像P1:RnW1, 写像P2:RnW2
考えてよい。
この
写像RnW1 を、
 
直和
   

 が定める
RnからW1への射影・射影作用素・射影子
この
写像P2:RnW2を、
 
直和
   

 が定める
RnからW2への射影・射影作用素・射影子
と呼ぶ。 

関連:直交射影 

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定理:射影は一次写像 

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 
W2n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 

定理

直和が定める射影一次写像の定義を満たす。

[文献]
永田
 『
理系のための線形代数の基礎
   
4.32(p.120);
佐武
 『
線形代数学
   V
-研究課題I(p.125):証明略。
柳井竹内
 『
射影行列・一般逆行列・特異値分解
   §
2.1定義2.1(p.21):証明付
久米
 『
数理統計学
   
1.36.射影(p.34)証明付。

活用例:射影行列の定義 

証明

Rnが、
 
Rn部分ベクトル空間W1W2直和分解されるとする。
   …
(0)
 この直和分解が定めるRnからW1への射影P1とおき、
        
RnからW2への射影P2とおく。
 このとき、
直和分解の必要十分条件より、
 
任意のn次元数ベクトルu,vRnにたいして、
 ある
n次元数ベクトルu1,v1W1, u2,v2W2
 一意的に存在して、
  
uu1 +u2  …(1) 
  
vv1 +v2  …(2)  
 と表せ、
 
射影の定義より、
 
P1(u)=u1P1(v)=v1 
 
P2(u)=u2P2(v)=v2  …(3) 
(1)(2)より、
 
任意のn次元数ベクトルu,vRnにたいして、
 
u+vu1 +u2+v1 +v2 =(u1 +v1+u2+v2 )∵結合則
         …
(4)
(0)より、W1W2は、Rn部分ベクトル空間であるから、
 
u1,v1W1にたいして、u1 +v1W1 
 
u2,v2W2にたいして、u2+v2W2 …(5)
(2)より、
 
任意のn次元数ベクトルvRnと、任意のスカラー(実数)cに対して、
 
cvcv1 +v2)=cv1+cv2 ∵ベクトルに関する分配則 
      …
(6) 
(0)より、W1W2は、Rn部分ベクトル空間であるから、
 
任意のv1W1,v2W2任意のスカラー(実数)cにたいして、
  
cv1W1, cv2W2 …(7)
任意のn次元数ベクトルu,vRnにたいして、  
  
P1(u+v)=u1 +v1 ∵(4)(5)射影の定義  
      
=P1(u)+P1(v) ∵(3)  
任意のn次元数ベクトルu,vRnにたいして、  
  
P2(u+v)=u2 +v2 ∵(4)(5)射影の定義  
      
=P2(u)+P2(v) ∵(3)  
任意のn次元数ベクトルvRnにたいして、  
  
P1(cv)=cv1 ∵(6)(7)射影の定義 
     
=c P1(v) ∵(3) 
任意のn次元数ベクトルvRnにたいして、  
  
P2(cv)=cv2 ∵(6)(7)射影の定義 
     
=cP2(v) ∵(3) 
以上四点から、
 
射影P1P2一次写像の定義を満たすことは、
明らか。

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定義:射影行列 projection matrix 

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 
W2n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 

[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎4.32(p.120);
佐武『線形代数学』V-研究課題I(p.125):証明略。
柳井竹内『
射影行列・一般逆行列・特異値分解
      §
2.1定義2.1(p.21)
久米『数理統計学1.36.射影(p.34);定理1.5(p.35)

定義

直和が定める射影一次写像であるから()、
直和が定める射影には、ひとつの行列が対応する)。
この行列を、
射影行列projection matrixと呼ぶ。
射影行列は冪等行列であり、逆に冪等行列は射影行列である
[久米『数理統計学』定理1.5(p.35)]

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定理:射影行列は冪等行列  

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 
W2n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 

[文献]
佐武『線形代数学』V-研究課題I(p.125)
柳井竹内『射影行列・一般逆行列・特異値分解
      §
2.1定義2.1(p.21)
久米『数理統計学1.36.射影(p.34);定理1.5(p.35)

定理1

射影行列冪等行列であり、
逆に
冪等行列射影行列である。

定理2

直和
  
 
が定める
RnからW1への射影P1とおき、
RnからW2への射影P2とおく。
射影P1とそれ自身との合成写像P1P1をとったところで、
射影P1とかわらない。
射影P2とそれ自身との合成写像P2P2をとったところで、
射影P2とかわらない。


[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎
  
4.32(p.120);
砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.168)

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定理:直和が定める射影の性質

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 
W2n次元数ベクトル空間Rn部分ベクトル空間 

2.

直和
 
 
が定める
RnからW1への射影P1とおく。
P1は、次を満たす。
 
任意のn次元数ベクトルv1W1にたいして、
    
P1 ( v1 )= v1  
 
任意のn次元数ベクトルv2W2にたいして、
    
P1 ( v2 )=  


[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎』 4.32(p.120);

2'.

直和
 
 
が定める
RnからW2への射影P2とおく。
P2は、次を満たす。
 
任意のn次元数ベクトルv1W1にたいして、
    
P2 ( v1 )=  
 
任意のn次元数ベクトルv2W2にたいして、
    
P2 ( v2 )= v2  


[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎4.32(p.120);

3.

直和
 

が定める
RnからW1への射影P1とおき、
RnからW2への射影P2とおく。
  
射影P1射影P2合成写像P2P1 
  
射影P2射影P1合成写像P1P2 
は、
零写像となる。    
  
P2P1P1P2  


[文献]
砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)

4.

直和
 

が定める
RnからW1への射影P1とおき、
RnからW2への射影P2とおく。
射影P1射影P2(一次写像としての)和  
   
P1P2  
は、
恒等写像である。 


[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎
 
4.32(p.120);
砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)

5.

直和
 
 
が定める
RnからW1への射影P1とおき、
RnからW2への射影P2とおく。
射影P1W1であり、射影P2W2である。  


[文献]
永田『理系のための線形代数の基礎
 
4.32(p.120);
砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)

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定義:多数の部分空間の直和が定める射影projection 

舞台
設定

R実数体(実数をすべて集めた集合) 
Rnn次元数ベクトル空間    
W1 , W2 , ,Wk Rn部分ベクトル空間 

[文献1]
佐武『線形代数学
 V
-研究課題I(p.126; p.128脚注)
柳井竹内
 『
射影行列・一般逆行列・特異値分解
   §
2.1定義2.1(p.21)


[
文献2]
砂田
 『
行列と行列式
  §
5.2-c(p.169)

定義

n次元数ベクトル空間Rnが、
Rn部分ベクトル空間W1 , W2 , ,Wk直和分解されるとする。
つまり、  
  
 
とする。
このとき、
直和分解の必要十分条件より、
任意のn次元数ベクトルvVにたいして、
ある
n次元数ベクトルv1W1, v2W2 , ,vkWkが一意的に存在して、
  
vv1 +v2 ++vk   
と表せる。 
したがって、
  
P1(v)=v1P2(v)=v2、…、Pk(v)=vkを満たす写像P1:RnW1写像P2:RnW2、…、写像Pk:RnWk
を考えてよい。 
この
写像P1:RnW1写像P2:RnW2、…、写像Pk:RnWkを、
 
直和
   

 が定める
RnからW1W2、…、Wkへの射影   
と呼ぶ。 

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
集合論のテキスト
松坂和夫『
集合・位相入門』岩波書店、1968年、第1章集合と写像§3-E写像(pp.27-29);§4-C写像の合成(pp.34-36)
線形代数のテキスト

ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、2.1ベクトル空間(pp.28-34)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§5.2(p.162).§5.3(p.162).
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、Vベクトル空間-研究課題I.冪等行列・射影子(pp.125-6; p.128脚注)
志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、13講ベクトル空間へ(pp.85-7);14講ベクトル空間の例と基本概念(pp.88-90)
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2(p.249)
柳井晴夫・竹内啓『
UP応用数学選書10:射影行列・一般逆行列・特異値分解 東京大学出版会、1983年、§2.1射影行列とその定義(p.21):n次元数ベクトル空間のみ。

数理統計学のテキスト
佐和隆光『
回帰分析 朝倉書店、1979年、。
久米均『
数理統計学』コロナ社、1984年、1.線形代数1.36.射影(p.34)

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