JSOnline 2012年3月30日
FDA 食品容器中のBPA禁止の請願を拒否
メグ・キッシンジャー(Journal Sentinel紙)

情報源: JSOnline March 30, 2012
FDA rejects petition to ban BPA in food packaging
By Meg Kissinger of the Journal Sentinel
http://www.jsonline.com/watchdog/watchdogreports/bpa30-cg4momd-145207455.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2012年4月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_12/120330_FDA_rejects_petition_ban_BPA.html



 米・食品医薬品局(FDA)は金曜日(2012年3月30日)に、科学的な根拠がないので、全ての食品・飲料容器でのBPA使用を禁止するよう求めた要請を拒否すると発表した。

 しかし、FDAは、この決定はビスフェノールA(BPA)の安全宣言ではないと警告した。FDAは、ほとんどの食品・飲料用の缶の内面ライニングで使用されているこの化学物質の評価を継続すると述べている。

 金曜日の発表は、この化学物質は人の健康に重大な脅威を及ぼすと主張して、2008年に天然資源防衛協議会(NRDC)によってなされた要請への対応である。

 ”現在の規制を変更するために必要な科学的証拠をNRDCが出さなかったため、FDAはNRDCの要請を本日拒否したが、この発表はな安全性についての最終決定ではなく、FDAはBPAの安全性を検証する研究を支援する”と、FDAの報道官ダグラス・カラスは述べた。

 FDAの最近の研究は、これまでのところ次のことを示しているとカラスは述べた。
  • ヒト幼児のBPA曝露は以前に見積もられていたより84%〜92%%少ない。
  • 妊娠したげっ歯類から胎仔へ伝えられるBPAのレベルは非常に低いために測定できなかった。
  • 研究者らは妊娠しているげっ歯類に、ヒトが食品から曝露する量より100〜1,000倍多いBPAを投与したが、母親の曝露から8時間後の胎仔からBPAの活性組成を検出することはできなかった。
  • 全ての年代の人間は、テストに使用された動物より速く体内でBPAを処理し排出する。
 FDAはBPAの影響調査を継続し、科学に基づきBPAの状態に必要な変更を行なうであろうとカラスは述べた。

 天然資源防衛協議会(NRDC)の上席科学者であるサラ・ジャンセンは、BPAを禁止しないFDAを批判した。

 ”BPAは、我々の食物供給中に存在してはならない有毒化学物質である”と彼女は述べた。”FDAは、BPAの長期的な、特に胎児、赤ちゃん、そして幼児への影響について不安な疑念を提起し続ける多くの研究を前にして、我々の健康と安全を保護することを怠っている”。

 科学産業界のロビーストはこの政府の決定を称賛した。

 ”BPAは40年間、承認され安全に使用されていたが、入手可能な最良の科学を考慮した今日のFDAの決定は、再びBPAは食品接触材料中での使用は安全であると確認するものである”とアメリカ化学工業協会(ACC)の上席化学者であるスティーブ・ヘントゲスは述べた。

 化学工業協会(ACC)は金曜日の動きを、この要請に関する政府の”決算”であるとみなしているが、FDAがキッパリとBPAは安全であると決定したわけではない。

 70年以上前に開発された合成エストロゲンであるBPAは、哺乳瓶などのためのポリカーボネート・プラスチックを作るために1960年代及び1970年代に広く使用されるようになった。それはまた、金属製の缶の表面を加工するためのエポキシ樹脂として使用されている。BPAは、携帯電話、歯科詰め物、めがね、レジの領収書の表面加工、その他数百の家庭用品中で見つけることができる。

 BPAは、テストされたアメリカ人の93%以上の人々の尿から検出されている。

重大な疑問

 カラスは、FDA規制当局者はヒトの健康を害することを発見した研究について”重大な疑問”を持っていたと述べた。

 FDAは、全ての関連する研究と出版物を含めるためにBPAに関するもうひとつの安全性の見直しの更新を今年中に完成させる方向で作業を行なっている。  FDAの金曜日の動きは、食品と食品容器、特に哺乳瓶と幼児食からBPAを排除するよう働きかけていたエンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)によって批判された。

 ”FDAがなすべき次の決定は、FDAの使命(ミッション)の中から’公衆の健康を守る責任’という文言を削除することだ”と、EWGの上席研究副代表ジェーン・ホーリハンは述べた。”それは偽りの宣伝である。BPAのような有毒で多くの重大な健康問題と関連しており、食品中に残存する化学物質を許すということはFDAが危険な方向に転換しているということを意味する”。

 科学者らは、ポリカーボネート製の檻にいるラットが流産やその他の生殖障害の兆候を示し始めた1990年代にBPAについて初めて懸念するようになった。それ以来、数千の研究がBPAと健康問題を関連付けた。

 BPAは、胎児や幼児について特に懸念があると科学者らによってみなされている。その影響は、政府規制当局が安全であると決定した値より数百倍も低い用量で見出されている。

 産業界のBPAからの歳入は年間60億ドル(約4,800億円)以上であると見積もられている。

 化学物質メーカーは、この化学物質は全ての用途について安全であるとの立場である。

 Journal Sentinel紙の3年間の調査は、政府規制当局が化学産業界に雇われた科学者らに特別待遇を与えたことを発見した。同紙が入手したEメールは、FDAの科学者らはBPAのリスクを検証し、BPA禁止の立法の動向を追跡し、ニュース報道を監視するために、化学産業界のロビーイストに依存していたことを示していた。

 同紙により実施されたテストは、”BPAフリー”と記された容器を含んで、加熱された全ての容器からBPAが漏れ出すことを示した。

 ウイスコンシン州を含む10州が、哺乳瓶、幼児用カップ(sippy cups)、その他の幼児用食器でのBPAの使用について様々な禁止を行なっている。

 2008年、カナダの健康当局は、BPAは有毒であると宣言し、哺乳瓶での使用を禁止した。

 近年、消費者は、哺乳瓶メーカーにこの化学物質の使用をやめるよう要求した。今年のはじめに、キャンベルスープ社は、BPAの代替品に切り替えると約束しているゼネラルフード社やトレーダー・ジョーズ社のような会社の仲間入りをした。

 米国国家毒性計画(訳注1)やFDA自身の諮問委員会(訳注2)を含むいくつかの国家機関は、BPAの健康影響についての懸念に正当な理由があると結論付けていた。ヒト研究は、BPAを行動障害、糖尿病、心臓疾患に関連付けていた。その他の研究は合成エストロゲンであるBPAを乳がん及び前立腺がんと関連付けていた。

訳注1:2008年6月11日 ビスフェノールAに関するNTP概要草稿に対するNTP 科学諮問委員会(BSC)の意見
訳注2:NYTimes.com 2008年10月30日 FDA科学委員会 プラスチック中の化学物質は安全であるとするFDAの姿勢を非難

 FDAは、天然資源防衛協議会(NRDC)が提出しようとしている民事訴訟と引き換えに3月末までに決定を下すことに同意した。

 NRDCの請願は、FDAは科学的な懸念に基づきこの化学物質を禁止すべきと主張した。

 米化学工業協議会は、哺乳瓶でのBPA使用を禁止するよう要請する請願書を昨年9月にFDAに提出したが、この動きに多くの人々が混乱し驚かされた。化学産業界ロビーストらは、BPAはあらゆる用途に安全であるという立場を断固としてとっているが、この化学物質は最早、ほとんどの哺乳瓶メーカーによって使用されていないので、いずれ市場から消えるであろうと述べている。

 EWGはNRDCのような環境団体は、このような動きを”人気取り”であると呼んでいる。


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