米化学会2008年7月17日ウェブ掲載記事紹介
ビスフェノールAに関する国家毒性計画(NTP)概要草稿
異なる意見の入り混じったピアレビューを受ける

ピアレビュー:ビスフェノールAのいくつかのヒト健康リスクの懸念レベルを下げることを勧告

情報源:ASAP Environ. Sci. Technol., ASAP Article, 10.1021/es801811y
Web Release Date: July 17, 2008
NTP brief on BPA receives mixed peer review
Peer reviewers of a federal agency's draft brief on bisphenol A
recommend lowering levels of concern for some human-health risks.
Rhitu Chatterjee
http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/esthag/2008/42/i17/html/es801811y.html

訳:安間 武 (
化学物質問題市民研究会
掲載日:2007年7月20日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/acs/080717_acs_NTP_brief_on_BPA.html


 米国家毒性計画(NTP)が待望のビスフェノールA(BPA)のヒト健康リスクに関する概要草稿(pdf 69ページ)を発表してから2か月経たずに、同機関の科学諮問委員会は異なる意見の入り混じったレビュー結果訳注0)を出した。6月11日に開催された会議で、諮問委員会の専門家らはいくつかのBPAヒト健康影響についてのNTPの懸念に同意した。しかし、科学的証拠の欠如を挙げて諮問委員会はNTPがこのエストロゲン様化学物質の二つの健康リスクについての懸念のレベルを下げるよう提案した。諮問委員会はまた、BPAに最も脆弱な胎児、幼児、子どもたちの暴露データというBPAの難問の一部が欠落していることを指摘した。

 これは、この高生産量化学物質についての現在進行中の長編物語の最新章である。ポリカーボネート・プラスチックやエポキシ樹脂に使用されるBPAは、哺乳瓶、再使用可能なプラスチック瓶、歯科詰め物などを含んで、さらにはクレジットカード領収書の染料にさえ、多くの消費者製品中に見出される。

 全米健康栄養調査(NHANES)が収集したデータによれば、アメリカの6才以上の93%がその体内にBPAを持っている(訳注1)。”誰の体の中にも検出可能なレベルで存在しているということは非常に驚くべきことである”とNPT科学諮問委員会の委員でありカリフォルニア大学バークレー校の公衆衛生専門家であるキャサリーン・ハモンドは述べた。

 BPAの高容量での人の発達及び生殖への有害影響は明白であるが、低容量影響は激しい論争の的となっている。

 様々な委員会(パネル)や組織がBPAの低容量影響を検証し、様々な結論に達している。昨年夏、国立健康研究所(NIH)のパネルは、”先進国に住む人々の典型的なBPA暴露の範囲内で”いくつかの有害影響が起きることを示す証拠が存在すると結論付けた(訳注2)。NTPヒト生殖リスク評価センター(CERHR)によって召集された他のパネルは(訳注3)、入手可能な科学的証拠が、妊婦、胎児、及び子どもに神経及び行動影響を及ぼすという”幾分の懸念(some concern)”を指摘した。NTPは、”無視できる(negligible)”から”深刻な”までの5段階の”懸念”を評価に用いている。

 しかし、CERHRパネルは多くの議論の的となっている。CERHRパネルはCERHR報告書を起草するために化学会社で働いていたコンサルタントを起用して厳しい批判を受けた(訳注4)。NTPはこの契約者、サイエンス・インターナショナル社(SI)を解雇したが、このパネルはSI社による作業結果を最終報告書に含めた。研究者や環境団体らはまた、このパネルが米国プラスチック協会(American Plastics Council)から金の出ている二つのピアレビューされていない研究を報告書に含めたことを批判している。

 そして米議会の委員会は、エポキシ表面処理のミルク缶の使用に対して産業側コンサルタント及び乳児用の調製粉乳メーカー、並びに米食品医薬品局(FDA)のBPAを規制しないという決定を調査している。

 一方4月に、カナダはこの化学物質が有害であると宣言した最初の国となり、哺乳瓶での使用を禁止した(訳注5

 NTPは4月にこの概要草稿を発表した。その結論は、前立腺、乳腺、及び早熟影響を”最小(minimal)”から”幾分(some)”の懸念に引き上げたこと以外は、CERHRパネルの結果とほとんど変わらない。

 多くの科学者らと環境主義者らはNTPの結論を承認したが、産業側を代表する科学者らは喜ばなかった。6月11日の会議で発表されたパブリック・コメントでは、米化学工業協会(American Chemistry Council)の代表スティーブン・ヘントゲスは以前のCERHR報告書とは異なり、NTPの評価は”首尾一貫せず”、”不適切な研究”に基づいていると述べた。

 6月11日、NTPの概要草稿に関する投票のために召集された委員として、何人かの専門家らはBPA物語の欠落部分を早急に埋めることの必要性を強調した。彼らは概要の結論は全米健康栄養調査(NHANES)の現在の暴露データに基づいているが、それらのデータは高いリスクのある集団−6才以下の幼児と子どもたち、及びこの化合物を代謝できない肝臓と腸に障害のある人々を含んでいない。

 委員会は、既存の科学的証拠が男の胎児と幼児の神経及び行動影響、及び前立腺の発達への影響に関して”幾分の懸念”を指摘したというNTPの結論に同意した。しかしまた、乳腺と早熟のBPA影響の懸念のレベルを”最小”に下げるよう勧告した。

 NTPがこの委員会の勧告を今夏遅くに発表予定の最終報告書で採用するかどうかわからない。また、NTPの報告書がこの化学物質を規制しないという米連邦政府規制官の決定に影響を与えるかどうか明確ではない。


訳注0
訳注1
訳注2
訳注3
訳注4
訳注5


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る