EHN 2011年10月5日
ビスフェノールAを投与された新生仔ラットの
遺伝子はメッセージを変える


情報源:Environmental Health News, October 5, 2011
Genes change message after newborn rats given BPA
Synopsis by Brandon Moore and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
2011/09/2011-1003-pups-bpa-epigenetics/

オリジナル論文:
Doshi, T, SS Mehta, V Dighe, N Balasinor and G Vanage. 2011. National Center for Preclinical Reproductive and Genetic Toxicology, National Institute for Research in Reproductive Health (ICMR), J M Street, Parel, Mumbai 400012, Maharashtra, India
Hypermethylation of estrogen receptor promoter region in adult testis of rats exposed neonatally to bisphenol A. Toxicology http://dx.doi.org/10.1016/j.tox.2011.07.011

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年10月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_111005_genes_change_BPA.html


 ビスフェノールA(BPA)は、この化学物質に曝露した新生仔オス・ラットの遺伝子を読み取りを改変することができる。いわゆるエピジェネティック変異(訳注1)は、報告されているオスの生殖機能に及ぼす化学物質の影響を部分的におそらく説明するであろう成獣への生殖ホルモン信号に継続的な影響を及ぼす。

 この発見は、遺伝子がコード化され、その後の性的成熟期にそれが解釈される仕組みにBPAが影響を及ぼすことができることを示す多くの研究にさらに加えられるものである。そのような変異は、脳、前立腺、子宮の中で報告されている。

 出生後早期の曝露は、精巣中のDNAに関する二つの重要な遺伝子に化学的な物質を付加し、これらのエピジェネティックな付加を制御する酵素のレベルを増加させる。これらの酵素への広範な影響のために、新生仔のBPA暴露は、現在の研究で特定されているよりもっと多くの遺伝子と制御レベルに影響を及ぼすかもしれない。

何をしたか?

 研究者らは、出生後の最初の5日間、1日当り2.4μgのBPAをゴマ油に混ぜて新生仔ラットに注射した。実験のコントロール・ラットは同一期間、ゴマ油だけを投与された。

 このBPA用量は、今までにオスの生殖力を損なったことが分かっている最小用量であるので、それが選ばれた。さらに、この用量は、ヒト暴露にも適切な関連性がある。それは、報告されている子どもの暴露及び成人の職業暴露の範囲内にある。

 処理後、仔ラットが成獣になってから遺伝子物質、DNAとRNA(訳注2)と、精巣組織のたんぱく質が分析された。研究者らは、DNAのエピジェネティックな変異の程度、エストロゲン受容体を生成するRNAコーディングの量、及びDNAのメチル化に関与する精巣中のたんぱく質の量を測定した。

 エストロゲン・ホルモンはオスの生殖に重要な役割を果たす。エストロゲン・ホルモンにより送られる分子信号は、遺伝子発現レベルを変えるやり方で精巣中のエストロゲン受容体を変える。このようにして、エストロゲン信号伝達はオスの生殖機能を健全に保つ上で重要な役割を果たす。

何が分かったか?

 出生後の最初の5日間オスの仔ラットをBPA処理すると、成獣になってからの精巣中のDNA構造にエピジェネティックな変異をもたらす。これらは、性的に成熟した成獣における精巣遺伝子活動の変化に関連する。

 DNAエピジェネティック・マークは成獣ラットのある遺伝子を改変する。特に、エストロゲン受容体の二つの形状を形成するよう指令を与える(エンコーディングと呼ばれるプロセス)二つの遺伝子が影響を受ける。BPA処理は、高度メチル化(hypermethylation)として知られる、二つの遺伝子のプロモーター領域(訳注3:DNA の領域で、RNA ポリメラーゼが特異的に結合し, 転写を開始する位置)にある特定DNAコードへのメチル基の添加の頻度が増大する。

 さらに、出生後初期の処理は、エピジェネティックス・メチル化マーカーの生成と維持を制御する二つの酵素の精巣でのレベルを増大する。これらの酵素は遺伝子の広い範囲でDNAをメチル化する。

 かくして、観察されたBPAによる高度メチル化は、この研究で焦点を当てた二つの特定のエストロゲン信号伝達遺伝子だけに限定されるわけはなく、もっと広範な精巣遺伝子及び生殖制御の複雑なレベルに影響を与えるかもしれない。

何を意味するか?

 この研究では、BPAは曝露した仔ラットの精巣中の遺伝子の発現を制御し、長期間の機能を指令する遺伝子マーカーを永久に改変した。このDNAマーカーは、エピジェネティック制御と呼ばれる。

 これらの結果は、発達期のBPA曝露はBPA処理後長期間動物の体内に残り、後々の生殖機能の制御を改変することができることを強く示すものである。この発見は、BPA曝露が影響を与える分子的合図と信号に関してよく知ることにより理解を進めるものである。

 この研究は、BPAがオスのラットのエピジェネティック制御に影響を与える二つの主要は仕組みをて特定した。第一は、化学的マーカーがエストロゲン信号に関与するDNAの主要部に加えられたことである。メチル化と呼ばれるこのマーカーは、エストロゲン関連遺伝子の機能の仕方を改変する。この場合、それらは性的に成熟したラットにおける遺伝子発現を低下させる。エストロゲン・ホルモンは、精巣の発達と精子の生成を含むオスの生殖系の正常な発達と機能に必要なので、ホルモン・レベルの改変は生殖異常と不妊をもたらす可能性がある。

 第二は、BPAの早期曝露はメチル基の生成とDNAへ添加する酵素レベルを高めたことである。この発見は、エストロゲンがこれらの酵素の活動を増大することを示す今までの研究と合致する。弱いエストロゲンとして、BPAはまたそれらに影響を与える可能性がある。メチル化の量への影響は、この研究で特定されたよりもっと多くの遺伝子に影響を与えるかもしれない。

 全体として、この研究は、出生後の限定されたBPA曝露が性的成熟の時期にいたると精巣制御メカニズムを改変するという特定の強力な生物学的メカニズムであるエピジェネティックスの詳細を明らかにしている。これらの変化による健康影響のために、著者等は、”エピジェネティックスのレベルでの内分泌かく乱物質の毒性学的評価とリスク評価で検討されるべきゲノム全体にオわたるDNAメチル化パターンの分析の必要性”を示唆している。


訳注1:エピジェネティックス(epigenetics)
訳注2:DANとRNA 訳注3:プロモータ


化学物質問題市民研究会
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