EHN 2015年1月22日
BPA 曝露は幹細胞の変化と精子生成の低下に関連する
ブライアン・ビエンコースキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, January 22, 2015
BPA exposure linked to changes in stem cells, lower sperm production
By Brian Bienkowski, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2015/jan/
bpa-exposure-linked-to-changes-in-stem-cells-lower-sperm-production


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年1月31日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ ehn_150122_BPA_lower_sperm_production.html


 新たな研究によれば、BPAとその他の女性ホルモン様化合物は、マウスにおいて精子生成に関わる幹細胞の発達を阻害するが、このことはそのような暴露が人間における精子数の減少を引き起こす可能性があることを示唆している。

 PLoS Genetics で発表されたこの研究は、低用量で短時間のビスフェノールA、又は水汚染物質として見いだされる避妊用エストロゲンなどへの生命の早い段階での暴露は、後に精子の生成に関わる幹細胞を変更することができることを示唆する最初の研究である。

 エストロゲンへの暴露は、”単に現在生成される精子に影響を与えるだけでなく、幹細胞集団に影響を及ぼすので、その後生涯を通じて生成される精子に影響を与えるであろう”と、この研究を率いたワシントン州立大学の遺伝学者パトリシア・ハントは述べた。

 BPA はほとんどの人々の体内で見出されるいたるところにある化学物質であり、ポリカーボネート・プラスチックを製造するために用いられ、またある種の食品缶詰やレシート中でみられる。人々はまた、一般的に廃水処理後であっても水汚染物質として見いだされる避妊用合成エストロゲンなどにも暴露する。

 米・食品医薬品局は2012年に赤ちゃん用ほ乳ビンでのBPAの使用を禁止したが、現在、食品容器や包装に使用されているBPAは安全であると主張している(訳注1)。そして今週、欧州食品安全機関(EFSA)は、”ビスフェノールAによる消費者の健康リスクはない”とする新たな評価を発表した(訳注2)。

 しかしハントらの研究は、この化合物の低用量暴露は我々を害するかもしれないとする証拠に加わるものである。

 ハントと同僚らは、ある新生マウスをBPAに暴露させ、また他のある新生マウスを避妊ピルやホルモン療法に使用される合成エストロゲンに暴露させた。

 これらの化合物への人の暴露に匹敵するこれらの暴露は、精子生成に関わる幹細胞に”永久的な変更”を引き起こしたと著者らは書いている。

 研究者らはまた、この幹細胞を暴露していないマウスに移植し、精子の発達への影響を確認した。

 それは、短期的暴露による可能性ある有害影響の”冷静な証拠”であると、遺伝子研究に特化したジャクソン研究所の上席研究科学者マリー・アン・ハンデルは述べた。

 科学者らは以前に、BPA暴露は、マウスの精巣のサイズと精子の発達及び前立腺の成長に影響を及ぼすことを見つけていた。しかし、ハントと同僚らがしたことは異なっている。彼らは、これらのことが起きる可能性ある理由−オスの生殖に極めて重要な幹細胞の変更を見つけた。

 エストロゲン様化学物質のオスの発達への影響には、脳、生殖器官、及び精巣の発達の微妙な変化に関する項目が増えていると、著者らは書いている。”これら3つの全ての変化は、重要な生殖に関わる影響をもたらす可能性があるが、その生物学的な解明はいまだ不明確である”。

 過去数十年、研究者らはヨーロッパ、日本、アメリカなどの場所で精子数と質が低下していることに気づいていた。デンマークでは、若者の40%以上が不妊に関連する又は生殖力を減じるレベルの精子数である。

 ”あなたが幹細胞に強い影響を与えていることに気が付いているときには、すでに重大事である”と、この研究には関わっていないミズーリ大学の科学者フレデリック・ボンサールは述べた。”この暴露は、世代を継ぐ精子生成の低下となり得るであろう”。

 精子生成は連続プロセスである。オスが成熟して精子を生成し始めると、幹細胞はゆっくりと分割して精子を生成するために新たな細胞をもたらす。

 そして、マウスを使用してその結果を人間に当てはめることには制約もあるが、生殖系の”基本は同じである”と、ハントは述べた。

 しかし、化学物質製造者を代表するアメリカ化学協議会のスティーブン・ヘントゲスは、メールでの返事で、多数の大きな研究は、”一貫して、人間がが現実に暴露するBPAのレベルにわずかでも近いどのような用量においてもオス又はメスの生殖影響を見い出していない”と述べた。

 彼は、ハントの研究は、”人の健康への関連性は限られており”、使用された用量は実際に人間が暴露するものよりはるかに高いと述べた。

 ハントは、それは事実ではないと述べた。

 ”我々が使用したレベルは、以前の研究に基づいており、血中で非常に低いレベルを生成するが、それらは人間で報告されているレベルより低い”と、ハントは述べた。

 ボンサールは、暴露による幹細胞の変化が将来の世代に引き継がれかどうかを見ることが、将来の研究において重要であると述べた。エストロゲン様化合物は遺伝子が適切に機能する能力を変える−後成的変化として参照される現象−らしいことを示唆する証拠がある。

 そのような変化が起きるなら、それは将来の世代にとって、精子生成における同様な問題であることを意味する。そして、”ほとんどの人々は継続的にBPAやその他のエストロゲン様化合物に暴露しているのだから、各世代は少しずつ悪くなるであろう”とボンサールは述べた。

 ハントと同僚らはひとつの問題にぶち当たっている。体液貯留のような二次的影響である。これは幹細胞研究を次のレベルにし、精子細胞数と生殖能力の測定との関連性を見ることを難しくする。

 ”曝露は、精巣中の細胞だけでなく、動物全体にに影響を及ぼす”と、ハントは述べた。

   ハントは、これは”複雑な遺伝子要素”であると認めたが、結果が極めて重要である。

 ”このことは細胞の履歴をさかのぼることを示唆”しており、”暴露後の次世代の問題”であることを意味するであろう。


訳注1
訳注2


化学物質問題市民研究会
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