Our Stolen Future (OSF)による解説
ビスフェノールAの低用量での影響に関する広範な論文が
新たなリスク評価の必要性を示す


Environmental Health Perspectives Online 13 April 2005 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/bisphenola/2005/2005-0413vomsaalandhughes.htm
An Extensive New Literature Concerning Low-Dose Effects of Bisphenol A Shows the Need for a New Risk Assessment
オリジナル論文:Environmental Health Perspectives Online 13 April 2005
Commentary - An Extensive New Literature Concerning Low-Dose Effects of Bisphenol A Shows the Need for a New Risk Assessment
Frederick S. vom Saal1 and Claude Hughes


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年8月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/05_08_osf_vom_Saal.html



 ボンサールとヒューズは、商業的に広く使用されており事実上全てのアメリカ人が曝露しているビスフェノールA(BPA)に関し、公衆の健康を守るためには現状のBPAの健康基準を抜本的に強化しなくてはならないとする科学的文献が急増しているとして、それらの文献中の証拠の概観を示した。彼らは、BPAの有害影響に関する新たな化学的証拠の洪水はアメリカの機関による新たな公式のリスク評価を求めているが、この15年間、何もなされていないと結論付けている。

 彼らがとりまとめた科学的結果は、BPAのレベルを実験室での研究で有害影響を引き起こすことが知られている曝露レベル以下に保つためには、BPAの一般的使用の制限、さらには禁止すら必要であるということを示している。

 過去10年間にわたるこれらの研究は、この化合物に対する米環境保護局(EPA)の現在の参照用量(reference dose)よりはるかに低い極低レベルにおいて、またアメリカ及び他の諸国の多くの人々が日々曝露しているレベルにおいて、BPAが細胞機能を変更し、発達プロセスをかく乱するということを明確にしてきた。BPAによって引き起こされるヒトの病気の事例は非常に多く、したがって、曝露の低減は劇的な健康利益をもたらす。

 彼らの分析はまた、多くの研究報告書の中の偏向のパターンを暴き出している。過去7年間(2004年12月まで)、115の関連研究が発表されている。産業側の基金でなされた11の報告書のうち、低レベルでの有害影響に関して報告したものはひとつもない。一方、政府の基金による104の研究のうち94が影響を見出している。これらの多くの研究は、日本、アメリカ、及びヨーロッパの学術的研究所で実施されたものである。

 ボンサールとヒューズの新たなリスク評価の必要性に関する結論は、BPAが有害であるという証拠はないとする化学産業に関連した個人や組織からの最近のいくつかの報告書を否定するものである。

何をしたのか?

 ボンサールとヒューズは、BPAの多くの様々な影響を報告している広範な科学的文献を取りまとめた。

 これらの証拠は世界中の様々な大学や政府の研究所から出されたもので、ラボでの動物実験、細胞培養での細胞実験、曝露による遺伝子表現の変化のマイクロアレイ分析などを含む、広範な分析における多くの異なる影響を調査している。

 これらの科学的文献は、ビスフェノールAが、現在のアメリカの50μg/kg(50ppm)という”安全曝露”の基準よりはるかに低いレベルで動物における細胞信号、胎児の発達と成獣の生理機能と生殖機能に変更をもたらすという圧倒的な証拠を提供している。この”参照用量”は、BPAは50μg/kg(50ppm)以下では影響が観察されないという1988年以前に実施された実験に基づいている。

 ボンサールのBPAの低用量での影響に関するラボでの最初の実験結果は、子宮中で2ppbのレベルでBPAに曝露した雄のマウスは、アンドロゲン(雄性ホルモン)刺激に極めて感受性が高い肥大した前立腺をもっていた。

 この結果は産業側の科学者やロビーストらに強く批判されたが、彼らの主張は結果に再現性がないというものであった。この検証が明白にしているように、前立腺に関する特定の結果が再現されただけでなく、同様の用量で多くの影響もまた、多くの独立系研究所によって報告された。検証された全ての文献リストはボンサールのウェブサイトで見ることができる。結果のあるものはこのウェブサイトの中のページで記述されている。下記にいくつかの例をハイライトする。

 現在の文献に基づけば、ビスフェノールAとヒトの健康状態及び障害との間のありそうな関連性が下記に示すように示唆されている。このリストは”長い”

 下記のリストは、動物と細胞データが少なくともその一部は極低用量のビスフェノールAによって引き起こされるかもしれないと示唆するヒトの健康状態及び障害のいくつかの事例である。
疾病の関連性と参照に関する完全な情報は下記を参照のこと。
Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 8, August 2005
Commentary - An Extensive New Literature Concerning Low-Dose Effects of Bisphenol A Shows the Need for a New Risk Assessment / Frederick S. vom Saal1 and Claude Hughes

 すぐに考えつく疑問は、ひとつの化合物がそのように多くの病気に対しどのような役割を果たしているかということである。毒物学における従来の見方は、ひとつの汚染物質が、例えばアスベストは中皮腫と肺がんを引き起こすように、2〜3の代表的な病気の原因となるかもしれないというものである。数年前にニューヨークタイムズに書いたジーナ・コラタは、1990年代後半の公開議論において内分泌かく乱物質のリスクを軽視する卓越した役割のために産業界から資金を得ていたテキサス A&M 大学の毒物学者スティーブン・セーフの言葉を次のように引用した。”化学物質が引き起こすと知られている疾病のリストは非常に短い”(NYT, 11 April 2000)。

 しかし、非常に低用量で遺伝子表現を変更する化合物の能力の新たな科学的発見は、この時代遅れの見方をすっかり変えた。ビスフェノールAを含む、汚染物質のあるものは、特定の組織の中でその影響は変動し、また曝露のタイミングに依存しつつ、数百の遺伝子の表現を変更することができる。

 さらに、ビスフェノールAは、細胞核内部の従来のエストロゲン受容体と相互作用し、したがってエストロゲン信号に依存する多くの表現を変更するだけでなく、カルシウムの細胞内への流入を刺激する。エストロジオールと同様に、BPAは細胞膜受容体と相互作用し、遺伝情報転写因子のリン酸化、cyclic AMP response element binding protein (CREB)をもたらす。この情報伝達分子は、脳の発達、記憶形成、脂肪組織の生成、生殖系発達などを含む、多くの異なる生理学的プロセスに関与する遺伝子の表現をを変更する。BPAはこの反応を誘発することにおいて天然ホルモンであるエストロジオールと同じように強力であり、悪名高いジエチルスチルベストロール(DES)よりもっと強力である。したがってそれは”弱いエストロゲン”などというものではない。  BPAにこれら非常に基本的な生理学的機能を変更する能力があるなら、広い範囲の有害影響をもたらすかも知れないとしても驚くに値しない。

 現在、これらの影響を人間でテストするための疫学的データはほとんどない。しかしデータがないことをもって安全の証拠とすべきではない。関連したヒトの研究はまだなされていない。実際、人間での関連レベルを測定できる分析化学はつい最近開発されたばかりである。以前に述べたとおり、CDCによる最近の研究調査は、事実上全てのアメリカ人は、ボンサールとヒューズが示したような曝露範囲でBPAに曝露しているということを明確にしている。このことが疫学的調査をさらに複雑なものにしている。それは誰もが曝露しているので比較すべき清浄なコントロールが存在しないからである。

 ボンサールが国際電話会議でこの論文を討議したように、エストロゲン様化合物に関する世界中の多くの研究所、特にアメリカ国立環境健康科学研究所(NIEHS)、による研究調査は、動物によるエストロゲン様物質の影響調査がヒトへの影響に対し、十分に予測的であることを示している。

資金提供源の影響

 ボンサールとヒューズは、ビスフェノールAの現在の参照用量又はそれ以下のレベルでの影響を調査した科学的文献を探し出すためにライブラリー検索エンジンを使用した。2004年12月まで、彼らは115の記事を特定した。半分以上は2002年以降に発表されたものであった。

 記事に記載されている謝辞や著者の所属を検証することで、彼らはどの研究が産業側から資金が出ており、どの研究が政府から資金が出ているかを決定した。その後彼らは、研究調査が有害影響を見出したかどうかに関し資金提供源の影響を検証した。結果は下記のテーブルに示すとおりである。

  有害影響あり 有害影響なし
産業からの資金 0 11
政府からの資金 94 10
 ボンサールとヒューズはこのテーブルの統計的分析を示していないが、資金供給源と有害性なしとの関連性は非常に顕著である(カイ2乗分布 Chi-square = 54.5; p <<< 0.001)。

 産業側資金提供の11の研究の弱点のいくつかは容易に明らかになる。上記したように(”産業側が言っていること”訳注:原文コラム)、研究のひとつはポジティブ・コントロールに失敗し、実験全体が失敗であったということを示しており、ビスフェノールAが影響を与えないということを示していない。産業側資金供給の他の研究はBPAはなんら影響を及ぼさないとしているが、国家毒性計画によって招聘された科学者による実験データの独立した検証では、実際には影響があると結論付けられた。言い換えれば、産業側科学者は自身の結果を誤って報告していた。

何を意味するか?

 広い範囲の科学的研究調査が、規制当局が現在安全であると信じているレベルよりはるかに低いレベルでの、及び事実上、全てのアメリカ人が曝露しているレベルでの、ビスフェノールAによる有害影響を報告している。これらの研究調査はこの2年間以内に発表されている。それらはビスフェノールAを広範な健康影響に関連付けている。

 残念ながら、ヒトに対する研究調査はまだ行われていない。しかし、同じ活動メカニズムを通じてなされる医薬品における実験室及び疫学的調査では一貫して動物データは十分にヒトへの影響に予測的である。

 ボンサールとヒューズは、現在のBPAの基準は時代遅れであり、新たなリスク評価が実施されるべきであると結論付けている。

 新たなリスク評価はどのような結論になるのであろうか? BPAにとって最も敏感な評価項目はボズニアックらによって報告されているように、細胞膜の表面で受容体と相互作用するBPAにより刺激されることによるカルシウムの細胞内への流入とプロゲステロン(訳注:黄体ホルモンの一種)分泌である。

 実験中に用いられるどのようなBPA用量でも、pptレベルであっても、カルシウム流入(calcium influx)の測定可能な増加をもたらす。この評価項目のために、BPAはある用量においてエストロジオールと同等に強力であり、潜在的な人工エストロゲンであるジエチルスチルベストロール(DES)よりも強力である。カルシウム流入は、遺伝子表現、発達系、及び様々な生理学的出来事に多くの潜在的影響を及ぼす広範な細胞情報伝達プロセスを起こす。これらの結果は、BPAは人間に曝露をもたらすどのような製品やプロセスの中でも使用されるべきではない、言い換えれば、禁止されるべきである。

 曝露を削減するために個人によって取られる措置を正当化するために十分な情報が必ず現れるであろう。しかし、BPAは広範に使用され、多くの製品中に表示もなく混入しており、排水中に多量に含まれて国の水系に流れ込んでいく。このことは個人の努力だけでは曝露を防ぐためには十分ではないということを意味している。


化学物質問題市民研究会
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