EHN 2017年1月4日
BPA 製造に関わるアメリカの労働者の体内は
ひどく汚染されている

内分泌かく乱化学物質 BPA 製造に関わるある労働者の体内レベルは
一般大衆より1,000倍高いことを連邦政府の研究が発見

ブライアン・ビエンコウスキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, January 4, 2017
US workers making BPA have enormous loads of it in them
By Brian Bienkowski (EHN)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2017/jan/bpa-worker-exposure

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年1月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/
ehn_170104_US_workers_making_BPA_have_enormous_loads_of_it_in_them.html

 1月4日に発表された研究によれば、BPA を製造する又は使用する産業のアメリカ労働者は平均して一般大衆より70倍高いレベルでこの化学物質を体内に持っているが、そのレベルは生殖に影響を及ぼすことを示すレベルより十分に高い。

 ある労働者の汚染は、一般大衆の中で最も暴露しているアメリカ成人より1,000倍高い。

 その連邦政府の研究は初めて、アメリカの製造業におけるビスフェノールA (BPA) 暴露を調査した。ある労働者らは2日間の作業後、この内分泌化学物質で体内が汚染されていることが発見された。その研究は、ある作業は人々の生殖機能を妨げるような健康影響を引き起こす潜在的に有害な BPA 体内レベルをもたらすかもしれないことを示唆している。

 ”我々はこれらの極めて高い暴露レベルに驚くべきであると思い続けているが、私は驚かない。そのことは我々が生物学について知っていることと一致するからである”と、マサチューセッツ大学アマースト校環境健康学部准教授であり、この研究には関与していないローラ・バンデンバーグは述べた。”もし人々が作業で BPA に接触するなら、彼らは皮膚を通じてその化学物質を吸収するであろう”。

 2013年と2014年に、BPA、BPA樹脂、又は BPA含有ワックスを製造する6つの異なる会社の77人の労働者は2日間連続して勤務した後に尿サンプルを提供した。 『 Annals of Work Exposures and Health 』に発表されたその研究によれば、彼らの尿中のトータル BPA の平均は、2013年と2014年に行われたアメリカ成人の研究より70倍高かった。

 労働者を仕事関連のケガと病気から守ることに責任ある連邦機関の米・国立労働安全衛生研究所(NIOSH)がこの研究を主導した。

 ある労働者のレベルは、仕事の二日目のシフトの終わりに採取した尿中の BPA はグラム当たり 18,900 マイクログラムに上昇した。一般大衆の BPA の中央値レベルはグラム当たり 2マイクログラムよりやや低い値である。

 その研究の主著者である NIOSH のシンシア・ハインズは、興味を持った労働者は自分の結果を他の労働者のレベルの概要ととともに受け入れることができたと述べた。しかし、アメリカには職場での BPA 暴露基準がないので、彼らのレベルを文脈の中でとらえることは難しい。

 ”もし我々が、例えば鉛の様に暴露規制レベルを持つなら、我々はこれらのレベルを持った労働者のリスクを彼らに知らせるための特別の措置をとったであろう”とはハインズは言った。”BPA に関しては基準がない。”

 彼女は、研究者らが暴露を減らすよう会社と労働者に一般的な助言を送ったと述べた。

 産業側は体内に蓄積した全ての BPA は1日以内に排出され、したがって その暴露は良性であると主張してきた。しかし二日目の作業後のレベルが高くなっていることを一貫して示したこの NIOSH の研究はその主張を弱めるものである。

 ”労働者らはこの物質を体内に生体蓄積している”とミズーリ大学コロンビア校生物学教授であり、この新たな研究には関与していないフレデリック・ボンサールは述べた。”それは’100%の BPA が1日で排出される’という主張をリセットするものである。これらのデータがあるのだから、そのようなことはあり得ない”。

 ”BPA の排出は、今まで実施されたいくつかの経口投与研究を検討して予測されていたものより長い時間がかかるということを示唆するものである”とはハインズは述べた。”その理由はわからないけれど、労働者らは暴露研究とは異なり、実際の作業ではもっと暴露している”。

 もっと懸念があることは、労働者から検出された量は、生殖影響を受けた中国の労働者で測定されたレベルと同じかそれより高かったということである。中国で BPA 製造に関わる男性労働者に関するその研究では、 BPA 暴露の上昇は生殖ホルモンのレベルと精液の質を低下させ、また自己報告によれば性的機能不全をもたらした。

 BPA は、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂の製造に使用され、プラスチック硬化と飛散防止のために広く使用されているが、またレシート感熱紙でも使用されている。この化学物質は、食品容器中でも広く見いだされており、最も共通の犯人として飲食を通じて、おおむね誰でもが体内に BPA を取り込んでいる。

 このアメリカの研究で最も高い暴露労働者は、溶解 BPA 含有ワックスを取り扱っていた。そのワックスはしばしば、射出成形金型装置に使用されている。

 BPA はエストロゲンを擬態し、内分泌かく乱物質として作用するので、科学界は長年、広い範囲で人間が暴露していることについて警告してきた。ホルモンが適切に機能するということは、発達、脳機能、及び免疫系はもとより、生殖にとって非常に重要なことである。

 化合物は缶詰内面ライニングから食品中に漏れ出すとはいえ、食品からのどのような暴露も労働者が皮膚接触又は吸入を通じて仕事で出くわすことに比べれば影が薄れると著者らは書いている。バンデンバーグは、もっとも犯人らしいとして皮膚吸収を疑った。

 ”皮膚はバリアとして働くが、同時にそれは化学物質を吸収することができる大きな表面積を持っているということを思い起こさなくてはならない”と彼女は述べた。”それはホルモンのようなものを吸収するために効率的な器官である”。

 米環境保護局の製造に関するデータによれば、アメリカは 2012年に BPA を22億5,000ポンド(約100万トン)製造した。今回の研究の中で著者らは BPA を製造するアメリカの73社を特定した。しかし、15社は暴露調査要求に回答せず、15社は最早 BPA を製造又は使用していないと回答した。

 ハインズは、職場の健康と安全基準を任務とする連邦機関である労働安全衛生局(OSHA)を代弁することはできないが、彼らにレビューをしてもらうためにその研究を送るであろうと述べた。 OSHA はコメント要求に回答しなかった。


訳注:BPAの有害性に関する研究
訳注:BPAの有害性に関する議論
 


化学物質問題市民研究会
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