EWG 2008年1月
国立健康研究所(NIH)はBPA暴露影響に関する
欠陥報告書を見直す


情報源:Environmental Working Group January 2008
NIH to Review Flawed Report on Impacts of BPA Exposure
http://www.ewg.org/node/25864

Milwaukee Journal-Sentinel
Plastics report reviewed
Agency to scrutinize oft-criticized findings that chemical poses little risk
By MEG KISSINGER, CARY SPIVAK and SUSANNE RUST
http://www.jsonline.com/story/index.aspx?id=705538
Posted: Jan. 9, 2008
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年1月28日


 EWG、ヘンリー・ワックスマン上院議員(民主−カリフォルニア)、外部科学者、主要メディアの絶え間ない批判を受けた後に、国立健康研究所(NIH)の米国国家毒性計画(NTP)は、ヒト生殖リスク評価センター(CERHR)の危険な有害化学物質ビスフェノールA(BPA)が及ぼす健康影響に関する欠陥ある産業界寄りの報告書の検証をトップダウンで行うことに同意した。

 ”CERHR委員会がヒトの健康に及ぼすBPAの影響に関する化学産業界自身の調査の方を選んで独立系の科学調査を無視したという化学産業界の欠陥あるやり方を最終的に見直すというNIHの決定は歓迎されるべきニュースであるとEWGの上席科学者であるアニラ・ヤコブ博士は述べた。

 ”BPAへの低レベル暴露によるリスクを示す山と積まれた独立系の研究は、BPAがどのようなリスクをヒトの健康に及ぼすかを決定する委員会の仕事として真剣に検討されなくてはならない”とヤコブ博士は付け加えた。


Milwaukee Journal-Sentinel Jan. 9, 2008
Plastics report reviewed
Agency to scrutinize oft-criticized findings that chemical poses little risk
By MEG KISSINGER, CARY SPIVAK and SUSANNE RUST
http://www.jsonline.com/story/index.aspx?id=705538

 赤ちゃんの哺乳びんやその他の多くの家庭用品中に見られる化学物質に関する物議をかもす報告書は、報告書の著者らが化学産業界によってはなはだしく影響を受けたという不平が殺到した後に、米国国家毒性計画による厳しい再検証を受けている。

 米国国家毒性計画(NTP)の長官、ジョン・ブッチャーは9日水曜日に、NTPはプラスチックの硬化剤として使用されているビスフェノールAの影響を調査した委員会の仕事について空前の再検証をしていると述べた。同委員会は、胎児や小さな子どもについてはある懸念はを認めていたが成人にはほとんど懸念はないとして、ビスフェノールAのリスクを軽視していた。

 歯の詰め物、めがね、CD、DVD及びアルミ缶内部のコーティングとして一般的に使用されるこの化学物質は、テストを受けたアメリカ人の93%の人々の尿から検出されていた。アメリカで毎年60億ポンド(約270万トン)以上が生産されている。

 ジャーナル・センテナル紙は昨年12月に、国立環境科学研究所(NIEHS)によって選任された12人の科学者からなる委員会によるこの調査は、産業側から資金提供を受けている研究をより重視し、産業側から資金提供を受けている研究者により寛容であると報じた。同紙は医学研究のインターネット検索エンジン用いてオンライン上で見つけ出した公開されている数十の研究を同委員会が落としていることを発見した。

 長年ビスフェノールAを研究し、それが有害であることを見つけ出した多くの科学者らもまた同委員会の報告書を批判した。これらの科学者らはビスフェノールAは、乳がん、精巣がん、糖尿病、多動症、肥満、精子数減少、流産及びその他多くの生殖障害を実験動物に引き起こすことができることを見つけていた。

 ”この件については、非常に多くの批判が提起された”とブッチャーは述べた。

 ジャーナル・センテナル紙は、化学産業から金が出ている研究はビスフェノールAが影響や疾病を引き起こすと結論付けているものが少ない様に見えることを見つけた。同紙の記事は広く科学界に回覧された。ブッチャーは、ある研究が米プラスチック協会によって翻訳されることを委員会が許したことを含めて同紙の発見は再検証において考慮されるであろうと述べた。

 ブッチャーは、再検証においてビスフェノールAの低容量影響を見て有害性を発見した学界の研究をなぜ委員会が却下したのかを検討するであろうと述べた。委員会は742の研究のレビューにおいて低用量影響を見いだした研究はどれも受け入れなかった。

 委員会は不十分であると信じられる研究を除外したら低用量影響を示す研究は残っていなかったと委員会議長ロバート・チャピンは早い時期のインタビューで述べていた。

 ”多くの質の悪い科学があった”と当時彼は述べた。
 チャピンには9日水曜日にコメントを求めたが会えなかった。

 ビスフェノールAが低用量で動物に害を引き起こすことを示す科学者の数が増大している。そして、米科学アカデミー及び米国国家毒性計画自身が、ビスフェノールAのような化学物質を政府が審査する方法を急進的に改革することを要求している。しかし、現在までのところ政府は今までのやり方を変えていない。

 ビスフェノールAを評価するための委員会の人選を行った政府当局ディレクター、ミカエル・シェルビーはこの再検証を歓迎すると述べた。

 ”我々は正しいことを望む”と彼は述べた。”すなわち、科学論文は精査とピアレビューを経ることである”。シェルビーはこの報告書に向けられた並外れた量の批判も驚くべきことではないと述べた。

 ”それは最新の話題であり、相当な量の文献がある”と彼は述べた。

 連邦政府は委員会報告書に関するパブリックコメントを1月25日までに求めている。その後、当局スタッフはコメント、批判及びビスフェノールAに関する新たな研究を検証する。その後、米国国家毒性計画(NTP)は、報告書を出し、それはさらにパブリックコメントにかけられ、最終的に6月に科学的検証を受けることになる。


訳注1
CERHRの報告書
NTP-CERHR EXPERT PANEL REPORT on the REPRODUCTIVE and DEVELOPMENTAL TOXICITY of BISPHENOL A / November 26, 2007
http://cerhr.niehs.nih.gov/chemicals/bisphenol/BPAFinalEPVF112607.pdf

訳注2
CERHRの報告書に関連する情報(当研究会による翻訳紹介)
  • 連邦政府官報/Vol. 71, No. 238/2006年12月12日/告知
    保健社会福祉省、米国国家毒性計画(NTP)、ヒト生殖リスク評価センター(CERHR)ビスフェノールAに関する専門家委員会報告書(ドラフト)の入手とドラフト報告書へのパブリック・コメント要請;
    ビスフェノールA専門家委員会開催について
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/NTP/061212_ntp_notice.html

     ビスフェノールAの人への影響に関する報告書(ドラフト)が2006年12月12日にパブリックコメント用に発表され、2007年3月5〜7日に公聴会を開き、公聴会後にCERHRが評価の結論を出すという内容です。報告書ドラフトは下記内容からなる372頁という大部です。日本の研究者のものも含め多くの研究論文の概要が紹介され、有用であるとかないとかのコメントがついています。

    報告書ドラフト(pdf)
    http://cerhr.niehs.nih.gov/chemicals/bisphenol/Bispehnol_A_Draft_Report.pdf
     1.0 化学、用途、ヒト暴露
     2.0 一般的毒物学、生物学的影響
     3.0 発達毒性データ
     4.0 生殖毒性データ
     5.0 まとめ、結論、及び重要データの必要性(公聴会後、専門家委員会が作成)

  • EWG 2007年2月28日プレスリリース
    「化学産業コンサルタント会社が連邦政府の生殖健康機関 (CERHR) を運営」
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ewg/07_02_28_ewg_CERHR_SI.html

     アメリカで3月5日にヒト生殖リスク評価センター (CERHR) 専門家委員会がビスフェノールAの評価会議を実施しましたが、CERHR はビスフェノールAの主要製造会社であるダウケミカル社と協力関係にあるコンサルタント会社であるサイエンス・インターナショナル(SI)社によって運営されていたことが分りました。同専門家委員会は SI 社が準備した300ページの報告書を決定のベースとすることになっています。

  • 米国国家毒性計画2007年3月8日発表のBPA評価会議概要
    「ヒト生殖リスク評価センター(CERHR) ビスフェノールAに関する専門家委員会評価 2007年3月5-7日」
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/NTP/070308_NTP_CERHR_Summary.html

     2007年3月5〜7日に開催された専門家委員会の会議概要ですが、この会議の結論は、「評価作業は長大で複雑であるために専門家委員会は検証を完了することができなかったのでビスフェノールAについての結論を出すために再度会議を召集する。次の作業会議は今後数ヶ月以内に実施されることが期待される」 というものでした。

  • EHN 2007年8月10日による論文解説
    チャペルヒル ビスフェノールA専門家委員会合意声明
    メカニズム、動物での影響及び現状の暴露レベルでのヒトの健康への潜在的な影響の統合
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_070811_BPA_Chapel_Hill.html

     ・・・BPAの研究に実際に関わっている科学者らによって作成されたこの合意声明は、8月8日に発表された CERHR assessment の結論(ドラフト)と際立って対照的である。CERHR 委員会はBPAに関与していないという理由で選定された科学者らからなっている。CERHR 委員会は、”子宮内でのBPAの暴露は神経系及び行動への影響を引き起こすという懸念”を提起したが、これはBPAは安全ではないと結論付ける初めての政府の評価である。しかしそれは、BPAが早熟を引き起こす、出生障害又は先天性奇形を引き起こす、又は前立腺に影響を与えるという”最小の懸念”を述べただけである。

    その結論に至るために、同委員会はアナ・ソト(Ana Soto)やフレデリック・ボンサールの研究室での全ての研究など、広範なおびただしい数の研究を無視している。・・・

     CERHR の評価から研究を除外するために用いられた基準は、口以外の暴露ルートを使用した研究を認めないことを含んでいた。・・・

  • 米化学会 C&EN 2007年9月3日
    ビスフェノールAの悩み 二つの政府諮問委員会が健康リスクに関し ほとんど正反対の結論
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/c&en/070903_cen_Bisphenol_A.html

    ・この議論は過去数ヶ月間、二つの政府諮問委員会がBPAのヒトへの潜在的な健康リスクに関し、ほとんど劇的に反対の評価をしたことにより白熱した。  一方のグループは、国立環境健康科学研究所(NIEHS)によって主催されたBPAに関するワークショップのために2006年11月にノースカロライナ州チャペルヒル集まった38人の科学者集団でありその研究結果は『Reproductive Toxicology 生殖毒性』に先月、発表された。最も重要なことは、この研究者らのグループは、げっ歯類では低用量BPAが、乳がん、前立腺肥大、尿道下裂(ペニスの異常)、精子数の減少、女性の早熟、タイプ2糖尿病、注意欠陥多動症(ADHD)に類似した神経系影響を引き起こすということを結論付けた合意声を明発表したことである(訳注1)。このグループはヒトのBPAへの暴露は、実験動物にこれらの有害影響を引き起こす範囲に入っていると指摘した。・・・

     れとは対照的に、米国国家毒性計画(NTP)の一部であるヒト生殖リスク評価センター(CERHR)によって指名された第二の委員会は8月8日、胎児期と初期の小児期にBPAに暴露すると脳の発達を妨げ神経系及び行動系影響を引き起こすかもしれないという”幾分かの懸念(some concern)”と結論付けた。この委員会は、子宮内でのBPA暴露は甲状腺肥大又は早熟を引き起こすという”最小の懸念(minimal concern)”を述べ、出生前にBPAに暴露したヒトが生殖器官の異常又はその他のいかなる先天性異常を持つということは”無視できる懸念(negligible concern)”であるとした。・・・



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